六道の塔・餓鬼道
京都藩の周囲を取り囲むように六角形に立てられる六道の塔。
その塔はこの京都藩全体を外敵から霊気結界で守護するものだった。
その西の下側に位置する餓鬼の塔。
赤レンガを積み上げたような塔の最上階に赤い法衣を着た少年――いや、子供がいる。アゲハは子供を見つめるとその子供はニコッと笑い消えた。
「? ――!?」
すると、気配も無く背後に子供は現れた。
「これが餓鬼道。目にも止まらねぇ神速って事か?」
「そうだよ。お兄ちゃんは僕がその気になれば三回は死んでいた事を忘れないでね?」
「なら殺してみろよ。オレはお前の餓鬼道を奪いに来た悪魔だぜ?」
半身になり言うアゲハには餓鬼道の神速など恐れている節は無い。
ニコッと笑う餓鬼道のシュウは瞳だけは笑わせず、
「じゃあ鬼ごっこをしようか。永遠に捕まらない鬼ごっこだよお兄ちゃん」
そして、シュウの神速をひたすらに追いかける鬼ごっこが始まる。
すでに鬼ごっこというより、ひたすらにアゲハの防戦一方になる戦いになっている。
わざとゆっくりしている時には追いかけられるが決してアゲハの刃は届かない。
これだけのスピードに対しては修羅道の幻影も意味を成さなかった。
「ぐっ! がああっ!」
首の動脈や手首の動脈などを的確に狙ってくる。
血が滴る長ドスに嫌な霊気が満ちる。
ニコッと笑うシュウは腹を抱えて笑い始めた。
「……なんじゃこりゃ?」
何かが触れた頬を撫でると、黒いインクが手に染み付いた。
いつの間にかアゲハの顔はマジックペンで落書きされていた。
クソ餓鬼が……と思うアゲハは瞳を閉じ、この一分の全てを思い出す。
「どうしたのお兄ちゃん。動きが止まってるよ? 霊気は凄いけど隙だらけで光葉のようにはいかないね」
「そうだな。オレは光葉じゃねーからな。んで、お前は手加減してるな? 今の会話をしてる間に殺せたはずだ」
「……何の話?」
「こっからが本番だぜ餓鬼道シュウ。お前の気持ちを受け取り、餓鬼道を乗り越える」
それは流水の心を生み出し一つの答えに行き着いた。
「永遠に捕まらないなら、近付かせればいいだけだ」
すると、スウゥゥゥ……とアゲハは修羅道を使い幻影を生み出す。
「修羅道では僕には勝てないのは実証済みだよ。飽きたから死んでねお兄ちゃん」
ニコッと笑うシュウは赤い法衣を揺らし餓鬼道を発動させる。
瞬時に修羅道の幻影はかき消される。
(これで幻影は消したよ。後は本体を……!?)
そこには果てし無く無数の幻影のアゲハがいた。
流石のシュウも修羅道の幻影で空間を埋め尽くし本体が何処にいるかわからない。
「このおっ!」
激昂するシュウは全ての幻影を消そうと動く。
確実に本体は存在するが、その本体も全力で動き続けているらしく殺気が空間を観たしどこにから現れるかも検討がつかない。狂気に満ちながらも冷静に動くアゲハにシュウは動揺する。
「足が痛てーからここで終いだ!」
「!」
目の前に現れたアゲハは乱れ揚羽蝶をかました。
決着がついた二人は話す。
「僕の中から餓鬼道が消えた……これで僕は普通の人間だ」
「普通の人間上等じゃねーか。オレが道を返すまで普通の子供と鬼ごっこしてやがれ。全ての方がついたらまた鬼ごっこしようなシュウ」
「……うん。仕方ないからそういう事にしてあげる。光葉によろしくね」
その微かに瞳が輝くシュウの視線の先の羽化をし始める蛹は餓鬼道を後にした。
※
その刻限――清水城の天守閣では更なる若さを手にした老人が目の前を飛ぶ虫を見据えながら自身の鎮座する座布団の上で蠢いていた。かつて左右にいた家楼もおらず、この宮古一人ではこの冷たい霊気に満たされる三家楼の聖櫃も広く感じられる。
「……あの小娘も極楽浄土で半分の精神を汚染させて現実に何かをしたくても反乱が出来ない状態にしておる。これで煉獄の苦しみの中でワシを裏切った罰を永遠に受けなければならんのじゃ」
悦に浸りながら独り言を言う宮古の感覚に違和感が生じる。
「蝶がこんな場所に紛れこんで来ておる。最近はここでの出入りが多かったからのう」
パタパタと飛んで行く白い蝶を見据える宮古は呟く。
その蝶は宮古の伸ばされた手に吸い寄せられるように近づいて来る。
その手には甘い蜜などは存在せず、他者の全てを奪い去る悪意しか存在しない。
ふと、宮古は光葉と弟子のアゲハを思い出す。
「可能性の揚羽蝶……そんなものは存在せんよ」
ブチュウ……と宮古の右手で揚羽蝶は潰され、蒼と紅の炎がその死骸までを焼いた。




