なんかできちゃった☆
遅くなりまして平にご容赦を。
冷気が温もりに変わると復活したシリエは部屋を見渡して感嘆した。
「これが初めてとはのう…」
先程まで冬景色だった部屋はすっかり元に戻り、髪を揺らす爽やかな風が緩やかに流れ込んできて心地良い。
穏やかな時間が再び流れ出し、役目を果たした光球が光の粒子へ変わり、綻んで空気へ溶けていくのを見届けてから顔を向けるとシリエは何故か微妙な表情をしていた。
どうかしたのだろうかとカレアを見るがこちらは最早標準装備の微笑を湛えたままだったので首を捻る。
「初めてにしては見事だ」
「ありがとう、ございます?」
褒められているのに褒めている本人の表情が渋いと素直に受け取れない。
思わず疑問形になりつつ答えるとシリエは眉間を寄せたまま問いかけてきた。
「見事だが…お主何をしたかは分かっておるのか」
「何を、というと光球の”熱”を風に乗せて温風にしました。火だと火事になるかもしれないし…。何か不味い事でも…?」
「いや…」
不味くはないと言いつつ口を噤む。
「……お主が使ったのは合成魔法と呼ばれるものでな、扱える者はそう多くない」
「ごうせい魔法?」
「うむ。合成魔法とはその名の通り、異なる属性の魔法を複合した魔法の事じゃ。この世界の人間は基本全ての属性を操れる」
全属性チートなんて鼻で笑われる世界だなー…。
「その中でも相性というものはあるが相性の良い属性を複数持つ者の中で合成魔法を使えるのはごく一部。それだけ困難で繊細な魔法なのじゃ。ワシは三組の合成魔法を操れるがの」
「すごいね!」
「うむ。これくらい造作もない。そのワシでも二つの属性を複合させるので限界じゃ。それ以上の複数合成など古文書に書かれた伝説の大魔法使いが使用した魔法の記載に乗っているくらいのものじゃ。しかし、お主が先程使った魔法は違う」
「…うん?」
何が違うのだろう。普通の温風だった…よね?
というか伝説の大魔法使いって人の方が気になる。誰それ。古文書に乗ってるならかなり昔の人物だよね。シリエが使えない魔法を使えたって事はシリエより強かったのかな。
…ダメだ。化け物の親玉みたいなイメージになる。歴史に名を残すならきっと人格も素晴らしい人だったんだろうし。きっと。
シリエだって賢者だけど退屈が嫌いな普通のおば――――…あれなんか背筋が冷たい様な?気のせいかな。ともかく普通のお姉さんだ。少なくとも悪いイメージはない。
屋敷なら図書室くらいあるよね?ちょっと調べてみたいなー。
「お主は先の合成魔法は何の属性だと思っとる」
おっと、それはそれとして会話中だった。えっと、属性?
「……火、と風…?」
言いながら首を捻る。
イメージが大事とは言われたけど属性がどうのとは考えてなかった。俺はただ温風で氷を溶かしたかっただけだし。
しかし、不正解らしくシリエが教師の様な感じで教えてくれた。
解説はカレアの仕事だと思ってたよ…。
「確かに熱を風に乗せたというのは間違っておらんがその”熱”は火だけではない。お主は直接火を出さんために光属性の光球に火属性を統合し、”熱”としたのじゃ。つまり、お主がやったのは火と風の二属性ではなく、光・火・風の三属性の合成魔法じゃ」
うん、よく分からないけどなんかやらかしてたっぽい。でも実感は湧かない。だってただの温風じゃん。
まさか、伝説の魔法使いさんもこんなので歴史に乗ってたりするの?まっさかー。えー、…しょぼい。
きっと、他にもいろいろすごい事できるんだよね。…できるよね。しないけど。俺がすると怖いし。
でも光か。電球って触ると熱いし、そんな感じだったのかな?…もういいや、なんでも。できたんだからそれでいいと思う。
「いいわけあるか」
「ナチュラルに心読まないで…」
「そんな事はどうでもいい。いいか、ユキ。これからお主はただの拾い子じゃ。魔法は教えるが二属性以上の合成魔法はけして人前で使うな。いいな」
「でも、それ魔法使う前にすごく考えなきゃいけなくない?」
「…いいな?」
「はい」
面倒くさいとちょっと思ったけど頷かなければいけないような気がして首肯するとシリエは満足したのか謎の迫力を収めて外に視線を向けた。
「まだ日が暮れるまでは時間がある。ギルドへ行くから支度しろ」
「今から行くの?」
話してはいたがまさか今日これからとは思わなくて聞くと冷めた目を向けられた。
「無意識に部屋を凍らせておいて何を言っておる。お主には早急に魔力制御を覚えさせんといかん。…逃亡は許さんぞ?」
「イエッサー」
スパルタを予感して敬礼で返した俺に当然、拒否権はなかった。
シリエは根に持つタイプらしい。覚えておこう。睨まれている気がするのは気のせいだ。
……がんばろう。