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アゲハ  作者: 鬼京雅
百年老人編
9/67

傀儡の私兵

 そして、雪崩に流されたまま下山してきた比叡山の入口では後方部隊と生き残りの先方部隊が蒼い炎を纏いアゲハ、京子、エリカを無言のまま一様に見据えていた。ここにいる仲間達も極楽浄土により傀儡に成り果てている。

『……』

 味方無き戦いに疲労困憊、満身創痍のアゲハは心が折れそうである。

 しかし、考えていても何も始まらない。三人は極楽浄土の精神汚染で傀儡になる柊の仲間を突破する。

(このままじゃジリ貧で殺されるのもそう先じゃねぇぞ。エリカを逃がし、比叡山から脱出し清水城に行くしかねーな)

 その時、冷たい女の手がアゲハの手をつかんだ。

 その少女はショートボブの黒髪を揺らし、微かに震えていた。

「……聖光葉は早く始末しないと私に厄災が降りかかる」

「光葉を殺すつもりだったのか京子?」

「無理な話だけどね。けど思っていたのは事実よ」

「……」

「私じゃ光葉に影響を与えられない。けどアゲハは影響を与えた。だから光葉は貴方を求め続けた。全ては奇士を集め、自分の頑固さを磨く為に」

「……光葉はそれほどにオレを?」

「堂々とあの男に異論を唱えて自分の意見を述べる貴方に私は憧れていた。私は強いだけで他には何も無い」

 光葉の目標は世界と戦う柊を日本ではなく世界に放つ事であった。

 日本で柊の民意はある程度得たなら次は世界に放てばいい。

 強い柊に世界は混乱は避けられず、様々な危機感が普通の人間を柊に引き上げる。

 人類そのものを柊としようとする光葉の未来図にアゲハは驚きを隠し得ない。

「柊がいてもいなくても、他人が存在すれば混乱はある。柊と人間の間に混乱が起きた時はその時に考えればいい。日本っていう殻に閉じ込めておいた方がストレスで暴発しちまうって事かよ……そして自然に世界を人類を柊に……」

 近年、考えが凝り固まっていた光葉に新しい風を吹き込んだアゲハの存在。

 それが京子に光葉との離別を考えた理由だった。

 このまま光葉といれば、いずれ黒百合の試練の時のようなこの三角関係の中の誰かが死ななくてはならないのは確実である。狂を求める者といるには自分も狂である必要がある。高みしか見ない光葉といられる人間に京子は行動を共にする事は出来ない事は狂陰に入ってから否応無く思い知らされた。

(……)

 その京子の思いを知るアゲハは自分と光葉の差を更に遠く、遠くに感じてしまい足が止まってしまった。パン! というエリカの手を叩いた音と笑顔で我を取り戻す。三人は改めてここから逃げる事を最優先に考え意思を固めた。





 その同時刻――異空間の輪廻封印式にて幽閉の身になる聖光葉はふと目を覚ました。

 現世六道輪廻の六人により囚われの身になる身体はまだ三時間ほどだが、宮古長十朗による極楽浄土の煉獄の炎に焼かれた痛みは霊力を喰らうように侵食し、霊力をまともに使おうとすると全身が焼ききれるように感じられる。

 その光葉の瞳は修羅道のイチノが施した封印式が欠けていたのを確認していた。

(アゲハが比叡山の源空会を突破しましたね……やはり彼は叩けば叩くほどに伸びて行く蛹だ。羽化するまで見てやれないのが心残りですが、彼ならやるでしょう)

 心の中でアゲハを思う光葉は欠けている封印式に修羅道の幻を使い突破し、現世である清水城に復帰した。

 そして、そのまま清水城の天守閣から飛び降り堀の池に落ちた。





「……どうやらここにいる奴ももう自我は無い。やるしかねーな」

 味方であった京都内に潜伏する京雅院の柊達は全員が極楽浄土に呑まれ、青白く光る目を輝かせてアゲハ達に襲いかかって来る。すでに極楽浄土をくらっているアゲハにはこの精神汚染を自力で突破出来ない者は元に戻る事は出来ないと超直感で悟っていた。

 アゲハは大体の柊のような特異体質ではないから極楽浄土を抜け出した。

 精神までが柊として覚醒してないのと自分の能力に頼りきっていないのが幸いしたようだ。

 柊になると大半は他人よりも上へ他人よりも早く、他人よりも強くあろうとし一般人を見下すようになる。それが極楽浄土の精神汚染には最高の餌として機能している要因だった。状況を把握するまでもなく依然としてピンチは脱していない事を直感するアゲハは、

「とりあえずエリカを安全な場所に逃がすぞ!」

 すかさず京子は仲間であった男の首を飛ばし血路を開く。

 そして、極楽浄土に操られる光葉村塾の仲間達は憤怒の形相で全身に蒼の炎を纏わせながら追いかけて来る。

「エリカ。京子と共に京都から逃げろ。オレは清水城に行ったきりもどらねぇ光葉を探しに行く」

「間違いなく光葉は死んでるわ。三家桜がこんな事をした以上、用意周到な奴等が光葉以上の力を持たないのに何もするはずがない」

 エリカの手を握りながら京子は言うがアゲハは澄んだ笑顔で笑い、

「光葉が死ぬかよ。オレは俺の目ん玉で真実を確かめに行く。京雅院の全てを見てくるぜ」

 言うなり、アゲハは夜が否応無く支配する京の街を駆けた。

 それを見送る二人はその白地に紫の揚羽蝶の着物を着た少年の背中を見つめ、逆の方向に駆け出した。

「蒼は地獄・紅は現世の炎。確か昔、光葉がそう言ってやがったな……この状況の全ては清水城で解けるはずだ」

 憔悴と動揺で精神がおかしくなりそうなアゲハはひたすらに清水城にいる光葉を信じて走った。





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