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8話 帰るまでがクエストです

 とりあえず目的を果たした俺は城に戻る為、生い茂る草木を掻き分けながら森の中をひたすら進む。

 しかし、どこまで歩いても同じような景色ばかり。がむしゃらに進みようやく辿り着いた訳であるから帰りの道など覚えている筈がない。という訳で、俺は遭難中なのである。

 重たい足で歩きながら俺は覇気の無い声で呟く


「はぁ、はぁ…… 帰りの道など考えていなかった」

 シエルも同じく息を切らしながら呟き返す

「なんでこうなんのよ……」

「お前が方向音痴だからだろ?」

「なっ! 責任転嫁すんじゃないわよ!」


 俺とシエルの後ろを歩いていたルナはドラゴンを抱えたまま    


「森の出口でしたら、確かこっちだったと思いますが?」


 ルナは不思議そうな面持ちで正面向い右方向へ指差すとあっさり言う

 その言葉に俺とシエルはお互い顔を合わせたまま黙り込む


「な、なんですと?」


 そして俺は疑問の声でルナに問いかける


「ですから、帰りの道ならあちらですが――」

「なぜにいまさら!?」

「ひゃっ!」


 申し訳なさそうに言うルナにおもわず俺は突っ込んでしまう


「あぁ、すまん…… というか、何で知っていたのならもっと早くに言わなかったんだ?」

「どこか、他に寄り道があるのかと思ったので」

「この状況を見てどこに寄り道する余裕があるというのだ……」


 溜息を吐きながら肩を落としていた俺にシエルは声をかける


「まぁ、帰り道がわかったんならそれでいいんじゃない?」

「では、勇者様。こっちですよ」


 ルナは先頭に立ち道案内する。ルナもわざとしているわけではないので、余計に責め立てられない。

 ここが天然の痛いところだ。

 ガサガサと森の中を進む勇者御一行


「う~ん」


 腕を組みながら唸る俺にシエルは問いかける


「アホ面しながら何を悩んでるのよ?」

「城に戻って報酬を貰った後、俺は何をすればいいんだ?」


 目先の事ばかりで後の事は全然考えていなかった

 俺の呟きにシエルは首を傾げながら言う


「さぁ……」

「大体、これが終わったからと言って元の世界に戻れる保障はあるのだろうか?」


 考えていくにつれて俺は根本的な疑問を思い出す

 すると、話を聞いていたルナが不思議そうな面持ちで訊ねてくる


「あの、元の世界とは?」

「そういえば何も言ってなかったか。俺は別の世界から飛ばされてきたんだよ。そしたら、何故か『勇者』にされていたと……」


 俺は言う度に落胆としてしまう


「べ、別世界ですか?」


 俺の言葉にルナは目を丸くさせ驚いていたがシエルはこれといって驚くこともなく、何かを納得しているかのように頷きながら呟く


「あぁ、やっぱりね」

「おい、なんで素直に納得してんだ?」


 シエルの反応に俺は突っ込むと


「別に。だってこんな変態は見たことないし」


 薄ら笑いを浮かべながらバカにするような口調で言う。

 むしろ、バカにしている。


「こ、この野郎…… 少しは驚けよ」


 沸々と込み上げる怒りを抑えつつ俺は呟く


「そうね、驚いたわ。こんな変態が勇者だなんて」

「そこじゃねぇよ!」


 俺は身を乗り出し激しく突っ込んでしまう

 シエルはそっけなく疑問をぶつけてくる


「それで?」

「なにが?」

「ナニをする為に別世界から来たの?」

「お前は俺にナニを求めているんだ……」


 シエルとのおかしな会話をしながら暫く歩いていると先頭を行くルナが声を上げる


「勇者様、もう少しで着きますよ? 出口」


 ルナは振り返り笑顔で言う


「そうか。というか、もう少しって歩いてから一時間くらいしか経ってないんじゃ――」 


 俺はルナの言葉に疑問を感じる。

 何故なら森に入ってから目的地に着くまで軽く一時間以上はかかっていたからだ。加えてミーアに貰った意味不明な案内図とシエルの方向音痴ガイドで彷徨い続けていたのは確かである。

 するとルナは首を傾げながら当たり前のように言う。


「道はこっちで合っています。ほら、ここにも書いてありますよ」


 そう言ってルナが指差した先を見た俺は目を疑った


「……えっ?」


 視線の先には看板らしきものが立っている。近づき目を凝らしよく見てみると、そこにはこう書いてあった。

 『この先、出口あり』親切に矢印マーク付きで案内表示されている。こんなところに案内板があるんだったら早く言えよ。今までの数時間を返してほしいくらいだ、そうすれば無駄な労力を使わずに済んだものを……

 俺は案内板を前に肩を落とす


「な、なんてこった……」

「何よ、ちゃんとこういうのがあるんじゃない?」


 呟くシエルに俺は言う


「元はと言えばシエルが、あれやこれやと言うから迷ってしまったのだろう」

「はぁ? こんな落書きを頼ったから迷ったんでしょうが!」


 俺とシエルは互いに睨み合いながら言い合う。またも同じパターンのどうでもよい口論が始まってしまった。

 森の出口を目前にしてルナは二人の口論に戸惑ってしまう。

 ルナはゆっくり口を開くと  


「あ、あの…… 勇者様?」


 そんなルナの声も届かず


「大体ねぇ、報酬報酬ってそんなに欲しいなら自分で行きなさいよ!」

「そうは言うがシエルも付いて来ているではないか?」


 するとルナは大きく息を吸い込み


「話を聞きなさぁい!」


 大声で叫んだ


「おわっ!」

「わわっ!」


 突然に叫ばれ驚いた俺とシエルは会話が止まる

 ルナはニッコリ笑顔をつくり柔らかな口調で言う


「お二人とも、落ち着きましたか?」

「はぃ…… すみません」


 俺とシエルは力の無い返事しか出てこなかった。この時、ルナの新たな一面を知りシエルと俺は揃って『ルナを怒らせたらダメだ』という結論に至った。加えてルナは攻撃魔法専門である。それこそどうなるか分かったものではない、想像するだけで恐ろしい。

 そして、俺とシエルは黙ってルナの後ろを付いて行くことにした

 それから暫く歩いているとルナは足を一旦止め前方を指差す


「見えてきましたよ」


 俺はルナの指差す方向へ視線を向ける


「おぉ、やっと来たか」


 差し込む光、まさしくあれは出口である。ほっと安心すると俺は肩を撫で下ろした。

 俺はしみじみと呟く


「永かったな…… 苦労したぜ」


 隣を歩くシエルは溜息を一つ吐き捨て


「苦労っていうか、あんたは何もしていないわよね?」

「なんだと? 俺がここに来るまでどれだけの労力を消費したかわかって言っているのか?」

「いゃ…… そこを言っているわけじゃないんだけど、それこそ知らないわよ」


 予想外の返答にシエルは苦笑いをしていた

 俺の足は動きルナの前に立つといざ行かんとばかりに歩きだした


「まぁ、結果よければ全てよし。という事で行くぞ」

「やる気がでる時とでない時の変化が激しいわね……」


 俺の背中を見ながらシエルは呟く


「まぁ、細かい事は気にするな」


 そんな事を言いながら俺等は無事に森を抜ける事が出来た。

 恐らくルナと出会ってなければ無事に脱出する事が出来るという保障はどこにも無かったであろう。そこは素直に感謝である。森を抜け見慣れた大地へと出た訳であるが、ここでまた新たな問題が発生する。

 現在の目的としては『城に戻る』という事になるのだが、考えてみれば目的の城と関わり合いがあるのは俺だけである。シエルは道中に出会い行き先が同じだったから共にしていた、ルナに至っては困っているところを助けた恩として仲間に加わった。そして、何故か倒すはずのドラゴンまでも付いてくる始末だ。

 俺は歩きながら事の経緯を振り返りつつ頭を悩ませていた。


「どうしたものか……」


 俺に視線を向けシエルは言う


「ところで、その城はどこにあるの?」

「まさにそこで悩んでいたところだ……」


 さっきまでのやる気はどこにいったのだろうと言いたくなる程に俺は力の無い声で言う

 その言葉に沈黙するシエル


「……」

「どこに行けばいい?」

「知らないわよ!」


 突っ込んでくるシエルに俺は呟く


「ちっ、つかえんやつだ」

「あんたねぇ…… つかえるつかえない以前に、こっちは元から場所知らないのよ」

「クソッ! 城に戻れなければ報酬が貰えんではないか!」


 俺は悔しさをアピールするように地面を思いっきり殴る。だが、俺のアピールをシエルは呆れるどころか哀れむような眼差しで見つめていた。

 すると突然、脳内にイメージが過ぎった


「あれがあった」


 俺はハッと何かを思い出し口を開く。シエルも訊き返して来る


「あれ?」

「ガルスの森に行く為に描いてもらった地図があった」


 思い出したのはミーアに貰った意味不明な地図の存在であった


「えっ? あの落書き?」

「落書きでも一応は地図だ。それに今の頼りはこれだけなのだから――」


 言っている自分も何だか空しくなってしまう。

 現状で頼れるのがこれだけとは、むしろ頼れるのかどうかもわからないのだが……


「だが改めて見てもやはりよくわからん……」


 呟きながら取り出した地図を見ているとルナが興味深く覗き込んで来た


「これは何ですか?」

「何って、地図だよ。一応な」

「ちょっと見せてください」

「ほれ」


 興味を示したのかルナは地図を見ている。最も、俺が見たところで解読不可能である。

 そんな謎掛けの入った地図を食い入るようにルナは見つめていた。

 地図と睨めっこしてから数十分程が過ぎたころルナは顔を上げ俺に視線を向け言う


「あの、勇者様」

「どうした?」

「わかっちゃいました。城はあっちですね」

「マジか!?」


 さらっと言うルナに俺は驚き声を上げる。そしてルナは真逆の方角を指差していた


「間違いないと思います」


 ルナは笑顔をつくり言う。しかし、本当に正しい道であるのかという確証はまだ無い


「よし、わかった。他に宛てがあるわけでもないし、ルナを信じて行こう」

「はい、ありがとうございます」


 ルナは嬉しそうに言う。


「私の意見は聞かないわけ?」


 俺の後ろで不満の声を上げていたのはシエル。しかし俺はシエルの言葉など完全にスルーしていた。

 聞き流しながら俺はルナの言う方角へと足を進める


「こら変態! 人の話を聞けぇ!」


 無視され続けていたシエルは俺の後ろで叫びながら追って来る。

 俺は足を一旦止め振り返り一言


「いいだろう、話くらいは聞いてやる」

「なんで上から目線なのよ……」

「当たり前だ。俺は頼まれている側だからな、こうしている内にも労力を無駄に消費しているのだ」


 腕組みをしながら言う俺にシエルは必死になる自分が情けなく感じていた

 俺は改めて問う


「それでシエルの意見とは?」

「二つほど聞きたいんだけど」

「めんどくさい、一つに絞れ」


 即答する俺はシエルの質問をバッサリと切る。だが、シエルはお構いなしに言う


「とりあえず聞きなさいよ」

「仕方ない、一つだけだぞ?」

「だから二つって言っているでしょうが!」


 ボケに素早く突っ込みを入れるシエル。俺も渋々と話を聞くことにする。


「それでなんだ?」

「やっと本題ね。まず一つ、帰りの方角は逆だと思う」

「ふむ」

「二つ目、私は城に行った後ナニをするのか?」

「ふむふむ」


 俺は腕を組んだまま何度も頷きシエルの質問に耳を傾けていた。そして俺は口を開く


「なるほど。敢えて答えるならば、一つ目の質問。何故にそう思う? いや、そう思ったとしても行かん。また迷うのは勘弁だ」

「迷うとか何で勝手に決め付けてんのよ? まだそうと決まったわけじゃ――」

「見える! 俺には結果は見えている!」

 俺はシエルに勢い良く掌を広げ皆まで言うなと言わんばかりに言う

「それから二つ目だが…… ナニをするのかと言われると疚しい感じにしか聞こえんがどちらにせよ、行ってみないとわからんよ。もしかしたら本当にナニかする事になったり…… ぐはぁっ!」


 からかうように言ったつもりだったのだがシエルの勘に障り見事なストレートパンチが綺麗に直線を描き俺の顔面に炸裂し、数メートルほど飛ばされてしまった。


「とことん変態ね。油断も隙も無いわ」

「いってぇ…… 俺の綺麗な顔になんてことを」


 俺は思いっきり殴られた顔面を擦りながらシエルに言う


「何が綺麗な顔よ。そんな台詞を言えるキャラじゃないと思うけどね」

「こ、この野郎……」

「勇者様、大丈夫ですか?」


 顔を擦りながらゆっくり立ち上がる俺にルナは心配そうに言い寄ってくる


「あぁ、大丈夫だ」

「そうですか」


 俺は姿勢を正しシエルと向き合い


「まったく、やはり無駄な労力を消費したではないか?」

「あんたの考えがよくわからないわ……」


 俺の言動にシエルは心底呆れ返っていた。


「まぁ、いい。気を取り直して行くとするか」

「相変わらずに切り替えが早いわね……」

「勇者だからな」


 俺は誇らしげに呟いた

 意味不明な地図を解読したと言うルナの案内を頼りに俺は城へ戻る為、広い大地を再び歩きだす。


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