7話 ドラゴン現る
文章少し多めです
それからルナという新しい仲間を加えた俺は更に森の奥へと足を進めていた
ルナは不思議そうな面持ちで俺に言う
「あの? ところで、どこに行こうとしているんですか?」
「あぁ、ちょっくらドラゴン退治に」
さらりと俺は言い返す
「ド、ドラゴンですか?」
「うむ、そうだ」
シエルは隣で一つ溜息を漏らすと呆れながらに呟く
「報酬が無ければ動かない勇者もどうかと思うけれどね……」
「誤解を招くような言い方はやめろ。これは社会貢献と言うものだ」
「なんでそうも偉そうに言えるのか、不思議なくらいね」
突然、俺はある疑問を抱く
「そう言えばシエルは何でこの森に行こうとしていたんだ?」
「え?」
急に言われたシエルは俺の方へ振り返る
よくよく考えてみればシエルとは始めから一緒にいた訳でもないし、たまたま目的地が同じだったという理由で着いて来ただけである。しかし、どうしてガルスの森に向おうとしているのかは知らないのだ。
「それで、どうなんだ?」
俺の質問にシエルは首を傾げながら疑問の声を返す
「さぁ、なんでだろ?」
「いや…… なんでと言われても、俺が聞いてるのだが」
「だってほら、あれよあれ」
シエルはなにやらジェスチャーすると苦笑いしながら言う
「あれ? もしかしてと思うが、あれとはお仲間さんとはぐれてしまったことを言いたいのか?」
「……」
シエルは苦笑いしたまま俺の問いに口を閉ざす
なんとなく言ってみただけだったのだが、返す言葉が無いという事は図星みたいだ。というか、もしも俺がシエルと会わなければこいつは今頃あそこで倒れたままだったのか?
それ以前に何とも薄情な仲間だな
俺はシエルに同情の眼差しを向けながら言う
「なるほど、見捨てられたのか」
「なっ! なんでそうなんのよ!」
「だってほら、仲間とはぐれたって言うが誰も探しに来なかったわけだろ? それはつまり見捨てられたも同然だろう?」
「だ、団体行動が苦手なだけよ」
顔を真っ赤にしながらシエルは強がりを言う
そんな言葉を俺は軽く聞き流しながら呟き返す
「ふ~ん。俺には仲間に追いつこうとしたが方向が分からず迷ってしまいました、といった感じにしか思えないのだがね」
「そんなわけないわよ!」
「まぁ、確かにわからなくもない。だが気にするな、こんな回復しか能の無い奴が一人欠けたとしても支障など出ないはずだ」
必死に否定するシエルに俺は何度も頷きながら一人納得していた
「何も出来ないお飾り勇者にだけは言われたくないわね……」
「お飾りとは失礼な! シエルを助けたのは俺なんだぞ? それが命の恩人に対する態度か?」
俺の言葉にシエルは呆れ顔で溜息を吐きながら言い返す
「はぁ? 助けた? 襲おうとしていたの間違いじゃなくて?」
「ち、違う! というかルナに誤解されたらどうするのだ!」
「あの、勇者様?」
シエルと口論しているところにルナが声をかけてくる
「ん?」
「もう一度聞きますが、これから行く目的というのは?」
「どこって、ドラゴン退治だろ?」
俺は確認する様に聞き返すルナに言う
すると、ルナは俺の返答を聞くと顔を逸らし不思議そうな面持ちで呟く
「では、あそこに居るのは何なのでしょうか?」
そう言ってルナが指差す方を俺は辿る様に見てみるが、視界に入る光景に言葉が浮かばなかった
「…… はぃ?」
俺は間抜けな声を漏らしてしまう
なんか、羽の生えた龍が居るんですけど。あれか、あれがドラゴン?
恐らくそうなのかもしれないが、全然危機感を感じられない。むしろ、愛着感が湧いてきそうだ。
だってこんなにも――
「小さっ!」
おもわず突っ込んでしまった
俺の眼前には草木に囲まれスヤスヤと眠るコドモドラゴン。何だろう、犬に例えるならチワワ?
これはいくらなんでも……
「ドラゴンと言うからラスボス的な想像をしていたのだが…… 王様は俺に生まれたての赤子を退治しろと? とんでもねぇ勇者だな」
俺が色々と呟いていると脇でシエルが言う
「このくらいなら、あんたでも余裕で倒せるわね」
「倒せる倒せない以前に、人としてどうなのかと思うところだが?」
「一応、常識は持ち合わせていたのね」
シエルは何故か残念そうに言い返す
「てめぇ…… 俺をなんだと思ってんだ」
「私欲に溺れる変態ロリコン勇者」
シエルは満点の笑顔を作ると何の迷いも無くアッサリ言い返す
「このやろう……」
シエルを睨めつけながら俺は握り拳をわなわなと振るわせる
(どこまでもバカにしやがって、このガキは……)
しかし、よく考えてみればドラゴン退治すれば報酬が貰えるんだったな。ならば、ここは心を鬼にしてやるしかないか。そうだ、いくら子供とはいえ所詮はドラゴンなのだ。
これから何年か経ち成長すれば立派なドラゴンになるだろう。なるほど、大きく成長する前に退治しろという事なのか?そうだな、倒せば報酬。ならば、コドモドラゴンは金の塊でしかない。もはや慈悲は無い。
するべきことは一つ
覚悟を決めると俺はシエルに視線を向け
「シエルよ」
「なに?」
「このくらいなら例えシエルでも倒せるだろう?」
誇らしげに胸を張ると俺はシエルに言い放つ
その言葉にシエルは何を言っているんだと言わんばかりな面持ちをしていた
「ようするに、私にやれと?」
「うむ、その通りだ」
「ここまで来ても、戦う気を起さないって…… 呆れるわね」
小さく溜息を吐きながらシエルは頭を抱えていた
「あれ? そういや、ルナは?」
俺はキョロキョロとルナの姿を探していると
「あのぉ~、勇者様?」
どこに行っていたのかルナはガサガサと歩み寄ってくる
「ん? ルナ、今までどこに…… はっ?」
俺はルナの手元に目線をやると唖然としてしまう
「えぇ~っと、ルナさん? その抱えているのは何ですかね?」
「なんだか、ドラちゃんに懐かれてしまったみたいです」
天然なのか自然な笑顔で言うルナになんとも言い返せない
「な、懐かれた?」
俺は眼前の光景を見てあっけに取られていた
そこに居たのはルナに抱えられ気持ち良さそうに眠るドラゴンの姿だった。
退治するはずが手懐けてどうするのだ?しかも『ドラちゃん』って、すでに名前まで付けちゃってるし……
ペットか?まさか、ペットにでもするつもりなのか?
すると、ルナは俺の目をじっと見つめ訴える
「あの、勇者様?」
「な、なんだ?」
「ドラちゃん、連れて行ってもいいですか?」
「……」
予想通りの返答。しかし、俺は返す言葉が浮かんでこなかった。
やっぱりかぁ……
何ですか?その『お父さん、ペット飼ってもいい?』みたいな言い方は
それに、冗談で言っている様には見えない。
まぁ、確かに小型犬サイズなら害は無いかもしれんが、報酬も無いかもしれないではないか?俺には『ドラゴンを退治せよ』という重大なクエストが与えられているわけなのだが『ドラゴンを確保せよ』などとは一言も言われていない。しかし、気付いたらルナがペットにしちゃっているし俺はどうすれば……
色々と悩んだ挙句、俺は振り返り一言
「後は任せた」
振り返った先に居たのはシエル
「なんでいつも、最終決断は私に振るわけ?」
「ファイナルジャッジの権利を譲る」
「そんな権利いらないわよ! むしろ迷惑だわ」
俺は一息間を置くとシエルを指差し言う
「勇者として選択権をやろう。このコドモドラゴンを倒したあと報酬の10分の1を山分けするか、そんな事は関係ないと容赦なく叩き潰した挙句ルナに攻撃魔法を喰らうか、好きな方を選ぶがよい」
「ウルフの時も思ったけど『勇者として』って、あんたの勇者的行動は相手に選択権利を与えるだけなの?」
呆れながら言い返すシエル
そんなシエルに俺は誇らしげな態度で言う
「ふっ、勇者から選択の権利を貰えるだけでも光栄なのだ。それでどうする?」
「それに大体、その選択自体も平和的解決じゃないわよね?」
「バカ言え、この俺が報酬を山分けすると言っているのだ。それだけでも平和的だろう?」
深く溜息をつきシエルは言い返す
「10分の1って、9割方は自分の取り分でしょ? 山分けと言わないと思うけど」
「貰えるだけマシと思え!」
「吹っ切れたわね…… それ以前にこの選択肢って、どちらをとっても退治することになるんじゃない?」
シエルは何気に的確なところを突いてくる
俺は少し間を置いて考える
「ならば、どうする?」
「本当に平和的解決をするんだったら、この場合は連れて行くという事でいいんじゃない? 特に害も無さそうだし」
シエルのファイナルジャッジは『一緒に連れて行く』だった
「バカな、害が無くても報酬が無くなるんだぞ!」
「あんたはどこまで貪欲なのよ……」
「な、なんてこった……」
シエルの言葉に俺は酷く頭を悩ませてしまう
すると話を聞いていたルナは表情を明るくさせて言う
「連れて行っていいのですか? ありがとうございます!」
「えっ? い、いゃ…… なんというか」
ルナの笑顔に俺は苦笑いしか出てこない
そこへ付け加える様にシエルは言う
「懐かれているんだったら問題ないでしょ? それにドラゴンだし、なにかと戦力になったりするかもよ」
「ん? なるほど、そういう考え方もあったか。確かにドラゴンは良い戦力になりそうだし、俺が戦わずにことは済みそうだ」
シエルの何気ない一言に俺は突然どうしようもない事を閃くと考えを改める
「……」
うんうんと頷く俺をシエルは冷ややかな眼で見つめていた
俺は掌をポンっと一叩きすると
「そうか、あれだな。ドラゴンはルナに一時預かってもらい王様には無事退治してきましたと報告すれば難なく報酬は貰えるわけだ。完璧だな、よしそれで行こう」
「なんで、そう言うことだけ頭の回転が速いのよ……」
「まぁ、勇者だからな」
俺は腰に手を当てながらドヤ顔で言う
「そうとわかれば行くぞ」
その場から離れるように再び歩きだす俺の背中へシエルは声をかけてくる
「行くって、どこに?」
「そんなの決まっているだろう。城に戻るんだよ、ほら行くぞ」
「行くぞと言われても、私はその城と関係ないし――」
首を傾げ言うシエルをよそにルナはドラゴンを大事そうに抱えたまま歩み寄ってくる
「はい、ご一緒します」
「そうか。じゃぁ、行くか」
そう言いながら歩きだす俺にルナは疑問の声で問いかける
「あの、シエルさんは?」
「あぁ~、関係ないとか言っていたからな」
「でも、モンスターとかも沢山居ますし危ないかと」
心配そうに言うルナに俺はあっさり言い返す
「大丈夫だ、怪我しても得意の回復魔法で治せるだろうからな。それに蘇生術も持っているくらいだ、簡単に死にはしない…… がはぁっ!」
ルナに語りながら歩いていた俺は突然、背後から華麗なるドロップキックを喰らい数メートルほど飛ばされ前方の大木に体を打ちつけられた。ぶつけた腰や頭を擦りながら体を起し振り返ってみれば凛として立つシエルが居た
シエルは俺を睨めつけ口を開く
「言いたい放題言ってくれちゃって……」
俺は未だ痛む腰を擦りながらシエルと向き合い
「いてぇな…… なんだよ、いきなり」
「まったく、勝手に行くんじゃないわよ」
シエルの台詞に俺は含み笑いで言う
「ん? なんだ、寂しいのか?」
「べ、別に寂しくなんてないわよ!」
「そうかそうか、方向音痴では森を抜ける前に倒れるかもしれんからな」
俺は何度も頷いていた
「な、何でそうなんの! べつに私は!」
「わかったわかった。話の続きは城に戻ってから、ゆっくり聞いてやるよ」
「では、勇者様」
「うむ」
ルナの一言に俺は再び歩きだす
クエストも一応は達成?したということにして報酬を貰いに帰る。
シエルは俺とルナの後を追いかけるように叫びながら着いて来ていた
「ちょ! 待って! 人の話を最後まで聞きなさいよぉ!」
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