第三十五話 霊能太郎と厨二会議
暗い部屋。
とても静かなその部屋で、数人の男女が真剣な目でたたずんでいた。
彼らは何も言わず、ただただ沈黙を貫くのみ。
彼らは知っている。今は自分が動くべき時では無いと。
そう、今は雌伏の時。口を開き発言するのは自分ではない。
[彼]が動きを見せるのを待つべきなのだ。
なぜなら今回、緊急という名目で彼らを集めたのは[彼]なのだから。
そしてその[彼]がカッ!と目を見開く。
・・・彼らに緊張が走る・・・
そして幾分かの沈黙のあと、今までの静寂を破るかのように[彼]は口を開き、会議は始まりの鐘を告げた。
「かっこいい必殺技が欲しい」
第三十五話 霊能太郎と厨二会議
「いやー、なんかこう・・・エターナルなんちゃらぁぁ!!とかファイナルなんちゃらぁぁぁ!!みたいな必殺技が欲しいんだぜ。協力求む」
『・・・はぁ、霊能が緊急会議だって言ったから何事かと思ったのに・・・』
『緊張して損した気分どすぇ・・・』
ここは霊能ハウス。なんか真面目な感じで始まった冒頭からは考えられないような議題だが会議が行われていた。
会議に集められたメンバーはもはや恒例となったいつものメンバー・・・。
つまり霊能・蘇我・さっちん・ツキミである。
ちなみにくっちーは欠席だ。何故欠席かって?
・・・バイトはそんなに休みばっかじゃ無いんだよ!!
『ボクもいるんだぎゃー!』
「うおっ!?どうしたんだ闇倉?いきなり立ち上がって叫ぶなよ」
『いや・・・なんか自己主張しないといけない気がしたんだぎゃ』
参加者になんちゃって名古屋吸血鬼闇倉も追加。
「さて話を戻すが・・・俺もなんかかっこいい技が使いたいわけだ」
「・・・霊能さんは技なんて無くても十分に強いから別にいらないんじゃないっですか?」
「甘ぁぁぁい!!甘い甘い甘すぎるぜ!ツキミは分かっちゃいない!かっこいい技は男のロマンだろうが!」
『え?男のロマン?』
『蘇我はんはしばらく黙っていて欲しいどすぇ~』
蘇我が言うとなんか違う意味になっているような気がする。
そんな会話をしていると闇倉が少し疑問に思ったような顔で質問をする。
『霊能には今までどんな必殺技があったんだぎゃ?』
「え・・・なんか直接そう聞かれると恥ずかしいものがあるな。なんかこう・・・一度滑ったギャグを聞き返されるような恥ずかしさが・・・」
『僕が知っているかぎりだと・・・中臣鎌足戦で[全力ノ拳]とかあったよね』
「いやぁぁぁぁ止めろぉぉぉぉ!!何これ何この公開死刑、めっちゃ恥ずかしいんだけど」
『閻魔はん戦で[全力全壊デコピン]とかもあったどすぇ』
「冷静に考えると・・・痛いっですねぇ・・・」
「うっせぇ!いいんだよ!男は皆必殺技にあこがれるもんなんだよ!傘持ったら剣みたいに持ったり銃みたいに持ったりしちゃう生き物なんだよ!!」
他にもかめはめ波の練習したり真理を見てないのに練成陣無しで練成してみたり実用性が無いのにモデルガン買ったりしちゃう生き物です。
『で、性懲りも無くかっこいい必殺技が欲しいという訳だぎゃ?・・・面白そうだぎゃー』
「性懲りも無くとか言うな、・・・でだ。個人的にはエターナルフォースブリザードとか考えてるんだがどうだろう」
『効果、相手は死ぬ。ですね分かります』
『いやぁ・・・流石にそれは無いどすぇ・・・』
「じゃあファイナルスーパークラッシュ」
『なんかしょぼいんだぎゃー・・・』
「文句ばっかりだな・・・じゃあなんかいい案を出してみやがれ」
その言葉をきっかけとして部屋に再び沈黙がもどる。
みんなそれなりに真面目に考えてくれているようだ。
『よし霊能、思いついたよ』
「お、蘇我!マジか!聞かせてくれ!」
『やっぱ霊能と言ったらこれだよね・・・[必殺!モーニングスター乱舞!]』
「使わねぇよ!!無駄に誕生日にモーニングスター貰ったけど!しかもあんまりかっこよくないぜ!!」
『私も思いついたんどすが・・・』
「お!さっちん!いいぜ!どんどん発表してくれ!!」
『カブーニングスター乱舞ぅ・・・』
「もういいよ朝☆は!!引きずりすぎだよ!!なんかもっとさぁ・・・エターナルとかバーストとかかっこいい字を使ってくれよ!」
『あ!ガイザーなんてどうだぎゃ?』
「帰れ!!」
『酷いぎゃ!?』
ガイザーは無い。
だってガイザーだもの。所詮ガイザーだもの。
「そもそもどんな技を使いたいんっですか?殴るんっですか?投げるんっですか?」
「そうだな・・・うん、全然考えてないぜ。それも含めて募集中、採用者にはもれなく鼻セレブをプレゼント」
『まだ残ってたんだねそのティッシュ・・・』
『さらに今ならおまけとしてこけしもついてくるどすぇ~』
『もうそれただのゴミ処理だよね!?景品と言う名の不良債権だよね!?』
「んじゃとりあえずみんな考えてくれ。武器やアイテムの使用も許可するから」
霊能がそういうと皆口を閉じ、わりと真面目に考え始めた。
なんだかんだで付き合いはいいのだ。
そんなこんなで静まったあと、二分ほどして闇倉が手を上げた。
『思いついたんだぎゃ!これは相手にかなりのダメージを与えれること間違いなしなんだぎゃ!!』
「発言を許可するぜ」
『まずかっこいいから武器はトンファーを使用するぎゃ。そして高くジャンプして回転!そのまま相手の頭にかかと落とし!!必殺!大車輪だぎゃ!!』
「トンファーか・・・なかなかかっこいいな・・・っておいトンファーどこ行った!?」
『私も思いついたどすぇ~』
「・・・発言を許可するぜ」
『まずトンファーを持って、それから目からビーム!これぞ奥義!トンファービームどすぇ!!』
「出るかぁ!目からビームなんて出てたまるかぁ!!そしてトンファー関係無ぇ!?」
『僕も思いついたよ、これなら完璧だ』
「・・・・・・発言を許可するぜ」
『まずトンファーを置き、それから相手にジャーマンを決める・・・これぞトンファー置きっぱなし式ジャーマンスープレックス!!』
「トンファー使えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
馬鹿ばっかりである。
・・・いや、今の発言は訂正しよう。
この騒ぎの中、一人まだじっくりと考えている人物がいた。
どうやら彼女は真面目に考えているようだ。
彼女は霊能に顔を向け、何かを思案するような表情で疑問を投げかける。
「霊能さん・・・どうしても・・・どうしてもトンファーは使わなくちゃだめっですか?」
「いらねぇよ!!別にトンファーにこだわって無ぇよ!!」
うん、やっぱり馬鹿ばっかりだったようだ。
「もっと無いのか!?なんかこう・・・戦いのクライマックスで人類の希望をかけた最後の一撃的な・・・かっこいい技!!」
「思いついたっです!人類の想いを全て乗せた一撃!」
「発言を許可するぜ!!頼むぞ!!」
「奥義!夜に耳元で飛ぶ蚊全滅しろ!!っです」
「想いを乗せすぎてもはや技じゃねぇよ、そもそもかっこよくもねぇよ」
『想いを乗せればいいんだぎゃ?なら思いついたぎゃ!』
「・・・カタカナでかっこいいやつを頼むぜ」
『必殺!スガキヤトンコツラーメン!!だぎゃ!!』
「カタカナなら何でもいいとは言ってねぇよ!しかもそれお前の想いだろ!好きな食べ物の名前叫んでるだけだろ!!」
『なら私の案を聞いて欲しいどすぇ!』
「お、自信満々だな。かっこいいのを頼むぜ!」
『秘奥義!エターナル・パラサイトニートどすぇ!!』
「永遠の自宅警備員!?一瞬でもかっこ良さげだとか思ってしまった自分が憎いぜちくしょう!!」
『効果、働かない。どすぇ』
「別に説明しなくても分かるよ!っていうかそれでどうやって敵を倒すんだよ!」
もはや技でもなんでもないただの称号である。
『僕の想いを乗せた必殺技・・・思いついたよ!!』
「あ、蘇我はいいや。だいたい読めるし」
『あれ?僕望まれてない?結構いいの思いついたよ?』
『蘇我はんの想いなんてどうせ紳士関連に決まってるどすぇ~』
「もしくは変態関連っです」
「お前ら何言ってんだ、紳士も変態も同じ意味だろうが」
『違うよぉぉぉ!!紳士は変態じゃないよ!そんな低俗なものと一緒にしないでよ!!』
蘇我がいつになく全力で否定する。
そんな蘇我から闇倉が少し距離をとる。
『・・・蘇我は変態なんだぎゃ?』
『変態どすぇ~、女の子の下着を頭にかぶりながら道路でブレイクダンスするレベルで変態どすぇ~』
『うわ・・・ボクに近づかないで欲しいぎゃ』
『ちょっとぉぉぉぉぉぉ!?さっちん何を言ってるのぉぉぉぉぉぉ!?何でこのタイミングで話を捏造するの!?』
「まぁそんなことはどうでもいいとして、今大事なのは必殺技だぜ必殺技」
『どうでもよくないよ!ここ大事だよ!テストにでるよ!!』
なんのテストなのだろう。紳士学か。
さっちんと蘇我と闇倉が騒いでいる隣で、ツキミと霊能が少し真面目な空気になっていた。
ツキミが霊能に問う。
「霊能さん、必殺技・・・本当に欲しいんっですか?」
「・・・?どういうことだ?」
「霊能さんが本当に欲しいのは必殺技ではなく・・・[かっこよさ]なんじゃないかということっです!」
「・・・!確かに・・・俺が欲しいのはかっこいい見せ場だぜ・・・」
「つまり!かっこよければ別に必殺技じゃなくてもいいんっですよ!そもそも必殺技だっていくらかっこよくてもギャグパートでやったら冷めるだけっです!」
「ようするに・・・いかにシリアスなシーンでかっこつけれるか、と言うことか・・・!!」
「そうっですよ!そしてシリアスでかっこいいといえば名ゼリフ!決めゼリフっです!!そっちのほうが技よりも考えやすいっですよ!!」
「よし!みんな!俺のかっこいいセリフを考えてくれ!」
と、いうわけで必殺技会議からセリフ会議に移行。
なんともどうでもいい会議だ。会議の内容にさっそく蘇我が手を上げる。
『はい僕霊能の決めゼリフ思いついたよ』
「OK発言を許可するぜ」
『[俺の生徒に手を出すな!!]なんてどうかな?』
「うんパクリだとかなんだとか言う前にまず俺教師じゃないからね?生徒いないからな?」
『ボクも思いついたぎゃ』
「頼むぜ?よし言ってくれ」
『[言っただろ?・・・日本の首都は・・・名古屋だ]くぅ~っ!かっこいいぎゃ!』
「どんな状況だよ!どんな場面で使うセリフなんだよ!!」
『東京?大阪?・・・どえりゃあくだらないぎゃ。時代は名古屋だぎゃ!!』
「お前前回名古屋キャラ作ってないって言ってたよな?俺の聞き間違いじゃないよな?」
『・・・過去を振り返ってばかりじゃ未来へは進めないんだぎゃ、ボクはいつだって前だけを見て生きていくんだぎゃ』
「もうお前の印象名古屋しかねーよ、吸血鬼っぽさゼロだよ」
「はいはいはーい!あたしもいいのを思いついたっですよ!!」
「・・・ちゃんと決めゼリフっぽいやつを頼むぜ?」
「[・・・病気の熱は下げれても・・・たみ子の情熱は下げられない!!・・・・たみ子です]良くないっですか!?最高っですよ!!」
「たみ子じゃねーか!!もうお前これ・・・どうしようもないよ!たみ子って名乗ってるし!!」
「仕方ないっですね・・・じゃあいっそ霊能たみ子に改名するしかないっですよ」
「嫌だよ!仕方なくないよ!!むしろ何が仕方ないんだよ!!」
そのとき、すっと一つの手が上がった。
周りの目がそこへ集中する・・・さっちんだ。
『大変なことに気がついてしまったどすぇ』
その顔は今している会議を根底から覆すようなことに気がついてしまったかのような顔をしている。
「・・・どうしたんだ?言ってくれ」
『・・・今考えているのは、かっこいいセリフ・・・どすな?』
「ああ・・・そうだが?」
『そしてそのかっこいいセリフを言う前提が・・・シリアスなシーンであること・・・どすな?』
『あ・・・まさか・・・』
『そう、蘇我はん、その・・・[まさか]・・・どすぇ』
「え?・・・どういうことっですか?」
『訳が分からないんだぎゃ・・・?』
「二人とも・・・つまりどういうことなんだ?」
気がついてしまった二人・・・さっちんと蘇我は、同時に言い放った。
『『・・・僕ら(私たち)にシリアスなんて存在しないってことだよ(どすぇ)!!』』
ピシィ!!
空気が止まる。霊能も止まる。
そう、彼らにシリアスは存在しない。あるのはせいぜいシリアス(笑)程度である。
シーン・・・
この擬音がここまで似合う五秒間はいまだかつて無かったであろう。
そして発言から五秒がたった時、霊能が口を開いた。
「それを言っちまったら・・・おしまいだろうが・・・」
こうして今日の緊急会議は終わった。
・・・見事なほどにためにならない会議であった。