第三十話 霊能太郎と旅行終了
旅館の廊下・・・
そこで蘇我とアリスは向かい合っていた。
『僕には!八千人の部下がいる!!』
『・・・そうか』
『ままま待て!とりあえず落ち着こう?ね?斧は下ろそう?』
『・・・俺っちはすっきりしっかり落ち着いてるぜ。落ち着いてお前を殺せそうだ』
第三十話 霊能太郎と旅行終了
『OKOKまずは深呼吸だよ、ホラ吸って~吸って~吸って~・・・ゴホッゴホ!!!』
『・・・なぁ、そろそろいいか?俺っちもこれ仕事で来てるからあんまり全然時間無いんだが』
霊能離脱後、蘇我はいち早く思考を全力で回転させた。
今現在の状況、そしてここをどう切り抜けるかについて必死に考えた。
その脳内会議の様子がこれだ。
(では今から!紳士的脳内会議を始める!!議題はいかにして今を切り抜けるかだよ!)
(ハイ!議長!!ここは自力で目の前の男を倒せばいいんじゃないでしょうか!)
(・・・蘇我2号・・・それ真面目に言ってる?無理じゃね?だって斧だよ?)
(・・・うんアレ無理だね、やっぱり霊能が帰ってくるまで時間稼ぎをすべきだと思うな!)
(OKならば巧みな話術で場をつなごう!)
(さっちん好きだぁぁぁぁぁ)
(僕もだ!!さっちぃぃぃぃぃん!!!)
(お・・・おいお前ら!今は愛を叫んでいる場合じゃない!もっと真剣に考えろ!!)
(真剣に考えてるよ!さっちんのことを!!)
(奇遇だな!僕もだ!!)
(HAHAHAHAHAHA~)
脳内会議、終了。
(・・・勝利の鍵は話術とさっちん)
作戦が決まった。
『・・・ところで君たちはなんでここの旅館を襲うんだい?』
『ああ?こっちにもいろいろあんだよ。オラさっさとちゃっちゃと死にやがれ!』
『うわうぉお!?』
アリスの斧が横なぎに蘇我を襲う。
それをギリギリの所でバックステップして避けるが・・・
『甘めぇ』
斧と連続でとんできた蹴りがボディにめりこむ。
相手は地上げ屋なんて商売をしている相手、言うならば荒事のプロなのだ。
『っぐは』
ズザァァァァ
蹴りをくらった蘇我は廊下に体を打ち付ける。
(・・・まずい、僕の話術が通用しそうに無い・・・どうする・・・ハイ、蘇我4号答えて!)
(え・・・僕!?・・・そうだ!これならいける!!任せて!)
(よし、承認!そのアイデアで場を切り抜けてくれ!)
『おいおい一発で終了かぁ?』
『・・・いいやまだだよ』
そう言って蘇我が立ち上がる。
その顔には切り抜ける自信がありありと満ち溢れている。
『・・・いい目してんじゃねぇか・・・ま、さっさとぱっぱと死んでくれや』
アリスが攻撃に出ようとした瞬間、蘇我が動いた。
右手を一旦引き、腰をひねる。そして腰のひねりを伸ばし、その勢いで右手を斜め上に向ける!!
『あ!!あんな所にさっちんが!!』
『・・・・・』
『・・・って痛いっ痛いっ!!』
蹴られた。
『・・・そろそろいいよな、きっちりばっさり殺しても』
『いやいやいやいやちょっと!ちょっと待って!!しばらく待って!かなり待って!』
『・・・うるせぇな、どうせ全員殺すんだ・・・変に抵抗してんじゃねぇよ』
『・・・僕を殺したあとに、みんなを殺すの?なんで?』
『ああしっかりきっちり殺してやるよ、この土地を制圧しなくちゃなんねぇからな』
『そっか・・・そっか・・・そう・・・なら・・さ』
『ああん?』
『・・・なおさら負けられないね。準備は出来たし・・・ちょっと真面目に勝ちにいこうかな』
蘇我の目つきが変わる。さっきまでのふざけた目ではなく、真面目な目。
それを見たアリスは少しだけ気を引き締める。そうしてアリスが改めて回りを見ると、至る所に糸が張り巡らされているのが見える。
少し前までは無かったはずの糸だ。
『・・・何をしやがった?しっかりどっさり説明してもらおうか』
『嫌だね、せっかく張った罠だ。説明なんてしたらそれこそ馬鹿じゃないか・・・ほら、攻めてきなよ』
『・・・っち、これ見よがしな罠ぁ張りやがって・・・』
アリスは考える。
この短時間で張った罠、張り巡らされている糸のことを。
罠に費やす時間はほとんど無かったはずだ。目の前のメガネには不信な動きは無かった。
それはしっかりばっちり自分が見ている。
目の前のメガネは、メガネの周りだけならまだしも・・・アリスの後ろにまで罠を仕掛けられる余裕は無かったはずだ。
事前に仕掛けてあった?
いや、それはないだろう。今回の仕事の内容が漏れていたとは考えられない。
ならば見えない速さで一瞬の隙を見て糸を張った?
いやいやありえない、そんなことができるなら普通に戦えるはずだ。
・・・まさか、時間を止めた?
否、それこそありえないだろう。
そんなことが出来るようなやつには見えない。
どうする、罠だと分かっていて突っ込むか・・・?
こんな短時間で張った罠だ、最悪でもたいしたダメージには・・・
『ああそうそう、うかつに糸を切らないほうがいいよ。・・・前にこれを張った時は・・・自分でも見てて吐き気がしたっけ』
『・・・おいおい、どんなけ危険な罠張ってんだよ・・・』
再びアリスは考える。
ヒントは今のメガネの発言だ。
どうやら糸が切れると発動するタイプの罠らしい。
そして発動すると見てて吐き気がする・・・これはつまり、再起不能になるほどのダメージを負うと考えていいだろう。
つまり・・・糸と連動して何かが起こる罠だということ・・・
通常の罠を糸と連動させた場合、上から物が落ちてくるや横から物がとんでくる・・・と言うのが定番。
『ようするに・・・少し離れたところから糸を全部処理しちまえばすぱっとまるっと解決だわなぁ!!』
ばっとアリスが糸に気をつけつつ身を引く。
一番近い糸から三メートルは離れた。
『・・・あれ?ちょっと待・・そんなに離れちゃってどうするの?』
気のせいかどことなく蘇我の顔から勝気な表情が消えた気がする。
『簡単だ、こういうことだよぉ!!』
次の瞬間、何かがアリスの手から投げられ糸を切断していく。
そう、それはアリスの斧だった。
そうしてほとんどの糸を切断した斧はブーメランのようにアリスの手元へと戻っていく。
『・・・どういうことだぁ?』
糸をほとんど切ったにも関わらず、何も起きない。
『・・・まぁいい、何も起きないんならやっぱりがっちり構わねぇ』
離れたところにいるアリスがじわりじわりと蘇我に近づいてくる。
『・・・まずいね、ばれちゃった・・・』
汗だらっだらの蘇我。
と、ここであの罠について説明しておこう。
勘のいい人なら気づいてるかもしれないが、ただのハッタリである。
蘇我が不信な動きをアリスに見せていないのは当然、ポルターガイストを使っているからだ。
あれなら別に手を動かす必要は無い。
そして何故瞬時に糸を張り巡らせられたのかと言うと・・・
なんて事はない。糸は張り巡らされている訳ではない。ただ浮いてるだけなのだ。ポルターガイストで。
ちなみに当たり前だが、こんなしょぼいハッタリをかましたのは始めてである。ゆえに吐き気がした覚えも無い。
『・・・でもまぁ・・・僕の勝ちだよ』
『はぁ?こんな状況で何言ってやがんだ?まぁいいや、オラ・・・ばっちりがっちり死にやがれ!!』
アリスの斧が蘇我の頭を割るために振り下ろされる。
『なっ・・・』
いや、振り下ろされなかった。
正確には、振り下ろそうとしたのだが・・・斧が動かなかったというのが正しいか・・・。
アリスが自分の斧におそるおそる目を向けると・・・
「悪い、蘇我・・・間に合ったか?」
『ギリギリだね、待ってたよ・・・霊能』
そこには、右腕を血まみれにした茶髪の高校生がアリスの斧を抑えていた。
『てめっ・・・何者だ!?』
「さて、よくもやってくれたな・・・」
霊能の手に力がこもる。
『っち、一転して不利な展開だな・・・こりゃぁ不味いか・・?』
「仕返しだけはさせてもらうぜ?」
『・・・仕返し?・・・俺っちはお前にはまだ何もしてないぜ?いったい全体何の仕返しだって言うんだよ』
『なっ!そんなの当然僕のに決まってるだろ!』
「くらえ・・・ヤングドーナツの仇ぃぃぃぃ!!!!」
『グファ!!』
(僕ドーナツに負けたぁぁぁぁぁぁ!!!!)
「これで・・・一件落着か?黒服たちもなんか撤退しはじめたみたいだし」
<あああ!アリス様ぁぁ!
<退却ぅぅぅ!!退却でゴンスゥゥゥ!!
『うん、とりあえず・・・守りきれたみたいだね』
「ふぅ・・・良かった。ああ・・・でもさすがに痛むな・・・」
痛みに顔をゆがめる霊能、それを見た蘇我が問う。
『・・・その血まみれの右手・・・どうやってあの腕輪を外したの?』
「ああアレ?・・・急いでたからな、ちょっと強引に外したよ」
『・・・強引にって・・・まさか・・・』
「なぁに、手の肉を削いだだけだ。それだけで間に合ったんだから安いもんだろ」
『・・・そっか。・・・・・・ありがとね、親友』
「構わんさ、親友」
こうして旅館の戦いは地上げ屋の撤退と言う形で終わった。
次の日、帰り道
「いやぁ・・・昨日の夜は大変だったっですねぇ~」
『散々だったどすぇ・・・』
「まぁみんな無事だったしスリリングで良かったぜ!」
『スリリングと言うには危険すぎた気がするけどね』
旅館をでる時にやたら従業員に感謝と謝罪をされたのが印象的だった。
その際、店長が
「誠意ってその程度なの?その程度で誠意表したつもりなの?」
とこぼしたせい・・・いやおかげで粗品を全員もらうことになったのは余談である。
今回の温泉旅行は最後に一騒動あったが、総じていい旅行だったのではないか。
それはおそらく旅行に行った全員の共通の認識だろう。
「ああ~またいつか旅行に行きたいっですねぇ~」
『そうどすなぁ・・・もうしばらく何も予定が無いどすぇ・・・』
『そうだね、しばらく暇かなぁ。霊能ー、しばらく予定ってゼロだよねぇ?』
「そうだな・・・あ、俺明後日誕生日だわ」
「『『え、マジで?』』」
「うん、マジで」
『明後日どすか・・・プレゼントを選ぶ時間が全然ないどすなぁ・・・』
『誕生日か・・・どうせならいいプレゼントを渡してやりたいな』
「あたしも何か探してみるっです」
「え?何、プレゼントくれるのか?」
『そりゃあげるどすぇ・・・ってどうかしたんどすか?』
「いや・・・今まで家族とゴンザレス(ちくわ大好き)からしか祝ってもらったこと無かったから・・・」
・・・すこしばかりの沈黙。
『よ、よし!!なら霊能!明後日は期待していろ!?あっと驚くものを渡してあげるよ!!』
『わ、わたしもどすぇ!』
「じゃああたしも珍しいもの持ってくるっです!!」
「お前ら・・・ありがとう、期待してるぜ!!」
かなりわくわくした目をしている霊能を見てそこに居た三人は同じことを思った。
(((あの目・・・プレッシャー高けぇぇぇぇ)))
これは本気でいい誕生日プレゼントを用意しよう。
そう考えたそうな。