おとこ
せっかく二人で来たのだから無駄話の一つでもして行くのかと思いきや、綾乃は黙って牛丼を平らげるとすぐに会計を済ませて店を出てしまったーーどこまでも漢らしかった。
「うっし、次はラウワン行くぞ」
「お、やっとらしくなってきましたね」
アミューズメント施設ならやることには困らないはずだ。綾乃にも少しは良識的なチョイスができたらしい。
「現地まで競走で、負けた方の奢りな!」
「え、そんなの聞いてないよ…⁉︎」
何かにかけて男らしさをもとめる綾乃。そのうち女とかいて『をとこ』とか読みはじめそうだった。
「ぜぇっ…はぁっ、はぁっ!」
結構大きめの金額がかかっているということもあり、悠人は全力を出した。その甲斐もあり、僅差ではあるものの勝負は彼の勝利で幕を閉じた。
「ん〜しゃあねえ、今回はオレの負けだ。奢ってやるよ」
「いや、そこまでしてもらわなくても…」
「いーんだよ、こういう時は黙って奢られとけ」
何故この女は無駄にかっこいいのだろう。
女に奢らせるなんて言語道断という意見もあるだろうが、綾乃の顔を立てる為に悠人は厚意を受け取ることにした。
「ラウワンと言えばパンチングマシーン、パンチングマシーンと言えばラウワンだよな」
他のブースなどまるで目に入っていない様子で、綾乃はサンドバックに人型のペイントを施したような機械の前で闘志を露わにしている。
空手の組手をするときのように、綾乃は跳ねるようにステップを踏む。
「まずは突き。せいッ‼︎」
ズドン‼︎という音を立ててサンドバックが折れ曲がった。
「そしてお次は、せーのォ‼︎」
ちょうど人型のこめかみにあたる所に彼女の上段回し蹴りがヒットし、グラグラと揺れ続けている。
(これは…絶対段持ちだろ。大人しくしてないと殺られる)
悠人の背筋を、何か冷たいものが駆け上がっていくのを確かに感じた。
日が落ちるまでにおおむね施設は周り終え、二人は今日はこのあたりで切り上げることにした。
目まぐるしくバッティングセンター、ゴルフ、カラオケなどを巡った後で、体には心地よい疲労感がある。後半からは予想以上に楽しんでいる自分がいた。
施設を出ると、綾乃は今日一番の笑顔で振り返る。
「ありがとな、悠人。今日は楽しかったぜ」
短く言い残すと、彼女は一息にペダルを漕いで去って行った。
何故だか、悠人は彼女が見えなくなるまで目をそらすことができなかった。




