光
「何を言ってるか分からないって顔してるな。まぁ、当然か。あの頃の自分は、今の自分とは似ても似つかない性格だったしな」
黙って綾乃の話を聞いていたが、どうにも現実感がない。まるで、赤の他人の昔話を聞かされているような気分だった。
「そこは百歩譲って信じるとして、その…クラスで仲間外れにされてたってのは」
「本当だよ。しかもそれは、『仲間外れ』なんてものじゃあ終わらなかった。今だから言えるけど、オレはいじめられていた」
「そんな…」
「しかもその主犯格は同じ学級委員の男子だったんだぜ。笑えるだろ?あの時は、本当に人間の正気というものを疑ったね」
時には苛烈な言葉を投げつけられ、そして時には直接的な暴力をふるわれ。徐々にエスカレートするいじめの中で、彼女の日常は崩壊した。
「そんな人生の谷底に落ちて泣いていたオレの前に現れたのが、当時のクラスメイトだったーー古賀詩織なんだよ」
放課後の帰り道。
部活に入っていない綾乃は、うつむき加減に一人でとぼとぼと歩いていた。
その後ろに、数人の男女がついてくる。時折聞こえてくる嘲笑を無視して、彼女は歩みを進めていた。
いつもなら、このまま恐怖に耐えて歩いていれば家にたどり着くはずだったが…その日はそうはならなかった。
「おい、さっきから無視してんじゃねーよ。聞こえてんだろ?」
「……、」
細い路地裏の行き止まりを背に、綾乃は委員長を始めとした一団に取り囲まれていた。
「少し痛い目に合わせれば、声だすんじゃね?」
「ハハッ、それもそうだな!」
綾乃の前にずいと出てきた女子生徒が、彼女の髪を鷲掴みにする。
「……っ!」
「ちょっと、いい加減になんか言ったらどうなワケ」
別に、綾乃は意地を張って声を出さなかった訳ではない。純粋に、恐ろしくて声が出せなかっただけだった。
しかし、そんなことは目の前の集団には通じない。そして彼女の態度が癇に障った女子生徒が手を振り上げたときーー




