山
「なぁ綾乃、和也今日学校に来てないみたいなんだけど」
「…………」
あからさまに顔を逸らされた。
基本的にセクハラをする者には全く容赦をしないようだ。女子高生としては当たり前の行動かも知れないが、マウントポジションで和也をタコ殴りにしていた綾乃はやや常軌を逸しているかもしれない。
和也の事だ、死んでなければ大丈夫だろうと結論づけて悠人はとりあえず忘れることにした。
「…ゴホン!何はともあれこれで水入らずだな、悠人」
そこまでして二人きりになりたかったのであれば、綾乃はヤンデレすぎる。
「悠人、今日は山に登ろうぜ」
「山…?」
これまた随分とワイルドな遊びだ。
「いや、でもそんなパッと行って帰れる場所なの?」
「こっから二駅ぐらいの距離にある八百メートルくらいの山だからな。終わってすぐ行けば夕飯時くらいには下山できる」
帰宅時間が心配だが、母親に電話で綾乃と遊んでくると伝えて置けば問題ないだろう。
「ただ流石に制服じゃ登れないでしょ。終わったら一度私服に着替えてから集合しよう」
「な、なに……」
急におかしな挙動を始め、そわそわする綾乃。悠人は特に的外れな事を言ったつもりはないのだが。
「どうしたの?」
「(私服だと?そんな…一体どんな服を来て行けばいいってんだっ)」
そう、今まで意識していなかったが、綾乃は制服姿以外で悠人と遊んだことなど一度もないのだ。
「な、なんでもねーよ。とりあえず動きやすい格好して、水分も摂れるようにペットボトルなんかも持ってきとけ」
そう言って自分の机に戻ると、綾乃は腕組みして気難しい顔で唸り始めた。
登山ルートでも思い出しているのだろうか。綾乃の気も知らず、悠人は放課後の時間に思いを馳せていた。




