プロローグ
初投稿なので拙いと思われますが許容して下さると幸いです。
評価、指摘など貰えるとうれしいです。
「行ってきます…」
誰もいない玄関に声が響く。もちろん返事は帰らない。
それを少し寂しく思いながら家を出る。
中三の冬。父さんの海外赴任が決まった。
おしどり夫婦である両親は当然離れる気は毛頭なかったが俺はもうこっちの高校を受験して合格してしまっていて一人こっちに残る事になった。
そして数ヶ月前、両親は名残惜しそうにフランスへと旅立った。
(やっぱり自転車ほしいなあ)
風に枝を揺らす葉桜を見上げながら独り言ちる。
高校までは歩いて約40分と比較的近場にあるのだが距離というより道中がひどく退屈で地元ということもあって見慣れた景色ばかりで心浮き立つものもない。
友人でもいればいいのだろうが中学の友人達は別の高校に行ってしまい、入学式を終えてまだ日が浅くても友人と呼べる奴らはできたが家の方向が違うからわざわざ一緒に登校したりしない。
学校まで行けば皆いるんだから登校時間を省略したかった。
別に寂しがりというわけではない。こうして花見をしつつ、のんびり歩くのもいい。前までならそれでもよかった。
しかし、家に誰もいないと話し相手が欲しくなるのは必然だろう。子供というのは楽しいことやうれしいことがあれば話して人と共有したいと思うものだ。
少なくとも俺はそうだった。
早く誰かと話したいと思いながら通学路を外れて路地に入る。ここら辺は子供の頃遊びつくしているので庭同然だ。近道だっていくつも知っている。
路地をしばらく進むと古めかしい家の木塀が見えた。あそこの角を曲がれば校門が見える。
やっと話し相手に会えると軽快な足取りでいつも通り角を曲がった―――――。
ゆっくりと意識が浮上してくる。
微睡みの中、身を包む柔らかい布の感触にベッドに寝ているのだとぼんやり思った。目覚ましの喧しい音は聞こえないからまだ時間より早いのだろう。
なら、二度寝しようと寝返りをうった時、カチャリと扉の開く軽い音がした。誰かが部屋に入ってきて静かに扉を閉める。
―――だれだろう。
回らない頭で考える。
両親は遠くフランスで息子がいないのをいいことにきっと堂々とイチャついているだろう。父さん達の仲が良いのは嬉しいのでそれは別にいい。帰ってきた時、弟か妹ができててもずっと弟妹が欲しかったし、それはそれで喜ばしい。
でも父さん達じゃないなら心当たりはない。毎朝起こしに来てくれる可愛い幼馴染みなんてもちろんいない。
いまだ霞がかった意識の中で首を捻っているとすぐ傍に人の気配がして同時にいい匂いが鼻腔をくすぐる。
それに誘われるように薄目を開けると視界にこちらを覗き込む人影が映った。
「おはようございます。僭越ながら朝食のご用意をさせていただきました」
目を覚ましたのが分かったのか話しかけてくるが頭が回らず上手く意味を解せない。
ぼうっとしていると次第に視界が鮮明になっていき、答えを待つ人の姿を捉える。
腰を優に超しているだろう長い黒紫の髪。まっすぐに見つめてくる瞳は深淵のように深い黒で軽く弧を描く唇は白い肌と半比例して黒の口紅をはいている。
ゴシック調の黒いワンピースに身を包み、その上からフリルの付いた白いエプロンを着用している。
黒いメイド。
安直に表すなら確かにメイドがそこにいた。
整った美しい容姿をしていて悪魔のようにも見えるが雰囲気はとても柔らかい。
不思議だなと思って見ていると微風に流されるように霞が晴れてきて頭がはっきりした直後、目を見開いて跳ね起きる。
「おれ……ここは?」
さっきまでは確かに路地にいたはず。どうしてベッドで寝てるんだ?
今の状況のおかしさに気づいて自分のいる部屋を見渡す。
広い部屋の中央に大きな寝台が据えられていて正面に両開きの扉がある。
フローリングの床には赤い絨毯が敷かれ、ベッドに座った状態で向かって左には壁際に木棚が2架に大きめのクローゼットとチェスト。右側には引き出しの付いた机と椅子、木棚が3架配置されている。いずれも細かな装飾と艶があり、高価そうだが使われた形跡はなく、少なくとも目に見える範囲に調度以外の物は置かれていない。
すべてもぬけの殻だ。生活感など微塵もない。
ましてや馴染み深い自分の部屋なんかでは決してなかった。
考えてみても状況は理解できず、困惑気味にいまだ傍らに立つ少女に目を向ける。
いくつか年上に見える少女は作り物めいた綺麗な笑みを返してきた。
※投稿は不定期です。ごめんなさい。