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アゲハ  作者: 鬼京雅
百年老人編
20/67

六道の塔・天海道

 花に囲まれた暖かい塔である京都藩を軸にした六角形の南に側にある天海てんかいの塔。

 階段にも芝が生える塔の螺旋階段を登って行くと要所、要所に花畑があり蝶々なども舞っていた。

 優しい瞳でそれを見つめるアゲハは一匹の揚羽蝶を人差し指の先に止めて見せた。

 やけに人に慣れている虫達に微笑みながら白地に揚羽蝶柄のだいぶボロくなった着流しの裾を揺らし歩く。

 天海道ガイは丸眼鏡をかけたインテリ風の白髪の老人だった。

 その最上階の天井は開けていて、天から降り注ぐ太陽の光が鮮やかに咲き誇る大きな花畑を脈々と生きずかせている。今までの道とは全く違う感覚にアゲハは多少の戸惑いを見せつつ、

「お前が天海道ガイか。知っての通りの六道奪いをしてるアゲハだ宮古長十郎を倒すまでお前の天海道を貸してもらう」

「ほーう。それはけったいな事を言う小僧じゃ。ならば奪って見せよ。主が聖光葉ひじりこうようの弟子という証拠と共にな」

「ん? このナリで入ってこれる時点で俺の勝ちさ」

「面白い小僧じゃて」

 やや甲高い声を発すると同時に、ガイの肩に一匹の雀が止まる。

 その雀が突如光を発し、ガイの姿も白い光に包まれた――。

 目を細めその光景を見守るアゲハは鼻腔を刺激する花の匂いではなく目の前の存在に驚きを隠せない

「変身しやがった?」

 雀との合体である天海変幻てんかいへんげんを果たした老人ガイは鳥の羽根で美しい花畑を舞う。

「さーて、私の支配する空中にどう攻撃をするのかな?」

「うおおっ!?」

 空中からヒットアンドアウェイを仕掛けて来る敵にアゲハは防戦一方になった。

 修羅道の幻影では回避しか使えず餓鬼道で空中戦を仕掛けても直線的な神速では曲線で動ける相手には無意味である。一撃必殺の畜生道はタメが必要な為に発動させようとするとガイは空中で静止して様子見になって動かない。

(どうにもならんな……オレも花畑の虫か動物を仲間にしたいが、この戦闘中じゃ殺気立ってて無理だどうする……)

 全身の感覚を周囲に張り巡らせ打開策を探すアゲハに急降下するガイの爪が迫る。

 歯を食いしばりそれを受けようとするアゲハは背中に何かの暖かみを感じー。

「――?」

 バサッ! と着物を脱いでガイにかぶせたアゲハは褌一本姿になりながら人差し指に止まる蝶々を見て言う。

「じゃあ、オレもこいつに力を借りるぜー」

 すると、アゲハのボロい着流しの柄から一匹の揚羽蝶が飛び出した

 これは修羅道の幻影で着物の柄にカモフラージュしていた蝶である

「そんな手を思いつくとは。光葉の弟子はいい感性を持っておる」

 その天海道ガイの眼鏡の奥の瞳が笑うと共にアゲハは天海変幻てんかいへんげんを発動させた。

 白い閃光が発すると共に素肌は紫色になり背中には蝶々の羽根が生え、堕天使のような姿にガイは驚いた。

「完璧な天海変幻じゃ。ここまでに来る間にちゃんとこの塔の本質を見ていたんじゃな」

「嫌でも目に入るさ。あんな暖ったけー花畑だらけの空間を見たらな」

「それでも気付かぬ者もいるのだよ、人は」

 そして、揚羽蝶アゲハの刃がきらめき天海道ガイを倒した。

 すまんな! と詫びを入れ傷薬を渡しアゲハは急いで輪廻の塔に向かう。

「これを渡したら主の怪我はどうするんじゃ? 人より他人とは中々見込みのある奴じゃて」

 丸い傷薬をつかむガイはもうすぐ蛹から返るであろう蛹の少年を微笑み、見送った。






 京都藩の周囲を六角形に立てられる六道の塔。

 その東側に位置する藩全体を外敵から結界で守護する輪廻の塔。

 最上階にて煙管を旨そうに吸う髪の長い女・輪廻道ドーラクがあぐらをかいて赤い法衣の片方を脱いで侠客のようにアゲハを見据えている。天海道だけが自分の塔に装飾を施しているらしく、このドーラクは修羅道イチノに似て道として無駄な感情は表に出さず存在しているらしい。塔を登って来ただけなのに大汗をかくアゲハは息を切らし、

「……お前が輪廻道ドーラクだな? 知ってるかもしれねーが、すでにオレは六道輪廻の輪廻と人間以外の四つを手に入れてるんだ。でもやーけに今身体が痛くて仕方ねーんだが理由とか知ってる?」

「知ってるさ……六道輪廻の力は人間の器では耐えられない。だからこそ現世六道は生殖活動を封印し、現世との関わりを絶って覚悟を持って存在しているんだよ」

「へぇ……それは知らなかったな」

「アンタは限界を迎えたね。つまりここで死ぬのさ」

 ハアァ……と妖艶な唇に舌を這わせながら煙管の紫煙を吐く。

 現世の力で無いものを光葉のように世界の果てで手に入れず、無理矢理会得してきた限界が訪れたアゲハは意識を失いそうになり頭を抑える。

(何だ……意識が飛びそうだ……)

 何故かアゲハは身動きが取れず、目の前の煙管を吸う髪の長い女の誘惑にかかったように何も出来ない。周囲には赤い煙が空間を満たしている。明らかにこの煙に神経性の毒が含まれているのだろう。その煙を扱う主は言う。

「さーて、死んでもらいましょうか」

「――!?」

 身動きの取れないアゲハはドーラクに首を飛ばされた。

 薄ら笑いをしながら煙管を吹かすドーラクの顔を見据えながらアゲハは自分の頭が床に転がったのを認識し、意識が閉じた。



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