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化け者交流会談記  作者: 石勿 想
第一章
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第六話 霊能太郎と中臣鎌足

 


『中臣鎌足は……俺の親友だった男だ』


 蘇我の言った言葉に、霊能は驚いた。


「お前……友達いたのか……」


 流石霊能、驚くところが違う。


『生前のな、まぁあいつは僕よりも早く死んでしまったが……』


「蘇我だけが一方的に友達だと思ってたんじゃないのか?」


『いや、親友だったよ』


「本当にそうだと思ってるのか? 実は違うかも知れんぞ??」


『お前は僕に何の恨みがあるんだよ……』



 第六話 霊能太郎と中臣鎌足



 低級悪魔が最後に言った「中臣鎌足」という男が本当に蘇我の元親友だったかは置いといて、二人はなぜ悪魔が突然襲ってきたのかについて考えていた。


「んで蘇我はその……鎌足君に恨まれるようなことでもしたのか? 靴に画鋲入れるとか」


『陰湿だな……やってないよ。入れたのはせいぜいうまい棒くらいだ』


「生前のお前はどうやら頭が壊れていたようだな」


『何を言う、明太子味だぞ?』


「訂正、今でも壊れっぱなしだわ」


 だがいくら考えても話はまとまらない。

 なぜ悪魔は襲ってきたのか? なぜ鎌足は刺客を放ってきたのか? なぜうまい棒を砕いてから食べるやつが存在するのか? それはうまい棒への冒涜じゃないのかなど、さまざまなことについて考えたが、一向に分からない。

 とりあえず霊能は近くの空き地の草むらからこっちを覗いていた悪魔を引っ張り出して話を聞くことにした。


『霊能……? いつからそこにその悪魔がいるって気がついたんだ……?』


 なに当たり前のように悪魔引っ張り出してんだよ!!! と、内心叫びつつ、冷や汗をたらしながら蘇我は言う。

 危なかった。

 霊能が気づかなければ後ろから奇襲を仕掛けられていたのかもしれなかったからだ。


「いや、肩甲骨にやたら視線を感じたから……」


 意味が分からない。

 肩甲骨で視線を感じる霊能もそうだが、肩甲骨を見ている悪魔も悪魔だ。アホか。


「で、お前は何者だ?? 手短に話せ」


 霊能が威圧しながら悪魔に話す。その瞬間、バッとその悪魔、見た目はどこぞの爺さんに羽と牙が生えているだけだが……が霊能の手を振り切って距離をとった。

 そして霊能に襲い掛かった!!!


『貴様らに教えることなど何も無い!!! 今ここで死ねぇぇぇぇ!!!』


 パァン!!


『……なんでも答えましょう』


 霊能の容赦ないビンタで一瞬にして改心した翁の悪魔。惨めである。


「襲った理由、初恋の相手の名前、そして鎌足の目的を言ってもらおうか」


『二番目は果てしなくいらないだろ……』


『鎌足様に言われたから、まゆちゃん、そして人外をこの世から消すためですな』


『あんたも答えなくていいだろ!!』


 蘇我のつっこみが静かな町にむなしく響く。だが聞き捨てならないことを聞いた。


「あぁ!? 人外を消すってどういうことだ!!?」


『簡単なことじゃ……鎌足様はその魂を悪魔に捧げるほどに人外に恨みがあったのじゃろうて……』


『悪魔に魂を……?』


『そのとおり!! 鎌足様は大魔王とも呼ばれるお方、アスモデウス様と契約なさったのだ!』


「つまり、鎌足君は人外を消すためになんか凄そうな悪魔と契約して頑張ろうとしている……と?」


 霊能からすればふざけた話である。なんてったってそれは霊能から友達&友達候補を奪うということに他ならないのだから。人外がいなくなれば霊能にはまた灰色の生活が待っている。

 それだけは全力で避けなくてはならない。


「オイコラ、鎌足君は今どこにいるんだ? ちょっとそれは見過ごせねぇなぁ……」


 怒りオーラを出しまくりながら翁を尋問する霊能、知らない人が見たら通報間違い無しであろう。


『貴様なんぞに教える訳なか』


 パァン!!


『滋賀県です』


 またもやビンタで態度を一変する翁


『滋賀県……? ちょうどいいな……今から会いに行くか……』


 何がちょうどいいのか? それは簡単。メリーさんを追ってきた二人は今滋賀県にいるのだ。ちなみに二人が住んでるのは愛知県。メリーさんを追うためだけにこの移動距離とは……行動力のある馬鹿は凄い。


「滋賀のどこだ?」


『知らん。ワシもそこまで教えてもらってないのでな。ただ滋賀のビルとしか聞いていない』


 困った。詳しい位置まで分からないことにはどうしようもない。せめてヒントでもあればいいのだが、残念なことにヒントもなさそうである。

 と、そのようなことを考えているときに蘇我がふと言った。


『あいつの実家は滋賀だったな……』


 それしかない上に最大のヒントである。二人はもうそこに行くしかない。


「場所分かるか!?」


『……お前の後ろだ』


 そういわれて霊能が振り向くとビルが立っていた。

 ビル看板にはでかでかと[中臣鎌足基地! よいこは入らない!!]と書いてある。


「なんで気づかなかったんだろうな……」


『……まったくだ』


『ワシもう帰っていい?』


「じゃ、潰しに行くか」


 そういってビルに入っていく霊能と蘇我。そしてその場には翁だけが取り残された。


『……魔界に帰ろう』


 そう疲れた顔で言うと、光の粒になり翁は消えた。

 霊能たちがビルの中に入ると、男が立っていた。


「お前が鎌足か!?」


『ちがうな、私の名前は悪魔四天王の一人! タナカだ!!』


「じゃあ邪魔だ!」


 ベシッ!

 霊能が凄い速さではたいた。それと同時に吹っ飛び、壁にめり込むタナカ。

 果てしなくかわいそうなやつである。蘇我はそれを見て心の中で合掌をした。

 そして二人は一つ上の階に上る。そして次の階。


『私が悪魔四天王の一人! スズキだ!!』


 二階にも四天王がいた。

 ブーメランパンツのみを着用したスピード重視の悪魔のようだ。


『霊能! こいつは俺に任せて先に行け!』


「ああ!! 次の階で待ってるぞ!!」


『すぐに殺してあげますよ!!』


 そう言って残像が残るほどの速さで襲ってくるスズキ。

 その狙いは蘇我。蘇我にはスズキを一発で倒す力が無い。霊能のようにふざけたパワーをもっているわけでもない。

 はたして蘇我は戦えるのか?

 だが学校の屋上でケロちゃんを抑えていたのは紛れも無く蘇我だったのだ。

 そう、蘇我には蘇我の戦い方がある。凄まじい速さで突進してくる半裸の悪魔。それを間一髪で右に避けつつ、体勢を整える蘇我。


『外しましたかぁ……まぁいいですよこれで死になさい!!』


 そういうとまたもや突進してくるスズキ。だがこれも間一髪で右に避ける蘇我。続いてまたもや突進してくるスズキ。ぎりっぎりで右に避ける蘇我。一発当たれば蘇我はひとたまりも無い。立て続けに避けられてスズキもイライラしてきたようだ。


『避けてばかりで攻撃もできないんですかぁ……まぁいいです。次は全力で殺しましょう』


 そういうと、クラウチングスタートの格好になるスズキ、どうやら本気で来るようだ。


『ああ、準備は整った。来いよ、変態』


 と、中指を立てる蘇我。

 たしかにブーメランパンツ一丁では変態といわれても仕方ないだろう。

 だが実力は本物だ。その弾丸のような速さで突進してくるスズキを紙一重で避けつつ……足を引っ掛ける!! するとつまづいたスズキは宙に浮き――


『なんで僕が右にしか動かなかったのか分からなかったのか?』


 バリーン!!!


 ――蘇我の後ろにあった窓にダイブした。

 グシャ!!

 窓ガラスが全身に刺さりながら二階から頭を下にして落ちるスズキ。

 むちゃくちゃ痛そうである。事実耐え切れなかったようで、光となり消えていく。


『さて、霊能を追うか』


 相手がアホでよかったなぁとか思いつつ階段を上っていく蘇我。

 三階についたが、そこには不自然に何かがぶつかったとしか思えない形でめり込んだ壁しかなかった。


『まぁ……霊能なら瞬殺だよな……』


 若干冷や汗を流して言う蘇我。そしてその階をスルーして次の階へ進む。

 と、そこではちょうど霊能が敵を壁にめり込ませた所だった。


「お、来たか」


『倒してきたぞ。まぁその間に霊能は二人倒したみたいだが』


「いやでもなかなかやるやつらだったぞ。サトウとカトウは……」


 なんでここの四天王はやたら日本人っぽい名前なのだろう。


『霊能がてこずったのか??』


「ああ、まさかあそこでメガネを三本取り出すとはな……」


『どんな戦いだよ!!』


 無事に合流した二人はさらに次の階に進む。

 五階。


『我こそが悪魔四天王最後の一人!! ナカムラである!!』


 そう高らかに宣言したナカムラに二人は無言で近づいていく……

 そして……


『「四天王五人目じゃねーか!!」』


 思いっきり同時に殴った。ナイスコンビネーションである。

 そんなこんなでついた最上階、そこに凄まじい威圧感を出している男がいた。


『きたな……蘇我……』


『僕は汚くない』


『そういう意味じゃない。来たなだ来たな。相変わらずだな君は……』


 ちょっとしたやり取りをする二人。どこか懐かしそうに話している。

 だが今はそんな話をしている場合ではない。


「鎌足君か? ……人外を消すってのはどういうことだ?」


『簡単だ。そのまんまの意味さ』


『説明、してくれるんだろうな? 鎌足?』


『ああ、この世界にはたくさんの人外がいる。そしてその多くが人に危害を加えているんだよ。そう、今この瞬間もね。君らはどう思う? 何もしてないのに突然妖怪に襲われて命を落とす人がいる。幽霊に取り付かれて人生を狂わされた人がいる。悪魔に取り殺される人がいる! 僕はそんな被害をなくしたいだけなんだ。そう、妖怪に殺された僕がねぇ!!!!』


 そういうと突然鎌足から黒い靄が出てくる!!


 その靄は悪魔のオーラ。鎌足と契約したというアスモデウスのものだろう。悪魔との契約の代償はさまざまだ。そのなかでも鎌足は魂を代償に力を求めた。魂を代償にした力は強い。

 だが、売り払った魂は狂う。なんせ文字道理悪魔に魂をささげたのだから……


「たしかに人外には人を襲うやつがいる……だがなぁ……だから全員消すって事にはつながらないだろう!!」


『ならばドウスレバイイ!!? 殺スしか無イダロウ!!』


「確かに全員殺せば人外の被害はなくなるかもな!! だけどなぁ……そんなことしたら大変なことになるだろうが!!」


『何が起キルト言うのダ!! モンダイナイはずダ!!』


 霊能が、力をこめて叫び、殴る!!


「俺の……俺の友達がいなくなっちまうだろうが!!!!!!」


 ズドン!!!

 そのパンチは鎌足にクリーンヒット……したはずだったのだが。


『アマイアマイ!! それじゃア僕は倒せナい!! コロセコロセ! 殺セバイイ! 全テ殺しテシマエばいい!!』


 狂ったように、いや実際に狂っているのだろう。

 黒い靄をまきちらしながら鎌足は叫ぶ。


『コノ自己中心!! 計画ヲ邪魔スルナラ貴様モコロス!!!』


「わがままで何が悪い!! 友達を殺すといわれたんだ!! 阻止するしかないだろう!!!」


 二人の戦いは激しい。霊能が優勢だが、霊能とここまで戦えるやつは初めてだった。

 霊能が腹を殴る。だが鎌足は倒れない。鎌足が霊能を殴る。だが霊能には効いていない。

 蘇我が離れたところから見ている。だが戦闘には参加しない。


『霊能!! 鎌足を本気でぶちのめしてやってくれ!!』


「了解!!」


『殺ス!!』


 蘇我の昔の友人ということでどこか手加減しているところがあったのだろう。

 だが蘇我がOKをだしたなら手加減は無用だ。霊能は少し距離を取り、腕を振りかぶった。


「この一撃で沈めてやるよ。奥義……(ゼン)(リョク)(コブシ)!!!!!」


 ヅグシャァ!!!!

 めり込む拳。

 吹っ飛ぶ鎌足。

 また別の形で出会ったのなら、鎌足と霊能は友人になれたのだろうか。

 おそらく仲良くなれただろう。友達になれただろう。

 だが、悪魔に魂を売り狂ったものは、二度と戻らない。


『コロ……コろ……コロ……ス……』


『鎌足……なんで魂まで売っちまったんだよ……ちくしょう……』


 死にかけの鎌足と、昔の親友を殺すしかない蘇我。悪魔との契約を断ち切るには死しかない。

 鎌足は既に一度死に、幽霊になった者だ。すなわち、もう一度殺せば強制的に成仏、つまり消えることになる。


『コロ……コロ……』


 もう狂いすぎて理性どころか何も考えれないのだろう。ぶつぶつとつぶやくだけの鎌足の売り払った魂を開放するために、殺す。


「俺がやろうか?」


『いや、こんなんでも元親友だ。僕がやるよ』


 そういって胸にナイフを刺し、一連のごたごたは全て終わった――


 帰り道、何も話さずに二人は家に向かって歩いていた。

 長い長い沈黙をやぶったのは霊能だった。


「……俺、正しかったのかなぁ……」


 確かに人外の中には人を襲うやつもいる。あのまま鎌足が人外殺しをしていれば、それにより助かった命もあったのかもしれない。霊能は鎌足を止めた。それは間接的に霊能が助かるはずの命を摘み取ったことにもなる。


『さぁ……? 僕にも分からんよ。ただ……』


「ただ?」


『自分を貫いた結果がそれなら、最後まで自分を貫くべきじゃないのか?』


「……そうだな。悩むなんていまさらか、なんてったって止めなければ友達がゴンザレス(スキップが苦手)しかいなくなっちまうもんな」


 二人は顔を見合わせて笑う。


『それに……人を襲うやつがいるなら、そいつと友達になっちまえばいいじゃないか』


「そうだな!! そうすれば一石二鳥だな!!」


 徐々にテンションが上がる二人。


「よっし!! 人助けにもなるし、いっちょ人外バスターズでも結成するか!!」


『バスターどころかフレンドだけどな』


「人外フレンズじゃぁなんか語呂が……」


『まぁ……な。まぁ名前なんてどうでもいいだろう。大切なのは行動することなのだよ!!』


「確かにな! では明日から片っ端から人外に困ってる人を探しに行くか!!」


 こうして当面の目標がきまった二人はテンションが上がったこともあわせて、家に走って帰っていく。滋賀まで来たのだから、そうとう走らないと帰れない気がするが……

 それもご愛嬌だろう。



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