4話 迷いの森-1-
「この道を行けばどうなるものか――」
「知らないわよ。というか、さっきから同じ事を言ってない?」
「行けばわかるさ」
ガルスの森に足を踏み入れてから大分立つのだが、ずっと同じところを通っている気がしてならない。まるで迷いの森だ。まして、隣には方向音痴ガイドが居るのだからな。
思うがままに進むしかない訳である。
俺は振り返り後ろを歩くシエルに問いかける
「ところで、お仲間達と連絡を取れたりはしないのか?」
「えっ? まぁ、出来なくはないけど」
「出来たのかよ! なら、もっと早く言えよ!」
「だって聞かなかったじゃない?」
真顔でごく普通に言い返すシエルへ俺は激しく突っ込みを入れる
(まったく、つくづくつかえんやつだ……)
「よし、そうとわかれば早速連絡を取るのだ」
「わ、わかったわよ…… あれ?」
「どうした?」
シエルは渋々と通信器を取り出すのだが表情を曇らせる
「…… 圏外みたいね」
「なんですと?」
「だから、圏外」
「……」
二人の間には妙な沈黙が訪れ、俺はシエルが持つ通信器らしき物を見つめながら考える。
電波なのか?てっきり、俺は魔法的な手段でコンタクト取るのかと思っていたのだが、世界が変わってもやる事は同じなのか?魔法がある世界でも文明の機器に頼るとは……
その通信器は現実世界でいう携帯電話みたいな代物なのか?
大体、その電波がどこから来ているかも疑問になるのだが。
結論が出ないまま改めて俺はシエルに訊く
「なら、魔法とか出来ないのか?」
「まぁ…… 出来なくもないけど」
「よし、ならば問題ない。それで行こう」
「でもほら、前にも言ったけど私は回復系専門だから」
またもあっさりシエルは言い返す
俺はシエルと通信器に何度も目配りしながらまた考えていた
そうだった、忘れていた。いや、シエルも回復系専門とか言うが少しは違う魔法も覚えておけと言いたいくらいだ。何故にそっち専門?むしろ、シエルが攻撃専門だったら、俺の出番が少なくて済んだ気もするんだが……
再三考えて出した結論を俺はシエルの眼を真っ直ぐみると言う
「本当につかえんやつだ」
「自分で何もしない勇者もどきに言われたくないけど」
「もどきとは失敬な! 俺は勇者なのだ!」
すると、その言葉にシエルはニヤリと笑みを浮かべ口を開く
「わかった、勇者なら後は大丈夫よね?」
「…… ん?」
「勇者は一人で何でもこなせて当たり前でしょ? まして、ドラゴンなんて相手にもならないはずよねぇ? 勇者なんだし」
シエルはクスクスと笑いながら思いっきり嫌みを言う
「……」
嫌みを言われ怒りすら感じる俺だが返す言葉が瞬時に浮かばなかった。
この野郎…… チクチク痛いところをついてきやがる。確かに俺は勇者だ。だが、しかしそれは気付いたら『勇者』にされていましたというだけであって自分から選んだ訳ではないのだ。もしも、この世界へ飛ばされた時に職を選べたとするならば俺は迷わずに村人Aあたりを選ぶだろう。平凡かつ安全で、たまに訪れた勇者様にでたらめな情報を流してみたり、そんな立ち位置が一番だったのだが
俺はそんな事を考えながらシエルと向かい合い一言
「まぁ、あれだ」
「なに?」
「勇者にも出来る事と出来ない事があるのだ」
「ようするに、やりたくないだけでしょ?」
シエルは呆れながら言い返す
「違う! 少し体のコンディションが悪いだけなのだ!」
「どう聞いても、やる気がありませんとしか聞こえないわよ……」
「だが、今回は仕方ない。事情が事情だからな、行くしかあるまい」
そう言いながら俺は再び森の奥へと進んで行く
俺の隣に並び歩くシエルは溜息を吐きながら言う
「はぁ、切り替えの速さだけは呆れる程に凄いと思うけど、その動力源は『金』なの?」
「バカめ、世の中は金で何でも支配出来るのだよ」
「肩書きは勇者のくせに考え方は悪魔ね……」
そうシエルに言い返す俺の瞳には金の一文字しか浮かんでいなかった
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