2話 眠れる旅路の幼女
「うーむ、この辺りなのだろうか?」
またも俺は唸っていた。
地図を見る限りではこの辺り、どの辺り?地図自体が意味不明だから何の意味もない。
これでは城にすら戻ることが出来なくなるのではないだろうか?そんな事すら思ってしまう。
俺は辺りを見渡しながら呟く
「困ったな、ガイド役でも居てくれれば非常に助かるのだが…… ん?」
誰か倒れているぞ?女の子?モンスターに襲われたのか?
俺は仰向けになって倒れている女の子まで近寄ると耳元で声をかける
「おーい、大丈夫かぁ?」
「……」
「返事がない? まさか!」
俺は一旦、体を離すと女の子を見下ろす姿勢をつくる。
しかし随分と幼い顔立ちだな、目を瞑った表情が可愛いし、何よりこの桃色ツインテールが俺の萌え魂をくすぶってくれる。だが、脈はあるみたいだ。生命に異常はないか。
でも息をしていないぞ?
ならば、ここで俺が取るべき行動は一つ
「マウストゥマウス!」
何故かガッツポーズをとる俺、行き着いた結論はこれしか浮かばなかった。
眠れる森の少女とかだって王子様の口付けで目を覚ましている訳だし、ならば眠れる幼女さんも勇者様の口付けにて目を覚ますに違いない。うん、きっとそうだ
そう言って自分を納得させつつ俺は女の子へ近づいていく。
さて、救済準備も整ったところで
「いざ、夢の世界へ――」
そして眠れる幼女の眼前に俺は少しずつ顔を寄せて行く
だが、禁断の果実まであと僅かと言うところで女の子から微かな息が漏れる
「…… んぅ?」
「へっ?」
次の瞬間、微かに目を明けた幼女さんに俺は腑抜けた声を漏らしてしまう
数センチの距離で目が合う両者
そして――
「キャァァァァッ!」
「ギャァァァァッ!」
お互い幽霊でも見たかのような大きな悲鳴を上げてしまう
女の子の大きな声に驚き腰を地面に打ち付ける俺と、目を覚ましたら突然に知らない男が目の前にいたという事に驚きをあげる女の子。
少し間を置き、多少落ち着きを取り戻したところで両者は再び目が合う
「ふぅ~、びっくりしたぜ…… なんだ、目が覚めたのか?」
「あ、あんた誰よ!」
「ん? 俺か? 俺は通りすがりの勇者だ」
「……」
自信満々に言う俺の言葉に女の子は頭に『?』マークを浮かべながら呆然としていた。
そりゃ、驚くだろうな。突然出会った人物が勇者だなんて聞かされれば誰だって驚くはずだ。掴みは抜群だ、何事も第一印象が大事というからな
すると、ようやく口を開いたかと思ったら女の子は呆れた声で言う
「バカじゃないの?」
「はっ?」
「どこに寝ている女の子を襲う勇者がいるの?」
「な! あ、あれはだな…… 勇者としての人助けだ!」
「ただの変態じゃない?」
まるで汚物でも見るような眼差しを向けてくる
こ、この野郎…… 可愛い顔しているとはいえ言っていい事と言って悪い事があるのだ。
しかも、どう見たって俺の方が年上だよな?見た目は小学生でも行けそう出し、何か下からバカにされるのは余計に腹が立つ。
俺は怒りを最小限に抑えつつ苦笑いで言い返す
「ま、まぁ…… このくらいでは怒らんよ、勇者だしな」
「変態」
「…… 大丈夫、勇者は心が広いから」
「ド変態」
「だ、大丈夫……」
「怠け者」
最後に言われた単語に俺はピクリと反応する
(……ん?怠け者?ひきこもり?ようするに……ニート?)
「えぇい! さっきから黙って聞いていれば、俺は怠けてなどいない! 少しの間、力を温存しているだけなのだ!」
条件反射的に俺は声を荒げてしまう。すると女の子はバカにしたような眼つきで言う
「…… それを怠けていると言うんじゃない?」
「否! 断じて違う!」
(この女…… いつかコロス)
「ところで変態勇者さんは何しているの?」
「それはこっちが聞きたい。あと、俺は変態勇者じゃない。弐伊都勇と言う名前がある!」
「弐伊都ねぇ…… 名前から怠けている気がするけど?」
「言うな……」
流石に最後は言い返す事が出来ず俺は肩を落としてしまう。
確かに否定は出来ん。俺もどうして、こんな名前なのか知りたいくらいなんだから。
大体、弐伊都とか変な名前のせいで付けられたあだ名は『ニート』
まぁ、今となってはあだ名でも何でもないのだが……
改めて俺は訊いてみる
「じゃぁ、キミの名前は?」
「シーヴァ・エルシオンよ。 みんなはシエルって呼んでるけどね」
シエルはニコリと笑いながら答えた
「みんな? 他にも仲間が居るのか?」
「まぁ…… 一応」
何故か苦笑いで答える
「ん? 一応?」
「はぐれちゃった」
「はぃ?」
「はぐれちゃったの! みんなと!」
何故かシエルは顔を真っ赤にさせながら言い返す。その時、俺は悟った。
あぁ、なるほど。つまり、実際は団体行動をとっていたのだが何かの拍子で他の仲間達とはぐれてしまったわけか? それでこんなところに迷い倒れ込んでいたと?
何だかこの世界に飛ばされた時の俺みたいだな?少しながら同情するぜ
気になった俺は訊いてみた
「それで? その仲間達はどこに行こうとしているんだ?」
「えぇっと、ガルスの森?」
「…… マジで!?」
「はわっ!」
即答する俺の反応に驚き少し姿勢を崩すシエル。
これでようやく目的の場所へ行けそうだぜ。この地図は当てにならんし、ガイド役が居てくれると俺としても非常に助かる。ほっとした様子に俺は言う
「俺もそこへ行こうとしていたところなのだ。ちょっくら、ドラゴン退治に」
「はぁ!? ドラゴン? バカでしょ?」
「まぁ、いきなりドラゴンとか確かにバカだな…… だが、何故だ?」
俺の問いにシエルは大きく溜息を吐くと呆れながら呟く
「大体、レベル1って…… それ自体が無謀でしょ?」
「確かに…… 俺だってやりたくてやっている訳ではない! むしろ、めんどくさい。しかし、これは金の為、自由の為だ!」
「は、はぁ……」
「そういうことだ、森まで案内してくれ」
その言葉にシエルは苦笑いしながら一言
「そう言われても…… 場所知らないし」
「……」
沈黙する俺
「ほら、みんなとはぐれちゃったから――」
「…… なんですと!」
そして、我に返ると俺はシエルに突っ込みを入れてまたも頭を抱え込んでしまう。
また振り出しに戻るわけか?はぁ、これまためんどうだな……
もはや俺は溜息しか出てこなかった
「はぁ、仕方ない。やはりこの地図を頼るしかないのか? 不安だ……」
俺は地図を見つめながら脱力してしまう
シエルを仲間に加えた俺は、ミーアのくれた意味不明な地図を頼りにガルスの森を探すため再び歩きだす
感想・評価などいただければ嬉しいです