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アゲハ  作者: 鬼京雅
百年老人編
11/67

襲撃

「……爆発? 敵襲か?」

 連合の人間が休息する大広間で仮眠をとっていたアゲハは目覚める。

 周囲の人間達も天上の振動に気付きぞくぞくと目覚めて行く。

 ズウウウウンッ……という振動が幾度か続き止んだ。

 これは確実に敵襲でしかない。

「オレが警戒班に状況を確認してくる! ここにいる皆はいつでも動けるようにしておけ!」

 そう叫んだアゲハは刀を腰に差し下駄を鳴らしながら駆けた。

 すでに動き出してるであろう光葉の個室に駆け込む。

 すると、背中に狂も文字が映える白い着物を着た色白の聡明な男が愛刀の光一文字光牙こういちもんじこうがを腰に差している所だった。振り返る光葉にアゲハは言う。

「おい光葉こうよう! 敵襲だぞ! 傷はもういいのか?」

「まだ傷は完全ではありません。しかし、今はそんな事は言ってられませんよ」

「そうか……じゃあ、オレはどうしたらいい?」

「どうしたらいい? そんな事は自分で考えなさい。聖光葉ひじりこうようにここまでの手傷を負わせた以上、貴方はもうただのひいらぎではないのですよ」

 鋭い目で自分を突き放す光葉にアゲハは言葉が詰まる。

 外から奇襲をかけて来ているのは敵施設の爆破を中心とした自爆部隊だった。

 極楽浄土による精神支配があるから自分の身体が傷つく事もいとわない死兵であり、アゲハ達から見れば多数の仲間もいる為に簡単に相手を殺す事が出来ない。

 この人間の機敏な感情を利用しつつ相手を制するやり方は非常に狡猾であり、今まで百年近く人間という不可思議な生き物を見てきた者のやり口であった。目の前に自分の仲間が現れた場合、いくら操られているとはいえ殺すという反応は瞬時に起こせず、仲間を助けようと洗脳を解こうとするのが人の性。しかし宮古はその人間の性を大いに利用し相手を屠る道具にするだけである。

 数度の衝撃がこの四畳半の部屋に伝わり、男女の悲鳴が聞こえた。

 そして、その死骸を踏みつけ京子を頭とする死神達が村塾の祠に侵入した。

 だが、この二人は現状起きている事など忘れるように話す。

「アゲハ、もう黒百合くろゆり京雅院きょうがいんもありません。貴方一人の個がこの世界と天秤にかけるべき一つなのです」

「……」

「私にここまでの傷を付けた以上アゲハには私を超える才能がある。いい加減覚悟を決めなさい。貴方は――」

「たとえ力でお前を超えても、オレには人は導けない。オレはお前の背中を追ってるだけだからだ!」

目の前の師の全てから逃れるようにアゲハは走って逃げた。

 それと入れ変わるように是空ぜくうが入って来る。

「アゲハの奴はどうしたんだ? 戦いに行った感じではなかったぞ?」 

「ただ迷いがあるだけです。それよりも今の状況は?」

「今は東のゲートが突破されてる状況だ。連合の精鋭をぶつけているが、奴等は自爆を当たり前のようにしてきてかなり不利だ。ここを破棄し、源空会の隠しアジトに場所を移した方がいい。俺は大広間の怪我人達を誘導する。光葉は宮古を倒せ。そこまで回復すれば戦えるだろう」

「えぇ。わかりました」

 行こうとする是空に光葉は刀の鯉口を切り、右足を出し腰を沈める。

「是空さん。立ち止まってくれませんか?」

「……何故だ?」

「貴方は宮古に操られているからですよ」

 口元を嗤わせた是空は蒼い瞳で光葉を憎々しげに見据え、口を開いた。

「気付いていたか……流石は聖光葉。このまま私を始末するか?」

「どうやら、今は是空さんの精神が残っているようですね。でなければエリカを助ける事などせず、この施設にも早々に攻撃が始まっていた。中々敵の追撃部隊が来ないから判断を迷っていたのです。弟子には迷いを許さないのに酷いものですよ」

 自嘲するように光葉は笑う。そして宮古に支配されつつある是空は頭の激痛によろめきながら叫ぶ。

「行け光葉……この新しき人間が生きる時代を壊し、新しい芽を塞き止める老害を始末しろ!」

「……是空さん。感謝します。必ずや宮古を仕留めてみましょう」

 是空の意思は最後に生きていて光葉は一撃を入れ清水城へ向かった。

 そして瞳が蒼くなる是空はしばらくすると宮古に精神を奪われ動き出した。





 アゲハに迷っている時間などは無かった――。

 黒百合の自爆部隊は京雅院の顔見知りもおり、仲間が仲間を殺していく光景がアゲハに戦わねば、相手を殺さなければ死ぬという強迫観念が蔓延し京都藩の崩壊を否応無く思い知らせる。

 暗殺部隊・黒百合はすでに自我を失う死の兵隊であり、自分の命一つで敵の数人を巻き添えにして必ず殺戮する方法に村塾の祠にいる全ての人間に戦慄が走る。

 すでにどこのゲートが安全なのかもわかならないアゲハは怪我人を誘導しつつ刃を振るう。

「……極楽浄土の精神汚染で自我が無いから迷いなく自爆が出来る。遠距離で仕留め続けなければ屍を築くのはこっちだぞ! 銃を持ってる奴は打ちまくれ!」

 施設内にあるマシンガンを持つ人間は前方に出て黒百合達を狙撃する。

 東から敵が来た事により、その間アゲハは逆の西側の出口への脱出経路を確保する為に走る。

 この混乱する状況では光葉の事を先に考える事は出来ず、先に周りの仲間をどうにかして生かそうと躍起になる。

(光葉なら上手く脱出するだろ。問題は外に出たらもう宮古を倒さなきゃ未来が無いって事だ。光葉の傷はほぼ完治してる……やれるさ――!?)

 突如、遠くの方で地下施設そのものを揺るがすほどの大きな爆発があった。それは時間差で狭い通路を伝いこの現場の全員の耳に衝撃を与える。ゴオオオオッ! という何かが流れるような音がし、アゲハは西のゲートに向かっているとやがて床に水が流れ込んで来た。

「水道のタンクが奴らの爆発で壊れたな……このままだと溺れて死ぬぜ。皆、足元に気をつけろ! 更に水かさは増してくるはずだ!」

 十数人の集団が足場が水で浸る床を駆ける。

 視線の先には極楽浄土にかかる黒百合が無垢な悪意を持って現れた。

「殺しても恨みっこ無しだぜ」

 アゲハは超直感に頼り、自爆する兵を見定めながら特攻した。

 斬っては殴り、斬っては蹴りを入れ自爆する前に気絶させて命を救う。

 この甘さはいつか自分を殺すかもしれないが、自分の意思で相手に向かって来ない人間を殺すというのはアゲハの本質が許さない。

 それは師である聖光葉が言う自分の大義に殉じて生きているかどうかという事。つまり、目の前の連中は戦うに値しない存在なのである。数多の傷を負いつつも、二十人中三人の自爆だけに抑えられ耐えた

「……かはっ! うおおおおっ!」

 爆炎に呑まれながらも首元が焼けただけで大怪我はしていない。

 地下から脱出しようとする最後の難関を突破したが、まだ黒百合の生き残りは存在した。

 衣服は白い法衣のような姿で黒百合ではなかった。

 その男は蒼い炎を全身に煌めかせ、明らかに極楽浄土の影響下において話していた。

 男の名は現場の京雅院・源空会連合のリーダー是空だった。

 だが今は、宮古の意思が宿る傀儡である。

 その全てを超直感で察するアゲハは目の前の男の声を聞く。

「……フォフォフォ。ここまでの抵抗は賞賛に値するよ。こんな状況下でも光葉を頼らず戦い抜くとはのぅ」

「こっちも必死なのさ。連合を組んでる時点でわかんだろ?」

「おそらく光葉はワシの所へ向かっておるのじゃろう。癒えた怪我の状態ならワシに勝てるという判断。六道輪廻ではワシには勝てんよ」

「そんなのは戦いが終わらないとわかんねーだろ。世界の果てと地獄の力の決闘ならオレも見て見たいもんだぜ」

「ならば来るがいい。ワシから出向く手間も省けるからのぅ。この機会に地獄というものを味わってもらい死んでもらうよ」

「パーティー会場への招待か。光葉と二人でテメーは始末してやるぜ」

「フフッ、その意気込みが若さだのぅ……。我々の意思は繋がっている。ここで一気に自爆して水と爆発でこの地下を埋めつくす」

 是空の身体を借りる宮古の言う通り北、西、南の全ての出入口に自爆黒百合が存在した。

 それらの意思は全て宮古と繋がっていて、老獪な歪んだ笑みが浮かんだ。

 このままでは水攻めで溺れ死ぬ為にアゲハは一気に仕掛けた。

 狭い通路の中で剣の鋭い音が反響し、足元の水が互いの衣服を濡らす。

 一瞬後退したアゲハは下駄を相手の顔面を目掛けて飛ばす。

「……っ!」

 下駄と水滴が互いの視界にノイズを生み――。

「乱れ揚羽蝶!」

 嵐のような刃を片手を捨てて是空は受けた。一本の腕が飛び、アゲハは宮古の相手を思わない使い捨ての方針の怒りと、技の発動後の硬直で完全な隙が出来る。

「さらばじゃ――」

「!?」

 きらめく刃はアゲハではなく自分の胸を突き刺した。

 是空の胸には刀が何故か突き刺さり、宮古はその苦痛に精神も身体も支配しているはずの男に驚愕する。

「痛みで自我を取り戻した? この男……光葉並みの頑固者じゃて。じゃがこの水に埋もれたねずみの巣窟は終わりだ……」

 是空の強靭な精神力で宮古の意思は消える。

 しかし、是空の命の灯火は消えかかっていた。

 最後の力を振り絞り、目の前の少年を一人の少年ではなく男として見込んで言う。

「アゲハ! この地下通路からの脱出口は破壊された貯水タンクの奥にもある。そこは鴨川の水源と繋がっていて狭い水の流れを逆らって洞窟を抜けて行かなければらんが、そこなら敵にも会わないだろう。私は最後の命で全員の脱出をさせる……お前は先に清水城に向かえ!」

「……わかった! 後は任せろ是空!」

 二人の男は永遠の決別をした。

 そして、数分の時が流れ水に満たされる地下は大爆発を起こした。



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