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アゲハ  作者: 鬼京雅
宿命の男~熱き氷の少年との出会いと別れ編~
32/67

復活の熱き氷

 鬼京雅が死亡してから一ヶ月が経った。

 関東より襲来して来る鬼瓦ファミリーの柊は鬼京雅が死亡した事により、その勢いが衰えていた。それにより、関西の京雅院が東京藩の方面に向けて着々と勢力を伸ばしている。

 そして自分を殺すと予言されていた鬼京雅を始末したアゲハは休暇もかねて、伏見の京雅院の管轄する森の別荘にいた。

 すでに夜が更け、日付が変わる時間帯であった。

 そこには光葉の妹であるエリカもいる。

 アゲハはこの場所で心の静養をしていた。師に似ていた少年を殺した事に多少の心残りがあった。

 憂鬱そうな顔で窓ガラスの外を眺めるアゲハはアップルティーの紅茶の香りで我に返る。


「……私の好きなアップルティーですよー」


「何でお前の好みなんだ? オレはコーラがいいんだが?」


「好き嫌いしないの。身体に入ればコーラと一緒の水分よー」


「無茶苦茶な理論だな。まーいぃけどよ」


 出されたアップルティーを口にする。甘酸っぱい香りが鼻腔を刺激し、喉を潤す液体が体内に流れ込む。


(雅の野郎は地獄で魂ごと消滅させられるだろうな。あいつの存在は危険過ぎる……あってはならない存在だと閻魔の野郎も決定するだろう)


 そう、アゲハは雅の地獄での扱いを感じていた。

 ふと、窓ガラスに外からの光が射した。

 夜とはいえ山奥のこの場所に人工の光が射すなどあり得ない。



「……エリカ。他に訪ねて来る人物の予定は?」


「いや、全くいないわよー。だってこの別荘に来る人間など私くらいしかいないし。でも、怪しい光ね。嫌な予感がする……」


 アゲハの超直感にも嫌な感じがし、別荘の玄関の扉を開け外に出ると目の前の光景に唖然とした。そこには、一台のテレビカメラを抱えた人物が照明の当たる洋装の不審な連中を映していた。固い表情をした気難しそうな黒のスーツ姿の少年がカメラの前で何かを話していると、話が終わったのか一歩後退りカメラ目線のまま立ち尽くした。


「何だこいつらは? 他人の別荘の前で何をしてるんだ? 撮影の許可なんて下りるはずの無い場所なんだから追い払ってやる」


 ザッと一歩前に出たアゲハの肩にエリカの手が触れた。

 ふと見ると、アゲハではなく照明の光が射さない闇の一点を見据えていた。


「おい、どうした? 奴等は明らかに無断で撮影を――」


 ぬうっとエリカの視線の先から現れた黒のスーツ姿の白鞘の日本刀を腰に差した男に見入る。

 アゲハは言葉が出なかった。

 スーツには似合わぬ腰の日本刀が男の不気味さを際立て、多少長い髪から見える瞳は明らかにまともな人間とは言えなかった。

 それはまるで人を殺す事など躊躇いもしない獰猛な夜走獣のようだった。


「……」


 アゲハは言葉を発せぬままその男を見た。

 地獄の炎のような圧倒的な霊圧に、気圧され――全身の毛穴が開く。


(……?)


 数秒男が話すと、辺りに居た部下のような連中は歓喜の声を上げた。

 アゲハは聞き覚えのある声に驚きながら我に還り、男の放った言葉を思い出した。


『我々、鬼瓦ファミリーは京雅院の支配する大阪の一角を支配した。藩を廃止し、国を成す狂国日本帝国樹立革命を行い、統一国家を樹立させる。そして日本国民を発狂させ大義である狂を全国の日本人に植え付け最低限度の柊にする。鬼京雅であるこの私の大義である、志のある者しか世には生きられない〈柊大霊幕〉を行う革命戦争の始まりだ……』


(鬼瓦ファミリー? 柊大霊幕の革命戦争だと……?)


 アゲハはその、言葉の主を見る。

 それは一月前に殺した熱き氷の少年。

 人の世で生きられぬ屈折しきった心を持った純粋無垢な男。

 それは聖光葉と同等の狂気を秘めた柊――。


「雅……オメー死んだよな? オレに殺されて」


 そのアゲハの問いに、冷酷な炎を宿す瞳の少年は言う。


「あぁ、死んださ。死んだ事によりこの現世の理を地獄と世界の果てで知る事が出来た。礼を言うぞアゲハ」


 鬼瓦ファミリーのカメラマンに映し出されるアゲハはその周囲の人間に目がいかない。

 目の前の死んだはずの少年に対してのみ注がれる。

 アゲハに対して攻撃があればすぐに反応出来るようにエリカは苦無を投げられる準備をした。

 通常、人間は死んだら世界の果てを巡り、そこで地獄へ行くか何かに輪廻するか決定する。

 地獄はよほどの悪人でなければ行けない場所である。

 そして、どのような悪人でさえ震え上がる地獄の王・閻魔大王相手に喧嘩を売る者など絶無のはずだった。


(……)


 そして、乱れる感情と共に荒くなる呼吸を整えたアゲハは黒の洒落たスーツを着る少年に向かい言う。


「……例え話で死ななきゃ治らないというが、お前は死んでも治らないな。正に鬼だ」


「鬼京雅だからな」


 そして雅はアゲハの知りたい復活した理由を答えた。

 雅は死者が向かう世界の果てで地獄へ選別され、その地獄で鬼を喰らい黄泉返り閻魔大王に地獄を追放された。そして世界の果てで、六道輪廻を破壊した。そして現世へ復活したのである。


「閻魔に追放されたか! こりゃたまげたな! はははっ!」


「あまり褒めるなよ。閻魔ですら俺は恐ろしいようだ」


「褒めてねーし。つか、世界の果てを巡って破壊して六道輪廻を会得出来なかった理由はお前のその歪みのせいか?」


「六道輪廻は会得する必要も無いと判断した。地獄の鬼と戦って得た二つの技で十分だと判断したからだ。技とは自ら生み出すものだよアゲハ」


「地獄を追放され、六道を破壊し、現世へ復活した……どうしようも無い野郎だぜ」


「閻魔に飛ばされた世界の果ても巡り、そこで六道輪廻を破壊し、六道共にまた飛ばされ現世へ帰還した。どうやら俺は地獄でも世界の果てでも引き取り手がいないらしい」


「安心しろ。次はあの世でも暴れないよう魂まで消滅させてやる。お前はこの世に必要無い。お前の存在は人間に害を与える……」


 言いたくはないが、アゲハは事実を告げる。

 しかし雅は一切の心の揺れも無く答えた。


「この地球の害は、癌は、必要無きものは人間そのものだ」


「お前も人間だろうがよ」


「俺は柊だ。人を超え、この地球を浄化する至高の存在。世界は俺の従える柊のみが存在すればいい」


「なら聞こう。柊大霊幕ってのは何だ?」


「志の持たぬ愚物を消す為の霊幕だ。その柊大霊幕はまず日本を覆う。そして、人を柊へと覚醒させ、俺の侵略と共に世界そのもの……地球を柊大霊幕で覆い、人類を駆逐する。最後に、この地球も消すかもしれん」


「……オメーは本当に光葉先生に似てやがる。いい意味でも悪い意味でもな」


 雅の目的が明らかになる中、アゲハは興奮する自分の心を感じていた。

 未曾有の危機であるが、この男が地獄より舞い戻り世界の果てを破壊しこの現世へ帰還した跳ねっ返り具合が気に入っていた。

 やはりこの男は狂にある――。

 それが師である聖光葉を思い出させ現実家である自分との対比に笑う。

 やはり、簡単に決着はつかないものだな……と宿命の相手に笑うアゲハは紫桜式部を抜いた。


「人を霊気により選別し、ただ生きてるだけの存在は無作為に殺す柊大霊幕多いに結構。だが、それはさせねぇよ。オレはこの世界を大いなる個人による独裁を許さない監視者。柊と人間は共存してこそ、この地球に未来はある」


「言っただろ。人に未来は無い。柊と人間は相容れない。持っているものと持たざる者の差は決して埋まらない」


 始めからわかっている事だが両者は相容れない。

 二人の正しさを貫く答えは腰間の剣以外には無かった。

 アゲハと雅は言う。


「エリカ下がってろ。こいつはオレが殺る」


「諸君、下がっていたまえ。そして記録しろ。地獄で会得した新たなる力を――」


 そして六道輪廻破壊から新技を会得した雅の力が解放される。

 白い霊気が雅の全身を輝かせた。

 特攻をかけるアゲハは居合いの構えから蝶の化を使った。

 雅の抜き打ちはそれにより外れる。

 そして実態となるアゲハは雅の心臓に刀の切っ先を迫らせる――が、


飛耳長目ひじちょうもく


 飛耳長目により、アゲハの蝶の化のタイミングが全て看破され読まれた。

 この技は相手の行動の先が見える未来予知である。


「見えるぞアゲハ。お前の全ての行動の先がな」


「なら全身全霊の一撃をかます――乱れ揚羽蝶!」


草莽崛起そうもうくっき


 草莽崛起の身体の一部に霊気を集約した剛力で、乱れ揚羽蝶を吹き飛ばしその余波で別荘を斬り裂いた。圧倒的な雅の強さにエリカは兄の光葉を思い出さざるを得ない。

 復活した雅にアゲハは、柊の力でも霊気の力でも勝つ事が出来ない。

 毒に変わる新たなる力を発揮する雅は言う。


「どうしたアゲハ? お前の師はお前の狂気に期待してたんじゃなかったのか?」


「へっ、オメーが光葉とオレの関係を語るなよ」


「語るさ。お前が聖が死んでから力を得たのは狂気に染まったからだ。百年老人の宮古に勝てたのは狂気のおかげ」


「確かにそうかもな。オレはあの後、急速に力を上げた……狂気に染まってたのも認める。だがよ」


「だが?」


 雅の瞳は次の言葉を予想するように狂気の瞳になる。


「オレは狂気に堕ちる事も昇る事も出来ねぇ体質らしい」


「……」


 そして雅の瞳の狂気は消え去る。

 同時に、鋭い金属音が鳴り響いた――。

 両者は刀を一閃させ、互いを背にしたまま立ち止まっていた。

 中空には、一つの刀の物打が飛んでいる。

 溜息をつく雅は狂雅新月きょうがしんげつを白鞘に収めた。

 口が開いたままのアゲハは地面に刺さる紫桜式部の物打の音に気付き、刀が折れた事を知る。


「地獄で強くなりすぎたな。すでに俺はお前を超えている。もう古来の英雄、豪傑が持っていた宝玉霊装を使う連中も俺には勝てないだろう。お前の師の聖光葉も俺が利用させてもらう。全ては俺の目的の為に」


 そして雅は光葉の妹であるエリカの下へ歩き出す。

 唖然とするアゲハの鼓膜に、光葉の声が響いた。

 それは自分を励まし、叱咤し、志を貫けという期待を込めた声だった――。


「鬼京雅ーーーっ! ぐっ!」


 勢いよく雅に肉薄したアゲハの折れた刀を雅を守護する精鋭柊である緑の髪の鳳仙花ほうせんかが防いだ。黒薔薇を胸に挿す鳳仙花はアゲハの前に立ちふさがる。瞬間、アゲハの特攻が炸裂する。


「どけぇ!」


 狂気に染まり出すアゲハの霊力は倍化していた。

 その勢いで鳳仙花は吹き飛んだ。

 そしてエリカに手を出す雅に肉薄した。


「雅ーーーっ!」


「騒がしいな。鳳仙花、この女を渡す」


 エリカを鳳仙花の方向に投げた雅は、目まぐるしい乱打を涼しい顔で防ぎ、カウンターでアゲハの腹に蹴りを入れた。


「ぐっ!」


 そのままアゲハは飛ばされた勢いを利用し鳳仙花に攻撃を仕掛ける。

 かつて雅の毒を浴びて生きながらえている鳳仙花はその毒の力を使おうとするが、アゲハのスピードの方が素早くエリカを失う。そのままアゲハはエリカを助けた。


「っと! 大丈夫か?」


「大丈夫だけど、ここは逃げるべきよアゲハ!」


「離せー! 鬼京雅はオレが殺すっ!」


「落ち着いて!」


 狂気に染まるアゲハはエリカの制止を無視し、更に特攻を仕掛けようとする。

 それを高笑いで雅は見つめ言った。


「クックックッ……エリカの言う通り落ち着いた方がいいぞ。頭に血が登っている奴ほど楽に始末できるからな……」


 更に高まる目の前の白い霊力にアゲハの頭はクリアになる。

 そして、いつもの調子を取り戻し言う。


「……そうだな。そのお前の冷静さが嫌なんだよ。狂気が有りながら冷静でいるのは容易じゃねぇ」


「アゲハ。貴様のその奥底に秘めた冷たい殺気は狂に至れる者だ。俺の柊大霊幕の為に動いてもらうぜ」


「勝手な事を言うな。オメー等は一体何――!」


 いきなり雅は部下から受け取る刀をアゲハに向けて投げた。

 それを受け取り、雅を見る。


「その刀は光葉が生前に持っていた刀の一つ、光天源氏こうてんげんじだ。丸腰じゃ仕方ないからな。この世を守りたければ、俺を殺しに来い。俺はお前の狂気を余すこと無く引き出させた上で勝つ。俺の狂気を更に研ぎ澄ませる為に」


「何だと……?」


 ふと、雅は闇に染まる大空を見上げ、言った。

 その光天源氏を前に突き出しアゲハは、


「柊大霊幕による革命は起こさせない。光葉先生の理想は壊させねぇ」


「柊大霊幕は起こさせないと言いつつも、お前は微笑んでいる。自分でも気付かずに顔にまで出ているのは間違いなく、アゲハには柊大霊幕を良しとする感情があるからだ。故にお前には狂がある。俺にはわかる。ククッ、何だどうしたぁ? 鳩が何たらって顔してるぞおい?」


 底知れぬ雅に全てを見透かされ、硬直した。

 ――殺したい。

 必死の思いでアゲハは雅を見返した。

 しかしそれを嘲笑うかのように、


「まぁ、人の心は三千世界だ。根本的な事はわからん。あんまりお前が図星のような顔をするんでつい、な」


「三千世界……宇宙か。洒落た事を言うな雅。地獄を渡ったおかげか?」


「洒落た事か。この状況で相手を褒めるとはいい度胸だ。お前は光葉を超えるかもしれん」


 嗤う雅はアゲハを見つめ、


「これは天命だ。俺は柊としてこの変革しなくてはいけない世界を変える。聖光葉は日本を鬱屈させ、強固な意思を持つ柊を多数生み出した。俺はその柊達を駆逐し、仲間に引き入れ世界を消す。これから始まるのは平成の維新回天だ」


 そして、漆黒の闇に溶けるようにアゲハ率いる鬼瓦ファミリーは姿を消した。

 アゲハは何も出来ずに、雅達が通り過ぎるのを許した。


「雅……オレはお前を消してやる」


 漆黒の空が、絶望の淵に落ちるアゲハを見下していた――。





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