そのつぎの、つぎ
この世界はワタシを軸にして回っている、大明司美鈴はそう信じて疑わなかった。
周りには彼女の事を慕う六人の男性。揃いも揃っていい男揃い。そして彼らは毎日彼女に愛を囁くのだ。これが神に愛された彼女の物語りでなければなんだというのか。
日本でも名高い財閥令嬢として生を受けて、けれどいつも何かがもの足りなかった。常に取り巻きが居たが、何かが違うとずっと思っていたのだ。
そしてある日、家でテレビを見ていると突然目のくらむような光に包まれて、そして気が付けばこの国に居た。周りには、テレビでもお目にかかれないような見目麗しい美男美女。
そして悟った。この世界こそ、自分が居るべき場所。ワタシが、ヒロインなのだと。
「ミスズ、キミは私の本当の姿を見つけてくれた。誰も信じられなかった私が初めて人を信じる喜びを知ったのもすべて、キミのおかげだ」
「リム、ワタクシには見えるわ、迷い子のように助けを求めるあなたの姿が」
灰色の肩まである髪を一つに結び、その触れれば火傷をしそうなほどに熱い色を秘めた翡翠の瞳で美鈴を一心に見つめるのは、この国では宰相と呼ばれている男。出会った時からどこか冷めた目で周りを見ていた彼に彼女はすぐに気付いた。寂しい人なのだと。だから言った、あなたは何に怯えているのかと。
すると驚いたように目を見開いた彼は、それから静かに涙を流したのだった。
「そんなに走ると転ぶぞ」
蝶々が飛んでいたのでそれを追いかけて庭に出る。
石に躓いてバランスを崩したが、それを受け止めてくれたのは真っ赤か髪をした妙齢の男性。
「カール、ごめんなさい。でも、見て、とても綺麗な蝶々を見つけたのよ」
「俺には、ミスズが一番きれいに見えるがな」
年上だからこそ感じる、その頼りがいのある雰囲気。彼はいつでもワタシを守ってくれる。どこに居ても、振り返れば彼がやさしく微笑んでくれている。
「カシェル!まぁ、綺麗なお花。どうしたの?」
カールと同じ赤い髪の、けれど彼より幾分か年下に見える青年が、その手に花を携えて歩いてきた。彼は美鈴の前に立ち止まると、何も言わず花を持っている手を彼女の方に突き出した。
「やる」
「ワタクシのためにわざわざ?」
そういうと、無口な彼は頷いただけだった。
赤色の綺麗な花をその手から受け取って匂いを嗅ぐ。
「とても良い香りね。けれどカシェル、花も一生懸命に咲いているわ。抜いてしまったら可哀想よ?」
そういうと彼は項垂れた。しかし美鈴なら、すぐにカシェルを元気にする言葉を紡げる。
「本当に嬉しいわ。ありがとう。すぐに部屋に飾るわね」
「ねぇねぇ、花なんかほっといてボクと遊ぼうよー」
そう言って腰にしがみ付いてくるのは、美鈴のワンコちゃん。
銀髪の長い髪を無造作に縛った彼は、すみれ色の大きな瞳を輝かせて美鈴を見上げてくる。身長は同じくらいなのに、なぜこんなに可愛い仕草ができるのだろうかと、美鈴は悔しく思うと同時にそれが愛おしいと感じる。
「だめよ、アズール。せっかくカシェルが届けてくれた花なんですもの、きちんと水をあげないといけないわ」
そういって美鈴は花瓶に水を入れて花を生ける。それを見て、カシェルは頬を緩めた。
「ボクも居るのに―」
カシェルとは逆に、アズールは頬を膨らませてそっぽを向く。
美鈴は苦笑して彼の頬に手を添えた。
「世界でも屈指の魔術師様が、そんな顔をしてはだめよ」
「やっと見てくれた」
そういってアズール悪戯が成功した少年のように笑った。
「アズール、そこをどけ、その場所は俺のだ」
アズールと美鈴の甘酸っぱい空気を裂いたのは不機嫌さを隠そうともしない青年。金髪碧眼の王子様のような彼は、この国の皇子だという。今は仕方なく姉に王座を譲っているが、美鈴が望むならば王になろうとも言ってくれた。
「きゃっ」
フレア皇子に強引に手を引かれ、気が付けば彼の腕の中に居た。
「お前は俺だけ見てればいいんだよ。誰にでも優しすぎるぞ」
不機嫌な顔でフレアはいう。
そんな彼に、美鈴は困った表情を向けた。
「ワタクシはみんなと一緒に幸せになりたいだけです。それに考えてもごらんなさい。あなたが王になれば、そんな王を支えるのは、宰相であるリムに、騎士団長であるカールよ。近衛騎士のカシェルはあなたを守るために居るのだし、魔術師のアズールはとても大事な相談役なのよ?みんなで力を合わせなければ国は成り立たないわ」
「その通り」
聞こえた声に美鈴は人知れず胸を高鳴らせた。
「さすがミスズ様、よくわかっていらっしゃる」
歩いてきたのはアイスブルーの目を眩しそうに細めた美鈴が密かに心を寄せる人。
「アレン様」
彼は他の取り巻きとは違う空気を纏っている。常に自分を気にかけてくれるのは他の者達と一緒だが、彼は一度も彼女に愛を囁きはしない。良いことをすれば褒めて甘やかしてくれるけれど、間違ったことをすればきちんと叱ってくれる。自分より二十も上のその人を、美鈴はいつしか誰よりも大切に思っていた。
けれど何故だろう、一番ほしい言葉を一番ほしい人は言ってはくれない。
アランの後ろから幾つもの足音が聞こえた。
と同時に、あまり聞きなれない声が響いた。それもそのはず、彼女の周りには常に男性しかいない。女性は二人、彼女につけられた侍女だけ。
けれど今響いた声はどれもは女性のものだ。
「いやぁ、また良い題材を頂きました。・・・・でも、だめ、砂吐きそう・・・」
「お止めなさいな。吐くほどの価値もないですわよ」
「非常に愉快だな。愉快すぎて引っくり返りそうだ」
「本当に、情けないことです」
「シェーリー殿、それをいうんじゃないぞ。私とて泣きそうだ」
美鈴の口調が安定しないのは、彼女自身キャラが定まっていないためです。
慣れない場面で、しかも少しイライラさせてしまうかもしれない話でしたが、とても楽しく書けました。
次はいよいよ復讐の回。お姉さま方、がんばれ。




