高まり合う霊気と狂気
「修羅道から餓鬼道を見せてやる」
シュウゥゥ……と陽炎のようにアゲハは分身する。
修羅道ダンダラより得た修羅道の幻を使い、それは無数のアゲハとなり雅の前に立ち塞がる。
フッとかつて六道輪廻破壊の時に戦ったナマハゲ男を思い出し雅は言う。
「修羅道は幻だろう? あのナマハゲは幻を使っていたな。さしたるものではなかったが」
「ダンダラだ!」
シュン! と餓鬼道の瞬間移動にて一気に雅の背後にアゲハは出た。
不意をつかれて飛耳長目の反応も間に合わないはずの雅はかすかに口元を笑わせ言う。
「そう、その反応は本体をバラすはめになるんだよ」
あえてアゲハの感情を逆撫でする発言をし、雅は飛耳長目でも反応しきれない餓鬼道の瞬間移動に対応しようとした。それが功を制した雅は背後に刃を振るう。ズバッ! とアゲハは胸元を横一文字に斬られた。しかし、それは霊気の揚羽蝶となり消えて行く。
「――チッ! こっちが修羅道の幻とはな! 目の前の群れの中に本体か!」
更に背後を振り返る雅は無数のアゲハが襲いかかって来るのを見た。飛耳長目の未来予知がまともに機能せず、雅は動きが止まる自分を笑いつつ、湧き上がる力を感じた。
その力を引き出す紫の揚羽蝶は急降下し叫ぶ。
「雅ィィィィィィーー!」
「!?」
ハッ! とした顔を真上に上げる雅は狂雅新月の一撃を放ったばかりで動きが止まっている。そこにアゲハの絶大な霊気を秘めた一閃が炸裂する。
ズグオオオンッ! と地面が爆発し、地形全体が揺れる。
紫の霊気粒子が立ち込める外側にアゲハはおり、刀を肩に担ぎ絶大な一撃で隆起した地面を見据える。
ヘッ……とアゲハが微笑むと黒いスーツの少年は立ち上がる。
まともに未来予知は出来てないが、雅は強がりを言う。
「攻撃の事後硬直を狙ったか。しかし、甘いな。俺の飛耳長目は先の先を取らなければ必殺の一撃は叩き込めない」
「わーってるよんな事は。まだオレも自分の湧き上がる霊気の肩慣らしをしてる所だ。オメーだってそうだろ雅?」
「確かにそうだな。この一年、俺とまともに戦える奴など存在しなかったからな。地獄の閻魔にすら嫌われる俺は余程の跳ねっ返りのようだ」
「オメーも狂ってやがるからな」
実際の所、この二人は表面的な霊気しか使っておらず、有り余る自分の力をどう解放していいか戸惑っている段階だった。
霊気の消費もダメージも無いこの二人の底力が発揮されるにはまだかかりそうだ。
互いは微笑む。
そして刀を突き出すアゲハは言う。
「……一つ、聞いておこう。何故、六道輪廻を破壊した? お前は地獄の閻魔に追放され、世界の果てに飛ばされた。おそらく、そこからそのまま現世に戻れるはずだった。その理由は何だ?」
「ワケなど無い。あえて言うなら気に入らなかったからだ」
「気に入らなかっただと?」
この雅の相変わらずの傍若無人に笑いそうになるが、六道輪廻破壊をした事は罪である故に笑えない。
「オメーらしいシンプルな答えだな。死ね」
「!?」
瞬時にアゲハは背後から雅の首を飛ばそうと刃を一閃する。
軽くうなじを斬られた雅は前のめりに倒れながら、態勢を立て直し剣を交え言う。
「未来予知のはずが、こうも反応が遅れるとはな。餓鬼道の神速。やるじゃないかー」
「口を動かしてる暇はねーぞ」
「知ってる」
背後に現れたアゲハの修羅道の幻が雅に襲いかかる。
瞬時に腰を回転させ遠心力をかけて斬撃をかます。
血を撒き散らす斬ったアゲハを無視し、さっきまで喋っていたアゲハに言う。
「有幻影では俺は倒せないぞ。修羅道は本体をやられたら終わりだ!」
「確かに、そうだな」
刹那の差で、そのアゲハは真っ二つに斬られる。
そして、完全にトドメをさす為に心臓を突き刺そうと迫った――。
「……ぐっ!?」
その雅の一撃は静止する。
背後に途方も無い霊気を感じたのであった。
「貴様……有幻影と見せかけてワザと斬られたのか!?」
「そうさー化かし合いこそ修羅道の真骨頂。いくぜ! 畜生道!」
凄まじい霊気を纏うアゲハの一撃が雅に炸裂した。
紫の霊気が大地を揺るがし、変形する地面は荒野のように成り果てていた。
隆起し、陥没する地形は二人の少年の戦いの結果であり、その戦いはまだ終わりを見せていない。
一方的に無双するように攻撃を加えるアゲハは、自分の攻撃を楽しんで受けている宿命の男に聞いた。
「畜生道でも膝をついただけか……今のは完璧に決まったはずなんだがな。どうなんだ雅?」
「完璧だったが、飛耳長目が反応を見せて半歩後退出来た。だが、直撃してた方が良かったかもしれん……死ななければこの戦いで上昇する霊気は俺の狂気で更に飛躍しただろうからな」
死の淵を感じながらも雅は笑う。
それにアゲハは、
「へっ、狂ってやがるぜ。まー、オレもだがな」
「その狂気の提唱者は人に期待してたようだな。俺は聖のように人に期待せず、待ちもしない。強制的に柊へと覚醒させる」
「それは人に期待してるとも言えるぜ雅?」
「俺は柊のみに期待してるだけだ。それに本来ならば百万もの霊力を持っていたはずの聖が宮古程度の奴に殺されたのは周りの人間が聖を刺激しなかったからだ。地獄の力とはいえ、霊力一万ほどの柊に殺されたのはお前のせいだアゲハ」
確かにそれはそうだった。
宝玉霊装人の川徳の全快が霊力・三万。
基本的に、霊気が一万を超えるだけでも国を支配できるレベルだった。
「オレのせいならそれでいい。光葉先生は自分が死んだ事で驚きから新しい発見すらしてる人間だ。そしてオレもお前を驚かせてやる……」
背中一面にある刺青のような紫の揚羽蝶が無数に飛び立ち、その中の一匹がアゲハの左人差し指に止まる。その一匹は明らかに生きた生物としての揚羽蝶であり、まるでアゲハの分身のように優雅な羽根をヒラヒラと羽ばたかせていた。
「お前とも魔霊獣との戦いで一度やったな……天海道だ」
アゲハは仕込んでいた揚羽蝶と融合した。
天海変幻を成したアゲハは背中の羽根を羽ばたかせ飛翔する。
「行くぜ雅!」
「空を飛べるだけでいい気になるなよアゲハ」
空中にて、二人は激突する。
「うおおおおおっ!」
「はあぁぁぁぁぁ!」
微力の霊気を足場にし、雅は蝶の羽根で飛翔するアゲハに肉薄する。
アゲハは羽根により空中を自在に動けるが、無理矢理に霊気を足場にしている為に、雅の方が不利である。制空権を支配するアゲハに対応出来ず、雅は背後を取られまいと腰を捻り一撃をかますが、それが大きな隙を生んだ。
「落ちろ雅ィィィ!」
「チィ! ぐはっ」
完璧に叩き込まれる背中への一撃に吐血する雅は急速に落下した。
そのまま雅は地面に叩きつけられる。
そしてアゲハは地面に降下する。
「地面に八つ当たりするなよ。モグラが来るぜ?」
「黙ってろ!」
「砂煙でお前の怒りの顔が拝めねーぜ。今から拝みに行ってやる」
しかし、そこに雅は存在しなかった。
「その程度なら勝てないぞアゲハ」
「上だと!? 避けられねぇー」
アゲハに向かい自分はここにいるとアピールし叫んだ後に、地面に落ちた穴を伝い後方から上空へ飛んでいた。雅は草莽崛起による霊気収束にて力を倍加させ、一気に降下した。
「受けてやる!」
「俺の草莽崛起は誰にも受けられんぞ!」
ズバッーとアゲハは背中から心臓を突き刺された。
大きく瞳を開くアゲハは口から血を流し死亡する。
そのまま刀を振るい、刺さる死体を投げ飛ばす。
ズゴンッ! と砂煙を上げてアゲハの死体は地面に落下した。
そして、雅も地面に着地する。
「ふぅ……今のは危うかったな。天海変幻か。気を付けないとならん」
やはりアゲハは自分の全てを楽しませるものがあるな……と思う雅は未来予知がまともに働かない敵に恐怖と狂気を感じた。すると、雅の感覚に嫌な霊気が走る。
「……フン」
突如、無数の紫の揚羽蝶がバサバサと飛翔し雅を取り囲む。
「目障りな蝶だ」
その蝶は凄まじい霊気と共に収束して行き、それは人の形を成した。
「……それが、輪廻道か。アゲハ」
「そうだ。これが輪廻道だ雅」
アゲハは輪廻道により復活した。
それに雅は口の中に溜まる血をベッと吐き出しつつ言う。
「……輪廻道は便利だな。多大な霊気を消費するが瀕死の傷から生き返れる。今はオメーの存在のおかげで、霊気は減る所か増すばかりだがな。今のオレ達はそうとういい感じじゃねーか?」
二人は霊力五十万になっていた。
戦闘中に互いは互いを刺激し合い上がる。
狂気が霊気になっていた。




