序章 お尋ね者の勇者
なんとなく書きたくなりました(笑)
感想など頂ければ嬉しいです
※こちらも不定期更新です
「ここを通りたければ、我を倒してから行け」
「…… いいよ、めんどくさいし」
俺は心底疲れ切った様子で呟く
旅の途中で、ちょっと疲れたから近くの城に立ち寄ろうとしただけだったのだが、どうやらここでは余り良いように歓迎されていないらしい。大体、なんで俺がこんなことをしなければならないのだ。つい最近までは家にひきこもってマッタリとネトゲとかしまくっていたはずなんだが、気付いたら勇者とか訳のわからんことになっちゃっているし。
俺が狂っているのか?世界が狂っているのか?
どちらにせよ、考えて現状が変わるわけもない
ところでいい加減に俺は城へ入りたいのだが、この門番様は一向に動く気配はないらしい。
むしろ、何気に戦闘モードへ移行しつつある
俺はかったるそうにゆっくり口を開く
「あのさ、だから俺は疲れてるし戦う気もないのだが……」
「勝手に城への入城は許可出来ん!」
眼前の門番様は仁王立ちで威勢よく言い放つ
随分と強きに槍を掲げるもんだ。如何にも『さぁ、どうだ』と言わんばかりな姿勢だ
まったく頑固な野郎だな……
「一応、俺は勇者だけど」
「勇者? バカか、そんな貧相な勇者がどこにいる?」
相手にすらされていない。門番様は薄ら笑いで言い返した
そう言われても、俺だって自分が勇者だという実感はない。なんせ、徹夜でネトゲをしていて起きたら知らない世界に飛ばされていたみたいで、何か装備しているわけでもない。
はぁ、考えていたら余計に疲れてきた……
めんどくさいな、とりあえずこいつには眠っていてもらうか
そう言いながら俺は門番様を指差し
「眠れ」
「……zzz」
俺の一言で門番様は一瞬にして、ぐっすりと眠りについてしまった
うむ、随分と寝つきが良いな。これで静かになったか。しかし、適当に言ってみただけなのだが、実際はこんな魔法なんて存在しないんだろう。それ以前にただ『眠れ』と言っているだけであって、これが『呪文』と呼べるかすら疑問になる。魔法を勝手に作った挙句に効能まで弄ってしまえるとは、便利な世の中になったものだ。
それ以前にここまで出来て俺のステータスがレベル1ってバカか?
そんな事を思いながら俺は城に足を踏み入れる
「さてと、門番様も道を開けてくれたし失礼させてもらうか――」
俺は堂々と門をくぐると大きく辺りを見渡す
流石は王族の城だ。活気が違うな。しかし、こう入って来たのはいいがどこに行けばいいものか。
確か、こういう時は案内人みたいなやつが一人は必ず居るはずだよな?
探すか、まずそこからだな
「だが、まずは休みたい……」
何度も溜息を吐きながら俺はうろついていた
こちとら急に異世界へ飛ばされ迷い続けて休む暇もなかったわけだ。まったく只でさえ、ひきこもりで俺は運動もろくにしないと言うのにこの仕打ちは何だいったい。
新手の嫌がらせか?誰の陰謀だ?誰が俺をこんなところに連れ込んだ?
自問自答してみるが答えが出るはずも無い。
すると、悩んでいた俺に可愛らしい声が聴こえる。
「どうしたの?」
「えっ?」
呼び掛けに反応するように俺は振り向くと視線の先には不思議そうにこちらを見つめる女性が立っていた。どうやら、何かしらあちらからコンタクトをとってくれる設定なのだろうか?設定かどうかはわからないが、とりあえず話を聞くことにする
「なんですか?」
「何かお困り?」
笑顔で俺に言い寄ってくる。
女性、というか女の子?これは耳が尖っている?あぁ、エルフか。現実世界にはまず存在しない、目の前で見ると異世界っぽいな。いや、ここは既に異世界だったか。しかし、エルフも可愛いものだ。
翡翠色の肩につくセミロングヘアと薄黄色の垂れ目が可愛い。
ここで疑問、何故に彼女はセーラー服?そして超ミニスカ?見た目はどう見ても現代っ娘じゃないか。
俺は女の子と真っ直ぐ視線を合わせると言う
「うん、困ってる。凄く困ってる」
「ここは初めて?」
「そうだ、何もかもが初めてだ。というか、そんな事はどうでもいい。俺は凄く疲れているんだ」
「そ、そうなんですか……」
(そこで簡単に納得されても非常に困るのだが……)
軽く話を流されそうだったので俺は再び言う
「いや…… だからわかるだろ? 俺は疲れているんだ」
「あっ、それなら私のところに来ますか?」
「いいのか!」
「え、えぇ…… 家は宿を経営していますから」
女の子は苦笑いしながら言う
よし、これで宿確保だ。とりあえず俺の目的は一つ達成だな
宿確保してしまえば後はマッタリしてればいいし、無駄な労力は使いたくない。
俺は見えない程度に小さくガッツポーズをすると女の子に言う
「さっそく、案内してくれ」
「わ、わかりました」
話が纏まったところで女の子は俺に背を向け『こちらです』と言いながら歩きだす
まったく、急に気が楽になったぜ。しかし、よく見れば城もデカイが、街も広いな
どの道、俺には関係の無いことだがね。
知らぬ間に勇者なんて位置づけされているが、平和が一番だ。
触らぬ神に祟りなしと言うし、厄介ごとはごめんだ。
痛いのは嫌だし、動くのも面倒だし、命令されるのは好きじゃ無い。
それから、案内されつつも程よく歩いているとレンガ造りの建物が見えて来た。二階建てだがそんなに大きくはないように見える。
「着きましたよ」
「おぉ、結構いい造りしてるな」
「部屋は開いていますので」
「そうか」
会話に区切りをつけた途端に俺は宿屋を前にふっと思う
ん?待てよ?部屋は開いている、ここは宿屋、そして泊まってよし。
導き出される答え、俺は金を払わねばならんのか?
普通に考えりゃ俺は客扱い、素泊まりになる訳だから支払い義務は十分にあり得る。
しかし、俺が持っている現金は現実世界の資金で異世界の通貨など知ったこっちゃない。
はて?これはどうしたものかね?
答えが出ないままに空き部屋の前まで来ると女の子は笑顔で俺に言う
「この部屋を使って下さい」
「お、おう……」
「それでは――」
部屋まで案内したあと女の子は軽くお辞儀して出て行く
う~ん、今は考えないことにするか。どの道、まだ払うと決まった訳でないからな。
さてと宿も確保したところで、とりあえずは一眠りでもするか。
◇
ベッドでぐっすり眠る俺に眩しい朝日が差し込む。むしろ、ひきこもり生活ばかりしていた俺にとって寝起きの朝日など久し振りに思えたりもする。突然に部屋の戸が開くと、未だに起きる気配を見せない俺に影が忍び寄る
「朝ですよ」
「んぅ…… もう少し寝かせてくれ……」
「起きてください!」
「おわっ!」
耳元で大きな声で叫ばれた俺は驚き飛び上がってしまった
顔を横に向ければ笑顔で俺を見つめる女の子
「おはようございます。起きました?」
「おかげさまで……」
「それは何よりです」
女の子はニッコリと可愛らしい笑顔で俺に言う。そして、俺は気付く
そうだ、俺は女の子がくれた好意に甘えこの宿で一泊していたんだったな。しかし、起きたら異世界に飛んでいたのに、どうして起きたら現実世界に戻りましたということにはならないのだろうか?まったく、なんて理不尽だ。
頭の中で愚痴っていると女の子が申し訳なさそうに言い寄ってくる
「あのぉ~」
「えっ? あぁ、わるい」
「お腹は空いてますか?」
「あぁ、腹ペコだ!」
問い掛けに即答する俺。なんせ、この世界に来てからほとんどと言っていい程に何も食べていない。
食べた物と言えば木に成っていた訳のわからん果物くらいか。
まともな飯にありつけるなら嬉しい限りだ。
この子に感謝だ。ん? そういや、名前とか知らないな
気になった俺は訊ねてみた
「キミ、名前は?」
「私はミーア」
「ミーアか、俺は弐伊都 勇。よろしくな」
「はい、よろしくお願いしますね。弐伊都さん」
(笑顔が可愛いなぁ、エルフもいいもんだ。)
「さて、軽く自己紹介も済んだところで本日最初の飯を食べに行くとするか」
俺はベッドから立ち上がると部屋を出て木造造りの階段を下りる。
一階に下りて食堂へ向うとテーブル上には何とも家庭的な料理が並べられていた。パンに卵焼きなど朝の定番メニューである。俺としては洋食より和食の方が好きなのだが、そこは仕方あるまい。
「ふぅ~、食った食った」
食後のコーヒーを飲みながら俺は言う
特にフレンチトーストは最高だったな。つうか、一つ気になるのが朝っぱらからステーキはどうなのか?
いや、流石にキツイだろ。まぁ、美味いのは認める。なんの肉か知らんが
食事も終えて俺はゆっくり椅子から立ち上がる
「さてと、腹も満たしたことだし…… もう一眠りするか」
「あの、弐伊都さん?」
「ん?」
いざ部屋へ行かんとしようとしている俺へ疑問の眼差しを向けるミーア
「どちらへ?」
「どちらって…… 部屋」
俺は少し顔を強張らせながら問い掛けに答える
なんだ、その眼は?俺に何か訴えようとでも言うのか?
訴える?まさか、宿賃を払えと言う気なのか?
俺はゆっくりと口を開く
「な、なにか?」
「少しお話よろしいですか?」
「…… なんの?」
何だか気になった俺は恐る恐る訊き返す
えっ?話ってなんですか?まさか『金払え』とかそう言った類のことなのだろうか?
ならば逃げるが勝ち。だが、そうしてしまえば俺はまたしても宿を失うことになってしまう。どうしたものか。
仕方ない、まだ何の話かわかっちゃいないんだし、とりあえず聞くだけ聞くか……
俺は言われるがまま木造造りの椅子に再び腰を下ろす
「どうぞ」
「――それで?」
「突然で申し訳ないのですが、お願いがありまして」
苦笑いしながらミーアは言う
「お願い?」
「はい」
コクンっと頷くミーア
ようするに頼まれことか?これまためんどうだな……
とりあえず、聞いてみるか
「どんな?」
「えっとですね、街の外れにあるガルスの森という場所にドラゴンが潜んでいるのです」
「ドラゴン? これまた、物騒な」
(……ん? ドラゴン?)
「そこで、弐伊都さんにお願いなのですが――」
「ちょ! ストップストップ!」
「はい?」
「もしかしてとは思うが…… お願いと言うのは」
「ドラゴン退治です♪」
物言う表情は嬉しそう、というよりは楽しそうだった
何故だ、何故そんな物騒な言葉を笑顔で言える。バカか?それ以前になんて言った?
ドラゴン退治だと?そんなもん、ゲームでなら山ほど倒してきたが実際にやってこいと言うのか?
あぁ、なるほどこれはクエストだな。そうだとすれば俺がとる行動は、ただ一つ
俺は真剣な表情でミーアを真っ直ぐ見ると一言
「だが断る!」
「えっ?」
俺の返答にミーアは驚いていた
クエスト要求は承諾するも断るもプレイヤーの意志次第であろう。
ならば、無理に危険な道を通ることはしたくない。
言われたミーアは何故か困った様子だった
「で、ですが…… 弐伊都さんは勇者様とお聞きしましたが?」
「俺は一言も言ってないぞ?」
「朝、このようなものが」
そう言ってミーアは一枚の用紙を差し出す。どうやら、新聞のようらしい
なになに?『勇者と名乗る不法侵入者。心当たりのある方はこの番号まで』
しっかり写真も載ってますがな……
どこで撮られたのか知らんが、ようするに俺はお尋ね者になってしまっているらしい。
門番様には顔がっちり見られてるしな、いっそ口止めしとけばよかったか?
渡された新聞を見ながら俺は少し肩を落とし呟く
「そういうことか……」
「弐伊都さんは勇者ではないのですか?」
上目遣いでミーアは言う
(いや、そんなに期待されても正直困るんだけど)
「まぁ、勇者ではないのかと言われればそうでもないが……」
素直に否定も出来ない俺は苦笑いで呟く
ぶっちゃけ自分でもどうしてこうなっているのかわからないし、好きで勇者をしているというわけでもない。気付いたら異世界に飛ばされていて『勇者』になっていましたとさ、と意味不明な事実に直面してしまっているだけなのだから。
ミーアは表情を明るくさせ再び口開く
「では、問題ないですね?」
「なぜだ!」
「弐伊都さんなら大丈夫ですよね? だって勇者さんですから♪」
「……」
流石に俺も呆れて何も言葉が出てこない。
どこにこんな鎧も剣も持たない私服姿の勇者が居るというのだ?確かにこんな姿なら、あの門番様が納得しないのも当然なんだろうが、どうしてミーアはこうもすんなり俺を勇者と認めてしまえるのか不思議でしょうがない。
俺は改めて訊き返す
「だが、これを見る限りだと俺はお尋ね者になっているみたいだが? これじゃぁ、外に出たら大騒ぎになるし宿も大変になるだろう? よって、行かなくていいという方向で」
「大丈夫です!」
「…… 何を根拠に大丈夫と?」
「私は王族の娘ですから」
「…… なんですと?」
「えぇっとですね…… あの城はアーカム城と言いまして、王様の娘が私ミーアなのです」
突然の告白。申し訳なさそうに言うミーアだが俺には爆弾発言にしか聞こえない。
まったくこれは一体どういうことなのだ?
宿屋の看板娘だと思っていた女の子が、よもや王族の娘だと……
ふざけるな、誰だこんなめちゃくちゃな設定を考えたやつは!
設定と言うよりは世界の問題だな。随分とアホで無茶苦茶な世界だ。異世界に召喚されたと思えば勇者にさせられるし、初めて会った人物が異世界案内人と思っていたのに実は王族の娘でしたとかいうオチで、仕舞いには『ドラゴン退治』等という出だしからとんでもないクエストを要求されてしまった。
俺は覇気を無くした声で言う
「娘ですか…… 王様の」
「はい」
「というか、王族の方がどうして宿屋を?」
「それは秘密です♪」
ミーアは可愛くウィンクしながら言う
「それにタダとは言いませんよ」
「何かあるのか!?」
「一応、それなりの報酬なら――」
付け加える様にミーアは呟くが最後まで言い終える前に俺は『報酬』という単語に反応してしまう。
王族から貰える報酬と言ったら一つしか無いだろう。
金、金だ!金銀財宝とか、もしかしたら島一つ貰えたり?大体、ドラゴンを退治する訳だからそれくらいの見返りがあっても良いと思う。めんどくさいが、ここは金の為だ。
俺はミーアの眼を真っ直ぐ見ると堂々とした様子で言う
「よし、そういうことならいいだろう」
「本当ですか!」
「あぁ、俺を誰だと思っている」
「ありがとうございます! 弐伊都さん。いえ、勇者さん」
ミーアは笑顔を作ると嬉しそうにペコリと頭を下げる
「いいってことよ。ドラゴンなど朝飯前だぜ」
それから俺はミーアに森の詳しい場所を聞き宿から出る
そして、これから俺の異世界に来てから初クエストが始まることになった