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化け者交流会談記  作者: 石勿 想
第一章
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第四話 霊能太郎と口裂け女

 


「じゃあ、行ってくる!!!」


 日曜日の夜中、霊能家の玄関でやたら楽しみそうに言うこの男の名前は霊能太郎、

 筋トレ好きでがむしゃらに腹筋ばかりを鍛える男だ。


『おう、行ってこい!!』


 その隣で笑顔でサムズアップしている彼は蘇我入鹿、幽霊である。

 地縛霊なのか背後霊なのかいまいち分からないポジションになっているが、まぁ悪霊ではないだろう、たぶん。


『いってらっしゃいどすー』


 にこにこしながら手を振る白い着物の少女はさっちん、貞子である。

 好きなものは甘い物。特技はテレビなどの画面の中に入れることである。


「よっしゃ!!! 待ってろよ人外ーー!!!」バタン!!


 


『……行ったな。だけど玄関で大声だして言うことじゃないと思うんだが……』


『……本人曰くもう近所の人の目なんて数年前に諦めたらしいどすぇ』


 家に残った二人、なぜ残ったのかは簡単。蘇我が夜中に小さな子を連れまわすのは気が引けるし、さっちんを夜中なのに家に一人にするのも紳士としてできない。

 という建前で二人っきりになりたかったのである。


『でも霊能はん大丈夫なんどすかぁ……?』


 さっちんは心配そうだ。そりゃそうだ、霊能力も何にもない男が自分から人外に会いに行くのだから。


『俺はむしろ相手を心配するね……』


 蘇我も不安そうだ。なんたって霊能は小型隕石を蹴り返した事のある男なのだから。


『あいつは人外人外言ってるけど本人が人外みたいなもんだよなぁ……』


『それを言ったら負けなんじゃないどすか……?』


 二人の目が遠くを見ている。


『でもまぁこれから会う相手は対処法があるから最悪の場合も大丈夫でしょ』


『ポマード……でしたっけ?』


 

 第四話 霊能太郎と口裂け女


 

 一方、そんな二人の見送りを受けた霊能は人通りの少ない路地をうろうろしていた。

 目的は一つ! 人外と会うためである。最近どこからともなく噂が広がっているのである。

 夜中に外を出歩くな、口裂け女に殺される。と。

 まぁそんなのお構い無しに霊能は友達になろうとしているわけだが……

 なかなか出会えない。


「まだかな! まだかな!!」


 遠足の前日の小学生のようなテンションの霊能、彼の頭の中はすでにこれから会えるであろう口裂け女でいっぱいだった。


「楽しみだ……ああ楽しみだ……」


 もう彼のわくわくは光る雲を突き抜けてfly awayしていた。

 だがまだ出てこない、時間がたてば立つほど期待は高まり、テンションが上がる一方だ。

 だいたい家を出てから三時間はたっただろうか……

 だがテンションはとどまる所を知らない。今の気持ちを聞かれたら「最高です!!」と答えたいくらいにはテンションが上がっていた。

 ――――そしてついにそのときは来た。


『ねぇ貴方……』


「最高です!!」


 ――――訪れる微妙な空気…………とまどうマスクをつけた女性。


『ええぇと……まだ何も言ってないんだけど……』


 正直やっちまったという感じでテンションがどんどん下がっていく霊能。


「……どうしたんですか?」


 そういうと女性はニヤリと笑うような目線で……


『私、きれい?』


「目が濁ってる」


 ――――そしてまた訪れる微妙な空気…………


『……目とかじゃなくて、私キレイ??』


「グラサンしたらいいんじゃないか? 目も隠せるしマスクにもあうぞ」


 目に見えていらいらしてきたマスクの女。


『……い、一般的にみて私は美しいの部類に入る?』


「まぁ入るんじゃね? 目さえ隠せば」


 ……ブチッという音が女のこめかみのあたりから聞こえたような気がする。


『これでもかぁ!!!』


 そういうと女はマスクをはずし、人並み外れた大きさの口をみせる――――!!

 それをみた霊能はと言うと…………


「はぁ……思ったより裂けてないじゃねーかふざけんなそんなんで口裂け名乗るな」


『へ?』


「なんだよせっかく期待してたのにせいぜい一般人の一・五倍程度じゃねーかしょぼいわちくしょう」


『……へっ?? えっ???』


「まだ新年会にやったゴンザレス(ちくわ好き)の一発芸、[あたしんちのおかあさんの真似]のほうが裂けてたよ。あご全部が口といっても過言じゃないくらい裂けてたよ。仮にも口裂け女やってるならだれにも口が裂けてることでは負けないくらいの気概見せろよ」


 なかなかの酷評である。


『……うるさい、私だって・・好きでこんな口になった訳じゃないのよ!!!』


 するとどこからとも無く大きな鎌を取り出す口裂け。少なくとも口から出したわけではないようだ。


『殺す!! 殺してやる!!!』


 その大きな鎌が霊能の首に――――


 ガツッ!!


 もう一度首に――――


 ガツッ!!!


 まだまだ首に――――


 ガツッ!!!!


「痛い」


『痛いで済ますな!!!!』


『何で!!? 何で切れないの!!?』


 大きな鎌が首に当たっているがすり傷すらない霊能の首。本当にこいつは人間なのだろうか。


「だから痛いって。俺腹筋鍛えてるから簡単には切れないって」


『今切ってるのは首でしょうが!!』


 ボキッ!!


 何かが折れる音がした……だが当然霊能の首は無傷だ。つまり……


『私の鎌がぁ!! 首の筋力に負けた!!?』


 焦る口裂け女。


『くっ……いったん退却ね……』


 口裂け女の怖いところは、なにもその鎌だけではない。彼女は100メートルを三~五秒で走るといわれている。その速さも彼女が有名になるほど恐れられている理由でもある。


「どこいくんだ?」


 当然のごとく並走している霊能。


『な、なんでついてこれるのよ!! 来ないでよ!!』


「だが断る、まだ俺は目的を果たしてないからな」


 逃げ切れないと悟ったのか、折れた鎌を構えてとまる女。ちなみに鎌を構えるは別に駄洒落でいった訳ではない。


『……私を殺すのね、醜いからって貴方も私を殺そうとするのね!!』


「はぁ?」


『来ないで!! 私だって……こんな口にならなければ……ッ!!』


「まぁいい、友達になってくれ」


『殺っ……え?』


「だから、友達になってくれ、つーかなれ」


『……私が怖くないの? 醜いから近づきたくないんじゃないの?』


「うるせぇ中途半端女、口もおもったほど裂けてないくせに。お前のどこに怖がる要素がある? せいぜいその濁った目だけだ」


『……いいの? 私が近くにいていいの?』


「当然だ、友達だからな」


 そういって笑う霊能、対照的に泣き出す口裂け女。


「うわっ!! 泣くなよ! え? 俺のせい? 俺のせいなの?」


『ううん……貴方、名前なんていうの?』


「霊能太郎だ、ちなみに愛犬の名前はケロちゃんだ」


『愛犬は聞いてないけど……そっか、霊能……これからよろしくね』


「おう! ちなみにお前はなんて呼べばいいんだ?」


『名前なんてもう忘れちゃったからなぁ……』


「じゃぁくっちーで」


『うわ、なんか適当!!』


「いいじゃねぇかくっちー。……帰るところはあるのか?」


『一応住んでる空き家があるわよ』


「そっか、じゃ……また今度な! なんかあったら俺を頼れよ? 友達なんだからな!? あ、これ携帯番号です」


 そういって携帯番号を差し出す霊能。ちなみに霊能の携帯には親の連絡先とゴンザレスの寺の番号しか入っていない。悲しいやつである。


『携帯かぁ……私も今度買おうかな。いや買えるのかな……あ、お金無いわ……』


 なにやらぶつぶつ言いだしたくっちー。


「んじゃじゃーなー」


 こうして霊能とくっちーは別れ、帰宅した。

 ちょうどこの頃から口裂け女の出没したという噂は一切聞かれなくなったという……。

 そしてこの頃からとあるコンビニでマスクをしながら働いている女性がいるとかいないとか……。


 


「ただいまー」


『おかえり。どうだった?』


 帰宅した霊能を待っていたのは蘇我だけ。さっちんは既に寝てしまったようだ。まぁ夜中だしね。


「くっちーの目は濁ってたけど根はいいやつだ、とだけ言っておこう」


『時々お前が何を言ってるか分からなくなるよ……』


「まぁいいじゃないか、友達にはなれたよ」


『そうか、そいつはよかった』


「『じゃ、もう寝るとしますか』」


 こうして今日も一日が過ぎていく……だけども友達も増え、とても充実した一日だった。

 願わくばこれからもこんな日が続きますように……そうつぶやいてから霊能は寝るのであった。

 ちなみに、二人っきりで留守番していたとき、蘇我はさっちんの寝顔を見て


『ああ……これを見れるだけで生きている価値がある……っ!』


 と感動していたそうな。お前もう死んでるっちゅーに。



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