第八話 霊能太郎と鍋パーティー
「鍋パーティーをするぞ!!」
自宅でそう唐突に言い放った彼の名前は霊能太郎、カップ焼きそばは焼きそばじゃない、湯でそばだといって譲らない男だ。
『乗った!!』
即座に鍋パーティーに賛成した彼の名前は蘇我入鹿、カップ焼きそばについては正直どうでもいいと考えている。
『はぁ・・・鍋どすかぁ・・・』
霊能の言葉にビクッとしつつも鍋を否定しない彼女の名前は山村貞子、通称さっちんだ。
カップ焼きそばって凄い技術だなと純粋にそう思っている。
『で、なんで鍋なんだ?』
蘇我がふと疑問に思い聞く。
「簡単だ。・・・そこに鍋があるからだ」
『・・・うちの鍋、棚にしまったままなんどすけどなぁ・・』
第八話 霊能太郎と鍋パーティー
『霊能、当然キムチ鍋だよな?』
『私はコンソメ系鳥団子鍋がいいどすぇー』
「俺は味噌煮込みにしようかと思っていたんだけど・・・」
にらみ合う三者。全員が全員、自分の意見をいかにして通すかを全力で考えている。
『おっと!こんな所にキムチ鍋の元が!!これはキムチ鍋をするしかないなぁ~』
と、どこからかキムチ鍋の元を取り出す蘇我。マジでどこに持ってたんだろうか。
「おっと!!手が・・・盛大に滑ったぁぁぁ!!!」
キムチ鍋の元をつかんで窓からぶん投げる霊能。キムチ鍋と味噌煮込みは相容れない関係だ。
霊能も自分の意見を通すのに必死なのだ。
「飛んでいってしまったものは仕方ない。ここは冷蔵庫に残っていたはずの味噌を使うしかないな」
『あ、それなら今日味噌漬けを作るのに全部使いましたどすぇ』
「なにぃ!!」
驚きつつさっちんを見ると、うっすらと笑っている。さっちんだって攻めるときは攻めるのだ。
『でもコンソメの元は残ってるはずなので今日はコンソメ系鳥団子鍋で決定どすなぁ』
勝ち誇った顔のさっちん。するとどこからか蘇我がコンソメの元を持ってきて・・
『水が無いと飲みにくいな・・・』
ザーーーっと粉状のコンソメの元を飲みきる蘇我。さっちんは唖然としている。
「・・・全員引く気はないのか?」
『当然』
『もちろんどすぇ』
「・・・よろしい、ならば全員が平等の鍋を考えたぞ・・・」
『ま、まさか・・・』
「そう、闇鍋だ!!!!!」
『なん・・・だと・・・・』
そのとき、霊能家のチャイムがなった。この家に客がくるなんてかなり珍しいことである。
コリン星の存在を信じている人並に珍しい。
ピーンポーン
「霊能さーん!ツキミですっけどー」
「ん?ツキミか、今開けるからチョイ待てー」ガチャ
「どーもー。ゴン兄からのおすそ分け持って来ましったよー」
『霊能、その子はどちら様?』
「!!?幽霊ですかっ!!?」
『しかも僕のこと見えてるみたいだし・・・今は実体化してないんだけどなぁ・・・』
「ええぇと・・・お互い説明するからとりあえず部屋に行くぞー」
ツキミを部屋に連れて行く霊能。そして霊能の後をついていくツキミ。
「ツキミ、この幽霊が蘇我で、俺の友達だ」
『よろしくっ!!』
「んでこっちの子がさっちんだ」
『貞子どすぇーよろしくどすぅー』
「で今度は・・・この子はツキミって言って、俺の友達のゴンザレス(カップ焼きそばを食べたことがない)の妹だ。」
「よろしくおねがいしまっす♪」
このツキミという女の子、見た目はやたら元気そうなショートカットの女子だ。
歳は霊能の一つ下。兄との仲は良好。言っておくが見た目は普通の日本人女子高生だ。
兄とはまったく似ていない。
『なんでツキミちゃんは僕が見えるんだ?』
「むむ!こう見えてもあたしは陰陽師なんですよ?それっくらい余裕のよしずみさんです!」
「そこはよっちゃんにしとこうぜ」
『ほぇぇ・・・陰陽師どすかーかっこいいどすなぁー』
「ありがとっ!あ、でこれゴン兄から霊能さんにって」
「おう、ありがとうって伝えといてくれ。・・・そうだ!ツキミも闇鍋に参加決定な」
「闇鍋ですか!?OK参加してやろうじゃないっですか!!」
「そんじゃ食材持って夜にまた来てくれ」
「了解っです!」
『さて霊能、俺も食材調達してくる』
『私もどすぇー』
そうしてとりあえずみんな闇鍋の食材を買いに行った。
果たしてまともな食材はあるのだろうか。とまぁそんなこんなで時間はたって・・・
闇鍋パーティー開催の時間になった・・・
「と言うわけで闇鍋だ。諸君、集まってくれてありがとう」
今この場にいるのは霊能、蘇我、さっちん、ツキミ、そして口裂け女のくっちーだ。
余談だがくっちーは霊能に誘われたときそうとう喜んでいたと言う。
『ルールは・・・真っ暗にして一人ずつ順番に食材を取る・・そして取ったものは絶対に食べなくてはならない・・・だよな?』
と蘇我が言うと、
『ちょっと待って、一斉に取るんじゃないの?』
とくっちーから質問が飛ぶ。気軽に質問できるくらいにはもうくっちーはみんなと仲良くなれたようだ。
「こんかいは順番ルールを採用した。文句は無しだ」
『順番はどうするんどすぇ?』
「座ってるところから時計回りでいいんじゃないっですか?」
『じゃあ一番を誰にするかはじゃんけんだな』
そしてじゃんけんを始める一同。
結果、くっちー、蘇我、さっちん、ツキミ、霊能という順番になった。
そして禁断の闇鍋が始まる―――
一番手、くっちー。
・・・さてどうしましょう。出来れば霊能君が入れた食材を食べたい!私が霊能君の食材を食べて・・・
「あ、それ俺のだ」
『とてもおいしいわ。最高の味よ!』
「そう言われると嬉しいな」
そして私に微笑む霊能君!!そう!闇鍋から始まる二人のラブストーリー!
ふふふ・・・完璧だわ。完璧な作戦よ!・・・問題はどこに霊能君の食材があるかね・・・普通だったら霊能君の前・・・でもこれは闇鍋・・・分からないわ・・・いや、意外と私の前にあったりして?・・・
ええぃ!真ん中でどう!?
『ここよ!!』
そして出てきたのは・・・なにやら白い塊!
「あ、それ俺のだ」
やった!?奇跡が起きたわ!!さぁあとはこれを食べておいしいと絶賛するだけ・・・!!
『・・・霊能、これ何だ?』
「あたしも気になりまっす・・・」
「大福だ」
大福ぅ!!?鍋に大福ぅ!!?霊能君流石にそれはきついんじゃない!!?
でも・・・これを食べて霊能君の微笑みを見るのよ!頑張れ私!!女は度胸!!なんでもやってみるものよ!!ぱくっ!!
「ちなみに中身は味噌だ」
『ぶふぅぅぅ!!!・・・おいし・・おい・・・駄目だやっぱ不味いわよ!!!』
『開始早々に怖くなってきましたどすぇ・・・』
二番手、蘇我
僕の番か・・・初っ端からキツイのを見せられたな・・・
だが!くっちーが犠牲になったことにより霊能の食材に当たる確立は減った!!あとは何が何でも自分の食材に当たらなければ完璧・・・!ツキミは何を入れているか読めないが・・・くっちーとさっちんは間違いなく安全パイ!!そしてさっちんは深く考えずに自分の目の前に食材を入れたに違いない!!
つまり・・・さっちんの前から取れば安全だ!!
『ここだ!!』
そして蘇我が掴みあげたのは・・・卑猥な形のキノコ。
『なんでじゃぁぁぁぁぁ!!!!』
もう見た目は完璧にアレ。
ふざけてんのかってくらいにアレ。本当にキノコかこれ?
「・・・誰が入れたんだこれ」
霊能が静まりきった部屋でそっとつぶやく。
『・・・僕だよ』
ぼそりと蘇我が言う。そして蘇我はだんだん自棄になっていき・・・
『畜生僕だよこれを入れたのは!!!違うんだ!!別に卑猥な気持ちはなかったんだ!!ただ・・たださっちんがこれを食べるところを見たかっただけなんだ!!霊能!お前なら分かってくれるよな?これは男の本能だ!!仕方のないことなんだ!!みんな!落ち着いて考えてみろ・・・これを食べるさっちん・・・めっちゃかわいいじゃねぇか!!僕は紳士的に・・・あくまで紳士的にこれをさっちんに食べさせたかっただけなんだぁぁぁぁ!!!!!』
「最低だな」
「最低っです」
『最低だわ』
『・・・死ね』
『ぶへぇあ!!』バタン!!
全員に最低と言われ、さっちんに心の底から軽蔑した目で見られて・・・蘇我は吐血しながらぶっ倒れた。ちなみに闇鍋開始直後に鍋の配置を変えるため、さりげなく霊能が鍋をかき回していたことに蘇我は気づいていなかった・・・
そんな蘇我をスルーしてまだまだ闇鍋は次の回まで続く―――