表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界聖女、世にはばかる  作者: あかり
PR
2/5

そのつぎ

 そもそもの原因は召喚してしまったこの国にあるのではないか、と言われればぶっちゃけその通りである。王宮の一部では、聖女を呼び出した上層部に批判が上がっている。それもしょうがない。けれど、この国が黒い靄に覆われ穢れていたのは事実で、それを聖女が払ってくれたのもまた事実。

 ただ、そこで知っておいてほしいことが一つある。それは、聖女様が役目を終えた時、私たちが彼女を元の世界へ帰す手筈をきちんと整えていたということだ。彼女が望めば、彼女がやってくる直前に戻すことも可能だった。

 シェーリー様がその役目を請け負ってくださっていたので、失敗の恐れもなかった。

 それを拒んだのは、他でもない、聖女様である。


『この国にはワタクシを必要としている方々がいますわ!そんな方々を見捨てて、一人帰るわけにはまいりません!』

 また引いた。最初よりもドン引きだ。しかも口調違ってないか。なにそのお嬢様口調。痛いわ、痛すぎるわ。

 そう言い放った聖女様の周りには、リア様のお兄様、カレン様のお兄様達、シャーリー様の弟様、そして陛下の弟皇子が居らっしゃった。揃いも揃って溶けきった表情で聖女様を見ていた。

 正直痛すぎて見てられなかった。いやそれ以上に、腹筋が痛くてしょうがなかった。あの時憎々しげに顔を歪めていたダニエラ様達でしたが、私は知っていますよ。彼女達もまた私と同じように笑いを堪えるが故に顔を歪ませていたことを。


「まぁ、良いですわ。そろそろ準備も整ってきた頃ですし、わたくし達も最終調整に入りませんこと?」

 リア様の言葉に、思考が現実へと帰ってくる。見ればフランシス様が私を見て首を傾げていた。聡い方だから、私が過去に思考を飛ばしていたことに気づいたのだろう。

 リア様に視線を向ければ、彼女のすぐ後ろにとぐろを巻く大蛇が見えた。笑いながら、けれどその表情はさながら般若のようである。器用な方だ。まぁ、この人も苦労してるしなぁ。

 この間本人から聞いたのだが、彼女は元々政治などに興味はなく、侍女長になったのもそれなりに良い嫁ぎ相手を自分で見極めるためだったそうだ。そして良い頃合いで、誰かの嫁ぎ、のんびりのほほんとした生活を夢に見ていたのだという。それなのに、兄が妙な女に入れ込んでしまったせいでその夢が破れたと。そのためリア様はことさら自分の兄に対して恨みがある。


 最近ではよく、一人怪しげな笑みを湛えている姿をあらゆる場所で目撃されていた。そういう時、周りの者はそっと目元を拭って彼女を生暖かく見守るのだ。


「そうだな。もう半年だ。そしてあいつらが離宮に籠ってもう三か月。今更奴らに戻ってくる場所などありはしない」

 妖艶に微笑んだダニエラ様の後ろには神々しい龍が見える。彼女もそれなりに被害を被っている人物の一人。聖女様とその取り巻きのせいで、上層部への批判は積る一方で、しかも血縁というだけで何も悪くない彼女達にまでその批判は向かっていた。そろそろ限界が近づいているのだろう。ちなみに陛下には兄が十三人いた。そんな彼らを蹴り落として実力で得たのが今の、この国始まって以来初めての女帝という地位である。その実力は推して知るべし。


「責任は、取ってもらわなければ」

 そう言ったのはシャーリー様。身長は私より低いのに、色気たっぷりとは何という破廉恥な女性なのだろう、羨ましすぎる、というのは私が彼女に会っていつも思うこと。けれど今は彼女は怒れる獅子をその身に背負っているため、あえて何も思わないようにする。彼女も弟の尻拭いのために国に戻ってきてからは肩身の狭い生活を送っていたようだ。


 龍、大蛇、獅子という恐ろしい構図をここに見た。


「キャッキャ」

 腕の中のフランシス様がそれは楽しそうに笑っている。

 そうですか、さすが皇子。この三人を見て笑えるなんて、本当に将来が楽しみですわ。遠い目で笑った私の耳に、カレン様の一言が入ってきた。


「拳の一つや二つぐらい入れさせてもらわないとな!!」

 右の拳を開いた左手に押しつけながら言ったカレン様の足元には、可愛らしいハムスターが走り回っているのであった。あら、可愛らしい。


● ● ● ●


「というわけだ」

「なるほどな」

 午前中はフランシス様と庭のお散歩をしながら、外の世界と触れ合い授業を絶賛実施中だったのだが、お昼を過ぎて、再びダニエラ様の私室へと呼ばれた。

 今はフランシス様を膝に乗せ、二つある内の片方の長椅子に座っている。

 茶髪の短髪にアイスブルーの瞳が目を引く妙齢の男性が、事の次第をダニエラ陛下に報告をする様子がこの位置からもよく見えた。

「ご苦労だな、アランよ。礼を言うぞ」

「そうお思うんだったら、早く家に帰してくれないか」

「まだ無理ですわよ」

 アランと呼ばれた男性は、容赦ないリア様の言葉に崩れ落ちる。

 ちなみに彼、アラン・リドレイは、この王宮では所謂外交官という立場にいる。けれどそれと同時に聖女の取り巻きの一人として彼女の懐に入り、情報を仕入れては陛下に流すというスパイ的活動も行ってきた。しかし聞くところによると彼は、聖女様の数多居る取り巻きの中でも特に彼女のお気に入りらしい。

 私からすれば、非常に面白くない情報だ。

「四十歳のおっさんが二十歳の少女にデレデレする様なんて見たくありませんし聞きたくもないけどね」

 私の言葉に更に崩れ落ちる彼が視界の端に見えたが、気にするもんか。

「まぁまぁ、アーサー、そういうな。大事な人だからこそ見たくないものはあると思うが、もう少しの辛抱だ」

 カレン様が慰めてくれる。

 そう。彼こそが私が落ちた先に居た人物。いきなり現れた大人な態度をとる奇妙な五歳児を大切に守り育ててくれた親でもある。ここ数年の彼はよくロリコンと評されているらしい。もちろんその発信源は私だ。


「けれどこのままずっとというのは、アーサーも可哀想ですものね。本当はもう少し泳がせてやろうかとも思っていましたが、仕方がありませんわね。今日、日が沈む前に決着を付けさせていただきましょう」

 あ、リア様の背後に居る大蛇の牙から毒が滴り落ちた。


「ようやくですね」

 シャーリー様の背負う獅子が、待ち切れないといでもいうように舌なめずりをしている。


「まったく、どうしてやろうか、あの愚者共を・・・」

 ダニエラ陛下の龍は炎を吹く寸前だ。鼻から煙が立ち上っている。


「よっし!やってやるか!」

 カレン様のハムスターが、あぁ、走りすぎてこけてしまったよ。


 アランのこちらを窺うようなような視線に気づいたけれど、あえて無視する。聖女様に対する態度が演技だとは知っているけれど、面白くないものは面白くないのだ。これぐらいしたって罰は当たらないと思う。

 ちなみにフランシス様は笑うだけに留まらず、今回のこの場面では、手を叩いて喜んでした。あぁ、皇子、乳母はあなたがまともな大人になるか心配で仕方ありません。



後三話で完結です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ