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アゲハ  作者: 鬼京雅
宿命の男~熱き氷の少年との出会いと別れ編~
25/67

鬼京雅

「……オレは鬼京雅ききょうみやびに殺される? 鬼京雅って誰だ?」


 百年老人であるひいらぎ・宮古の暴走から半年が経ち、京都藩を支配する組織である京雅院の筆頭・十条家の城に呼び出されたアゲハは自分の死への年表を見せられる事になっていた。

 この半年の間、関東方面に旅に出ていたアゲハはここ最近目立った動きをする東京藩の鬼瓦ファミリーの躍進に注目し、柊との戦闘などで鬼瓦ファミリーの連中が日本を掌握しようとしているのを知る。自由揚羽蝶として早々に悪を駆逐しようと調査するアゲハは戦争の予感と共に、十条清文に呼ばれ京都藩に戻った。

 最近、この十条に才能を見出された他者の死を感じる事が出来る柊である霊魔神姫れいましんきの千鶴の言葉にアゲハは動揺を隠せない。まるで冷気を吐くように白く冷たい存在の千鶴は死に装束のような真っ白な着物の胸元に手を入れ、一つの巻物を取り出した。


「貴方は死にます。鬼京雅という少年によって」


「は? つかその巻物見せろ」


 紫の揚羽蝶が描かれる着物の襟をかき、アゲハは下駄を鳴らし前に飛び出て千鶴の手にある巻物を奪い取る。

 するとアゲハの死の年表は消えた。

 運命は霊魔神姫の千鶴にしかわからない能力なのである。


「年表が消えた? いや、顔が浮かんできたぞ……」


 その少年、鬼京雅の顔が浮かんで来た。


(……)


 白い顔に細い眉。きりりとした二重瞼に無を感じさせる漆黒の瞳。

 口元はかすかに微笑み、どこかアゲハの師・聖光葉を思わせる風格があった。


「嫌な顔をしてやがるな。この野郎は」

 

 フッと笑うアゲハは愛刀の紫桜式部しざくらしきぶの鯉口を切る。

 すでに光葉の遺品になる光一文字光牙は京雅院に死蔵されていた。


「確定した未来があるなら先制してソイツ殺れば一件落着だろ。今から始末しに行く」


 紫の髪を揺らし、すぐさま鬼京雅を始末しに行こうとするアゲハに千鶴は言う。


「待ちなさい。ソイツは今有名私立のテンプレ学園に通ってる。刃物なんかで殺せば、必ず足がつく。何せテンプレ学園は鬼瓦の姉妹校だから。バレたら十条と鬼瓦の全面戦争になるわ」


 現在の廃県置藩がなる日本では、小規模な藩をまとめる中心が関東と関西などの大都市に存在する。他の藩へはよほどの理由がなければ行けず、日本は鬱屈した気持ちが流れていた。外国とは大都市が貿易をしているのであり、二つの組織がその利益を独占していた。

 関西の十条と関東の鬼瓦――。

 この日本を代表とする二つの企業財閥はお互いの友好という名目で商業施設や学校などをお互いの地域に配置している。それは無論、双方の監視の役割も担っており相手の技術力や経済状況なども全てわかる。故に新しい何かを生み出す、発見した時には治外法権となるこの場所のどこかから相手の領土を侵食する事の出来る重要であり、危険な場所であった。


「テンプレ学園は十条の学校じゃねーのか。まさか鬼京は鬼瓦側の間者じゃねーだろーな?」


「それは無い。今の段階ではね。お互いの特殊施設に来る人間は異能の有無を必ず調べられるから常人以外は双方の領土に入る事は許されない。毎月行われている身体検査の後に異能力に目覚めたならピンチよ。テンプレ学園の身体検査は毎月月の頭の月曜日。つまりは一昨日終わっている」


「……終わってるか。今まで五十年近く護られて来た均衡がオレの死によって崩れるたーな」


「いつのまにか貴方も時代の寵児ね」


「オレはただのアゲハだよ」


 そして新たなる敵、東京藩にある旧体制の鬼瓦ファミリーの侵攻を知るアゲハは新たなる騒乱の予感を感じつつ、自身を殺す存在に会いに行く事にした。






 目が覚めるほどの空気が澄んだ日本晴れの京都藩は今日も平和が保たれている。

 そのとある歩道では、チュチュンと雀が若い葉を生やす木に止まり、真新しい学生服姿の紫の髪の少年を見つめた。その少年はブレザーとネクタイ。それにズボンが気にいらないらしい。


「ったく、何でオレがこんな紙くず拾いみたいな格好をしなきゃなんねーんだ。やってられん」


 義理の妹の京子も通うテンプレ学園にアゲハは通う事になった。

 この学園にアゲハを殺す存在、鬼京雅が存在するからである。


「バス停はあれか」


 アゲハはゆっくりとした足取りでバス停につき乗客の最後尾につきバスを待ち乗車した。

 この世界は電車というものは廃止され、人々の通勤・通学はバスでの運行しか存在していない。廃県置藩が日本を繋ぐ点と線であった電車の存在を消したのである。

 他の藩に何かを輸送する時は、大型の藩用車か飛行機を使う。

 アクビをしつつバスを降り、風に流れる紫の髪を整えテンプレ学園の正門に立つ。

 古風な校舎はまるで日本古来の城のような威厳があり、ここで青春期を過ごす若者は青く澄み渡る大空に飛び立てる希望が持てるような感じがする。その校舎を見上げるアゲハは興奮した。


「……」


 慣れないブレザーの襟とネクタイをもう一度確認するように締め、正門をくぐった。

 登校時間の為に同じ制服の人間が多く、アゲハは多少戸惑いを感じながら歩く。


「京子の奴はまた任務で関東地区に行ってやがるからいないし、知り合いがいな……いや、いたな。ワカナの奴がいる。でもあいつとは見知らぬ他人でいよう。奴は色々と面倒を起こす奴だからな」


 周囲を視線だけキョロキョロしながら、アゲハは校舎内を見る。

 昇降口に立ち、ふと背後を振り返る。


「……」


 すると、一人の黒髪の異質な少年が目に止まる。

 その少年はテンプレ学園の制服を着ているが、どうにもその衣に包まれているより突き破っている感覚を覚える。その微かな殺気を放つ冷たい瞳、口に溜まる悪意をとどめているような固く閉じられた唇、地面を音も無く歩くスラリと伸びた足。

 人並みを避ける少年の動きに、アゲハは戦慄を覚えた。


 流水の動き――。


(間違いない。あれは聖光葉の流水の動きだ)


 完全には程遠いが普通の人間が出来る動きではない。

 鷹の目のような鋭い眼光が、アゲハの全身に鳥肌を立たせる。

 そう、この大衆に紛れられない異質な少年こそが鬼京雅だった。


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