柊大霊幕
「うらぁぁぁぁぁ!」
「はぁぁぁぁぁっ!」
アゲハの畜生道による霊鬼人の最大霊気に、雅は飛耳長目の未来予知と草莽崛起による霊気収束倍加。
そして地獄の閻魔すら嫌がられた死の白炎を纏い対抗する。
激烈な霊気は空間を軋ませるように鳴動させ、空に花火を打ち上げるような光を発していた。
現世の人類全てを集めても今のこの二人には勝てる者はいない。
そんな孤独と歓喜が渦巻くような空間で戦う二人は叫ぶ。
「よく聞けアゲハ! 地球は全てにおいて限界が来てる! そのツケは今を生きる人間が払う! それだけだ!」
「お前は何でも一人で背追い込み過ぎなんだよ! ちっとは他人を信用しやがれ!」
ズババッ! と稲妻のような霊気が走る。
二人の少年は完全無欠な柊のような状態になっていた。
スーパー化とも言える二人の霊気は、いつの間にか百万の数値に達していた。
雅は狂雅新月を頭上で回転させ霊気を更に収束させる。
「風車が如く廻り、そして死ね」
剣を回転させ霊気の渦を纏い突っ込んだ。
「消えろー!」
「消えるかよ! うおぉぉぉ!」
アゲハは畜生道を全快にしてに対抗する。
ズババババババッ! というその最大霊気の激突により、二人の力の全ては解放された。
嵐が渦巻く中、雅は言う。
「お前と俺の霊気を足せば百万。つまり、聖光葉に追いつく。アゲハ……俺に力を貸すつもりは無いか?」
「地獄の霊気と世界の果ての霊気は相入れるのか?」
「地獄の霊気も世界の果ても霊気は霊気。力を合わせるには関係無いさ。それに、お前も知っての通り地獄の霊気が最強ではない。それは宮古の思い違いだ。柊の強さはその狂気によって変わるからな。聖光葉が負けたのは単純に、大霊幕をしてから枯渇していた霊気を狂気によって補填出来なかっただけ。必死に競い合える他者がいなかったのだろう」
「……本当に凄かったんだな光葉先生は。霊力百万はオレとお前を出した数値。狂を提唱するだけはあるぜ。オレはオレなりに超えてやるがな」
「そうだ。全力を出せ。一年貯蔵した霊気の剣から放出された霊気で俺達の霊気はまだ回復する。狂気を示せ!」
「その為に、一年も巨大な剣に霊気を溜めてたのか。用意周到な奴だぜ!」
そして、アゲハは全霊力を開放し剣に宿す。
隆起した岩に飛び上がり、雅も剣に霊気を注ぎ込む。
『……!』
互いの霊気は空の雲を遠ざけ、周囲の全てに振動を与える。
全身に纏う霊気を剣に注ぎ込み、微笑む。
バッ! と飛び上がる雅は真下のアゲハ目掛けて叫ぶ。
「行くぞアゲハーーーーーっ!」
「来い! 雅ーーーーーーっ!」
ズオオオオオオオオッ! という紫と白の凄まじい滝のような霊気の激流が放たれた。そしてズバババババババッ! と激突し、押し負けぬように全力を注ぐ。
「沈めーーーーー!」
「うっせーーーー!」
歯をかみ締め、互いは叫ぶ。
夜空を昼間にする霊気のぶつかり合いはこの世の終わりのような畏怖感を関西地区に与える。
『うわああああああああああああああっ!』
ズバンッ! と互角のまま霊気は消失し、関西を突き抜ける突風を生み出した。地面には大きな亀裂が入り、決戦開始前とは別の大地になれ果てている。
よろけるアゲハは大きく息を吐いた。
そして地面に着地し、空間に舞う霊気を補充する雅は自身の柊大霊幕を説明する。
「人が柊になれば世界は戦国の世になり、一人の王の元に多数の柊が集まる時代になる可能性が高い。そうなれば人間はまた新たしい秩序を作らなければならない。堕落せず、常に高みを目指す人間が上に君臨する世界。努力が報われる世界だ」
「疲れそうな世界だな。オレは遠慮しとく。オレは自由揚羽蝶としてヒラヒラと舞い、世界を観察して悪を払うだけさ。面白く、生きたいんだよ」
「目の前の全てを忘れて殺し合いをする時ほどの幸せはこの世に存在しない」
どっかで聞いた言葉だなとアゲハは思う。雅と同じ言葉を言ったのは幸村摩訶衛門という医療を裏で発展させた血神と呼ばれた幕末の人斬りだった。自由アゲハ蝶として飛ぶと言ったアゲハは、鼻の頭を掻きながら言う。微かに動く雅はアゲハを殺し、その霊気を奪い柊大霊幕を始める算段を立てている。
「おいおい、待てよ。何、戦闘モードになってんだ。誰もお前の全てを否定してるわけじゃねーよ」
「……どういう事だ?」
ふと、雅は何故か動きが止まるアゲハに違和感を覚えた。
そして、更に不可思議な事を言われる。
「柊大霊幕するんだろ? 何だよ? ここまで来てしねーのか?」
「……! アゲハ……俺に霊気を合わせるつもりか? 俺の柊大霊幕を止めに来たお前が……」
「別に柊大霊幕は悪じゃねーと俺が判断しただけだ。正直、地球も限界に来てるからな。光葉先生だってお前と同じ事をしただろーな。いや、お前以上の事を」
「フン、俺以上の事など誰にも出来まい」
意地の張り合いに互いは微笑む。
そしてアゲハは、柊大霊幕に協力する上で外せない事を言った。
「人類の過渡期だ。ここで大きな変化は必要。けど、すぐには死なせねー。五年待つ。そこで全ての結果が出る。気構えのねークソはすぐに死ぬがな」
「……フン、お前は本当に掴み所の無い揚羽蝶だ。いいだろう。そのお前の案も受け入れ、柊大霊幕を発動させる」
「お前の驚いた顔、結構かわいいな」
フン、と雅は鬱陶しいアゲハの言葉を跳ね除け、心の奥では多少感謝した。
『……』
そして、二人の少年は結界のように展開する紫と白の互いの霊気を意識し刀を天に向かい掲げる。
結界の霊気は互いの刀に収束し、刀に内蔵させる霊気が解き放たれ、それは一気に夜空へと噴出した。
そして二人の少年はその霊気を圧縮し、自分達の霊気を混ぜて解き放つ。
「行くぜ雅!」
「俺に指図するな! 集中しろアゲハ!」
同時に二人は両手を掲げ、解き放った霊気を上空で一つにし――。
『柊大霊幕!』
シュパー! と二人の霊力が弾けて混ざり、日本を駆け抜ける。
紫と白の霊気は日本中の人々の瞳を空に釘付けにした。
煌めく夜空の星々は互いを挑発するかのように発光する。
日本中を駆け巡るその霊気はやがて世界中へと進行し、紫と白の揚羽蝶に変化する。
二人の少年の意思が籠る思い。
それを世界中の人々は見上げる。
地球全土に無数の揚羽蝶が駆け抜けた――。
※
アゲハと雅の掛け合わされた霊力により、柊大霊幕は成った。
これにより、全世界の人々はその魂に何かの才が目覚める脅迫観念が植え付けられ、霊力を宿す新人類である先見の明・柊へと覚醒する。五年以内に覚醒しない場合、その人間は死ぬ。それに雅は喜びの笑みを浮かべた。天の光を浴びるそれはまるで天使の笑みだった。
「これで……人類は柊となり次のステージに行ける。柊になれぬ者は消える……これで革命は成った。後は時間の経過がこのまま戦国時代のような争いの世界になるのか、はたまた宇宙へと進出する開拓民になるのかを決める。面白くなりそうだなアゲハ」
ここまで互いの死を求める激戦を繰り広げながらも、快晴の草原の中で爽やかな笑みを浮かべる少年のように笑う雅に、アゲハもつられて微笑む。
「そうだな。楽しみだ。ここから、この日から全人類は変化する。それが進化か退化かはわからねーが、もう誰もが昔のままじゃいられねー。信念を、大義を、狂気を持たざる者は死ぬ。柊大霊幕……完成だ」
大きく息を吐き、アゲハは星々が煌めく夜空を見上げ師である聖光葉を思う。
そして、両者は柊大霊幕の完成を実感し、刀を持つ手に力を込めて互いを見た。
「もう霊気も無い。あるのは狂気だけだ。決着をつけるぞアゲハ」
「狂気ならオレの方があるぜ。なんせオレは狂ってるからな」
「そうだな。狂気がありながら闇落ちしないお前は本当に狂ってるのかもしれん。お前こそが真の狂人なのかもな」
「おいおい、こんな最後に褒められるとやるずれーぜ。もっと雅らしく冷たくけなしてくれよ」
「フン、お前も面倒な奴だ。だが、お前と出会えた事を感謝する」
「オレもだ。光葉先生を求めていたオレを変えたのはお前だ。オレは自由揚羽蝶として世界の変革を見守り、時に助ける。……行くぜ雅」
そして、霊力無き二人の少年の最後の戦いが始まった。
もう、動きも霊気による補助が出来ないのでそう早くも無い。
肉体の限界を超え、勝つ事への執念が勝った方が勝つ。
雅の刃によってアゲハの上半身の着物はボロボロになり、雅もまた血まみれのシャツを脱ぎ捨て上半身裸になる。
アゲハは必死に雅を超えるような動きをし、左手で刀の切っ先を受け止めそのままその手を蹴り上げた。
雅の刀は宙を舞うが、即座に拳を握って構えを取った。
アゲハの袈裟斬りが迫る刹那――。
「――!」
それは、アゲハの想像を超えるスピードだった。
「!」
「シッ!」
刀を失う事に動じない雅は突きを繰り出す。
狂気、速さ、威力共に申し分ないそれをアゲハが回避すると、間髪入れずに横薙ぎの裏拳が襲いかかる。
「ここに来てその速さか! いい加減疲れやがれ!」
「お前が死ぬまでは疲れてる場合ではない!」
嵐のような拳の連打があり、アゲハには反撃の糸口がない。
だが、アゲハはバックステップから攻撃に動いた。
「足元がお留守だぜ!」
「ぐっ!」
と、雅が背を向けて倒れた。
「?」
流石にこれは誘いだと思い、一瞬だけ動きを止めたアゲハ。
そこを狙い澄ましたかのように、雅の倒立からの蹴りが襲い掛かる。
「トリッキーな事しやがって」
シュン! とアゲハの鼻先を、蹴りが風切り音を唸らせて通り過ぎた。
意表を突いた蹴りは空を切り、またもや雅は体勢を崩す。
そこをアゲハは狙う。
「つえぁ!」
「チッ!?」
雅は身体を地面に回転させ転がりつつ回避するが、腹部への蹴りは回避出来ない。
いや、あえてしなかった。
目前に迫る断罪の一撃が雅の全ての感覚を支配していたからである。
バッ! と倒れたまま真剣白羽取りをした。
「雅ーーーーーー!」
「アゲハーーーー!」
互いの激情を両手の力に変えて叫ぶ。
嗤う雅は素手で受ける刀の切っ先を一瞬離し、右手の甲で受けた。
そして左手でアゲハの首を掴み頭突きをくらわせた。
「ぐはっ! ……おいおい、やけに野暮ったい事すんな。オメーらしくねぇぜ」
「俺らしい事ならこの右手の甲に開いた穴がそうだ。早く死んでくれないか? 俺はお前の顔を見るのが不愉快だ」
血まみれの右手を気にせず、狂雅新月を持ち言う。
「不愉快……か。雅の本質を見れて楽しいぜ」
「人の本質は変わらない。誰もが経験という鎧を見に纏い、強いフリをしているだけさ」
「そうだな。オレもそうだ」
アゲハの背中の刺青である揚羽蝶が覚醒した。
それに雅は驚く。
「刺青ではなく切り札か……やってくれる」
「自由揚羽蝶なめんなよ!」
そしてアゲハの絆揚羽蝶にその霊気が纏われ、刃が振られた。




