天海道との別れ
互いの武器が激突するたびに、大気が揺れ地面に亀裂が入る。
その激戦を互いの軍勢は割り込む余地も無く見守るしか無い。
激情に駆られる互いの表情は瞬間、瞬間に命の鼓動を躍動させ、ぶつかり続ける。
四本の鉤爪刀から三本の刀身が射出され、誘導弾のように天を舞うイズモに迫る。
竜神剣でその三本を受け流すと、目の前にはアゲハの姿があった。
「虎がいない? 飛んだ?」
「誰も飛べないなんて言ってねーぜ!」
空を単独で駆けるアゲハは斬りかかる。
重厚な竜の鎧の胸元に傷が付き、イズモは吹き飛ぶ。
射出された刀身を戻し、更に飛んだアゲハは正面から鉤爪の斬撃を浴びせる。
しかし、寸前の所で竜神剣に防がれた。
また刀身が射出され、二人の空中戦は続く。
「……下から攻めれば背後を取れた筈。何故取らぬ?」
「正々堂々で勝たなきゃ仕方ねーだろ」
「中途半端な武士道など語るな。自分の道も自分で描けぬ貴様は所詮、他者の作り上げた武士道などで作り上げた屍の霊に喰われ死ぬのみ」
「屍の霊に殺されるだと? オレはオレの道を描くさ!」
「貴方には光葉のような不退転の潔さは無い。しかし、その潔さは死だ。死そのものだ。狂無き貴方に死を当たり前に受け入れ享受する心は無い」
「そうさ、オレは光葉じゃねぇからそんなもんは無ぇ。死は当然怖いさ」
「死は怖い。それが普通の人間の心だ。死を受け入れ享受する事は貴方の言うカッコよさなどは無い」
「そんな事はもうカッコいいとも狂ってるとも思ってねーさ。オメーがオレの表層を知るように、オレもオメーの表層は知っちまったぜ! ぐおおおっ!」
ズバババッ! とアゲハは刻まれ一気に地上に落下する。
地上では虎が待ち構え、落下の途中で天海変幻が解除された。
先に落ちる熊は地上の虎を見据える。
死のダイブを煽るようにイズモは言う。
「ひしゃげて潰れなさい」
愚民を見下すようにイズモは地面に激突する瞬間のアゲハを見た。
その瞬間、遠くの方角からマンモスの鳴き声のような甲高い音が聞こえた。
それに気を取られてると、地上ではアゲハが口元を抑えながら見上げていた。
(今の衝撃で当分目を覚まさねーな。この戦いのなかじゃシロは動けねぇ。熊っちも限界だ……後は奴を待つしか無いか)
地面に激突する瞬間、先に落ちる熊を虎が抑え、抑えられた熊が更に落下して来るアゲハを抑えた。
蜂も地面に倒れ、これでアゲハの仲間は全員倒れた。
「終わりですね。空も飛べないでしょう」
「あぁ無理だ。まぁ実際は、ここに流れる多少の霊気を畜生道で蹴っただけだ。もう使えねーさ。長生きしてる奴は戦いにくいな。激情の中でも冷静さが光って戦りずらいぜ。天と海を越えるような歴史を感じさせる男だな」
「長生きは人を孤独にする。長く生き過ぎた私は一族の若者の死を見届ける事に嫌気が差し、山奥で一人動物達と過ごしやがて死んだ。そして私は天海道になった」
真上に浮かぶ竜の鎧を纏う老人の歴史を感じ、アゲハは光葉のように遠い存在だと感じた。
しかし、アゲハは自分は自分だという答えが有り、自分の思いを伝える。
「……長生きは人を孤独にする。しかし、一度出来た人の絆は消えやしねぇ。切れたら新しい絆を築いていけばいいだけさ。オレはそうするぜ」
「いい答えだ。だがもう何も出来まい」
瞬時にイズモは急降下し、アゲハに迫る。
しゃがんだままのアゲハはじっとその急降下を見据えたまま動けない。
竜神剣が煌き、振り下ろされる。
「!」
突如飛んで来た毛針のような物を剣で弾き、地面に着地した。
目の前のアゲハは、柔らかい茶色の毛並みで、柴犬のようなくるんっとした尻尾が生えていた。
その柔らかい尻尾を警戒しつつ、
「熊に倒された柴犬にまだ体力があったか。だが、もう解除されるでしょう」
その言葉通り、柴犬との天海変幻が解除された。
アゲハの額から冷や汗が流れ、倒れる柴犬をゆっくり撫でた。
溜息をつくイズモは多少のイラ立ちを見せ、
「今までの行動や言動から見て、つまらない時間稼ぎだ。柴犬に負担をかけて自分が助かりたいか?」
「オレにゃー十分な時間稼ぎだぜ?」
「負け惜しみを。終わりです――?」
止めを刺そうとした瞬間――ズゴゴゴゴゴオオオオッ! という洞窟の入口を崩壊させる轟音が響いた。パオオオーーーン! と甲高く強烈な鳴き声がし、氷の標本に閉じ込められていたマンモスが全身を震わせながら現れた。
ブフォー! と鼻にくわえる巨大な氷を投げ飛ばし、イズモは身動きが出来ずに直撃した。そのマンモスは更に興奮して鼻息を大きく吐き、アゲハは風圧で身体が転がった。その光景に全身を痛めながら唖然とするイズモは、
「標本にしていたマンモス……呪怨を解くと同時に仲間にしたのでは?」
「頭に血が上ってて、話を聞きそうにねぇからオメーに会わせてから仲間にしよーと思った。さぁ次はマンモスだぜ。最終決戦だ――」
※
突如襲来したマンモスは、イズモの全身全霊の竜神剣の一撃により沈黙した。
しかし、イズモの体力も底に来ており、いつまでも長くは持たない。
とうとう天海変幻が解けた。
「一度解除する必要がある……久しぶりにここまで長く変幻した故に小生も竜も限界に近い。アゲハが何か仕出かす可能性が有る故に最後の力は残しておかねば……」
息を切らしながらイズモは言った。
マンモスを倒した時に舞い上がる氷の冷気が周囲を包み、視界を悪くする。
イズモはすでにアゲハの策にはまっていた。
常にアゲハは相手を驚かせるような事をしている為にイズモは自分がどうしたいと言うよりも、相手に合わせる戦い方をしてしまっていた。それに気が付く事も無く、イズモは周囲の気配を探る。すると、イズモの瞳に白い作務衣を着た坊主頭の老人が居た。
「……本当に面白い事をする」
冷気が晴れ、アゲハが化けているイズモが現れた。
そしてそのイズモは言う。
「そのイズモは偽者です。私と天海変幻しなさい」
「!」
流石にイズモ本人は驚愕し、地に伏せる竜もどちらが本物だか検討のつかない顔をしている。
修羅道の幻で化けるアゲハは悠然と竜に接近し、本物のイズモと対峙する。
この戦いは先手で竜に天海変幻した方が勝ちである。
十秒ほどなら無理矢理天海変幻をすれば竜との信頼関係が無いアゲハにも出来た。
微笑する偽イズモは懐から何かを投げた――フリをして本物のイズモを後退させた。
それが、引き金となり――。
「……」
アゲハと竜の天海変幻は完成した。
驚くイズモはズズッ……と足を後退させた。
しかしその思考は――。
(……フフ。もう竜が動けないのは小生のみが知る所。小生の言葉に惑わされて終わりです。驚きには、驚きを)
イズモに龍は天海変幻せず、偽物アゲハに天海変幻した。
それは本物のイズモがわざとさせた事だった。驚く表情を浮かべつつ、接近してくるアゲハの解除の瞬間を待つ。その時は三秒以内に来る。その秒数は、自分の目の前に立つ秒数であった。重く長い、三秒が竜の鎧を身に纏うアゲハに迫り――。
「勝った」
その拳は解除されたアゲハの頬に直撃する。
拳の表面に、頬の感触が無かった。
そして、イズモの耳にアゲハの声が聞こえた。
それも異常に近くで聞こえた。
まるで、自分の体内にいるような近さで聞こえた。
(驚きには、驚きを。だろ?)
アゲハはイズモ自身に天海変幻していた。
イズモは久しぶりの体力低下で感覚がマヒしていた為に天海変幻された事に気がつかなかった。
「……まさか龍と天海変幻するフリをして、小生に天海変幻するとは。全くもってとんでもない事をしてくれる」
瞬間、虹色の粒子が舞い二人の天海変幻は解除される。
目の前のアゲハは、何もせずただ佇んでいる。
「とどめを刺さないのか?」
「これは仲間との絆の深さをかけた戦い。オマエさんの龍を纏った時点でオレの勝ち。試練は終わりだろ?」
その言葉に、イズモは大きく頷き微笑んだ。
本当に恐ろしき人物は一目合った一瞬で他者の心の全てを奪い心を許してしまう。
アゲハの師である光葉にはこの人物には勝てないという屈服。
その弟子のアゲハにはこの男と共に歩もうという仲間意識――故に、絆の深さに長短は無い。
「道は過去を乗り越えているからこそ、道。全ては試練の為の仕掛け。どんなに怒り狂おうとも、心の奥底にある冷静さは消せねーぜ。あのマンモスの根底は悪意が無い。それは光葉じゃなくオレだから感じる事の出来る事。それがオレの強み。狂に至れない普通人だからこそ出来るオレの強みだ」
「仁、義無き者に民意は得られん。アゲハ、これにて天海道の試練を終了する」
各々の動物は試練終了の狼煙を上げるように雄たけびを上げ、その地に春風のような暖かい風が流れた。
※
「……呪いの除去と仲間との絆から来る力の二つを乗り越えた主は更なる飛躍をするだろう」
ダンダラからもらった羽織袴姿のアゲハは、自分自身の信念を具現化した刀である蛹を帯に差し旅立ちの時が来た。周囲には様々な動物がアゲハの旅立ちを祝福している。アゲハの仲間の連中は渡された衣装や小道具を返した。この向日葵畑からずっと素足のままだったアゲハの足元には赤く漆塗りの下駄がキラリと輝いている。
「下駄と預かっていた蝶だ」
「いい下駄だ。足にしっくりくるぜ。オマエと無意識に天海変幻したおかげで助かったぜ。天海道まで登る途中も色々あったからなぁ……雷に雹に暴風雨……お互い、よく生き残ったもんだ」
ヒラヒラッと蝶が舞いアゲハの肩に止まる。
サヤカと別れる時にもらった蝶は天海道の道の途中ではぐれた以降、イズモが飼育していた。
そして、アゲハは刀を抜いた。
「いい具合に再生したな。太陽の光と貴方の心が上手く交わり、いい蛹とも言える刀が生まれた」
「手に吸い付くような感触でオレ自身と一体化してくれるようないい刀だ。オレ自身の成長と共に羽化しそうな鼓動を感じるぜ」
「そう、その刀は成長する。今の生きる上での答えが揺るがぬ限りな。ここに来る前のようにまた光葉になろうとすれば、その刀は砕けるだろう」
「なーに、狂人のフリは止めるさ。オレの中に狂など無ーよ」
「そうだ。普通の心でいろアゲハ。それが光葉には無い主の良さだ」
「凡は凡。狂は狂ってことか」
「この向日葵のように、常に太陽に向けて顔を向けていられる大きな男になりなさい」
「当然だ。オレは……アゲハだからな」
ヒラヒラッと蝶は先を飛んで行く。
「輪廻道までの道案内頼むぜ。それじゃイズモ。あと二つの道を突破してやるぜ。またな」
「小生はアゲハに期待している。輪廻道はおそらくアゲハの全てを壊すだろう。世界の果てにとどまれるのも三日も無い。心してかかれよ」
「なーに、オレは普通だからな。またなイズモ」
手を振り、アゲハは向日葵畑を後にした。マンモスの甲高い鳴き声が響き、向日葵畑が揺れた。
※
鬼京雅による六道輪廻破壊により時間軸が違う現世では――。
京雅院対鬼瓦ファミリーは大阪南部の広大な広場にある巨大な霊気の剣・霊神報国剣の周辺に精鋭を集結させ決戦を開始した。
剣の近くの広場では左肩に鬼瓦の紋様が描かれる鬼瓦ファミリーの柊と、全員が白い鉢巻を巻く京雅院の柊が激突している。両軍の柊は互角の戦いを繰り広げているが、鬼瓦ファミリーの柊達は全世界から集結している為に際限無く現れる状態である。
しかし、この鬼瓦ファミリーを牛耳る地獄より輪廻転生せし鬼京雅さえ倒せばこの世界から孤立した京雅院は生き延びる事が出来、世界は雅の独裁体制から元に戻る。その鬼の心を持つ少年・鬼京雅は柊大霊幕というかつて聖光葉が行った大霊幕の更に上を行く、人類のそのものを霊気によって刺激し強制的に柊に引き上げるキッカケを生み出し、柊になれぬ愚物は死ぬという途方もない大業を成そうとしていた。
一般の柊とは少し離れた場所では凄まじい霊気が渦を巻いている。
黒スーツにロングコートを着て腰にある刀に手をかけない雅は素手にて、過去の英雄・豪傑の持った武具を扱う宝玉霊装人と戦っていた。武藤幻冬と霜裏外印という武田信玄、上杉謙信の武具を持つ宝玉霊装人が風林火山龍を駆り、覇王芭蕉扇と神空烈風槍にて同時攻撃を仕掛ける。
『はああああっ!』
「遅いぞ。もう宝玉なども相手にならん。読書でもするかな」
しかし、その大地を大きく陥没させる一撃すら雅は涼しい顔で受け止めた。
京雅院が集めた7人の宝玉霊装人は倒れて行き、残るは川徳家高と冥地皇秋の二人になる。
「あーあ。残るはあたし達だけになったね川徳君。あいつ強すぎじゃない?」
「地獄の閻魔にすら放逐されるほどの力の持ち主だからな。霊魔神姫の千鶴の逆予言で輪廻転生する者がいると言っていた人物に期待するしかあるまい」
「あんたがそう言うなんて、本当にヤバい状況なのね。光葉の復活があたし達を救うのか……」
冥地は限界に近い川徳の顔を見て呟く。
そして、片手に本を持ちまるで戦う気の無いような雅は川徳と冥地を同時に相手にしながら、言葉を交わす。強大な悪になる雅に川徳は肉薄する。
「貴様はこの世界がそうまで憎いか! そこまで価値も無いか!?」
「資源には価値があり限りがある。人には無いがな」
「人には限りがあるだろう?」
「ならここまで愚物が世界を闊歩してる理由は何だ? 無いんだよ」
「……」
「価値も限りも……さ」
そして、川徳と冥地は倒された。
その最中、雅の腹心である毒の少女・鳳仙花が現れる。
鳳仙花の隣には聖光葉の妹である気絶した江梨花がいた。
「探していた回復の柊・聖江梨花を隠し小屋にて捕まえました」
「よくやった。治療をする柊は貴重だ。その女の性格では治療せざるを得ないからな」
雅はパチリと本を閉じ、一般の柊達の戦いを見つめ、一年分の霊気が貯蔵される霊神報国剣を見据えた。
そして京雅院の戦局が思わしくない最中、大将陣地にて指揮を執る京雅院総帥・十条清文はある決断をしていた。
それは、かつての京雅院内で聖光葉の狂陰に一番手を奪われ、宮古長十郎に従っていた時と同じ答えだっった。
「京都藩の国益は毎日のようにガタ落ちし、犯罪率も上がり治安は悪化の一途を辿る。経済は全く安定する事も無く株価も下がる一方だ。鬼瓦ファミリーが規定した世界水準の消費税は二十%を越え自殺者は日本でもすでに十万に近い数字だ。京都藩の四割以上が高齢者な以上、京雅院も次の世代が育ってこない。今や日本を自分達が動かしてると思っている政府の木偶の坊共や世界を牛耳って天狗の鬼瓦ファミリー。今の奴等には世界そのものを悪化させるだけの癌以外の何物でもない。だからこそ私は、世界の根本を変革させる鬼京雅の柊大霊幕に力を貸す」
『――!』
その場の全員は戦慄した。
その瞳にはここを行けば斬るという明確な殺意がある。
自分達が憧れ、慕って来た大将の言葉の奥にある違和感を悟るが、そう簡単に今まで鬼京雅との戦いでの痛み、屈辱、数多の仲間の死――これは簡単にぬぐい去る事の出来ない心の闇である。
報復は報復を呼ぶ。
「国家の基盤は信用だ。今の日本に期待してる奴は誰もいない。この日本にはすでに国家なんて無いのさ」
「しかし! 鬼京雅は鬼瓦ファミリーの総帥! あの小僧に力を貸せば世界は崩壊しますぞ!」
その一人の幹部の言葉に十条は言う。
「この戦が終われば鬼瓦ファミリーとて存在は出来ぬ規模になるだろう。何故ならば人類そのものが柊になれば今までのパワーバランスは大きく崩れる。弱き者が、立場の低い者が狂気によって強くなり無為なる能力であったのに上に立つ者を屠る……今はもう世界の変革期なのだ。これからは組織である以上に個人の意思が必要になる。皆の者、この十条清文に力を貸してくれ」
『……』
敵軍の将に力を貸す自軍の将に、京雅院の幹部は賛同せず各々に戦場から退避し出した。
それを気にも止めない十条は激戦が続く戦場の柊大霊幕を行う兵器とも言える一年間世界の霊気を貯め続けた霊神報国剣を見て言う。
「どこへ逃げても先は無い。柊になれなくば、もう人類はこの地球と共存する事は不可能なのだ」
そして、その柊大霊幕を執り行う鬼京雅は読書をしていた。
本を読む雅は立ち上がる川徳や冥地をまともに相手をしない。
吹き飛ばされる川徳は血ダルマになる。
そして冥地は必殺の矢を放とうとしていた。
「当たってね!」
空間を霊気ごと消し去る亜空絶間矢にて攻撃するが、外れる。
溜息をつく雅は周囲の柊の騒乱の音が五月蝿いと感じながら言う。
「京雅院の柊達の一部が戦場から去って行くな……どうやらお前達の総帥は俺に力を貸すようだ。十条の言葉を戦場の味方に宣伝してる奴がいる。かなり戦場が幕々としてきたな」
「十条の決断などは知らん! 俺は俺の大義でまかり通る!」
「無駄な攻撃はよせ。輪廻転生して来る者を待った方が賢明だぞ」
「そうこうしてる間に、あの霊神報国剣を使われて柊大霊幕が為されても困るからな。貴様がどう柊大霊幕を行うかは我々にはわからん。故に攻撃は止められない」
「そう、光葉なんて待ってられないんだから!」
川徳の言葉を強めるように冥地は言う。
しかし、雅は二人の発言を完全に否定する。
「聖光葉は輪廻転生しないだろう。復活するのは自由揚羽蝶さ」
本のページをパチリと閉じ言う。
そして首を掴まれ死の入り口に入る寸前の川徳は笑う。
「……どうした? 何がおかしい?」
「未来予知である飛耳長目も完璧では無いとわかった。それだけのことだ」
「未来予知ではあるが、空間そのものを読めるわけではない。お前は何が言いたいんだ?」
「お前は無事でも、建造物ではどうにもなるまい」
「何だと? !?」
目を細める雅は舌打ちをした。
冥地の矢にて少しづつ一年分の霊気が溜まる巨大建造物・霊神報国剣を破壊していたのである。
自分の作戦が勝ったと確信する冥地は言う。
「勝った……これで柊大霊幕は終わりよ!」
息の根を止める寸前の川徳を離し、冥地から放たれる矢を防ぐ雅は不快な顔を露にする。
そして霊気圧の一撃を浴び倒れる冥地は川徳に全てを託す。
かなりの部分が破壊され霊神報国剣から多大な霊気が漏れ出している。
それを見る雅は呟く。
「柊大霊幕は百万の霊気が必要。俺はおそらく今の限界が五十万……それも俺を高める存在が居てこそ出せる数値」
「そうだ小僧。残りの半分の霊気はいかに狂気を出そうとも叶うまい」
死の淵にいる川徳は寿命の全てを開放した命の剣で霊神報国剣を破壊する。
巨大な霊気の剣が破壊され、一般の柊達も動きを止めて剣の崩壊を見据えていた。
「勝ったぞ――!」
その野太い声と共に霊神報国剣は横一文字に斬り裂かれた。
世界中の霊気を一年も貯め続けていた霊神報国剣は大きな音と、流れ出る霊気と共に崩壊した。
これにより、柊大霊幕を行う霊気は消失した事になる。
そして勝ち名乗りと共に川徳家高は死亡した。
「宝玉霊装人も中々やってくれるじゃないか……」
ふと、雅は誰かの声を聞いた。
そこに京雅院総帥・十条清文は現れた。
「この十条清文が最前線に出てくるとは思うまい」
その間、敵軍の将に力を貸すなどと言う十条に反発する連中は一気に京雅院は関東へ攻め込んでいた。宝玉霊装人の行方不明者も参戦し、関東を取り戻す京雅院独立部隊の作戦は進む。
これは霊神報国剣が破壊され関東に雅がいないからこそ出来た作戦であった。
この敵将の笑みで雅はこの十条がわざと自軍の幹部を欺いた事を知る。
「今までのは演技か。京雅院の仲間に発破をかける為の」
「そうだ。だが根本的な十条清文の意思は変わらない。俺は名も無き凡人さ」
「なら……死んでもらおうか」
雅は薄く微笑んだ。
「死んでいいさ。ただし、契約しろ。この霊気血判状にな。そうすれば、京雅院の抵抗も無くなる。無駄な血を流さずに済む。霊気を集めて柊大霊幕を確実に行いたいんだろう?」
「……そうだな。柊大霊幕には新しい力が必要だ。新しい、力がな」
霊気血判状は契約した相手が絶対に約束を守らなければ死ぬものである。
差出人は自分の寿命の半分を代価に自分の身の安全を保障され、契約者が殺す事は出来ない。
その血の契約をした雅はもう自分では殺害する事が出来ない相手に言う。
「俺の部下が死亡予言などをする霊魔神姫の千鶴を殺した。予言者など必要無い。人に未来など無いからだ」
「千鶴は必要だったはずだ。お前にとってもな……あの女は厄災を未然に防げる可能性を持っていたんだぞ」
「厄災を防ぐ? お前達は何も防げていない。俺が危険因子である事を知りながら放置したのがこの結果だろう? この状況を見ても何もわからないのか?」
驚く十条はやけに自分の言う事に従う少年を不快に思いながら言った。
「……人に未来が必要無いと誰が決めた?」
「俺が決めた。お前の死もな」
霊気血判状の契約を交わす十条だったが、雅は鳳仙花に十条を殺害させた。
やられた……! と思う十条はこの契約の盲点をこうも早く感づいた鬼の少年に笑うしかない。
最後に、その少年の呟きを聞いた。
「確かにこの契約をしたらお前を殺せないぜ……俺は、な」
元より十条は聖江梨花に京都藩と京雅院を託し死ぬつもりだった。
光葉の妹ならば混沌とする政情下でもゆるい感じでやってのけるだろうと、新世界の中心柊として期待していた。
(……俺もここで終わりか。アゲハよ。時間は稼いだ。早く来てあの狂気の少年を倒してくれ……)
そして、京雅院総帥・十条清文は死亡した。
運命の輪廻転生者であるアゲハは未だ現れる気配も無く、その義理の妹の京子もこの現状に精神が蝕まれつつあった。




