森林浴
立っているだけで汗がにじむような日差しも、頭上を覆う木々の陰を通して柔らかな光を足元に落としている。茂みの脇を流れるせせらぎがその光を照り返して出来た模様は、まるでダイヤのようだ。
心地よい風を顔で受けながら、二人はしばし無言で歩いていく。
そうして途中までは風景を楽しんでいたのだが。
「はぁっ、はぁっ…!」
重たい足取りで歩く悠人の視界の遥か先を、綾乃は涼しげな表情で登っていく。このままでは、かなりまずい。
もう少しで綾乃の姿が見えなくなってしまいそうな程に、距離が開いてしまっている。もしそうなってしまえば、この山に登ったことがない悠人は道に迷う可能性が高い。
と、綾乃が立ち止まって誰かと会話をしているのが目に入った。四、五十代の夫婦。既に折り返して下って来た登山客だろう。
にこやかに言葉を交わし、時折こちらに視線を送ってくる綾乃。
彼らは会釈して、歩みを再開する。下ってくる夫婦の方が圧倒的に速く、悠人はすぐに彼らとすれ違った。
「彼氏さん頑張って」
「か、彼氏⁉︎」
いきなりそんなことを言われたものだから、ろくに挨拶も出来ずに彼らの背中を呆気にとられて眺めるしか出来なかった。
まさか、綾乃があの夫婦に悠人が彼氏だと吹き込んだのか?
いや、彼女がそんなことをするとも思えない。妙な気分になりながらも必死に足を動かしていると、開けた一帯にたどり着いた。
「綾乃」
ベンチに腰掛けた綾乃が、ペットボトルに口をつけてこちらに手を振っている。
「おせーぞ悠人。お前のペースに合わせてたら頂上に着く前に腹が減ってきたぞ」
「どんだけ運動してなかったか痛感したよ。ふくらはぎがプルプルいってる」
彼女の隣に腰をおろし、悠人はリュックからバスケットを取り出す。
中身は、悠人お手製のたまごサンドだ。
「お、サンキュー」
悠人が手渡したサンドイッチをもぐもぐと咀嚼する綾乃のジャージの前は、涼をとるためか今は大胆に開いている。
アンダーの白シャツが、汗で薄っすらと透けてブラのラインが見えそうだ。
綾乃の胸元に目をとられて口を止めていた悠人は、慌てて顔を正面に向ける。
先ほどの夫婦にかけられた言葉を思い出し、自分でも顔に血が登るのがわかった。




