デッドモーニング
「ぬぅうううっ!」
目の前の盗賊風の男が俺の体に剣を突き刺そうと気合いの籠った掛け声とともに飛びかかってきた。俺の左右には同じ様な格好の男二人。ガッチリと間接を決められ膝立ち状態の俺に、更に体重まで両肩に乗せていた。まさに絶対絶望だ。
こんな状況では出来ることなど少なく、ただ迫ってくる刃先と男を睨み付ける事しか出来なかった。
「りゃあああ!」
最後の掛け声と共に俺の胸を剣が貫いた。凄く痛い。
「よし、荷物の中を見て適当に切り上げるぞ」
おいおい、それは俺の荷物だぞ。お前の物みたいに言うなよ。
「パンと... 着替えに... あ、こいつが財布だな。他には特にねぇなぁ」
俺の右腕を押さえていた男が俺のリュックサックを漁り終え、他の男に引き上げさせるような合図を送っている。
「じゃあさっさと帰ろうや、夜は野良犬どもがおっかねぇ」
「財布にはいくら入ってるよ?」
「子供の小遣い程度だ。今日も酒は飲めねぇよ」
人の金でもう会計の計算までしてんのかよ、残念だろうが財布の中身は銅貨が三枚と石貨数枚だ。男三人なら一人一杯とつまみ一品で終わりだろうな。
それから十分ほどだろうか、男達が去っていくのをぼんやりと眺めていたら音がした。
「ガルゥゥゥ... 」
音じゃない。鳴き声だった。
「まぁ... 待てよ... 」
ゆっくりと起き上がる。起き上がることが出来てしまう。
痛む胸を押さえながらゆっくりとこの野良犬...
野良犬じゃねぇ。こいつスライムじゃね。耳がスライム特有の半透明な青色だ。前世じゃスライム大好きだったんだよなぁ。あのプルプルボディを抱き締めたいと夢見て玩具売り場で大量にスライムをって、じゃなくて、話が脱線した。
そう、俺は不死身のアンデッド。ウォーキングデッドやバンパイアもビックリの冒険者だ。
腕をもがれりゃ即座に生やし。頭を潰されても一時的に五感のうち四つが使えなくなるだけで、正直体の構造が自分でも全くわからない!
中身のパーツは昔興味本意で自分でぶちまけたのと、怪物共と戦闘中に吹き飛ばされたときに確認したがだいたい同じだった。だいたいって言うのは医者でもないからちゃんと同じかわからないって事だ。そんな俺でも試したことがないのが。
「流石に丸飲みは不味いよな... 」
こんな体になったのは俺が産まれたときから首についてる呪いのせいだ。そして、そんな無敵な呪いが果たしてスライムの完全吸収型胃袋にも勝てるか疑問がでた。
「でもチョット触りたい。あわよくばパフパフしたい。」
好奇心と昔からの夢が目の前にあるのだ、我慢など出来るだろうか。いや、無理だ。
恐る恐るという具合に手を伸ばしてみる
「グワッ!」
指を持っていかれた。そうか、こいつは腹が減っているんだな。よしよし、おじさんがパンをあげよう。
「ほら、昨日買ったパンで少し硬いが食えるだろう?」
掌にのせたパンの臭いを嗅ぐような動作から、徐々に興味がパンに移っているようだ。
「食べて良いんだぞ?」
言葉を理解しているとは思ってはいないが、何故か話し掛けてしまう。そこから少し待つとスライムも警戒を解いたのか目の前でガツガツと食べ初めた。
この隙に少し触れないかな。
ゆっくりと、警戒させないように背中に手を乗せる。
「おおぅ、柔らかい!もふもふだ!」
おそらく体を別なものに変化させたのだろうが。元がスライムだと知っていなければ気付かぬほどの見た目と触感だ。
「ヴヴヴ... 」
あれ?触られるのは好きじゃなかったか?スッゴい警戒してる。
「「「グルル... 」」」
違うな、囲まれているんだ。それにこのスライムが先に気づいたのだろう。数は五匹... いや、木の上にも二匹いる。
どうするかな。昨日の夜から戦いっぱなしで武器なんて壊れて無いし、不死身の体に任せて防具も着けてない。おまけに盗賊に刺された胸は回復したが若干貧血ぎみだ。
そう考えを巡らせていたら急に体が持ち上げられた。先程まで隣にいたスライム... ?
また違ったぞ。今度はやたらと大きなカラスに化けていやがった。大きな嘴が俺のローブのフードを掴み上げて背中まで乗せてくれた。そのまま一足の助走で空まで急上昇。みるみる野良犬の群れが小さくなっていくのが見える。どうやらこのスライムが助けてくれるらしい。
「ありがとうな!お前良い奴だな!」
返事は来ない、うぶな子なのかクールな子なのか...
「もう逃げれたし下ろしてくれないか?」
返事は無し。
どうやら俺はこのスライムにテイムされるらしい。
初作品だけあって自分でも読みにくい所があります。
やっぱり他の作家さんは素晴らしいです。