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アゲハ  作者: 鬼京雅
百年老人編
12/67

紅き援軍

 村塾の祠を脱した京雅院きょうがいんの生き残りは宮古の極楽浄土によって籠絡された源空会げんくうかいの実働部隊の頭・是空が知るアジトに向かう為、雑草が生い茂る琵琶湖の外周を移動し大江神社を目指す。

 その最中、一人の黒い忍装束のショートボブの少女が微かな笑みを見せて現れた。

 逃走をする集団の一人がその顔を見て呟く。

「京子さん?」

「そうよ」

 京子が現れた事により京雅院きょうがいんの面々は源空会の連中を安心させた。

 周囲の人間はこれで大江神社までのルートが安心だと思い気が抜けて座り込む者もいる。

 背中の二刀小太刀を抜いた京子は逆手に刀を構え、ゆっくりと談笑さえ始める面々に近づく。

 二刀小太刀の美しい死神の刃が周囲の人間の衣服を切り裂いた。




 地下の爆発を貯水タンクの漏れによって出来た水中にいて何とかダメージを少なくして乗り切ったアゲハは生きていた。しかし、目の前に現れたすでに死人である達磨甲人や土竜の十座などが極楽浄土により復活し立ちふさがる。極楽浄土は死者の遺体か生前の使いこんだ遺留品か細胞があれば復活できるらしい。紫色の髪をかくアゲハは、

「……あー腹減った。キンキンに冷えたマックシャイク飲んで、熱々の塩のたっぷりかかったポテト食って、濃厚なてりやきソースまみれのテリヤキバーガーを食いてーぜ。お前達はどう思うよ?」

 しかし、言葉が話せないのか瞳が蒼い炎に染まる死兵達は無言のまま各々の獲物を構える。

「全員だんまりかい。さーて、誰か清水城まで送ってくんね? 無理?」

 その尋ねにも無論反応は無く、一斉に死兵達は襲い掛かる――瞬間、赤い着物のような和柄のスポーツカーが現れた。

「――!?」

 迫る死兵達は車に弾き飛ばされる。

 誰だ? と思うアゲハは目を細め謎のスポーツカーの運転手を見据えた。

 運転手席の窓が開き赤い長い髪の美少女が現れた。

「ワカナ……助けてくれんのか?」

「完全にあの宮古が京雅院の全てを担っているらしいからね。この仕事は完了してから残りの半額が入金される予定だからこれじゃタダ働きだし、私も変化する日本を見てみたいのよ」

「あんがとよ」

 一目散にアゲハはワカナのスポーツカーに乗り込み、極楽浄土に操られる死兵達から逃げる。

 赤い和風な柄のスポーツカーに乗り光葉が向かった清水城に向かった。

 アゲハは渡されたマックシェイクとてりやきバーガーを食いながら五万ね? という言葉を無視し京の今にも雨が降り出しそうな鉛色の空を見上げた。





 赤い和柄のスポーツカーが清水城を目指しフルスピードで加速する。

 京雅院の最大派閥の一つ十条はこの変化する京都藩の情勢をいち早く察し、宮古の独断で動く三家楼さんかろうの意のままに動いていた。ここでの出遅れは確実に変化する情勢から過去の遺物として残されるだけだからである。危機意識が高い十条の暗部面々はワカナとアゲハの乗る車を追跡する。

 走行する道路は各所で警察の検問が設けられ渋滞が発生していた。混雑していないのは京都藩から他藩に出る為の逆の道路だけである。

 車に搭載されるカーナビのモニターを確認しながら言うアゲハは言う。

「やっぱダメだな。全てのルートは混雑している。このままゆっくり進むしかないのか……」

 チラッとまだ遠くに見える警察による検問から発生する渋滞中の景色を見た。

 口元を笑わせるワカナは呟く。

「道ならあるわよ……空いてる隣の大通りがね」

「そんな道は――!」

 ハンドルを強く握ったワカナの目線で全てがわかった。

「逆送するわよ。何かにつかまってなさいな」

「逆送? 本気か!?」

 グッとワカナはハンドルを切り、清水城行きとは逆の車線に無理矢理車を乗り出した。アゲハはワカナの胸元に顔をうずめしがみつき、逆車線に出た車は衝撃で一瞬停止する。そして、向かってくる車を避けながら、一気に逆送を開始した。

「確かにこっちの車線は空いてるが……一歩間違えればお陀仏だぞ?」

「私の運転技術に不安を感じるの?」

「感じるに決まってんぜ。――うぉ! スリリングだ……」

「何か言いました?」

「独り言だ」

 この女は運転をミスする事なんて無いだろうとアゲハは思い清水城に着いた時の事を考える。京都藩の情勢は明らかに変化している。見知らぬ京都藩内でどこまでやれるかはわからない。自分には六道輪廻も無ければ極楽浄土も無い。あるのは柊としては異能といいがたい超直感だけである。

(……だがやるしかねぇ。光葉と二人でオレがサポートすれば何とかなるはずだ。奴さえ倒せば全てはハッピーエンドになるんだかんな)

 少しすると、トンネルに入り目指す清水城に近づいてきた。

 刹那――オレンジ色に染まっていたトンネル内がブラックアウトした。

「おいワカナ! 電気が消えたぞ!」

「わかってますわよ! シートベルトをしっかりしておきなさい! 直感でトンネル内を切り抜けますわ!」

「し、シートベルトはどこだ? ――ならば!」

「こらっ! さっきは見逃したけど……エクセレントぉ……!」

 咄嗟にワカナの股の中に顔を突っ込んだアゲハは必死にしがみつき、快感に瞳が揺れる照明の消えたトンネル内を抜ける事を祈った。ガンッガンッ! と対向車に車の側面がぶつかる衝撃が二人の全身に伝わる。

「……まだか?」

「光が見えたわ! もう少し!」

その声に多少安堵するが、対向車と擦れる衝撃が止んだわけでは無い。

「もうすぐ抜ける。もう大丈夫よ」

「そうか。この停電の原因は……」

 トンネルを抜けると同時に、アゲハは起き上がった。

(何か近くで音がする……)

 ふと、とれかけのサイドミラーを見た。やや上向きに変形するサイドミラーは、何かの接近を映していた。上空に現れたヘリから銀色の筒を担いでいる男がいた。

「ヘリからバズーカを撃った奴がいる! 右にハンドルをきれ!」

「くっ!」

 ズゴウンッ! と目の前のコンクリートに爆発と共に穴が空く。サイドミラーが取れた為、アゲハは直接後方の空を見た。

「あの十字のマークのヘリ……あの男は確か十条の幹部の十条清文じゅうじょうきよふみだな。バズーカの次はライフルか!」

 十条から放たれる弾丸が、車のボンネットを直撃する。

「十条ですって? まさか空から来るとはね。宮古はいるの?」

「いや宮古は見えない。おそらく十条の連中だけだろ。あのジジイが外に出るとは思えんぜ」

「十条は京雅院でも光葉派に継ぐ勢力で元々は京雅院の元締めだった。この機会に何とか過去の栄光を取り戻そうという事でしょうね」

「何っ? ――くっ! 撃つならBB弾にしやがれ!」

 前からの対向車と空からのライフル弾により、車の遠心力に揺られ身体が安定しない。

「奴の渾名は十蛇の十条。一度離れてもすぐに残りの九蛇が身体を縛るという逸話があるほど奴等の一族はしつこいぞ」

「俺達にヘリを撃墜させる武器は無―ぜ……どうするか?」

「方法ならあるわよ……」

 ハンドルを細かく左右に切るワカナは言いつつ、右のサイドミラーの位置を無理矢理変えた。ミラーに映る十条は、またバズーカを持っていた。不味い……と思いつつ、目の前に大きなカーブがあるのが見えた。

「方法とは何だよ? もう車が持たねぇ!」

「私達が死ぬ事よ――」

「!?」

 そのセリフと共に、車を減速させ、目の前の崖があるガードレールに直撃し穴が空いた。

 その穴をすり抜け、赤いスポーツカーは空を飛んだ。無論、死のダイブである。

 京都を目前に全ては終わった――。

 十条の乗るヘリはけたたましい音を立てつつ、落下し爆音を上げて燃え上がる車を双眼鏡で確認しその空域から姿を消した。





 雨の中を神速で駆け抜ける一人の男がいた。

 その男は白い羽織をそのスピードでさして濡らす事もなく京都の最大の悪意を放つ城へ向かう。餓鬼道の短距離瞬間移動とも言える神速を最大限に活用し、短時間で清水寺の前に立つ。

 降る雨の冷たさが周囲の霊気を刺激し、光葉こうようの瞳に陰りをもたらすように空は暗くなる。 そして一気に飛び上がった光葉は清水寺の屋根部分に立った。

 そのまま視線をその背後にある清水城に移し――。

「歴史的建造物でもここがある限り京の闇は浮かんで来ない。まずは開戦の狼煙と行きましょうか」

 六道輪廻の畜生道にて周囲の霊気を一気に光一文字光牙こういちもんじこうがに収束していく。

 明らかな外の霊気の流れの違和感に宮古は祭壇から飛び出し、窓枠から下界を眺めた。

 清水寺の屋根には憎き男が刀を天に掲げており、これから何かをするのが伺えた。

聖光葉ひじりこうよう……六道輪廻を解放させるつもりか?」

 その霊気の量は光葉の力もあいまって、かつてアゲハに見せた畜生道の比ではなかった。これこそが本来の畜生道の鬼神の力であった――。

「おおおおおっ!」

 雷鳴が天を割くように煌めくと同時に、その霊気の塊のような光の刃は清水城を一文字に断ち切った。

「……!」

 ズウウウウンッ……と重い地鳴りを上げて清水城は霊気の結界が破られ、城の左右が分断され互いが互いを支えあうように持ちこたえた。これほどの霊気を持った一撃は正に神と呼ぶに相応しい一撃であり、この攻撃に清水城の柊達は聖光葉の狂気に恐怖と感動を覚えた。ふと、久しぶりの本気を出した光葉は思う。


「この日本に大霊幕を張った時より霊気の量が衰えていますね。私の霊気も霊脈の開放に打ち震えた最狂時に比べると百分の一程度なのかもしれません。まだまだ霊気を引き出す狂気が足りません。以前の私を超えるよう、精進あるのみ」

「……ありえん。聖光葉……」

 その光景に息を呑む宮古はこれだけの事をして、日本国民だけではなく世界からもこの聖光葉は見放されるだろうと確信した。そしてこの全ての件を聖光葉の責任にすれば宮古長十朗は真の絶対正義として全ての人間に認識されるだろうという自信が沸き起こる。

「ワシのいる天守閣をわざと外したのか……ミサイルや細菌兵器すら受け付けない常に百の柊によって霊気の結界を張っていて尚、ここまで斬られるか。狂気……正に狂気じゃて。……聖光葉。決着をつけようではないか。早ぅここまで上がってこんか。本物の地獄というものを教えてやろう」

「望む所です」

 優しく微笑み、光葉は新たなオモチャを見つける純真無垢な子供のように餓鬼道の瞬間移動のようなスピードで、悠久の時を刻む清水寺の影にかくれながら清水寺を見下していた死の摩天楼・清水城の天守閣の闇の奥へとたどり着いた。



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