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アゲハ  作者: 鬼京雅
宿命の男~熱き氷の少年との出会いと別れ編~
30/67

密命と決心

 あれから三ヶ月が経った。

 アゲハは雅の監視役を外れ、雅は単独で任務に当たり関東方面の任務すら一人でこなし、京雅院内部での評価も上がっていた。京雅院は関東までその勢力図を伸ばしつつあり、自爆や金で見知らぬ他人を使うなど一般人ですら平然と使い倒す東京藩を支配する鬼瓦ファミリーとの水面下での戦いは続いていた。

 翌朝。清水城・御三家の間。

 アゲハは京雅院の大幹部〈京都御三家〉の長老達に呼び出されていた。薄暗く、冷たい空気が流れる室内の中央に立つアゲハは壇上の上に鎮座する一人の長老を見上げた。


「緊急の呼び出しだと聞いてきたが、一体何の用だジーさん達よ? って二人いねーな。とうとう死んだか?」


「口を慎めアゲハ。用とは無論、貴様を殺す存在である鬼京雅の事だ」


 赤い着物を着た小柄な老人が枯れた声で言う。


「この三ヶ月あまりで御三家の内、ワシ以外が死んだ。鬼京がこの件に関与し、事故に見せかけて殺害したと言っている者も居る」


「ほう、雅が殺したと。誰です? そのはねっかえりは? 斬る」


 一瞬にしてアゲハの表情は一変し、その周囲に殺気が広がった。


「アゲハ、少し黙らんか。素性もわからず名字も無い貴様は本来、光葉の弟子でなければここにはいられないんだぞ」


「へいへい」


 左右の壁に置物のように展開する御三家の兵がマシンガンでアゲハを狙っていた。

 ンンッと長老は喉を整え、


「話がそれた。問題は鬼京雅の存在にある。未来において貴様を殺すほどの存在ならば京雅院にも影響があるのは確実。調査によると聖光葉のような狂気を秘めた周りを省みない圧倒的行動力がある。力が増し続ければ、今は草木をなぎ払うだけの歩みは人々や世界にも被害を及ぼし、またもやこの日本そのものを変化させてしまう可能性がある。この始末、どうとるつもりだ?」


「どうもこうも無ぇさ。十条総帥は雅を今は生かすという判断を下している。オレもまだ奴には負けない強さがある。その時になれば、斬るか斬らないかは決めるさ」


「そんな事でいいと思うなよ小僧!」


「うるせーよ老害……」


 アゲハが言葉を発し終わる前に一人の兵のマシンガンが火を吹いた。命令が出たわけではないので、左右の兵がマシンガンを抑える。弾丸を数発くらったアゲハはよろめきながら、その兵を見た。


「痛ぇーじゃねぇの。しかし、全員が発砲しなかった所を見ると、そいつの独断専行って事だな。面白いじゃねーか……」


 妖しく漂う霧のように、アゲハの姿はゆっくりと消えた。


『――!』


 その場に居た全員は驚く。

 そして――。

 発砲をした兵は床に崩れ落ち、死んだ。

 粒子が収束するように集まり、再びアゲハの形を成した。

 そのぎょろりとした眼光に、その場の全ての兵は萎縮し息を飲んだ。


「あらら、死んでるなそいつ。残念でしたー」


「……それが六道輪廻の一つ、修羅道で得た力か? 何故今その力を使える?」


 ぐぐっと声を圧し殺し話した長老は、背を向け歩き出したアゲハに向けて言う。


「これは六道輪廻じゃねーよ。たとえ正解でも、景品は出ねーぜ。んじゃぁな」


「待て、アゲハ。話は終わってないぞ」


 アゲハを取り囲む兵はその言葉で一斉に射撃体制に入る。半身になり振り返るアゲハは、


「祭りは始まったばかりだ。始まりは混沌としてた方が楽しいだろう。光葉風に言うなら幕々(ばくばく)としてきたか? ははっ」


 そう口元を笑わせ、アゲハは御三家の間から姿を消した。

 アゲハ蝶が一瞬表れ、消えた。





 東京藩に間者として潜入しているアゲハの義理の妹である京子は、男装してとあるパーティに招かれている要人警護の一人としてパーティ会場にいた。無言のまま間者として成り済ます仲間である鬼京雅を横目で眺めていた。そして、トイレだと言い一人で動く雅を追跡した。雅は用をたして外に出るのと入れ違いに京子はトイレに入る。そのトイレ内の個室にて一枚のメッセージの紙を発見した。


「やはりあの男は鬼瓦と繋がっている」


 そして、京子は東京藩でのスパイ活動を辞め京都藩に戻る。

 ついに、鬼京雅抹殺の司令が下る事になった。

 アゲハは京雅院総帥・十条清文と共に、鬼京雅抹殺の話をしていた。


「……やはり鬼京ファミリーは鬼京雅との繋がりがあるか。三ヶ月に渡る極秘任務ご苦労だったアゲハに京子」


 黒髪のショートボブを揺らし頭を下げ、京子は姿を消す。

 お疲れさん、と声をかけアゲハは十条に向いた。

 京子を鬼瓦への間者にした冷徹無慈悲の十条に対してアゲハは怒るが、今の状況をここまでにしたのはお前だと言われ、そうだと答える。

 アゲハは上手くいけば雅は光葉になれる後継者に思えていた。

 だが、それは容赦無く人生を進む男というのが似ていただけだった。

 雅はこの世界を憎み過ぎていて導く事も再生させる事もしない。

 アゲハは一つの覚悟をした。

 いや、すでに出来ている覚悟を今一度確定させるだけの事だった。


「……始末するか。まぁ、雅は光葉にどことなく似ているし、あいつを野放しにすれば千鶴の予言通りオレも殺され、いずれこの世は終わるからな」


 アゲハは雅の監視役を外れていたのは表向きの話で、裏では常に監視をしていた。雅は関東方面への激戦区となる戦地へ志願した事により、敵と通じる可能性があると十条は踏んだのである。その読みはアゲハの調査により確定していた。

 鬼京雅は鬼瓦ファミリーと通じている――。

 十条は特に動揺せず話し続ける。


「あの少年は誰にも縛られる事は無い。これは予定通りの行動だ。千鶴の予言にて世界滅亡の可能性が示唆されている以上、早い内に鬼京雅は抹殺しなければならない……」


 スッ……と十条はアゲハを見る。


「やってくれるな? アゲハ?」


「これはオレにしか出来ねーだろ」


 京都藩に帰還している鬼京雅を抹殺する為に、アゲハは動いた。

 戦友であり、友人である熱き氷のような少年との決別の時が来た。

 愛刀の紫桜式部を強く握り、喉奥にツバを飲み込み言った。


「ケジメはオレがつける」


 そして十条と別れるアゲハは京子と話す。

 久しぶりの再開ではあるが、互いに笑みは無く今の現状を淡々と話した。


「どうやら鬼京雅を殺す覚悟が出来たようねお兄ちゃん」


「まぁな。世界の為に不穏な者には消えてもらうしかねーよ。悪は悪」


「それは日本の為? 自分の為?」


「あくまで日本の霊気が世界の中心的役割を果たした今、この世界は日本を中心に動くのは明白だ。全ての霊気の源は日本から世界に流れてんだからな。だからこそ、オレは中立の立場からこの国を見る。鬼瓦は明らかに人道的じゃない機械武装の柊や、薬を投薬した柊を意図的に生み出していて不快なだけだ。元は柊も自然の産物。それを人工的に生み出そうとしたり強くするのはお門違いだ」


「霊気を操る柊の強さは心技体によって進化する……という事ね」


「そうだ。心技体は柊の基本。それを忘れたらそこで成長は止まり退化する。異能力に限界は無ぇからだ。それは光葉が証明してる」


 アゲハの話に京子は頷く。

 そして刀の柄頭に手をかけ、


「雅が鬼瓦と関係を持っているのは京雅院が憎いわけじゃねぇ。互いをぶつけて疲弊させたいだけだ。そこで奴は自分を激戦区におき、狂気を研ぎ澄まし成長する。そして、両派を始末して日本を乗っ取り、世界へ向けて人類を消滅させるに向かうんだろーよ」


「……何それ? 人間の行う行為じゃないわ」


「それが鬼京雅だ」


 そう、その一言で片付く問題だった。

 柊も人間も、全てを敵とみなし消滅させる。

 人の存在を許さない断罪者。

 この地球さえも己が力で断ち切りたい要望、野心の果ての果てにある場所へ精神がたどり着いている少年は自分が人類最後の使者として全てに終止符を打つつもりらしい。


「オレはあくまで中立を保つ。京雅院とは連絡をつけているが京雅院の私兵じゃねぇ。オレハ自由揚羽蝶のアゲハ。悪は斬るだけよ」


 そして、運命の日は訪れた――。


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