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アゲハ  作者: 鬼京雅
百年老人編
22/67

光を得た少年

 目覚めるとアゲハは清水城の眼前にいた。

 突然のアゲハの襲来に正門を守護する黒百合達は焦り、一気に襲いかかって来る。

 風が流れアゲハの紫の髪を乱し、霊気の流れが清水城に向かっているのを感じた。

「この霊気の流れに添えば、遠距離の一撃もいけんだろ」

 アゲハは光葉の愛刀・光一文字光牙こういちもんじこうがを堂々たる大上段に構え――三秒の間の後に振り下ろした。

 ズザアアアアアアアアア――――――ッ! という轟音が清水城を揺るがし、一文字の亀裂が入った。

 畜生道の一撃で城を斬ったのである。

 千人による霊気によって再構築されたこの結界を斬ったのは、光葉以上の一撃であるがそれをアゲハは知らない。

 崩れる外壁などに黒百合達は驚きながらその白い狂の文字が入る紫色の髪の少年を見る。

「なーんだ。表面を斬っただけか……奇襲にしちゃまずまずかな。さーて、討ち入りと行きますか」

 背中に狂の文字が刻まれた羽織をなびかせアゲハは意気揚々と鼻歌を唄うように行く。

 流水の動きから三人の黒百合を倒し、迫る二人に倒した一人を投げた。

 餓鬼道の神速で十人を更に倒し修羅道の幻影で全ての攻撃を回避した。

 すでに極楽浄土の精神汚染で操られる黒百合ではアゲハに対抗出来ないが、傀儡となる黒百合達はそれでもアゲハに向かわなければならない。それを見たアゲハは叫ぶ。

「おい、宮古長十朗―――――――っ! 聞こえてんなら、こんなザコじゃなくてテメーーーー自身で来いやゴラァァーーーーーーーーーーーーッ!」

 清水城の天守閣まで届いた声は宮古の口元を歪ませ、極楽浄土で黒百合をその場で静止させた。

(ほう、霊気の量だけは光葉に匹敵してはいるが、それだけじゃ。狂気そのものをコントロールしていない。普通のまま……いや、何故普通なのじゃ? それはこれからわかる事か……)

 自身の手で光葉の遺産を磨り潰さねばならぬと爪で黄色い歯を噛みながら思う。

 そして、天守閣内の聖櫃にて紫の髪の少年と総髪の紅い法衣の男が対峙した。





 しん……と冷たい空気が三家楼の聖櫃にいる二人の男の五感を支配する。

 冷たい霊気が満ちたの空間には、龍が描かれた屏風が一つあるだけで他には何も無い。

 屏風の前には猪口であぐらをかき酒を飲んでいる男がいる。

 その男は部屋の空気よりも冷たい殺気を放ちながら、言った。

「……革命は三代にして成る。第一世代が全ての発起人。いわば光葉こうようのような人物。そして第二世代がそれを体現する人物。これはワシとお主に当てはまる。第三世代はウチの十条家のような実務を忠実にこなす人物達だ。これが革命と呼ばれるものの全てだよ少年」

「確かに宮古、お前の言う事は理解できるし、正しい。だけどよ、世界は不平等。それは人が生まれた時から。平等は有り得ない。人間を超越した貴様だからこそ言える言葉だぜ? オレの人間道とは相容れない」

「そうか。光葉がやりたかったのは百年の鎖国。……今も各地で騒乱は起きている。各藩の政府、警察がなかった事にしているが光葉の掲げた旗に導かれて脱藩し京に上る奴は未だいる。そして、ワシの掲げた旗に一番早く導かれたのはお主だアゲハ」

「鎖国をして閉鎖した世界から人々を窒息させる。その中から出現した特異な奇士を集め国内戦争から世界戦争か? 光葉の求める人材を意図的に生み出し、それを消して行く。宮古……お前は一人で世界を破滅させるようだな」

「十年……あればやれるだろう。しかし、祭りは大勢でやらんとのぅ」

 猪口の酒をグイッと飲み干し宮古は言う。

 現世六道の連中が光葉に一目おいていた事も、本当は三家楼よりも光葉の元で共に働きたかった事も知っていた。しかし、自分達の手で光葉を封印させる事により京雅院と自分への忠誠心を試した。

(……)

 アゲハの心はかすかな波紋を広げるように火山が噴火する胎動を身体の中で意図的に起こして行く。

「お主は光葉の遺児のようなもの。羽ばたきをする翼を引きちぎりワシが地獄に堕とす」

「現世六道から全ての力を借りて、オレが六道輪廻を得た。そして京雅院の雅が無ぇ男を斬るのがこの羽化する揚羽蝶のアゲハよ」

 クククッ……と嗤う宮古はもう一つ猪口を取り出し酒を注いで言う。

「アゲハ、お主も飲むか?」

「オレはまだマックシェイクが好きな未成年だぜ。お前だって酒に酔えるたちじゃねーだろ?」

「ほう、何故そう思う?」

「冷めた人間は現実という酒に酔えないからだ。オレもお前もそこが同じだ」

「ワシと同じ……か。だが、ここからは腰間の物差しで語らねばなるまい」

 グイッと一口飲み、また徳利から酒を注ぐ。

 師の愛刀であった光一文字光牙の鯉口を切ったアゲハは、

「そうだな。立ち上がってもらおうかジジイ。極楽浄土でその身が現世に無くても、その魂は斬れる。それは光葉が証明してる。オレの太刀なら尚更ヤベーぜ」

「ここまでは激戦だったはずだ。その力でもって立たせてみろ」

「百近い年の癖にあそこが立つのかよ?」

 高速で、アゲハは見かけだけは自身の柊の力により若い中年になっている宮古に抜き打ちを仕掛けた。 完全に首筋を捉えた刃だったが、スウッと煙を斬るようにすり抜けた。

「――! 後ろか?」

 極楽浄土の紅の現世の炎にてダミーの自分を作り上げていた宮古は三家楼の聖櫃の中央から飛び出しアゲハに迫る――。

「あっけないのぅ小僧」

 シュパァ! と宮古の黄金の刀・百式神炎ひゃくしきしんえんが一閃した。

 斬られたアゲハから、見覚えのある揚羽蝶が無数に舞う。

「――なぬ?」

「修羅道の幻だ。見極めが甘ぇな」

「ぐっ!」

 ズバッ! と宮古は背中を斬られたが、すぐに体制を立て直した。

 トントンッとアゲハは刀の峰を肩で叩き、

「見切りは甘ぇが太刀筋はいいな。オレに対する反応も上々だ。次は今以上の一撃を期待してるぜ。百年生きた証が無駄じゃねーのを存分に見せてみろジジイ」

「あぁ、主の身体で地獄の力をとくと味わえ……」

 立ち上がった宮古を見てアゲハは完全に悟った。

 自分と宮古の実力は正に天と地。

 今の状態ではどうあがこうが勝てない。

 宮古とは霊気そのものが違う。

 先の状態の聖光葉を超えても、まだまだこの宮古の霊気には到底及ばない。一瞬の力で突破出来ても、決定的な一撃を入れられる力が無ければ極楽浄土は攻略する事が出来ない。


 狂――。


 これを全快にし、殺人専門家のような心と動きが出来て五分と五分。

(人を棄てなければ勝てない。……宮古の掲げる人間道とはオレの命題でもあるな。全ての希望を持つアゲハでいられるか、全てを捨てて世界の時を止める宮古長十朗になるか。この戦いが終わり、生きていたら全てはわかる)

 そう思いながらアゲハは構えた。

 勝てる……と自分に言い聞かせ呟く。


「……なぁに、オレは狂ってるからな」


 宮古の百式神炎の剣先が、ゆらっと動いた。

 瞬時にして嵐のような斬撃が容赦なくアゲハを襲う。

 攻撃をしているつもりでアゲハは防御をした。

 一瞬でも守りの姿勢になれば二度と攻撃に転じる事は出来ないと思ったからである。

 次第にアゲハの剣が異常な力を増して行く――。

(……何じゃこの小僧! 何て重い一撃、一撃じゃ。薩摩の示現流のような全身全霊の一撃の強さが全ての斬撃にある。何かの技か――)

「六道輪廻の一つ、畜生道だ」

「そうじゃったのぅ。……うぅ」

 心を見透かされたかのようなアゲハの台詞と同時に斬撃の嵐は止み、アゲハ両腕に激しい痛みと脱力感が現れた。握力もなく、光一文字光牙を畳の上に落としてしまった。

「しばらく両腕は使い物にならないぞえ? 死んだら腕がどうの言ってられんがのぅ」

「――チィ!」

 先手必勝と言わんばかりに宮古は蹴りを放つが、目の前にアゲハはいなかった。

「瞬間移動!?」

「ご名答。六道輪廻の一つ、餓鬼道だぜ」

 背後から首筋に迫っていた刃を、宮古は焦りながら左の肘で叩き落とした。

 その勢いで裏拳を叩き込んだ。

「へっ、驚かせおる」

「おおおっ!」

 感覚が戻りつつある右手で光一文字光牙を拾い、連撃を仕掛けた。

 片手で宮古はアゲハの剣をさばく。アゲハは右足を振り上げ、下駄を飛ばした。

「――!」

「もらった!」

 体制が一瞬崩れた宮古の心臓に、全力の突きを叩き込んだ。

「なっ!?」

「アイデアは良かったのぅ。地獄は始まっているんじゃぞ?」

 冥府から飛び出て来るような宮古の異様な悪意に後退し、みぞおちに膝蹴りをくらい胸元に蹴りを入れられ後方に転がる。

 胸元を抑えながら、アゲハはまだ痺れる左手にうんざりする。

「左肩を傷つけただけか。確実に串刺しにしたかと思ったんだがよ。一瞬遅かったか……」

「そう、あと一瞬じゃ。もっと狂に至れば串刺しに出来るかもしれんのぅ。楽しくなってきたわい。ヒャハハハハハハッ!」

「テメーの老後もここで終わりだぜ!」

 馬鹿野郎が! と宮古の笑う顔に怒りを覚えながら、殺す――殺してやる――という闇に無理矢理意識を近づけた。次第に、黒百合の首領・海静九朗と戦った時の感覚が戻ってきた。

 アゲハと宮古の身体には数創の傷があった。

 しかし、宮古はまだ極楽浄土をまともに使用していない為、全く息が上がっていない。

 一方のアゲハは息も上がり、立っているのがやっとの状態になりつつある。

(そろそろケリをつけねーとな……奴はまだ切り札も使ってねーんだ)

 思いつつ、剣先を宮古の心臓に向けた。

 それに反応する宮古はパン! パン! パン! と手を叩き言う。

「息が上がっておるのぅ。そこから一段階力を上げればワシを殺せるレベルだというのに。腕が折れようが足が折れようが、腱が切れようが、心臓が止まろうが、刀を振れる限り向かってくる気迫を光葉は持っておったぞ?」

「そうかよ……」

「……いい殺気だ。ワシもそろそろ本気でいこう」

 紅い法衣を着る黒髪の老獪な男から蒼と紅い霊気が湯気のように身体から滲み出てるのを感じた。すでに、アゲハは六道輪廻を使う体力は半分も無い。

「うおおおっ!」

「燃えろ小僧ーーっ!」

 極楽浄土を纏う剣と畜生道の剣が激突を繰り返し、宮古は蹴りを繰り出した。

 しかし、揚羽蝶が舞い百式神炎の剣がすり抜ける。

「修羅道か!」

 幻影でない実体を宮古は突き止め、刃を振るう。

「消えた?」

「更に、餓鬼道――」

「――うっ!」

 真後ろに現れたアゲハの刃が宮古の首の頚動脈をかすめ、ブシュウ……と血が出た。

「よく回避したなジジイ!」

「貴様―――――――――――っ!」

 首から流れる血に激昂し宮古は怒り狂った。

「――っと」

 バッ! と攻撃をやめたアゲハは背後に飛び下がった。

 追撃をしない宮古は何故か自分の右手を見ていた。

(何だ? 赤い煙……?)

 宮古の両手に赤い煙が漂っている。

 それはやがて左手の蒼い煙をも生み出し、その老人の背後に千手観音像が現れる。

「出やがったな極楽浄土の御神体……」

 まだじっと宮古は自分の両手を見つめていた。

 自身の興奮が具現化した事に異常な快感を覚えていた。

(……また、光葉を屠った時のような興奮が甦ってくるわい。しかも今度はその弟子! ヒャハハハ! 殺す……殺すぞぉ……嬲って、嬲って、嬲って、嬲って、嬲って、嬲って、嬲って、嬲って、嬲って、嬲って、嬲って、嬲り殺してやるわい――)

 床にドス! と百式神炎を突き刺し、手ぬぐいで首から出る血を止血した。

「アゲハ……やはり強い力はいいものじゃのぅ。その強い力を潰す事で更に楽しくなるからのぅ」

「殺し合いが楽しいか。否定はできんがな」

 激しいぶつかり合いの中、失われていく血がアゲハの思考と動きをシンプルにしていった。

 ただ――ただ宮古を殺す事に集中していた。

(オレはこいつを許さねぇ――こいつは世界を歪ませる絶対悪だ――)

 野獣のようなアゲハの瞳が、宮古を捉えた。

 そのまま宮古は一瞬にして間合いを詰め、嵐のような斬撃を叩き込む。

 呼応するが如くアゲハも畜生道を使い、応戦する。

 一太刀、斬撃の多さが勝った宮古の一撃がアゲハの額を捉えた。

 血が、剣先に付いたと同時に斬った感触は消えた。

「また修羅道か? 見えてるぞぇ!」

 揚羽蝶が舞い、瞬時に背を向け背後に刃を一閃した。

 鋭い痛みが脇腹に走り、背後にいたはずのアゲハは消えていた。

「フォフォフォ! 見えているぞえ!」

 ズバッ! とアゲハは背中を横一文字に斬られた。

 腰をひねり無理矢理カウンターで蹴りを入れたが回避される。

「修羅道までは見えていたんじゃ。だがその次の餓鬼道が見えなかった……若さとは嫌なものよ」

「まだだ。まだ終わらねぇぜ宮古! オレ達の戦いはこれからだ!」

「意識が幕々としてきたのぅ……興奮するぞぇ!」

 筋肉が限界を訴えているが、気にせずアゲハは動いた。

 すでに精神力が肉体の嘆きを凌駕し、聞こえない状態にある。

 その最中、変な感覚に囚われた。

「狂……」

 自分でも意図しない事をアゲハは呟いていた。

 呪怨のように渦巻く霊気に意識が遠のき、現世から遠くに飛ばされた感覚になる。

 静かな波音の音がし、それはやがて大きな波となり出し、柊として霊気が強化される狂気の渦へ誘われる。

 アゲハの両目が黒く染まり、急襲して来る宮古と斬り結ぶ間も、狂――と呟いた。

(何だ……この不快感の中にある高揚感は? 気持ち良い! 気持ち悪い! 気持ち良い! 気持ち悪い! 気持ち……良い……!)

 そう感じた瞬間、宮古はアゲハの剣撃の勢いで壁に叩きつけられていた。

 アゲハの身体全体に内面から新しい力が満ちてくる。

 わかる事はこの力は邪悪そのものだという事。

「――これは?」

 光一文字光牙こういちもんじこうがが禍々しい形に変化しているのを見て、一つの答えが出た。

「この刀は光牙こうがではない。狂牙きょうがだ……。狂一文字狂牙きょういちもんじきょうが。これが狂に至るという事なのか――」

 この暴走しそうな力を早く! 早く試したい! と興奮するアゲハの目の前には宮古がいた。

 明らかに宮古はアゲハに焦りを感じ出していた。

(そうだ。この力こそが光葉が俺に望んだ姿。この力こそがオレの真の力――)

 楽しいという言葉を出さず、アゲハは剣によってそれを表現した。

 戦う二人には互いを殺したい! 殺したい! 殺したい! という欲求しかない。

「はあああああっ!」

「ぬおおおおおっ!」

 狂牙になった刀でさえ、宮古はいつの間にか互角以上に反撃をしてくる。

 常人では目に見えぬほどの斬撃の嵐が互いの周囲を刻む。

 刀と刀、意思と意思が激突する。

 いつの間にか、瞳孔が開いたアゲハの目から血が流れていた。

 しかし、視界は更にクリアになり攻撃力も増していく――。

「ガアアアアアアアア――ッ!」

 すでにアゲハは獣そのものだった。

 宮古を殺す事しか考えていない。

 それでも宮古の切り替えしのスピードが落ちない。

「とうとう狂ったなアゲハ。その狂が主の中の光葉の狂を目覚めさせ、その狂牙を得た。主を倒せば光葉の狂を得る。それこそがワシの望む人間道――」

「斬るさ。お前の歪んだ魂をな!」

「ワシは生まれついてすぐに父上や母上から宮古の伝統を任され歪んでおる。ワシから見れば、歪んでるのは世界だっ! 全ては力で証明してみせよっ!」

 常軌を逸した宮古の刃が神速で迫る。

 アゲハは腰をひねり、鯉口を切った。

 光葉の必殺の技が発動する――。

光瞬虹こうしゅんこう!」

「極楽の舞!」

 互いの刃が一閃し、互いの場所が入れ替わった。

 宮古は頬の血を拭い取り、アゲハは呻き声を上げ、倒れた。

「ほほっ! 光葉の技とはやるのぅアゲハ!」

「貴様を暝土へと誘う刀、狂一文字狂牙だからな!」

「そりゃ、結構! 結構!」

 ゆらり……と揚羽蝶が舞い、アゲハは消える。

 研ぎ澄まされた感覚で移動場所を察した宮古は次の場所に突きを繰り出す。

「残念」

「お主が、だ」

 ドン! と更に前に突きを繰り出した宮古はアゲハの心臓を串刺しにした。

「餓鬼道の神速を見切ったのか……?」

「あぁ。そんな殺気立っていてはどこにいてもどんなに早くても対処出来るわい。狂などはその程度のものなのか」

 目を充血させ口から血を流すアゲハを見て、宮古は勝利を確信した。

 刃を一閃し、光葉の遺産を斬った。

 前のめりに倒れるアゲハは光葉の羽織がヒラリと舞いながら倒れた。

「終わったかのぅ……全てが」

 そう思った瞬間、アゲハの身体の周りに揚羽蝶が舞った気がした。

 本当に死んだのか――?

 その疑問が突如頭を支配し、宮古は警戒しつつ考えた。

(六道輪廻の力は確かまだ使用したのは三つまでだった……。人間道があの狂だとするなら後二つあるはずじゃ。確実に止めを刺す必要がある……。この男は世界に不必要!)

 本当に倒したか疑惑が晴れない為、極楽浄土の煉獄の炎を倒れるアゲハに向け迫る。

「これで終わりじゃ――」

 ズブオオオオオオオオオオッ! と極楽浄土の炎によりアゲハの死体は呑みこまれた。

 狂の信念の力は宮古に還元されて行き宮古の炎は光葉の羽織を焼き尽くし更に勢いを増す。

 行き場を無くす煉獄の炎はかつて光葉が破壊した壁の倍以上の面積を破壊し、外の暗闇の世界が広がり外気が流れ込んで来る。まあるい月が宮古の白い肌を照らしている。

 高笑いが止まらない宮古は神々しい背中の千手観音と共に歪んだ笑みを見せ、

「これで聖光葉ひじりこうようの狂ともいえる人間道の力を手にしたぞ……ワシはこれにて完全無欠な存在に進化したのだ」

 ヒャハハハハハハ! という老人の笑いは三家楼の聖櫃に満ち溢れた。



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