第三十六話 霊能太郎と懺悔の教会
「神は貴方をお許しになられました」
「ああ・・・ありがたやありがたや・・・」
ふう・・・また一人迷える子羊を救うことができたわ。
懺悔を受ける側も大変ねぇ・・・。
第三十六話 霊能太郎と懺悔の教会
あ、どうも。お久しぶりです。棒 燐子です。
今現在燐子は臨時シスター代理をやっています。まぁ・・・平たく言えばバイトかな。
なんか新しく協会が建てられたんだけどどうやらシスターさんが病気で休んじゃったらしくて・・・なかなかいい給料だったし内容は懺悔を聞くだけみたいだし燐子でも出来るかなーって思って臨時シスターに来ました。
つまり燐子は現在シスターさんなのですよ。えっへん。
ここの協会には懺悔を受ける役の燐子ともう一人懺悔を聞く神様役の人がいます。
『だからさー、ワタシ神様なんだって。キリストだよ?イエス・キリスト。本物だよ?』
「何言ってるんですかー、そこまで役になりきらなくてもいいんですよ神父さん?」
『いや・・・だから本物なんだって。このあたりはまだキリスト教が広まってないみたいだからわざわざワタシが直々に来たんだって』
どうやら神父さんは役になりきるタイプの人のようです。
でもなんか神々しさが無いので全然キリストになりきれていませんねぇ・・・
懺悔のシステム的には、燐子が直接懺悔を聞いて、それについてのアドバイスを神のお告げと称して奥の部屋で控えてる神父さんが燐子のイヤホンに伝え、燐子を通して懺悔しにきた人に伝える・・・というシステムらしいです。
うわめんどくせぇ。
え?何それ?ただただ「神は貴方をお許しになられましたー」って言うだけの簡単な仕事じゃないの?
まぁ・・・アドバイスも右から左に流すだけだから簡単な仕事なんだけど・・・簡単な仕事だったはずなんだけど・・・
『あーハイハイ許す許す。そーだねー。大変だったねー』
・・・なんか適当になってきたんだけど!?
おいキリスト絶対めんどくさくなってきたんだろ?え?燐子はこれで何をアドバイスすればいいの!?
「えー・・・か、神は貴方をお許しになりました。今まで大変でしたね。これからも頑張ってください」
「ありがたや・・・ありがたや・・・」
よっしゃぁ乗り切った!!
ふぅ・・・それにしてもいっぱい人が来るなぁ・・・懺悔ってそんなにみんな頻繁に来ること無いと思うんだけど・・・
『今日は懺悔Dayだからね、来場者には無料で粗品を配ってるんだよ』
懺悔dayって何!?初めて聞いたよ!通りでやたら人が来るわけだよ!!
・・・粗品ってなんだろ?教えてキリストさん
『ふふふ・・・ひ・み・つ。キラッ』
うぜぇぇぇぇぇぇぇ!!
いい歳したのおっさんのくせに!しかもキラッて自分で言いやがった!なんだこのおっさん!
『なんだって・・・キリストだけど?』
こんなキリストだったらそりゃユダも裏切るよ!果てしなく自業自得だよ!!
「懺悔しにきたんだぜ!」
ああ!もう次の人来ちゃった。
・・・懺悔にこんな元気良く来る人なんて始めて見たよ・・・。
「聞いてくれ・・・最近俺はすっげぇ幸せなんだ。ずっと手に欲しかったものがいっぱい手に入ったんだ。毎日があいつらのおかげで楽しくてしかたがないんだ」
「話すのが楽しい、遊ぶのが楽しい、一緒にいるだけで暇じゃなくなる」
「そんな大切な友達を、日常を、俺は失いたくない・・・そのためにずっと体を鍛えていたんだ・・・なのに・・・なのに・・・!!」
「昨日俺は日課の筋トレをやり忘れてしまったんだぁぁぁぁ!!ごめんなさぁぁぁぁぁい!!!!」
・・・途中まで真面目だったのに!!
え?結局言いたいことは筋トレ?
いや・・・まぁ・・・別に懺悔は何を懺悔してもいいんだけどさぁ・・・
前フリが真面目だった分なんかがっかりだよ!
・・・で、キリストさんのアドバイスは・・・?
『・・・・・・え?あ、ああ・・・えと、うん。許すよー、とりあえず・・・頑張ればいいんじゃないかなー』
絶対聞いてなかっただろ!絶対話聞いてなかっただろこの野朗!!
ああもう・・・とりあえずうまい具合に伝えないと・・・!
「・・・神は貴方をお許しになられました。是非前日の分を取り返せるように鍛錬に励んでください」
「・・・ハッ!そうか・・・今日やり忘れた分をやればいいのか!・・・ありがとう、気分が軽くなったぜ!!」
ふぅ・・・なんとかなった・・・
さて次の人は・・・黒髪の女の子か・・・髪の毛長いなぁ・・・手入れとか大変じゃないだろうか・・・なんかこの子とさっきの人見覚えがある気が・・・ま、いっか。
『シスターはん・・・ついカッとなってやってしまったどすぇ。今は反省しているどすぇ』
何が!?いきなり犯罪者みたいなこと言われてもちょっとよく分からないんだけど!?
「えぇと・・・神は全てをお許しになります。いったい何をしてしまったのですか?」
『最近私の下着が無くなるから・・・ついカッなって危険なトラップを仕掛けてしまったんどすぇ・・・今朝見たらそのトラップが作動した跡が残ってて・・・正直やりすぎたんどすぇ・・・』
いやぁ・・・それは貴女が悪いんじゃないんじゃないかなぁ・・・
下着泥棒の自業自得のような気が・・・どう思います?キリストさん?
『暇だなぁ・・・アニメでもみ・・あ!許す許す許しちゃう!全然構わないよ!』
聞けよぉぉぉぉぉ!!
暇じゃないよ!今勤務中だよ!アニメ見んな!ちったぁ構えよ!!
「はぁ・・・えぇと、神は貴女をお許しになられました。それくらいなら全然構わないと思いますよ」
『・・・そう、どすか・・・ありがとうどすぇ』
はいじゃあ次の人ー。
・・・見た目は普通だなぁ・・・学生服にメガネの男の子か。なんだか真面目そうだな。
ん?頭に包帯巻いてる・・・痛そうだなぁ・・・大丈夫かなこの人。
『神様ありがとう。僕に罰を与えてくれて。さっちんの下着は魅力的だけど・・・あやうくただの変態になるところだったよ』
アウトォォォォォォ!!
下着泥棒アウトォォォォォ!!あやうくじゃ無いよ!すでに変態だよ!!
『本来なら僕は・・・みんなと一緒に居ちゃいけないんだろうけど・・・幸せって、一度味わっちゃうと抜け出せないものだね』
『でもあえて言わせて貰うよ・・・さっちん大好きだ!!下着に手を出したら包丁が降ってきたけど僕はさっちんが大好きだぁぁぁぁぁ!!』
そのシリアスっぽい前フリからその流れになるの!?
包丁って・・・まぁ自業自得だよね。さっきの女の子も過激なことするなぁ・・・ま、本人反省してたからいいけどね。
さてキリストさんはー?
『許すよー・・・あ、あったあったコレコレ。もうDVDどこに置いたか忘れちゃうなんて・・・ワタシったらドジなんだからぁ~』
ウザッ!
・・・大事なことだからもう一度。ウザッ!もうこれ懺悔を聞いてるとかそんな次元じゃ無いよね!?明らかにアニメ見ようとしてるよね!?
「ええ・・・あ・・・その、神は貴方をお許しになられました。・・・ドジをしないよう心がけてください」
『・・・心に留めておくよ』
はいじゃー次の人・・・
・・・マスクをした女性だ。
『懺悔しに来たわ。私には好きな男の人がいるんだけど・・・実はこの前・・・ラブコメみたいなことが起きるかもと思ってバイト先まで食パンくわえて走ってみたのよ。今考えると自殺したくなってくるわ』
・・・いやぁ・・・無いわぁ・・・なんでそれを実行しようと思ったのか全く分からないわぁ・・・。
キリストさんはどう思いますー?
『許すさ。いいかい?この世は分からない事ががたくさんある。どんな風が吹いても負けない人になればいいのさ』
ぬぅぅぅぅべぇぇぇぇええええ!!!!
DVD見てんじゃねぇよ!影響されてんじゃねぇよ!!
でもこれが今までで一番いいアドバイスだと思うと泣きたくなってくるよ!!
「・・・神は貴女をお許しになられました。世間の風に負けないよう頑張ってください」
『・・・なんであんなことしたのかなぁ私・・・死にたいわぁ・・・』
・・・はいじゃあ次の人ー。
次は・・・この人か。
『実は拙者・・・ポニーテール萌えなんでござる!』
「帰れ」
はい次ー。
次は・・・金髪の女の子か。
「ゴン兄のちくわ・・・間違えて料理の練習に使っちゃったんっです・・・それで怒られたくないからお寺で一緒に住んでる弟みたいな子に罪をなすりつけちゃったんっです・・・ごめんなさい」
ちくわ・・・?ああ・・・うん、ちくわね。・・・ちくわ程度で怒る兄貴ってのもどうかと思うけど・・・。
キリストさーん?
『いっけー!そこだー!!鬼の手ーー!!』
聞いてねぇぇぇぇぇぇ!!こいつ微塵も聞いてねぇぇぇぇぇ!!
鬼の手ーじゃないよ!!ついに許すとすら言わなくなっちゃったよ!!
「・・・神は貴女を・・・多分お許しになられました」
「多分!?多分なんっですか!?はっきり許してくれないんっですか!?」
はいじゃあ次の人ー。
『このままだといつのまにかモブになってそうで怖いんだぎゃ・・・』
そんなこと言われましても・・・
ってかこれ既に懺悔じゃないよね。相談だよね。
『せっかく濃いキャラで売り出したのに忘れられやすいんだぎゃ!いてもいなくても変わらない・・・そんな脇役になってしまいそうなんだぎゃ!!助けて欲しいんだぎゃ!!』
ええぇー・・・
キリストさーん・・・これどうしましょー?
『っちょ!今クライマックスだから静かにして!!』
おいぃぃぃぃ!!キリストてめぇこの野朗ぉぉぉぉ!!
ええぇと・・・とりあえず何か言わなきゃ・・・!
「そ、そうですね。皆が忘れられないキャラになってみてはいかがでしょうか?」
『それができたら苦労してないぎゃ!そもそもそれを目指した結果がこれだぎゃ!!』
「えぇー・・・じゃあ強引に出番を見つけて無理やり出て行ってみればいいんじゃないですか?」
『どういう風にだぎゃ?』
『それなら拙者がお教えするでござるよ、これからは拙者のことを小次郎師匠と呼ぶでござる』
え!?さっきの論外発言の人!?どこから入ってきたの!?
『・・・その無理やり話題に入っていく姿勢・・・なんだかよく分からないけど変に濃いキャラ・・・これぞボクが目指していた姿だぎゃ・・・!』
それでいいの!?そんな姿でいいの!?
『闇倉殿はもっと貪欲に出番を狙うようにすべきでござる。さぁポニーテールに変えて拙者についてくるでござるよ!!』
『ハイ!小次郎師匠!!』
こうして二人は夕日に向かって走っていった・・・。
なんだこの茶番。懺悔はどこいった。
こんな感じで燐子の臨時シスター体験は過ぎていったのです・・・。
結局あの茶番の後も次々と、多くの人々が懺悔に協会へ現れた。なかなかに個性的な人々が多かった気がする。
その懺悔の一例を挙げると・・・
「この鍛えに鍛えた豪腕!トライアスロンでは見せ場が無かったが・・・さぁ見てくれ!!」
見たく無いよ!懺悔どこいった!
『私に許しを請うことなんて無いわ。神なんてこの世にはいない、それくらいも分からないの?死んだほうがいいわよ』
じゃあ協会に来るなよ!しかもそれコンビニの制服だよね?私服じゃないよね!?
『昔、人を襲っていてすいませんでした・・・。ご主人様に出会い、心を入れ替えたのでどうかお許しを・・!』
人形が浮いてる!?なにこれ?幽霊!?リカちゃん?それともメリーさん的な何か!?
『ふむ、女神をつい先日盗撮したのはあやまろう。だが私は後悔などしていないよ、紳士だからね』
反省しようよ!紳士は別に免罪符じゃないし盗撮してたら紳士じゃないよ!
『・・・なぁ、アイツ最近俺の所に来ないんだけど?・・・俺何かしたっけなぁ・・・いや別に寂しいとかじゃねーぞ?勘違いすんなよ?』
仮設トイレがなぜか目の前でしゃべってるぅぅぅぅ!!?
理解不能・理解不能・理解不能!!・・・よし、忘れよう。
『閻魔様の代理をしていた者だが・・・あまりにも閻魔様がサボるのでカッとなってやった。今は反省している』
何をしたのさ!?ってか閻魔代理って何!?協会に来ていいの!?それにそのネタ二回目だけど大丈夫!?
『オイ・・・しっかりたっぷり粗品とやらを受け取りにきてやったぜぇ!』
じゃあ懺悔しろよ!粗品目当てはいいけどそんなにはっきり言うなよ!
『グルルルル・・バウッ!バウッ!』
犬だよ!!何言ってるか分かんないよ!!
『我ら粗品四天王!』
『なんだこの粗品は!』
『期待していたのにティッシュ箱だけか!』
『まぁ六箱入りなのは褒めてやろう!』
『・・・そういうことだ!』
一人づつ入って来いよ!!しかも粗品の苦情かよ!受け付けて無いよ!そして最後の人言うこと無くなっちゃってるよ!セリフはちゃんと分け合え!
とまぁさまざまな人が・・・
いやなんか人じゃないのも混ざってた気がするけど・・・まぁ気のせいでしょ、燐子疲れてたし幻覚でもみてたんじゃないかなー・・・。
懺悔ですらないのが結構あった気がするけどそれも多分幻聴だと思おう・・・はぁ・・・。
とりあえず、途中からキリストさんはアニメに夢中になって声すら出さなくなりました。もう今日の懺悔受付時間は終わったから、今からキリストさんに制裁を下すところです。
『ちょ・・ちょっと待って待ってお願いその釘バットどこから取り出したの・・・ってやめて振りかぶらないでちょやうあああああああああああ!!』
今日一日、一応いい経験にはなったかなー・・・。
ま、結構楽しかったしやってよかったかな、このバイト。
うん、シスターも悪くないね!