表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アゲハ  作者: 鬼京雅
百年老人編
10/67

三幕~光の葉~

 比叡山の混乱を収めた光葉こうようは生き残る源空会げんくうかいの若き参謀である是空ぜくうと連合協定を結んでいた。

 比叡山は現在、宮古の駒となる千の傀儡黒百合くぐつくろゆりの面々が守護している。霊脈の力は特別なものだが、別段それを守護した所で力を得られるわけではないがかつての源空会のように比叡山の霊脈を守護するという事は世界的な信用と格式を得るのである。

 完全に比叡山の霊脈を宮古長十朗に乗っ取られた京雅院に籠絡された今、アゲハを含めた生き残り連中は極楽浄土ごくらくじょうどに操られる黒百合達が支配する京都藩の琵琶湖に近い大津付近にある地下・村塾の祠で生活をしていた。ここは光葉村塾の地下から繋がっており、もしもの時に備えた防災施設だった。

 地下施設の周囲を霊気で囲い人間の気配を消している為にそう簡単には見つかる事は無い。

 光葉の妹であるエリカは逃走の最中敵に襲われ京子とはぐれてしまった後、この施設に逃げ込んでいたようだ。今は宮古に長老を始末されていた源空会の是空がこの連合の総指揮を取っている。是空は共同代表である光葉をアゲハに貫かれた腹の痛みを治療する為に休ませた。

 この村塾の祠の備蓄する水や非常食の残りは切り詰めても後、五日分しかない。

 現在百名ほどの生き残りの命を繋げていく希望は五日ある。その五日の内に宮古長十朗を倒さなければこの全員に未来は無い。冷たい鉄の地面が広がる大広間は多数の人間が横になったりこれからの事を雑談していた。隅の方で壁によりかかりカロリーメイトのマンゴー味を口にするアゲハは独り言を呟く。


「……やってられねーな。あのジジイがこんな事をしやがるとは」

 出したくないのに出てしまう溜息はこの大広間のあちこちから聞こえ、アゲハの心を曇らせる。ここにいる全員は敵同士であったとはいえ人生の指針である組織に裏切られ、放逐された者達である。いくら戻りたくともこの閉鎖する京都藩の全てを担う老獪な男は他人の自己を消し去り、傀儡として扱う。

 その世界にまともな感情を持つ人間の生きる場所は存在しなかった

 もう一度溜息をついたアゲハはまだ見当たらない京子の存在を頭に思い浮かべながら光葉の個人部屋に向かう。

 その洋室のベッドの上には胸元を包帯で巻かれる聖光葉がいた。

 現世六道による輪廻封印式から抜け出した光葉は清水城の天守閣から飛び出し、外の堀の池の中を泳いで脱出した。まだ腹部の痛みが酷い光葉は来たるべき宮古戦まで温存する事に是空が進言をし光葉を休ませていた。

「どうしましたアゲハ?」

「……いや、特にどうしたってわけじゃねーんだ」

 そのアゲハの揺らめく瞳に光葉は怒りを滲ませる。

 ベッドの上でリンゴを手に取る光はそれを見据え――。

「実力も覚悟も今までの戦いでついたでしょう。地獄の炎を扱う極楽浄土には六道輪廻で対抗するしか方法が無い」

「その傷が回復すれば宮古の極楽浄土だって問題ねーだろ。あのじいさんをお前が倒して新しい京雅院を作ればいいだけだろ」

「もし、私で決着がつかなければ次は貴方しかいないのですよアゲハ」

 一切の妥協を許さぬ鋭利な瞳はアゲハの瞳をじっ……と見据える。ここまで光葉が自分に意思を求めたのは前に比叡山の霊脈から世界の果てに行き六道輪廻を手にする事を求められた時と同じである。

「オレは……」

「狂なるは死、死なるは狂! この戦いに自分の人生の全てを賭けなければ貴方はこれから先も何も手に出来ず、何にもなれない存在になるでしょう! 覚悟を決めるのは今ですアゲハ!」

 掴んでいたリンゴは握り潰される。まるでこんな近い距離にいるにも関わらず、二人の間には永遠に互いの手が届かない深い谷間が出来ているようだった。




 その頃、別室の資材置き場の隣の食料庫では一つの騒ぎが起きていた。

 この戦いの先の見えない陰鬱さが源空会の兵の心を歪め、今まで比叡山にて女を絶っていた男達は一人の茶髪の胸の豊かな女に狙いを定めていた。

「お前の兄がいなければこんな事にはならなかったんだ……だからお前には罪を償ってもらう」

 目が充血し、性欲を抑えきれない三人組みの男に対しエリカは微笑み言う。

「兄弟の連帯責任。というやつですねー。ここで貴方達の思いが収まるならいいでしょう。私の身体を使い果たすといいです」

 スッ……とポケットからエリカは一つの箱を取り出す。それはコンドームの箱で中からカラフルなコンドームを取り出し、エリカは配布した。戦いに興じる男の最後の拠り所は女の肌にしかない事を知っているのである。すでにエリカは幾度かこういうシーンに遭遇していた為、コンドームは常時持ち歩いている。だが、光葉の妹という事が露見すると過去に同じ事をした男達は行為をやめてしまった。しかし、この男達はコンドームを投げ捨てた。光葉を憎むこの男達にとって、その妹は恰好の標的であった。

「お前の中に注ぎこまなきゃこっちはやってらんねーんだよ! 気持ちよくなろうぜ!」

「そうだ、そうだ! やるなら生に限るぜ」

「よし、人が来る前に早く済ませようぜ。一人十分は楽しめるだろ」

 左右を囲まれ両腕を抑えられるエリカは抵抗が出来ない。正面の男が全裸になり左右の男はエリカの服を脱がせる。下着姿になるエリカは無言のまま抵抗せず、全てを受け入れる聖母のように目の前の欲望にくらんだ男の目を見据えた。

「……お前、全てを受け入れているかのような目だな。それだよ……その目が嫌なんだよ! 何でもかんでも見透かしたかのようなその目! 兄貴の目と一緒だな妹―――っ!」

 股間を怒張させる男はエリカの首を絞めにかかる。怒りで我を忘れている男を止めようとエリカを抑える二人も動く――が、全裸の男の首が鮮やかな鮮血を散らし飛んだ。

『――』

「規律を乱すお前達は死ね――」

 源空会の男がエリカを襲っていたが、突如現れた是空が三人を始末した。

 三つの首が落ち、血溜まりになる食料庫に欲望の匂いが消えた。

 赤い血がエリカの顔を濡らしている事に気付き、是空は白いハンカチを渡した。

「すまんな。私の管理不足だ」

「いいんですよー。殿方は戦争中はみんな下半身の欲を抑えきれないのは見てきてますから」

 言いつつエリカは白いハンカチで顔を拭い、剥ぎ取られた忍装束を身にまとう。

「……君は戦場で辱められた事があるのか?」

「ありませんよー。なんせ聖光葉の妹という事は知られてますから。その代わりに私の周りにいた女性に被害が行きましたけど」

 瞳の蒼い炎が揺れる是空は一瞬フラッ……とよろめき頭を抑えた。

「以後、このような事がない事を誓う。連合の仲間に対してこんな事をする奴は誰であろうと処分する」

「じゃあ、連合の人じゃなければいいんですかー?」

 微笑むエリカに答えられないまま是空はその場所を後にした。





 清水城の冷たい霊気が満ちる天守閣では一人の黒い着物の男が、黒髪のショートボブの少女を三家楼の祭壇から見下すように話していた。京子はあの後、エリカを光葉の地下アジトに逃がす為の囮になり宮古の傀儡になる黒百合に捕まっていた。まるで捕まえた鳥を火で炙り食う前の狩猟者のような舐めまわす顔で宮古は言う。

「君は別段、光葉に染まっておらず光葉を好いてもいない。自身が信用するものが強さだけだというのがわかる」

「それが私に極楽浄土をかけない理由?」

「君のような信ずるものが無い人間には精神汚染をかける対象が弱くコントロールする前に廃人になる可能性があるからのぅ。君はワシの私兵として使わしてもらう」

「ありがたき幸せ」

 片膝をつく京子は瞳を開いたまま冷たい床を見つめ、この城の魔王に忠誠を誓った。

 そして深夜――。

 村塾の祠のある地上付近に黒い忍装束の不審な連中が現れた。

 その群れは瞳が一様に蒼く、まるで意思の無い機械のように無駄無く進んで行く。

 その統率者である黒髪ショートボブの血の通わない無い人形のような少女はゆっくりと背中の二刀小太刀を抜いた。揺らめく満月に銀色の刀身の波紋がまるでこれから吸う血の量を自慢するように煌めいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ