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アゲハ  作者: 鬼京雅
宿命の男~熱き氷の少年との出会いと別れ編~
29/67

進化する熱き氷

 テンプレ学園の放課後――。

 掃除当番になるアゲハと雅は掃除をしおわり帰る途中だった。

 アゲハは喉が渇き、ジャンケンで負けた方がジュースを買う勝負をしたが負けてしまう。

 そして自動販売機まで買いに行くと、そこには赤いツインテールの髪の暗殺者家業をする暗器のワカナがいた。

 日本人形のような容姿のワカナは機械的な微笑を見せた。


「げっ!」


 と思いが口に出てしまい、ワカナのこめかみが動く。


「よほど私に会いたくなかったようね? 三ヶ月近くこの学園にいて会わないなんておかしいですもの」


「あー、まー、そんな偶然もあるだろ? 学年も違うしな?」


「そんなものかしら?」


「そんなものだろう?」


 上手くアゲハは誤魔化した。

 そして、二人は最近の京都藩の話になる。


「……貴方の義理の妹の京子も鬼瓦ファミリーに間者として動いてるけど、多くの情報は集められてないわ。まだ直接的な進行は無いらしいけど、何かのキッカケがあれば大々的に進行してくるかも」


「そのキッカケは、おそらく鬼京雅だろーな」


 わかってるじゃない。と、ワカナは早く殺せば? と嫌味を込めて微笑む。


「京都藩にも不穏な空気が流れているわ。その台風の目であるあの陰気な男をどうするかに京都藩の未来があるわ」


「あぁ、だから二人で魔霊獣を倒しに行く。アレを倒せば雅の野郎も京雅院に不穏分子ではねーと認められるだろう」


「鬼京雅が魔霊獣を倒す事を自分が強くなる糧としてだけ見ていなければ……ね」


 背を向けるワカナは手を振りながら去る。そして、教室にいる雅はとある武士風の男に襲撃されていた。







「遅いなアゲハの奴。二秒で戻って来いと言ったんだがな」


 腕時計を見つめながら雅がイライラと夕日が差し込む窓から校庭を見ていると、全身青を基調にした金髪の武士のような男が堂々と校門から侵入してきた。

 その光景に雅は焦り、戦慄する――。


「何だあいつは? 柊か……? 俺かアゲハを狙っているようだな」


 ふと、そう直感した雅は竹刀入れに隠してある日本刀を取り出す。

 その青武士は腰の刀を抜き、一閃する。


「まさか、あれが噂に聞く古代の英雄の武具を操る宝玉霊装ほうぎょくれいそうの……?」


 何故か身体のバランスを崩しそうになり、地面を見た。

 すると、屋上のコンクリートの地面に一筋の亀裂が入り、学園の校舎が揺れた。


「校舎を斬った――? 嘘だろ…… ――不味い!」


 恐怖に近い不快感と同時に高揚感を感じ、微笑む雅は毒を無意識に全快にして構えた。

 青武士が雅を見上げ、笑うように跳躍した。

 バリンッと窓ガラスが割れ、室内に進入した青武士は雅をつかみ、ブンッと教室のある三階から校庭へ投げとばした。

 ドゴォッ! と校庭に穴が空き、受身が取れなかった雅は左腕を骨折してしまった。


「ぐうううっ……」


 噴出す脂汗をぬぐい教室を見上げると、青武士は姿が見当たらなかった。

 背中に氷柱を突き刺されたような悪感がし、本能的に前へ転がった。

 すると雅のいた空間に、闇夜を斬り裂く一閃が輝いていた。


「名乗り忘れたな。俺は宝玉霊装の川徳家高かわとくいえたか。ここにいるという聖光葉の弟子、アゲハとやらに会いに来た。柊であるお前がそうか?」


 金髪の青武士は名乗ると雅の腹を蹴り上げ、グキッと肋骨が三本ほど逝った。


「そうだ……俺がアゲハ。殺す気でこないと俺がお前を殺すぞ?」


「徳川家康の宝玉霊装・東照大権現とうしょうだいごんげんを持つ俺に勝てるとでも思うのか?」


「柊の戦いは狂気に染まった方が勝つ。故に武具の優位は関係ない」


「聖の弟子らしい言葉だ。しかし、過ぎた言葉は死を呼ぶのみ」


 互いの刃は激突し、誰もいない校庭に響く。

 すでに劣勢にある雅は何とか会話を長引かせ、回復の時間を作ろうとした。

 しかし、川徳の攻撃は一瞬の影しか目に映らない。


「回復させてやりたいが、死が近づくほど本当の力が出るもんだ。それが狂気を呼ぶ」


「そうだ! それが俺を進化させる! 殺す! 殺すぞぉ!」


「貴様は本当に聖の弟子か? 聖は狂気に染まっていたが、歪んではいなかった。お前はその毒の力同様に歪んでいる」


 川徳は空間に隙間すら出来ないほどの斬撃を浴びせてきた。


「おおおっ!」


 パリンッ! と刀が砕ける雅は吹き飛び校舎に激突する。

 そして、容赦の無い突きが腹部へと迫る――。


「ぐっ……!」


 ドスッ……と雅の腹部に刀が刺さる。

 ほう? と川徳は毒の攻撃を仕掛けようとする雅に言う。



「腰をひねり串刺しは避けたか。反応はそこそこだな――むっ?」


「乱れ揚羽蝶!」


 ズババババッ! と加勢に来たアゲハの乱舞が炸裂する。

 それを東照大権現で受けた川徳はこの紫の少年こそ光葉の弟子だと確信した。

 死の淵にある黒髪の少年は聖光葉を思わせるものがあるが、あの思想行動家は這い寄る混沌のような暗き狂気の持ち主ではないからである。

 この紫の髪の少年は爽やかさと自由が感じられ、これこそが光葉に憧れる者の象徴でもあった。

 雅の前に立ち、愛刀の紫桜式部しざくらしきぶを突き出しアゲハは言う。


「この世に幾人といない過去の英雄の武具を持つ宝玉霊装の男がオレに何の用だ?」


「世界のバランスが崩れた原因としての責務を果たせ。聖の意思を受け継ぐなら自由でいろ」


「何だと?」


 この川徳は世界に武者修行に旅立っていて、日本に泳いで帰国した最近になって聖光葉の死を知った。

 このままアゲハが適当に京雅院などの組織にいいように使われるならば、光葉を結果的に殺した罪で断罪するというらしい。


「清き日本国の為に世界のバランスを崩すわけにはいかない。光葉の意思を告ぐ覚悟が無いなら斬る。お前如きに聖が命を捨てるはずがない」


「オレはオレ。光葉は光葉。弟子が師の真似ばかりすると思うなよ?」


「それでもしなければならん。貴様は聖がもっとも期待した一人。人の可能性を羽化させる揚羽蝶なのだろう?」


 アゲハはその言葉に答えられない。

 そして、更に問い詰められる――。


霊魔神姫れいましんきの千鶴に予言された悪とは、その少年じゃないのかアゲハ?」


 血まみれで倒れたままの雅はその声を聞くが、意識が朦朧として聞こえない。

 そして、アゲハと川徳の戦いに気付きだした者が現れ出す。


「……人が来たか。今日の所はここで去る。俺は友の理想を追いかけ戦い続けるが、お前はどうする? この県を廃し藩を為した日本で何をする? 大霊幕が無い今、この日本は光葉もいない状態では世界より蹂躙されるのみだろう。お前の行動に期待しているぞ……」


「……おう」


 そして川徳は去った。

 すぐに雅の死体になりそうな身体を担ぎ上げ、姿を消そうとするとワカナが現れそれについて行った。

 図書室の奥にある隠し部屋で治療する雅を見ながらアゲハは思う。

 この男は自分がしたい事が出来てしまっている状況に疑心を感じ、死線をくぐり抜けなければ敵に勝てない自身の力を弱いとすら感じている。

 自身の力の巨大さに気が付く事も無く、日々狂気を具現化するような強き者とのギリギリの戦いを繰り返す。

 その世界と自分の思いとの矛盾が陰鬱としたマグマのように煮えたぐり、その鉾先が世界に向けられている。

 それは確実にアゲハの喉元に迫っているのも事実であった――。


「こいつは、自分の本能に従って行動しているだけだ。それを……」


「そうだ真の武道家ほど獣の闘争本能のまま戦う事ほどの喜びはないだろう」


 瞬間、ベッドで眠る雅は瞳を開き言う。

 それにアゲハは言った。


「お前の……お前の望みは一体……」


 何度も言わせるなよ……という顔で雅は言う。


「俺は無を望む」



 青白く点灯する蛍光灯の日が当たる場所と影になる場所に二人の少年はいたのを、互いは知るよしも無かった。





 そして、宝玉霊装の川徳家高の襲撃より一週間が経った。

 毒の力を無理矢理腹部に使う雅は、強制的に痛みを消して動いていた。

 正に狂気がなせる技である。

 アゲハと雅の二人は伏見の森の奥にある魔霊獣が現れた洞窟に辿り着く。

 悪しき霊気の溜まり場として存在するこの場所は数年に一度魔霊獣が生まれる。

 それを駆逐せねばひたすらに魔霊獣は肥大化し、人間世界を恐怖に陥れるのであった。

 勢いのある足取りは何故か入るはずの入口で立ち止まる。


「異様な霊気の気配だ。まるで洞窟が怨霊の塊のようだぜ」


「怨霊など斬って捨てればいいだろう。第一に、怨霊とてお前のツラを見たくないだろうさ」


「てめっ! どーいう意味だ!」


 二人はあーだこーだ言いながら異様な霊気を放つ洞窟の奥に進んで行く。

 そして、二人は異様な霊気を感じながらナメクジのような魔物を発見した。

 その蒼と紅の地獄の炎にアゲハは絶句する。


「地獄の……極楽浄土の炎か? 宮古の悪意を……呑みこんだのかコイツは?」


 魔霊獣は死んだ宮古の力を利用し生まれていた。

 それもそうであった。

 近年に起こる事件で宮古ほどの悪意を帯びた霊気は無かったであろう。

 それにアゲハは辟易しつつ言う。


「宮古の地獄の霊気・極楽浄土の残り香を得たのか……宮古の霊気を体内で成長させ限り無く宮古に近い力を手に入れた。このままほっておいても極楽浄土の炎で死ぬだろうが、こいつが人間を食えるなら話は別だな」


「極楽浄土だと? 何やらわけのわからん柊だったようだな宮古という老人は。それにしてもあの魔霊獣……進化してないか? 俺のように」


「最後の言葉は余計だ」


 と、アゲハは呟き魔霊獣は更なる化物と変貌を遂げる。

 巨大なナメクジの塊のような魔霊獣は獲物を見据え、動き出した。

 アゲハは紫桜式部を抜き一閃した。


「まだ自我があるだけマシなのか?」


「これがマシと言える状況か――」


 雅の毒の斬撃も魔霊獣の皮膚を一時的にダメージを与えるだけで再生してしまう。

 互いの攻撃はこの戦いを終わらせる一撃を放つ事は無く、時間が過ぎ疲弊は増して行く。

 このままこの洞窟から魔霊獣を出した場合、何を吸収しどう変化するかもわからない。

 どうあっても二人だけでどうにか決着をつけなければならない。


 決定的な一撃を入れる必要がある――。


「おいアゲハ。お前の切り札は無いのか? 噂の六道輪廻はどうなんだ?」


「六道輪廻は使えん。あれはこの世の果ての力だからな」


「すでにこの環境がこの世の果てだろう!?」


 雅の叫びと同時に魔霊獣の拳が地面を抉る。

 それを回避しつつ、一撃をかますが全ては無駄に終わる。

 魔霊獣の口から放たれる霊気砲は死の大砲であり、この洞窟の岩盤をいとも容易く消滅させる。

 絶対に当たってはいけないが、このままではこの洞窟が崩れ去るだろう。

 アゲハは雅の体力に限界が近い事を悟りつつ――。


「六道輪廻には相性もある。会得出来ない者は永遠に無理だ。おそらくお前には無理だろ。心の歪みが強すぎる」


「俺に無理なら、新しい力を生み出すまでさ」


 新たなる野望が芽生える雅は嗤った。

 放たれる霊気大砲をギリギリで回避し着地したアゲハは言う。


「たまにはいい事を言うな雅……六道輪廻の力が使えそうだぜ」


 宮古の極楽浄土の残り香は、宮古と戦った時のアゲハの六道輪廻の力を呼び戻した。

 雅は陽炎のように揺らめくアゲハを見た。

 その圧倒的霊気に雅は震えた。


「……俺はいつもいい事しか言わん」


「足を止めんな雅!」


「!? チィ!」


 その刹那、雅の目の前に霊気大砲が迫っていた。

 それは極楽浄土の地獄の炎を纏い、現世において防げる者は存在しない――。


「うぐああああああああああっ!」


 蒼と紅の炎に焼かれる雅は地面をのたうち回る。

 一つの獲物を捕食しようと魔霊獣は大きな口を開けて動き出す。

 焦るアゲハは、六道輪廻の力を使う事も忘れて立ち尽くしていた。

 地獄の炎にて死にゆく少年は、蒼と紅の炎を鎮火させたのである。

 そして魔霊獣は雅に斬られ奇声を上げる。

 戦えば戦うほどに猛スピードで進化する熱き氷の少年にアゲハは戦慄した。


「こいつの狂気は……世界を歪める……」


 アゲハはそう感じずにはいられなかった。

 荒ぶる毒の嵐は雅の身体に収束して行き、黒い呪印のような模様が左目の周囲に現れ涙のように流れた。


「うおおおおおっ!」


 今この瞬間、圧倒的な力を秘めた新たなる柊が誕生したのである。

 この存在はアゲハにとっても京雅院にとっても世界にとっても由々しき自体を生む事を気付いていなかった。

 毒の投与、解毒、拡散の力を完璧に得た雅は黒い霧を身体に纏わせながら構えた。

 味方なら頼もしい相棒にアゲハは言う。


「その強すぎる毒は周囲に拡散してるんじゃねーのか?」


「いや、この毒は俺に悪意を持って近づく者に対するバリアのようなものだ。コントロールを誤って拡散したら霊気を全身に張って耐えろ」


「簡単に言ってくれるぜ」


「あぁ言うさ。毒牙炎剣どくがえんけんで魔霊獣を止める。そしたら俺に六道輪廻を見せてみろ」


「了解だ相棒」


 新たなる霊気大砲をめちゃくちゃに放つ魔霊獣の動きを見つつ、二人は攻めた。


『うおおおおおっ!』


 雅の毒の斬撃で動きを停止させ、その隙にアゲハの畜生道による剛力を叩き込んだ。

 そして――互いに信頼する他者と融合できる天海道が発動し、アゲハと雅は一体化する。

 毒の揚羽蝶に変化したアゲハは雅と共に叫んだ。


『――消えろ!』


 ズザアアアアアアアアアッ! と魔霊獣は存在の全てを消滅させられた。

 これにより、アゲハが京雅院の総帥・十条と交わした鬼京雅抹殺司令の約束は守られる事になる。

 ヘロヘロで洞窟を脱出する二人は話す。


「おい、解毒してくれ。お前と融合したせいで身体に毒が回ってやがる」


「俺はもう疲れている。我慢しろ」


「あ? お前最強なんだろ? 最強なのに治せねーのか?」


 雅は歩きつつ答えない。


「……」


「って!シカトかテメー! ……?」


 突如、前を歩きながら雅は倒れる。

 完全燃焼した雅は歩く体力も無いようだ。


「自分勝手な最強さんだぜ」


 やれやれと思いつつアゲハは雅を介抱した。

 この寝顔だけ見てれば、普通の奴なのに……と思いつつ洞窟を脱出した。




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