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アゲハ  作者: 鬼京雅
世界の果て~六道輪廻編~
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赤池バトルロワイヤル

 ブオオオオッ! と怨霊のような低い唸り声を上げる一つ目の赤鬼は巨躯を躍動させ、アゲハを追いかけながら棍棒を振るう。ザクザクと地面を棍棒で破壊しながら、暴走特急のように赤鬼はアゲハに迫る。赤茶の岩肌のような洞窟内を駆けるアゲハはチラッと背後を振り返ると、餓鬼道の瞬間移動で赤鬼の背後に移動し、畜生城内部に続く扉を目指した。


(痛ってえ……足がミキサーで削られているような痛さだぜ。ここを抜ければ城の内部。一気にサヤカのいる場所まで登りつめてやる!)


 駆けるアゲハは、羅生門の扉に手をかけた。

 ズズズ……と赤く重い羅生門が開いて行く。


「開かずの扉とか言ってたが、開くじゃねーか。大体、あの女看守が行き来してんだからオレの力で開かねーわけがねぇ」


 冷たい霊気がアゲハの背後から前にすり抜け、身震いすると同時に開け放たれた羅生門の前に赤鬼が居た。振り返ると、先程までアゲハを追っていた赤鬼の姿は消え、門の内で待ち構える同じ存在の赤鬼しかいなかった。


「んでいやがる!?」


『私は赤池の主。ここから出る事は貴様等罪人には許されない。逃げる事は叶わないぞ』


「チィ!」


 何十人の声が重なるような声が響き、地面を抉る棍棒が地面の岩肌を砕き、その散弾を回避しつつ元来た方向に引き返す。


(……すり抜けて具現化した。怨霊? いや霊? あんなんどう倒せゃいーんだ……シカトすっか? 外は外でやべーしよ!)


 そんな考えをしていると、赤池にたどり着き罪人共を赤池から外に逃そうとしていたカオルと目が合い、


「アゲハ! その顔、当てが外れたか? 外はお前を狙う猛獣共だらけの最悪の状況だぞ!」


「わーってる、わーってる。それよりツレねぇ客呼んじまった。とっとと池から逃げろ」


「何だ……と?」


『どけカオル!』


 数人の罪人が標的のアゲハを目掛け駆ける。

 罪人達は赤池の悪夢を思い出し、逃げるよりもサヤカの言う通りに過ごしていた方がマシと思うようになっていた。その思いがサヤカのバトルロワイヤルの宣言と共に爆発し、罪人はカオルを押しのけて我先に殺してやる! とアゲハに対し迫る。

 おいおい……といった顔をしたアゲハは飛んだ。お互いの場所が入れ替わると同時に、赤池に沈もうとしていた罪人達から悲鳴が上がる。息を呑み、カオルは洞窟の奥から現れ罪人達を肉塊にする赤い悪鬼に見とれた。低い呻き声と共に邪悪な一つ目が、ギョロリと赤池の周囲にいる人間共を見据えた。その場の全員に真新しい血の匂いが鼻腔を刺激し、戦慄する。




「のおっ! せいっ! あああっ!」


 パパパッ! と繰り出される斬撃は赤鬼の腕や胴を刻むが、雲を斬るような感触でダメージを与える事は出来ない。すでに罪人達は全て赤鬼に殺され、アゲハとカオル以外に生きている者はいない。

 赤茶の岩肌は大いに砕け、岩や破片が亡者のように赤池に沈んで行く。一人と一匹は数度の赤鬼の棍棒を受け満身創痍にある。反撃すらままならぬ中、アゲハはカオルだけでも逃がそうとする。殴られた衝撃で赤池に落ち、そこからザバッと全身の毛を震わせながらはいでで来るカオルに対し、


「そのまま赤池から逃げろ。標的はオレだけだ。逃げろ」


「……逃げ場は無いぞ? この畜生城から見渡せる全ての場所は地獄。この城を壊し、サヤカを倒さなければ、罪人は現世での悪行を改める間も無く殺される……!」


 歯をかみ締め、充血させた目で何かを訴えかけるようにカオルは言う。


「梨の森の茂みに隠れてろ。あそこならオレが暴れてる限りは誰も来る事は無ぇ。サヤカは必ず倒す。行け! お前は罪人が改心し、輪廻転生する為の希望になるんだろ!?」


「――任せたぞ! ?」


 突如、カオルの背後に現れた赤鬼は棍棒を振り下ろす。

 それを奇跡的に回避したカオルは赤池の水が口に残る牙で赤鬼の腕を噛んだ。


『ぐうううっ!』


「――攻撃がきいた?」


 今まで何の攻撃もきかなかった赤鬼にカオルの牙が刺さった。

 棍棒を落とし、腕に絡みつくカオルをブン投げた。

 ズザッ! と赤茶の地面を転がり、口の中に溜まる血を吐いた。

 痛みをこらえ、無理矢理立ち上がると逃げるのを止め、赤鬼に対処する術を探そうとした。


「アゲハ! こいつに攻撃を当てる術が無ければおそらくサヤカにも勝てんだろ! もう刀がもたんな……アゲハ、十秒稼げ!」


 瞬間、割って入るカオルは赤鬼の一撃を浴び、壁に激突した。

 その叫び声に頷いたアゲハは、


「オマエが時間稼いでどーするよ!」


 瞬時に修羅道の幻で分身体を作り出し、時間稼ぎに出た。

 地面を抉る赤鬼の石つぶてが幻を消して行き、本体のアゲハは何故カオルの攻撃だけがきいたのかを考えている。


(奴は存在してるが、実態の無い霊のような奴だ……奴の本質は一体……)


 最後の分身体が揚羽蝶になり消えると同時に、カオルの声が響く。


「アゲハ! 俺が人間の時に使っていた仕込み杖を使え!」


「!」


 放たれた仕込み杖が宙に舞い、アゲハはよしと言った顔で受け取り鞘から引き抜く。


「――なっ?」


 スパッ! と刀は何故か赤池の方へ飛んで行った。

 唖然とするアゲハは自分の右手を見つめた。

 右手はまるで握力が入らず、呪怨の効果がここまで来ているのかという事を今更ながらに実感した。

 しかし、今はそんな事を考えている余裕は無い。

 赤池に沈んで行く仕込み杖を、餓鬼道の瞬間移動で回収しに行った。

 赤鬼に全ての攻撃が効かないのを理由に、アゲハは戦意が多少なりとも殺がれた状態にある。

 一瞬、仕込み杖を拾う為に突っ込んだ赤池に沈む手が止まり、目の前に亡者の群れを見た。

 亡者の群れは一様にアゲハを見据え、アゲハはそのえもしれぬ蠢きと怨霊のような声色に何とも言えぬ感情に包まれた。

 それは、餓鬼山のマグマの中と同じような光景だった。


「……待ってろ。ここも多少は住み良くしねーとな。ここの環境が良く無きゃ、悪さした事について反省しずれぇしな……――!」


 ハッ! とすると、赤池に映る怨霊は水面の波紋と共に消え失せ、その姿は赤鬼になった。

 降りおろされる拳に対し、赤池につかる仕込み杖を握った右手を無我夢中で横一閃に振り抜いた。

 耳をつんざく奇声のような悲鳴が上がり、赤池は声の騒音に満ちる。

 アゲハは刀を振り抜いたまま硬直していた。

 悲鳴を上げ、苦しんでいるのは赤鬼だった。


「……何だ? オレの刃が通じる?」


 刀身を見たアゲハは、刀身全体に蒼白い粒子が舞っているのを見た。

 それは紛れもなく、畜生道の地域に多く流れている霊気そのものだった。


「まぐれだろうが、どうでもいい。おいカオル! とっとと逃げろ! 余裕は無いぜ!」


 赤池に飛び込もうとするカオルは、萎縮し立ち止まる。

 そこには当たり前のように虚無僧が居た。

 杖は持っておらず、天蓋に黒い袈裟の姿だった。


(野郎! こんな時に……!)


 せっかく赤鬼に対しての突破口が見えたと思いきや、突如虚無僧が現れた事で状況は更に悪化した。

 同時に相手に出来る相手じゃないと思いつつ、同時に相手にしない現状に仕方なくも刀を構える。

 標的を見据えるように虚無僧は駆けた。


「チィ! ん?」


 その虚無僧は、アゲハの横を通り過ぎ赤鬼に攻撃を仕掛けた。


(何だ? どうなってやがる? ――まーいいか)


 目の前の光景を無視するようにアゲハとカオルは赤池に飛び込んだ。

 その水面に、赤鬼の身体が沈み、虚無僧は天蓋の奥で笑った。



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