談判
「何?」
「白石綾乃に頼まれて来た。少し時間をもらえないか」
悠人の口から綾乃の名前が出てきたのを聞いた瞬間、詩織の眼光がすっと冷たく鋭いものへと変わる。
「あの子と一体どういう関係なの?アンタみたいなのに声かけられる覚えがないんだけど」
「なんて言ったらいいか分からねえけど…クラスの友達、かな」
「…ふーん?『友達』ねぇ」
腕を組んでしばらく真っ直ぐにこちらを見据えた末、詩織は立ち上がった。
「ごめん、あたしは遅くなりそうだから先に帰っといて。アンタ、ついてきなさい」
くるりと背を向けると、彼女はそのまま確認もせずに教室から出て行く。一拍遅れて、悠人は慌てて廊下へ飛び出した。
三階からさらに踊り場を一つ登った扉の先。屋上のフェンスに背中を預けた状態で、詩織は話を切り出す。
「大体どんな話かは予想がつくけど、あの子に会うつもりはないから。よく話す仲なんでしょ?あの子にもそう伝えといて」
「いや、そういう事じゃない」
「は?」
「俺は会って欲しいと言われただけで、言伝を頼まれたわけじゃないんだ。というか、むしろ説明してほしいぐらいなんだが…」
「なにそれ。ワッケ分かんないし」
詩織は吐き捨てるようにつぶやき、小さく舌打ちする。恐怖心が悠人の心拍数を上昇させ始めるが、自分に喝を入れてその場に踏みとどまる。
「あいつと、仲良かったんだろ。なんで避けたりするんだ」
「アンタには関係ない。あたしがそう決めたの」
「ちょっと待てって」
踵を返した詩織の肩に手をかけた瞬間ーー悠人の世界が反転し、急速に視界が黒く染まった。




