決戦開始・六道アゲハ対鬼京雅
雅は腹心の鳳仙花に下がるよう命じる。
そしてゆっくりと黒いロングコートの裾を揺らし怜悧な瞳を嗤わせるように歩く。
『……』
京雅院対鬼瓦ファミリーの世界の覇権を争う戦局も終盤に差し掛かった瞬間に次元を断ち切り現れた自由揚羽蝶に雅は言う。
「貴様が死んでから世界の果てを巡って一年……か。俺が破壊した六道輪廻ごときに随分と時間がかかったな。もう、柊大霊幕が始まる瞬間だぞ」
「祭りに間に合っただけいいだろ。つか、お前が六道輪廻破壊なんてしなけりゃ時間軸も狂わずオレはもっと早く現世に帰還してたんだ。全ての原因はオメーだ雅」
「確かにそうだな。この世の終わりの原因は俺にある」
そう言う雅にアゲハは苦笑し、倒れている京子に言う。
「生き残りの京雅院の連中を集めて安全な所に避難してろ。オレは雅と決着をつける」
そして、細胞を少し死滅させるが驚異的な回復力を得る餓鬼丸を飲ませた。
みるみる内に京子の傷が塞がり立ち上がれるまでに回復する。
「……傷が治った? でもこの薬……戦いの差中で使った方が良かったんじゃ……私が回復しても役に立たないし」
「オレは後方で負傷者の看病とかは出来ねぇからな。京子ならそれが出来る。それに、六道輪廻を巡ったオレは地獄の閻魔すら嫌い追放した雅に勝てる自信がある。後の事は任せておけ」
「わかったわ。生き返ったばかりで死なないでねお兄ちゃん」
「おう、どっちの妹にもカッコイイ所を見せなきゃならんからな」
そこで京子は世界の果てで実の妹に再開した事を知る。
しかし、今はそんな話をしている場合ではない。
会話の隙をついた雅の刀は、すでにアゲハの頭上から振り下ろされていた――。
「お兄ちゃん!」
「焦るなよ京子。オレが二度も同じ相手に負けると思うのか?」
口元を笑わせるアゲハは宝玉霊装人すら防げなかった雅の一撃を防いでいた。
しかも素手で受けている。
「ほう、それなり強くなったようだな。聖光葉の弟子の狂気とやらか?」
「違うな。六道輪廻の連中との絆の力がオレの霊気を極限まで高めてるんだ。お前の知らねー六道輪廻を見せてやる」
その勢いでアゲハは雅を弾き飛ばす。
そして、絆揚羽蝶を抜いた。
「場所を変えるぜ雅」
瞬間、ズブアァァァ! と雅はアゲハの両腕に高まる霊気に興奮する。
その究極の霊気は愛刀・絆揚羽蝶に収束されて行く。
「六道輪廻で得た刀か……紫桜式部真打なのか?」
「絆揚羽蝶って呼んでるが、紫桜式部真打でもいいぜ。これはオレの心が折れない限り折れないオレそのものの刀だ」
「ならば見せてみろ。六道輪廻を!」
「究極剛力よ、オレに宿れ。……畜生道――」
六道輪廻・畜生道の剛力により雅は遥か後方の空へ弾き飛ばされた。
そして、一瞬京子に微笑みながら振り返るアゲハは空中にある霊気を足場として蹴り、まるで宙を舞う揚羽蝶のように紫の霊気を散らしながら新たなる戦場となる崖の空間へと飛んで行った。
※
やや地形の起伏があるだだっ広い豊かな緑が生い茂る地面を踏みしめ、互いの全てを見つめ合うかのような少年二人がいる。それはまるで、親友とも兄弟とも言えるがそれは違う。
世界の理で定められたのかのように特別な絆で結ばれている二人であった。
周囲の動物達はこの二人の異様な霊気に威圧感を感じ、そそくさと逃げ出す。
自然の風がアゲハの紫の髪を乱し、青い空を見上げていた。
流れる白い雲と共に鳥達はどこかへ飛んで行く。
よく目をこらして二人の少年がいる空間を眺めてみると、バチバチッ! と弾けるように紫と白の霊気の粒子があちこちで音を立てている。
二人の霊気の粒子がこの空間を満たしていた。
弱い柊ならばこの二人の混じり合わない霊気の摩擦だけで失神してしまうほどの威力があるものだが、恐ろしい事にこの二人は微笑んでいる。
互いの強さを確認するように霊気圧を上げていき、その力は結界のようなものを生み出し生物の全てを遠ざけた。狂雅新月をかざし雅は言う。
「……面白いぞアゲハ。今の一撃は俺にプレッシャーを与えた。久しぶりに愉悦を感じたよ。そして自分の狂気にもな」
「そーかよ。お前もこの一年、相当忙しかったようだが退屈だったみたいだな。忙しい退屈ほど、人間をダメにするものは無ぇ」
「そうだな。だが、この瞬間からは違う。俺には得るものが無かったが、お前が世界の果てで得た力。見せてもらおうか」
「あぁ、お前の地獄で得た力にはこのアゲハしか勝てねーからな」
その瞳は殺意に満ちていながらも限りなく澄んでいた。
そこが、このアゲハの恐ろしい所だと思う雅はこれから始まる死闘に狂喜する。
そしてアゲハはふと、寂しげに空を見上げた。
「もう世界各国の空は灰色が基本だ。青空というものは霊気が満ちているこの日本でしか見れなくなってる……世界各国を蹂躙して来たが本当に、地球そのもが悲鳴では無く崩壊に向かってるな。人の贖罪は今日、この日から柊大霊幕によって行なわれなければならない」
世界の自然環境はもう崩壊しきっていて、もうどうにもならなかった。それを柊の異能によって解決して行こうというのである。いや、自然だけではなく全ての危機や混乱を柊の異能によって解決しようとしている。それは新たな混乱になるかもしれないが、強制的にでも誰かが何かをしなければいけない人類の過渡期故に甘い事は言ってられなかった。
雅は全ての清諾をその身に刻み込み、この地球そのものを変革させようとしている。
そして、宿命の対決の火蓋は切られる――。
「行くぜ雅!」
「来いアゲハ!」
キィン! と紫と白の霊気を散らす二人の少年は激突する。
目まぐるしい剣の応酬を繰り広げるが、どうにも身体の勢いが自分の思いと一致せず力を持て余しているようだった。思考と行動が一致しない不快感を埋めるように、互いは飛び下がる。
『はあぁぁぁ……!』
互いの霊気が呼応するように上昇して行く。
紫と白――。
この二人の少年の魂の色が霊気となって具現化し、一気に上空へ昇る。螺旋状の霊気は天を焦がすように雲を突き抜ける。
そしてその膨大な霊気が互いの身体に留まると同時に、動いた。
「つえぁぁぁ!」
「はぁぁぁっ!」
大砲のように放たれた霊気の本流が激突し、空間に散る。
煙のような粒子の煙幕がその空間を覆い隠す。
それを撃った二人はすでに剣劇を繰り広げていた。
「ほぼ互角だな。地獄の力に六道輪廻で十分対抗出来るようだぜ」
「結論を出すにはまだ早いぞアゲハ」
「そうかも知れねーが、オレ達は結構お互いをわかっちまうだろ?」
「……フン、答えたく無い質問だな」
そして、雅は地面に刀の切っ先を突き刺し霊気の勢いで破壊して石つぶてを放つ。
そして、一気にアゲハの背後まで飛んだ。
「ただの石つぶてだ。俺の方だけ見てろアゲハ」
「お前の性格からしてそうハイハイと信じられるかよ」
後方から迫る雅を意識しつつ、刀を下段に構えるアゲハはその一つ、一つを注視した。
「……野郎、嫌な事をしやがるぜ」
そう、雅は石つぶてに霊気を仕込んでいた。
強力な霊気を仕込んだ石つぶての為に、まともにくらえば石とはいえ相応のダメージを受ける。無論、雅の一撃に比べれば天と地の差があるが、石つぶてを無視して雅と対峙すれば石つぶての衝撃で確実に隙が生まれ致命傷を負う可能性がある。フゥ……と軽く息を吐くアゲハは笑う。
「乱れ揚羽蝶・螺旋羽根!」
目の前の敵を嵐のように刻む乱れ揚羽蝶の進化版である、自分の刀から放たれる霊気で大きな霊気羽根を生み出し、そのまま回転させて螺旋を生み出し周囲の敵を倒す必殺技だった。
ズバアアアアッ! と紫の霊気羽根か螺旋を描き、アゲハの周囲は生物が生きる空間が無くなる。
ギュワ! と突風が突き抜け、アゲハの紫の髪が逆立つ。その瞳は目の前の黒いロングコートを脱ぎ捨てる鬼の少年を見据えていた。
「……いい技だな。頬が切れたぜ」
「死んでくれなきゃ、いい技じゃねーだろ?」
「自分で自分の技を否定するなよ。結構美しかったぞ。霊気の羽根は」
「そりゃ、どーも!」
キィン! と二人の刀は激突するーように思えたが、雅の刀はアゲハを煙のように斬った。
これはアゲハの霊気を元に幻影を生み出す修羅道の応用・蝶の化か? と思う雅は霊気の揚羽蝶が散らない事でそれは違うと感じた。
これは正真正銘の――。
「修羅道か?」
「おーよ!」
背後から斬撃するアゲハは雅の肩を斬った。
かろうじてコートのみを斬られた雅はこの現世に無理矢理帰還した事で六道輪廻を失った事を思い出す。
「貴様、嘘をついていたな?」
「なぁに、オレも六道達に嘘をつかれた。お互い様だぜ」
六道輪廻は失ったはずだったが、それは六道の課した最後の試練だった。
ここで揺らぐ心があるならば六道輪廻は使いこなせない。
六道無くとも、世界にたった一人で挑める者こそが六道を操れる英傑になれるのである。
それに打ち勝つアゲハはこうして現世にて六道輪廻を使いこなしている。
六道輪廻を失うが、無理矢理六道はアゲハに力を貸していた。
「ほう……ならば聞こう。聖光葉は輪廻転生しないのか? 奴はまだ、一回死んだだけのはず」
「しねーよ。残念ながらな」
そして、アゲハは師である聖光葉の言葉を言う。
光葉は現世よりも、自分を殺した力である地獄の世界に興味を持っていた。
「私はこれから地獄を見て回りたい。故に輪廻転生はしません。現世は貴方に任せます」
アゲハは絆揚羽蝶を肩に担ぎ言った。
「てなわけで、オレが相手になる。オメーにゃオレしかいねーだろ雅」
そして、現世にて六道輪廻を開放する時が来た。




