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死神がスタンバってる

 びっくりして身を引こうとしたら、がっしり肩を押さえられていて逃げられない。



「し、シリエ?」


「―――んだ…?」


「え?」



 呟かれた言葉を聞き返すとぱっと顔を上げたシリエが詰め寄ってきた。


 こわい、怖いよシリエ。そして近いっ。

 狼狽える俺を前に真剣な顔をしたシリエは閉ざしていた口を開いた。



「お主は何だ?」


「へ…」



 何だと言われても、なんだろうね。

 カレアの話を聞く限り能力値がおかしな事になっているのは分かるんだけどやっぱり説明されても比較対象がいないからか想像だけではイマイチ実感が湧かない。

 ああ、でもこうして倒れたのは事実なので生命力に関しては十分に危機を感じております。ホントに。マジで。


 命って大切だよね。


 当たり前の事を改めて実感している俺にシリエは言い聞かせるように話す。



「通常成長するにしたがって伸びる能力値は個人差はあってもここまでバラける事はない。それも生命力が10のくせして攻撃力が4万越えなぞありえんっ。魔王にも迫る勢いではないか!」



 くせしてって、そんな事言われても…。


 ていうか、迫るって事は魔王よりは低いのか?魔王、意外と強かったんだな。まあ、じゃなきゃ世界を敵に回すなんて無謀な事しないか。

 それを倒したシリエってやっぱりすごいんだなぁ。でも、人間の限界1万で魔王4万越えなのにシリエの能力値ってどうなるの?



「確かにワシはすごいが、今はそんな事はどうでもよいっ」



 おっと、声に出てたのか。すごいのは認めるんだな。



「とにかくお主の能力値、特にレベルと魔力はありえん」



 シリエも一番気になるのはそこなのか。


 ありえないらしい俺のステータスの中でも際立ってるもんね。



「不確定というのはワシでも何を意味するのか分からんが能力値のバラつきには関係があるのじゃろうな。能力値とは基本的にレベルが上がれば全体も上がるからの。はっきりとした異常なら魔力値の方が分かり易くはあるが…」



 再び難しい顔で黙り込みそうになったシリエに問いかける。



「ねえ、魔力って具体的に何?無尽蔵だと問題あるの?」



 黙られても困るのでとぼけた風に首を傾げる。といっても疑問に思っていたのは嘘ではない。

 魔法のない世界で生きていたのだから大体どういうものかは知っていてもその認識が合っているのかは分からない。



「問題はないが、そうだな、例えば水球を作ったとしよう」



 そう言ってシリエは手の平に野球ボールほどの水球を作った。

 初めて見る分かり易い魔法に興味津々に身を乗り出して球体を観察しつつ話に耳を傾ける。



「初級魔法でも魔力を多く込めれば威力は増す。このようにな」



 野球ボールほどだった水球に魔力を多く込めたのだろう、今度はバレーボール大の水球が出来た。



「ただ魔力を込めただけでも強力じゃ。だが、魔力操作を精密に行えるようになればこのように…」



 もう片方の手の平に同じ大きさの水球ができ、それが最初の水球並みに縮み、小中サイズの水球になる。しかし、魔紙を使う際、魔力の気配を掴んだユキは水球を凝視していて魔力の密度の違いに気が付いた。

 サイズが縮んだだけで込められた魔力は変わっていない。むしろ、



「圧縮して威力を上げたの?」



 さっきまでバレーボールサイズの水球に収まっていた魔力をその量は変えず込める器だけ小さくしたら、当然密度は上がる。

 そして、密度を上げた水球とそのままの水球を比べると後者は魔力が拡散して広範囲に及ぶかもしれないけど威力は普通の水球より少し強い程度じゃないかな?

 対して前者は魔力が一点集中するために必然、その一点の威力は込めた魔力と圧縮した分だけ上がる。

 つまり、小指の爪ほどのサイズに圧縮して打ち出せばそのまま水の弾丸になるわけで。


 魔力操作というのはこの場合、水球を圧縮するために必要な技術なのだろう。他にどこまでの事が出来るのかは知らないけど魔法を使うには必須に思えた。



「よく分かったのう。そうじゃ、魔力を込めるだけでなく魔力操作次第でも威力は上がる。しかし、いくら魔力操作ができても魔力自体が少なければ限界がある。その点」


「俺には限界がない?」


「魔力操作を覚えれば初級魔法で宮廷魔導士を凌駕するほどにな。それがなくともただ魔力を大量に込めるだけで大概の敵は退けられるじゃろう」



 魔力量でそれだけ差がつくのか。驚きである。

 まさにチートだと思う。普通は魔法を楽に使えて喜ぶところだ。


 ただ、ユキは疑問に思うと同時に嫌な予感がしていた。



「ねえ、魔力を込めるだけで威力が上がるなら攻撃力ってどうなるの?」



 極端に言えば攻撃力が1の人が魔法を使ったとするとその魔法は相手にダメージを与えられるのか、魔力を込めれば威力は普通に上がるのかという事。



「簡単に言えば地力の差じゃな。攻撃力が10と100の場合、同じように水球を作っても地力が違うために威力が異なる。しかし、攻撃力10の水球に魔力を注げば威力を上げ、差を補う事が出来る。つまり、魔法の威力という意味での魔力とは攻撃力の底上げや補助の意味合いが強い」



 攻撃力の底上げ。攻撃力が1だったとしても魔力を大量に込めればダメージは与えられるって事かな。

 ただそれは普通の人の場合で。



「お主の場合は補助どころではないがの。宮廷魔導士を凌駕すると言ったのは攻撃力が一般平均の場合じゃ。それでも破格じゃが地力が450000など必要最低限の魔力のみで国家軍事力がただのゴミに見えるじゃろな」



 宮廷魔導士というのがどれくらいの実力なのか知らないけど軍事力がゴミってどういうこと!?

 しかも、それは地力だけの場合。魔力に限界がない俺にすれば威力をプラスし放題になる。


 これがチートか。

 よく授かったチートの出鱈目さに呆れたり調子に乗る主人公がいたけど俺はとてもそんな気にはなれない。そんな呑気にしている場合じゃない。

 魔法を使ってみたいとは今でも思っている。空を飛ぶのと同じくらい夢見る事だしね。

 ただ、考えても見てほしい。

 攻撃力の説明ですら命の危機を感じたくらいだよ?こんな最低威力が核爆弾もびっくりみたいな魔法使って衝撃波でもくらったら……わかるよね。

 超人を越えてるっていうか最早自分が大量殺戮兵器に思えるよ…。


 攻撃力が地力なら防御力も多分地力。食堂で見せてもらった障壁に魔力を注ぎまくればなんとかなるだろうか。

 でも、地力の差がここまで影響すると余波の防御だけでも不安が残る。何しろ転んだらタダで起きる云々の前に死ぬ勢いだ。半端な防御では意味がない。




 …やっぱり死神をけしかけられてる気がした……。

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