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アゲハ  作者: 鬼京雅
百年老人編
17/67

六道の塔・修羅道

 京都藩の周囲を囲むように六角形に立てられる六道の塔。

 藩全体を霊気の結界で守護する六道輪廻を司るそれは、比叡山に流れる霊脈と共に重要なものだった。

 その西の上側に位置する修羅の塔。

 その内部には六道輪廻の内、一人のどうが存在しそれはこの京都藩を囲む後五本の塔の現世六道も同じである。赤い色のレンガを積み上げたかのような修羅の塔の最上階にいる赤い法衣を着た黒いセミロングの髪を揺らすイチノの感覚に違和感が生じた。

「……この修羅の塔に賊? 信じ難いですね」

 先日の光葉を輪廻封印式に封じ込めた件でイチノは自分の行為を自分で攻めていた。今まで光葉こうようの事を影ながら慕い、世界の果てとの安定を保つ上での現世六道という人柱になったが光葉だけがイチノにとっての心の支えだった。

 常に光葉は特殊な能力者ではなく一人の人間として自分を認識し、同時に光葉も同じ六道輪廻という世界の果ての力を持っている事からイチノにとって光葉は言葉には出せなかったが光葉を愛していた。そのもう届かない感情をかき消すように一人の少年の声が耳に響いた。

「よう、お前が修羅道だな? オレはアゲハ。お前さんの修羅道を奪いに来た道場破りだ」

 肩に刀を担いだまま言う紫色の髪の少年は威風堂々としていて隙があるようで隙が無い。

(この少年の霊気……まるで光葉のように強い。いや、狂気があるようで無い……一体、この少年は……)


 明らかにアゲハの霊気は増していた。

 それは普通ならあり得ないほどの霊気を身に纏っている。

 まるで聖光葉の絶大な霊気を受け継いだように――。


 一つの大きな覚悟を持つアゲハの鋭い瞳は六道輪廻という世界の果ての力とて恐れてはいなかった。

「私は修羅道を司る現世六道のイチノ。光葉とは親交があったがもう光葉はいない。ここに来た以上弟子のお前にも死んでもらうよ」

 スススッ……と一人であるはずのイチノは二人、三人へと分身するそれは修羅道の極意である幻影であった。茫然とそれを眺めるアゲハは、

「六道輪廻の全てはもうこの目で見てんだ。修羅道は幻影を生み出す技。お前の真似をしなくても俺には出来るぜ……」

 同じようにアゲハもスススッ……と幻影を生み出した。

 初めての試みにも関わらずアゲハは修羅道を発動させた。

「一通りの人生における修羅の道は味わったようだね。でも、真似だけじゃ修羅道は得られないよ」

 そして二人は激突する。

 二人の幻影は生まれては消え、生まれては消える。

 互いの刃が相手の本体だと思う幻影を斬り裂いては新しい幻影が生まれる為に幻影を生み出す精神力が切れた方が負けである。

「六道輪廻は現世と地獄の間にある世界の果てにある世界。それをたかがお前如きに使えるはずがない」

「使えるか使えねーかはオレの覚悟次第だろ?」

「聖光葉は特別な存在だ。全ての柊の頂点に立ち、この日本人全ての人間に自分の殻を破り世界で戦える自分を要求する強き者。そんな存在を超えられるとでも思うのか!」

「今は無理でもいつかは越える……その思う心と行動が一つになりそれを継続させるのが光葉が廃県置藩に望んだ、鬱屈した世界から奇士を生み出すって事だろ?」

「……黙れ。無理だ……お前なんかに修羅道が使えるものか!」

「六道輪廻の一つ、一つじゃ勝てなくても六道輪廻の全てを手にしたらどうだよ? 要するに聖光葉ひじりこうようと同じ力を持つって事さ」

「お前は弟子だ! 光葉ではないっ!」

「光葉を特別扱いすんじゃねぇ! あいつだってただの人間だぞっ!」

「!?」

 瞬間、アゲハの身体が流れる水のように滑らかな動きになり残像が浮かんだ。

 この水のようにしなやかで強い動きにイチノは驚く。

「流水の動き!」

 この光葉が得意とする流水の動きはすでに宮古に破られている。

 宮古も流水の動きは見切れたわけではないが、極楽浄土の広範囲の炎で対応し攻略した。

 アゲハは意地でもこの流水の動きをもう一度宮古に見せてやると決意し、このイチノで動きを試した。 流れるように動き続けるアゲハは師の暖かな言葉を思い出した。

『流水の動きの本質は心です』

「つまり、こういう事だろ光葉?」

 アゲハは修羅道の幻影を切り裂き、超直感を生かして確実にイチノに刃を入れる。

 対するイチノは流水の動きを捉えられずまるで師を越える気でいる少年に対応出来ない。

(この男は柊であって柊ではない。超直感など才気がある人間なら誰しも持っているような能力。普通の人間と柊の狭間に存在するような男……これは新しい人種じゃないのか?)

 瞠目するイチノはまじまじとこの当たり前のように修羅道を使いこなす少年に見入る。

 聖光葉のように我が道を行く男ではあるが、その道は光葉とはかけ離れている。

 光葉がまず自分で道を作りそれに人が続くタイプだとするなら、このアゲハは左右の人間と共に道を進むタイプである。

(柊によくいる傲岸不遜さもあらず人間における異能を持つ者への不信感もない不思議な男――そうだ、光葉も普通の人間なんだ。それを私は特別視して光葉を独りにしていたのかもしれない――)

 過去の寂しげな光葉の微笑を思い出しだイチノは修羅道としての役割を果たす。

 流水の動きを続けるアゲハは修羅道の幻影を生み出し始めた。

 流水の動きの応用に修羅道があるという事を超直感で確信していたのである。

 戦いの中で成長する蛹の少年を見据え――。

「本体はここね!」

 フッ……と現れた殺気を持つ背後のアゲハを刺した。それは幻影と消える。

「殺気を持つ幻影? まさか光葉並に修羅道を扱うとはね――」

 その光葉の弟子にイチノは敗北した。

 倒れるイチノは肩の荷が下りたかのように呟く。

「修羅道の基本は完璧だわ。後は他の道と戦う時にならせばいい」

「あんがとよ。イチノのおかげで六道輪廻を会得する自信が出来たぜ」

 刀を納め大きく息を吐き出すアゲハはイチノの傷口に懐から傷薬を取り出し、法衣の胸元を躊躇い無く開いて白い小ぶりな乳が露になるイチノは唖然としつつ傷薬を塗られた。

(本当に子供だな……こんなにも堂々と女の裸を見ても何も思わんとはね)

 少々自分の裸に反応しない少年に傷ついたが、光葉も生涯女とは交わらず童貞であった事を思い出した。果たしてこの少年はいつまで性に興味が無く過ごせるだろうかとも興味を持つ。そして、光葉の顔を見た輪廻封印式の時を思い出した。

「……あの時、輪廻封印式をわざと私だけ弱くしたのは間違いだったのだろうか……」

「間違いじゃねぇだろ? 惚れた男を助ける行為に善も悪もねーさ。言いたい奴には言わせておけ」

「お前は……本当に不思議な男だな」

 イチノの法衣の乱れを直し、アゲハは修羅道を得て修羅の塔を後にした。



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