回想
幼い綾乃は、人付き合いが極端に苦手な女の子だった。同年代の子供達にはなしかけられても、親の背に隠れてしまうくらいに。
それでも、小学校を卒業するまでは静かな日々を過ごせていた。
きっと、よい仲間に恵まれていたのだろう。深い仲になる友達はいなかったが、人間関係に不自由していたわけではない。
そんな穏やかな日常も、中学校までは続かなかった。半数以上が他校の生徒になった新しい環境は、綾乃が適応するにはいささか厳しいものだった。
きっかけは、ほんの些細なものだ。
入学後初めての係決め。学級委員長の枠だけが決まらないまま、役職が割りふられていく。
「いや」と言えない綾乃は、気づいた頃には委員長にまつりあげられていた。
男子の委員長になったのは、いかにも目立つことが好きそうな男子生徒。
彼は、学級会など場を取り仕切るようなことは進んでやったが、地味な仕事は全て綾乃に押し付けた。
断れない綾乃は、全て一人でやり切らなければならなかった。「手伝って」、の一言が言えなかったからである。
そして、さらなる困難が彼女をおそう。
授業中に質問をされても、綾乃はぼそぼそとしか答えることが出来なかった。ある教師が「こんな問題も答えられないのか」と言ってから、クラスの中で彼女を蔑む風潮ができ始める。
それまで彼女と口をきいていた同級生も、それ以来距離をおきはじめーーそして、彼女は教室で一人になった。




