昼休み
余程恥ずかしかったのか、綾乃はそのまますぐに帰ってしまった。
『それから、明日からは課外に遅れずに来い!隣の席が空いてっと丸見えになんだろ!』
綾乃は帰り際にそんなことも言っていたが、正直朝は苦手なので気が重い。大体、高校の課外と名のつく授業は時間が早すぎるのだ。
「まぁ、ぶちぶち言っててもしゃあないか…」
明日寝坊することがないよう、悠人は念を入れていつもより一時間ほど早く床に就いた。
翌日。
目覚ましよりも先に目を覚ました悠人は、久方ぶりに頭から授業を受けていた。
しかしーーある程度の事は覚悟していたというのに、学校に着いてから綾乃は自分から一切口を聞いてこない。
気だるげな表情ではあるが、授業もきちんと聞いているようだ。
だが、その手に筆記用具は握られていない。
一時間目の休み時間に聞いてみたところ、「どうせ見直さねぇならとる必要ないだろ」と言っていた。
それはつまり試験勉強などしないという事であって、悠人としては面白くない。
トップクラスの進学校ともなればこういうタイプの人間はちらほらいるものだが、これで学年一位というのは真面目にやっている人間が報われなさすぎる。
板書の順番が来たらしく、綾乃は黒板に迷いない手つきで数式を刻んで行く。
その背を眺め、悠人は少し憧れのようなものを感じてしまう。
(俺もこんな風に優秀だったら、親も泣いてよろこんだのかもな)
「あ」
板書を終え、教壇から降りてきた綾乃と目があった。
「チッ」
(舌打ちぃいいい⁉︎俺なんかしたっけ⁇)
それから授業が終わるまで、悠人は自分の罪状を探し続けた。
「悠人ぉ…飯くわねえか」
昼休み開始のチャイムが鳴ると、和也が囁くような小声で昼飯に誘って来た。
思わず、許可を求めるように横を伺う。
「あれ?」
窓際の席はもぬけの殻で、果たして彼女は教室の後ろ隅でこの前と同じグループを作っていた。どうやら、本当に放課後以外の時間は無干渉を貫くつもりらしい。
(って、なんで俺はご主人様を待つ犬みたいなこと考えてんだ)
「どうやら大丈夫みたいだ。ここで食おうぜ」
「悠人おまえ!女子部屋に連れ込んだとか、もうそれ立派に既成事実だろ」
「やかましいな、それどころじゃなかったんだよ。そもそも白石ってどんなヤツかもいまいち把握できてないってのに」
和也曰く。
中学生の時から文武両道、品行方正な女子生徒だったらしい。ただ、当時から生徒会や部活には所属せず、プライベートは全くの謎に満ちているそうだ。
少なくとも、入学時点ではあんなにトゲトゲしていなかったという記憶はある。
義務教育終了と共に羽目を外したにしては、行き過ぎている感は否めないが…。




