カレアの好感度
「ユキ。起きておるか」
丁度、最後の一口を食べ終わったところで勢いよく扉が開き、シリエが姿を現した。
そして、上体を起こしているユキを見て安堵し、歩み寄ってくる。
「体調はどうだ」
「何ともないよ。驚かせたみたいでごめんなさい」
「元気になったのなら良い。それより確認したい事があるのじゃが――――」
倒れる直前の事を覚えていたユキはしゅんとするが不自然に言葉の途切れたシリエに首を傾げて見上げる。
傍らに立つシリエは一点を見つめて固まっていた。視線の先を辿ると綺麗に空になったスープ皿に行き当たる。
どうしたのかと思っていると硬直していたシリエは硬い声で問いかけてきた。
「……それは、まさかとは思うが、カレアが作ったスープ、か…?」
「そうだけど…」
それがどうしたのかとますます訝るが青ざめた顔で言われた言葉に何を言いたいのか思い当って納得した。
「食べた…のか?」
つまり、シリエはこのスープが苦手らしい。
見た目と具材はアレだけど美味しいのに。
しかし、シリエはスープ皿から目を逸らしてどことも知れない虚空を見る。
「いや、スープだけではない。カレアが作る料理はどれもおかしいのじゃ。どんな具材を使ってどう調理したのかワシですら、さっぱり分からんっ。お主は何故普通に食っておる!」
賢者にも分からないのか。まさに未知の料理だなぁ。
ただ、初めて食べた時の事を思いだすと拒否する気持ちも分かるんだけどシリエの後ろに控えてるカレアの微笑がどことなく寂しげに見えた。
なので同意はせず、正直な感想を返す。
「でも、美味しいよ。シリエが嫌なら俺の食事だけカレアが作ってくれない?もちろん、カレアがよかったらだけど…」
俺がそういうと二人とも驚きも露わに目を見開いた。
…えっと、駄目だったかな?
二人の反応に逆に驚いて戸惑うと我に返ったカレアがしっかりと首を上下に振る。
「若様がお望みでしたらいくらでも腕を振るいましょう」
事務的で淡々とした話し方だがその表情に差していた影はキレイさっぱりなくなっていた。むしろ、色白な頬に微かに紅が差しているような気がする。
「…カレアが妙にお主の世話を焼く理由が分かったわい……」
シリエが何か言ったけど聞こえなかったので顔を向けたら顔面に何か古い用紙を突き付けられた。
「ワシはお主の能力値を確認に来たのじゃ。早う写せ」
「能力値?」
そういえば入室して来た時、確認がどうとか言っていた。
しかし、それと用紙の関係性が分からない。というか、能力値って何の事だろう。
「能力値とは人が今持っている肩書きや能力の値を分かり易く表したものじゃ。この魔紙に魔力を流し込めばそれらを表に起こす事ができる」
ゲームのステータスみたいなものか。でも、魔紙を渡されても困ってしまう。
「魔力を流し込むってどうすればいいの?」
「ああ、そうか。まず、魔力というのは万物全てが内包する力じゃ。血流と共に全身を廻っておるそれを魔紙に触れた指から徐々に注ぐようイメージすればよい」
えっと、指先が蛇口で魔紙がバケツって事?でもいいのかな。
ん~、…こう?
自分なりに解釈してやってみると何か内側に溜まっていたものが魔紙に触れた部分から漏れていくような感じがした。
すると、白紙だった魔紙に文字が浮かんでくる。
「ほう…」
感心するような声が聞こえて完全に文字が浮き上がるとそれをシリエに渡す。
「ふむ。一発で成功するとは思わんかった。感知能力といい、お主、魔法の才能があるのかもしれんな」
そんな事を言われて少し嬉しく思う。
才能があるって事は魔法を使えるようになるかもしれないという事だ。せっかく異世界に来たなら魔法も使ってみたい。
「さて、どれどれ…」
シリエは魔紙に視線を走らせる。
なんか両親に返却されたテストを見せる時の様な妙に緊張する心境を抱く中、その顔は徐々に険しくなっていき、ざっと目を通し終わると息を呑んで紙面を凝視したまま微動だにしなくなった。
待ってみても何か考え込んでいるようで難しい表情のまま動かない。
何かまずい事でも書いてあったんだろうか。
不安交じりの好奇心に突き動かされ、シリエの持っていた魔紙を取る。
それでも気づかないシリエは置いておいて、カレアを手招き、一緒に魔紙を覗き込んだ。
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〔名前〕
ユキ・イハラ(15)
〔レベル〕
不確定
〔種族〕
人間
〔職業〕
無職
〔生命力〕
10
〔攻撃力〕
45000
〔防御力〕
50
〔魔力〕
無尽蔵
__________
……バランスがおかしい…。