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アゲハ  作者: 鬼京雅
世界の果て~六道輪廻編~
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自分を得た揚羽蝶

「全てを失った今、貴方に残るのは何ですかアゲハ?」


 光葉は言いつつ、微笑む。

 白州場を無様に転がり、砂まみれになるアゲハは逃げ場の無い空間でもがく。

 雲一つ無き空を見上げ、全てを失った感傷に浸りつつただ、青い空を見た。

 その視界に、光葉が入る。

 太陽の光が静観なその顔に影を生み、内面にある狂気が滲み出るようにアゲハの網膜を刺激した。

 それは自分には決して有り得ないものだと本人を通して改めて悟り、せせら笑うように光葉を見上げた。


「アゲハ! 今までの全てを思い出せ! 道が使えなくなった程度で――」


「黙りなさい百合花。私はアゲハと話している」


 指を動かすと同時に圧縮された空気により百合花の首が絞まる。

 もがき苦しみながらも、その瞳は兄であるアゲハを信じてやまない。


(道で得たものは力だけじゃ無いはず……それは兄貴が一番望む、兄貴の願望。それが人間道……)


 そんな思いも届く事は無く、光葉の蹴りが幾度と無く繰り返され、同じ問いが繰り返される。

 大怪我にも関わらず、何故か無意識の内に多少ほくそ笑んでいるアゲハに対し次第に苛立ちがつのる光葉は、


「何が残るんですと聞いている」


 ガスッ! と容赦無い蹴りが繰り出され、一気にアゲハは鮮血と共に宙に舞う。

 紫の揚羽蝶が描かれた白い羽織が空を漂い、足の下駄は脱げ落ち、白州場にズザッと落下するアゲハの目に映る。羽織は顔にかぶさり、同時に修羅道での初めは嫌々だった畑仕事や野菜泥棒達と争った日々を思い出す。


「ダンダラ……」


 ダンダラの顔を思い出すと同時に、顔面に蹴りが入り転がる。腰の帯に巻きつけてあるスズメからもらった印籠が外れ、白い砂に半分埋もれる。その餓鬼丸が入っていた空の印籠を見た。餓鬼山での虚無僧に追撃された事やマグマの中での亡者との会話。そして樹海での感覚を失った鬼ごっこを思い出す。


「スズメ……」


 いつの間にか立ち上がるアゲハは、印籠を掴もうと歩く。しかし、その足は光葉の足に引っ掛けられ転んだ。巻いていた赤いマフラーが視界を塞ぎ、サヤカを思った。畜生道での力のみが支配する世界で完全敗北をし、その女に恋をした。それは身体だけじゃなく心の強さを得る為の戦いでもあった。


「サヤカ……」


「私の声が聞こえていますか? 返事をなさい」


 道の力を失ってから全く自分の言葉に反応しないアゲハに光葉は多少のイラ立ちを見せた。一瞬引きつった微笑のままマフラーで顔が隠れたままのアゲハに畜生道を纏った拳を繰り出した。ボウンッ! と白州が爆発するように砂が舞い上がり、百合花はその躊躇いの無い一撃に叫び声を上げる。


「兄貴! ……っ!」


 いつの間にか首の圧縮させた空気は消えていた。助けに行こうとするがその手は真空の檻に触れ、両手の表面は無数の傷と共に血が溢れた。砂煙が晴れ、立ち尽くす光葉は背後に歩く存在に驚いて振り返る。殴り殺したはずのアゲハは、紫の揚羽蝶となり消える。それは修羅道の基本である幻――。


「無意識の内に修羅道を取り戻した? 一体どうやって……」


 人生において初めて焦りというものと冷や汗を流す光葉は、マフラーを巻きなおし下駄に向かって歩くアゲハを見据えた。その表情は夢遊病者のようで生気が無い。砂の有幻影で刀を生み出し、斬りかかる。


「!」


 瞬間移動したように消えたアゲハは少し先にあった下駄を履いていた。


「イズモ……」


「私を見なさい!」


 完全に怒りの顔を露にした光葉は隙だらけのアゲハの脳天から斬り下げた――が、


「そうあせんなよ光葉。らしくねーぜ?」


 そのアゲハは畜生道の霊鬼人の霊気の力を纏った手で刃を受け止めた。

 と同時に天海変幻が発動していた。

 光葉の内部にアゲハの感情が全て流れ込み、光葉は今のアゲハの全てを知る。

 虹色の粒子に包まれる二人を見つめ、百合花は涙した。

 百合花を包む真空の檻は崩壊を起こし始め、有幻影が消えかかり出す。

 つまりは、アゲハの全てが光葉の本質を揺るがし、光葉を揺す振り動揺させている。

 今だかつて無い事態に光葉自身も驚き、焦りと喜びを合わせたような狂気の表情を浮かべる。

 完全に真空の檻が消失し、百合花はアゲハが光葉を乗り越えたと悟る。

 それは、アゲハの勝利に直結するわけではないが、光葉と肩を並べる存在が現れた事で戦況は五分になった。


「やったね兄貴……これで、勝てる。絶対に勝って人間道を……」


 兄の成長に涙が止まらない百合花は、今まで自分がしてきた苦労の全てが報われた気がし、意識を失いそうになる。その身体を、赤いパンツスーツの女が支えた。その背後には、異形の歌舞いたダンダラ羽織の大男に、ピンクの着物を着た百合花に似た少女、それに白い作務衣を着た坊主頭の老人がいた。それに気がつく事の無い二人は天海変幻が解け、笑いあう。


「……まさか道を奪った事が裏目に出るとは。本当に貴方は私の想像を超える」


「そーかい? でもオレはオメーの期待に答えられるかはわからんぜ」


「では敗北を認めますか?」


「そんな事をしないのは知ってるはずだぜ。さぁ、最後の戦いだ。オレの六道輪廻はここで全て終わる」


「イイデショウ。私は聖光葉。狂を愛し体現する者。参ります」


 いつもの微笑を浮かべ、狂気に染まる光葉は砂の中から愛刀の光一文字光雅こういちもんじこうがを取り出し、抜いた。二人の信念の刀が激突し、火花が散った。




「見栄っ張りで臆病で我が強く、愛されたがりな癖に人を愛すのを嫌う。裏切られて傷付きたくないからでしょう! 早く狂に至りなさい! 狂に至れば貴方の弱さは克服される!」


「オレはもの狂いなど起こす体質じゃねぇ。狂に憧れ、ただ憧れているだけの男だ。狂った行動なんて出来やしねぇ! だから……そんなみっともない普通過ぎる凡人のオレだから出来る事がある! そうだろ光葉!」


「そうです。だからこそ貴方は私に対抗出来る存在になりうる」


 白州場にアゲハと光葉が一進一退の攻防を繰り広げる。

 その戦いは完全に互角だが、舌戦では光葉の方が上である。


「まず、オレに出来て、光葉に出来ない事……六道輪廻を同時に使用する事……」


 修羅道の幻から有幻影を十体を生み出し、その全てに餓鬼道の瞬間移動をさせ全方位からの攻撃を仕掛けさせる。無流の感情無き無我の境地の動きで全ての実態を相手にする。


「この世界において重要なのは自身の思いの強さ。それは魂の強さ」


「魂の強さ……?」


「そう、その魂の強さが弱い故に迷いが生じる。それは揺るぎ無い信念が無いからだ」


「そいつはどーかな! おおおおおっ!」


 瞬間、有幻影に畜生道の霊気を纏わせ、身体から蒸気を発し霊鬼人のオーラを纏う十一の刃が光葉に振り下ろされる。しかし光葉は喜びの表情を浮かべ刀で円を描き全てを弾き返した。嘘だろ? と言うアゲハは本体のみとなり残りは紫の揚羽蝶となり消える。その余裕を秘めた力に満足するように、急所のみに刀の切っ先を走らせる。


「アゲハ、君はまだ若い。これから色々な事を体験し、自分の考えや価値観が変化するだろう。その中で脳と身体を活性化させ、人間の迷いや雑念を捨てさせる狂は最高のものと知る」


「そんな変化いらねーさ。オレは変わらねーよ」


「変化を恐れるな。人の心は絶えず変化し、揺らぐもの。心の奥底に一つ、たった一つだけ変わらぬ信念があればいい。それ以外は時代と共に変わって行くものだ……アゲハにはそれがもうあるだろう?」


「オレの中の……信念」


 光葉はアゲハの本質を諭すように呟く。


「……だが、その信念ですら未来の自分そのものとは限らない。しかし、未来を構築するのは、今現在の自分の胸の奥の信念……」


 その言葉を聞いた瞬間、アゲハは勢いよく刀を返し距離を取る。

 そして峰で肩をポンポンッと叩き、


「そういえば、さっきの返事がまだだったな。ここで色々な事を学んだ。だから、オレが得たみんなの力を名乗る」


 不敵に笑うアゲハは威風堂々と言い放った。


「オレは六道。自由揚羽蝶の六道アゲハだ」


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