頂きにて
「おぉー…!これはすごいな」
「だろ?」
二人の眼下に広がる光景、それは地平線の先まで望めそうな山頂からの眺望だった。
今なら、どうして綾乃が急に山登りに誘ってきたのか分かる。この風景は、思わず誰かと共有したくなるようなーー黙って独り占めするには、贅沢すぎるものからだ。
「綾乃も、誰かにこの景色を教えてもらったのか?」
「そーだよ。山が好きな友達と、前はよく来てた」
「それってクラスで一緒にいるグループの女子か?登山が好きそうなやつなんて思いあたらねえけどーー」「違う」
強く断絶するような口調に、悠人は眺望から目を切って綾乃を振り返る。
「あいつらはそんなんじゃない。クラスで顔あわせたらバカ騒ぎするだけの、上辺だけの関係」
「ーーー」
いつもの快活な表情が嘘だったかのように、綾乃の目は寂しげに伏せられている。
こうしてみると、結構まつげが長いんだなーー思わずそんな場違いなことを考えていた。
「ちっとばかし付きあってくんねえか」という申し出を不思議には思っていたが…結局、綾乃は寂しかっただけなんじゃないだろうか。
「その友達はどうなったんだ。もう、会えないのか」
「オレらと同じ学校だよ。会いに行こうと思えば、校舎でいつでも会える。けど、避けられてるから」
「悪い。不愉快なこと聞いてしまったな」
「別にいーよ。悠人に聞かれるのはイヤじゃないし。悠人になら、話してもいい気がする」
次の瞬間、綾乃のつむじが目の前にあった。
「行橋君。私の友達に…詩織に、会ってくれませんか」
家に帰った悠人はベッドに横になり、複雑な気持ちで天井を見つめていた。
「行橋君とか…あいつらしくなさ過ぎだろ」
仲の良かった友達との確執。綾乃が中学のときから今のように変わってしまった原因は、どうやらここにあるらしい。
「しっかし…いきなり会ってくれと言われても、俺じゃ不審に思われるだけじゃねえか。かといって俺以外に引き受けてくれる相手がいるわけでもないんだろうなぁ」
言葉と共に大きく息をついたとき、部屋の扉が開かれた。
「ただいま」
「おかえり。って、何その袋」
「今日は綾乃ちゃん来てなかったの?会社から美味しいお菓子もってかえってきたんだけど」
「丁度さっき帰ったとこ。おしかったな」
「あら残念。この前の勉強会のお礼をしようと思ったのにねぇ…。あんなできた子そうそういないんだから、あんたも良くしてもらってばかりじゃなくて、たまには何かお礼するのよ?」
「あぁ、分かってるよ」
母の背を見送り、悠人はもう一度大きく息をついた。




