タイプ
昼休みが終わり、あとは3限目を残すのみ。これさえ乗り切れば、今日は帰ることができるーー悠人を覗いては。
ノートをとるのが馬鹿馬鹿しく感じて来た悠人は、机につっぷそうとする。が、そこで異様なものを目にした。
問題は隣の机の裏ーー綾乃の手に握られているものだ。
スマートフォン。これだけならよくある光景なのだろうが、その上を綾乃の指が高速で走っているという点が普通ではなかった。
彼女の視線は、真っ直ぐ黒板に向けて固定されている。つまりは、画面を一切見ずして、キー操作を行っているということ。
しかもどうやらラインを立ち上げているらしく、指の動きにあわせて画面上にどんどん吹き出しが現れる。
(怖えー!女子怖えー‼︎)
周りを見回してみると、同様にスマートフォンを操作している女子二人を発見した。綾乃のようにブラインドタッチとまではいかないが、ものすごいタイピング速度だ。
(そこまでして話したいことがあるのか…?)
彼女の指さばきに見とれているうちに、授業は終わっていた。
約束の放課後。
あらかた生徒がいなくなったタイミングで、綾乃はようやく口を開いた。
「なにぼけっとしてんだよ。さっさと荷物を片せっての」
「あ、はいすんません」
既に彼女は帰り支度は整えていたらしく、机に指定鞄をおいて椅子の上で足組みしている。
待ち兼ねたように貧乏ゆすりをしているが、悠人にはそれが苛立ちではなく浮き足立った気持ちのあらわれのように感じられた。
「して、今日はどこにいくんすか?」
「今日はな、由乃屋に行こうと思うんだ」
「え、牛丼?パフェとかじゃなくて?」
「んな女々しいことできっかよ」
「だってあなた女じゃないすブゴァ⁉︎」
殴られた。
どうやら決定権はもちろん、提案する権利もあたえられないようだ。
それにしても…これがうわさの牛丼デートなのだろうか。この女、ジャージで行くとか言い出さないだろうな。
そんな言いたいこと諸々を腹の底に飲み下して、悠人は駐輪場へ向かった。
さすがに、綾乃がジャージに着替えるなどと言うことは無かった。
しかし、制服は制服でめちゃくちゃ目立つ。そもそも女子の制服に牛丼の匂いがついていたらドン引きだーー牛丼だけに、牛ドン引きだ。
それはともかく。
「やっぱ漢飯は最高だぜ」
綾乃はとても良い食いっぷりだった。
「俺でもそんな食わねえよ。お前の胃袋何リットルだよ」




