第三話 霊能太郎と呪いのビデオ
「これは……本物なのか?」
自宅でとある物を手に持ち言う。
彼の名は霊能太郎、筋トレ好きで前方倒立回転とびができる男だ。
『ああ、間違い無い。たぶん』
そんな彼の隣にいるなんか透けているメガネの男の名前は蘇我入鹿、特徴は幽霊であることと前方倒立回転とびができる事だ。
「見よう!! 今すぐ見よう!!!」
はしゃいでいる霊能の目は輝いていた、そりゃあもう生き生きと。
そもそも彼らが何をしているのかを説明するのは……少し過去にさかのぼらなくてはならないだろう。
第三話 霊能太郎と呪いのビデオ
それは学校が終わった放課後……霊能と彼に取り憑いてる感じになってる蘇我は最近の日課のように男子トイレの個室に来ていた。
「赤青さーん、授業おわったよー」
『そうか、だが何で俺に報告に来るんだ? おい?』
『僕と霊能が赤青さんの友達だから?』
「大体そんな感じ」
『理由になってねぇよ! つーか俺お前らの友達じゃねぇーからな』
「照れ屋だな」
『ああ、間違いない、照れ屋だ』
『帰れ!!』
トイレで彼らと話しているのは赤紙青紙という妖怪である。
ほとんど実体は無いようなものだから前方倒立回転とびはできない。
『で、本当に何しに来たんだお前らは……』
「いやぁ……人外探してるんだけどなかなか見つからなくって……」
『赤青さんならどこにいるか知ってるかな、と』
『知るか、知ってても教えんわ』
「またトイレットペーパー補充しとくからさ、頼むよ」
『いらねぇよ、つーかお前が前に補充したトイレットペーパーことごとく濡れてたじゃねぇか、いやがらせか』
「あれは俺のせいじゃないぞ? もともと濡れてたんだ」
『それを持ってきたのはお前だろうがぁぁ!!』
個室トイレに響く叫び声、蘇我は多少声の大きさにビクッとしたようだが霊能は微塵も動揺しない。
「まぁまぁ落ち着いて……今度は乾いたのにするから教えてよ」
『乾いてるのは前提だろうが……はぁ、まぁいいや。で、花子さんとか人体模型は探したのか?』
『探した。僕と霊能であらゆるところを駆けずり回ったよ……』
『いや女子トイレと理科室だけだろ調べるのは……』
「でもだめだった。女子トイレは入りづらいし理科室にはそもそも人体模型が無かった」
『そっちの幽霊なら女子トイレにも入れるだろう?』
『ばれないからってやっていいことと悪いことがあるでしょう? 紳士なめないでくださいよ』
「えっ? 蘇我って紳士なの??」
『紳士だよ!! 紳士オブ紳士だ!!』
『てっきり見えないのをいいことに覗きやらなにやらいろいろやってると思ったが……』
『赤青さんまで!? 僕は紳士だよ!!』
「んじゃ紳士って十回言ってみて」
『紳士紳士紳士紳士紳士紳士紳士紳士紳士紳士!!!』
「はぁ、本当の紳士ってやつは自分が紳士であることをひけらかしたりしないもんだよ。この偽紳士」
『霊能が言えって言ったんだろうがぁぁぁぁ!!』
またしてもトイレの個室に叫び声が響く。うるさいトイレである。
『じゃあとりあえず学校の七不思議的ななにかから探せば良いんじゃないか?』
「それが……その……」
珍しく霊能にしては歯切れが悪い。
『僕の代から受け継がれてるこの学校の七不思議を知らないんですか?』
その横で意外そうに言う蘇我。
『ああ、知らないな……そんなに言いづらいもんなのか?』
『言いづらいわけではないんですが……霊能は認めたくないんでしょうね』
『興味深いな、聞かせてくれ』
「……一つ目」
ぼそっと霊能が声を振り絞るように言う。
「四時四四分に計ると廊下の長さが変わる」
『おお……案外それっぽいじゃないか』
「三センチほど」
『しょっぼいな!』
「二つ目、二つ目の不思議が無い不思議」
『早くもネタ切れ!?』
「三つ目~七つ目、それぞれの不思議が無い不思議」
『適当だぁぁぁ!!』
むなし過ぎる七不思議である。
『いやこれそもそも七不思議って言えるのか? 実質一つだしその一つもしょぼ過ぎるだろうが……』
『まぁそんな感じで……で、何か人外の手がかりを知りませんか?』
『うーん……そんな漠然と言われても分からんなぁ』
『ですよね……それじゃ今日は帰ります。さよーならー』
「ばいばい赤青さん!! また明日!」
『いやもう来なくていいぞー、つーか来るな』
そんなこんなで家に帰ってきた二人は適当にケロちゃんの相手をしてからポストに見覚えの無いビデオテープが入ってるのを見つけた。
色は黒く、うっすらと血の跡がある。
「これは……?」
手にとって見てみると、このビデオテープには名前が書いてあった。
SADAKO、と。
『なんでローマ字なんだよ!!』
「とりあえず家に入ろう、話はそれからだな」
そして家に入った後、現在に、冒頭に戻るわけである。
「これは……本物なのか?」
『ああ、間違い無い。たぶん』
蘇我はそのビデオテープの禍々しさが分かったようだ。
「見よう!! 今すぐ見よう!!!」
まぁ霊能はまったく分かってないようだが。いや、分かってて無視してるのかもしれない。
『まぁ大丈夫だろう、とりあえずテレビ用意だ!』
すばやいコンビネーションで準備をする。そしてジュースとお菓子を用意、寝転がってビデオをつける!! 当然ジュースはカルピスと三ツ矢サイダーだ。
だがテレビは砂嵐、なかなか何も映らない。
「マダー?」ポリポリ
『もうちょいだと思うよー』ゴクゴク
お菓子を食べ、ジュースを飲む二人。
気分はまさに金曜ロードショーのカリオストロの城を見るときな感じである。
するとテレビの映像が映り始めた……奥に井戸があり、そこから女の手が出てきて……
「おおー」ゴクゴク
少しずつこちらに向かってくる――――
『すげー』ポリポリ
やがて女は画面に近づき――――
『あ、ちょっとカラムーチョ取ってくるわ』
「今いいとこなんだから後にしろって」
ありえないことに画面から手が出てくる――――
「あ、ポテチ無くなった……蘇我ーやっぱカラムーチョお願いー」
『えー今クライマックスだろうがーだからさっき言ったのに……』
そして画面からその女が出てきた――――!!
『の、呪い殺しますどすえー!』
画面から出てきたのは見た目小学校高学年の黒髪ロングな女子!!
服装は白い着物!! さらに裸足!!! このとき霊能と蘇我の心は一つになった。
やべぇこの子かわいい……と。
『ううぅ……怖がってくださいよぉ……』
だがその反応はお気に召さなかったようで若干涙目になる少女。
「おおい! 泣くなよ? めっちゃ怖いから! な?」
『ああ、怖い怖い! 可愛すぎて怖いよ!』
全力で慰める二人、たしかに女の涙ほど怖いものは無いのかもしれない。
『ほんとどすかぁ?』
「ああ、本当だ! だから元気出せ?」
そういうとえへへと笑う少女、とりあえずは泣き止んだようだ。
『で、君の名前は?』
『えぇと、山村貞子です。呪い殺しにきましたぁ』
『君みたいな可愛い子に呪い殺されるなら紳士として本望さ!!』
「蘇我はすでに死んでるだろうが」
『ああ画面から出てきた瞬間に萌え死にしたな』
「もう死んじゃえよお前」
おかしな会話が繰り広げられる霊能君の家、ちなみに霊能は一人暮らし(幽霊憑き)だ。
「まぁ紳士は置いといて、俺と友達になろう」
『え、……でも私は呪い殺しに……』
『霊能を殺す自信があったら試してみると良いんじゃない?』
「おいコラ何さりげなく人殺し推奨してんの? 馬鹿なの?」
『じゃあ……やってみますえ』
「さっちんも何試してみようとしてんの? 自重という言葉を知らないの?」
『むむむむむむぅ…………あれ?』
「どうしたんださっちん」
『さりげなくさっちんって呼んではりますねぇ。全力で呪ってるんですけど……』
『霊能、体調の変化は?』
「背中がかゆい」
『それだけどすか!!? ショックです……』
『まぁそんなもんだって、ちなみに霊能は霊能力どころか霊感すら皆無だぞ』
『さすがにうそですよね!!?』
「いや本当だぜ? 蘇我が見えるのもたぶん視力が良いからじゃないか?」
視力が良い程度で霊が見えるならマサイ族は大変である。
「で、友達にならないか? まぁさっちんの帰る井戸は壊しといたが」
テレビをみるとなぜか井戸が壊れている。
『ええぇ!!! 何で画面の中のものを壊せるんどすかぁぁ!!?』
「気合で」
『……信じられないどすなぁ』
『ま、これでさっちんは帰れなくなった訳だからここに居るしかないな』
「これからよろしく、さっちん」
『……これからよろしくどすぅ……』
貞子が仲間に なった。その後はさっちん歓迎会という名目でお菓子とジュースを飲み、時間が過ぎていった……。ちなみに歓迎会のとき貞子は
『おいしいどすぇ……おいしいどすぇぇぇ』
やたらお菓子やジュースに感動していた。
井戸暮らしのサダコッティな彼女にはお菓子もジュースも食べる機会が無かったのだろう。
「電気消すぞー」
『紳士としては少女に帰る場所を壊して同居をせまるってただの犯罪に見えるがまぁいいかかわいいし……』
「結果オーライさ」
『布団で寝れるって最高どすなぁ……』
ふとんにくるまりながらうっすら涙を浮かべる貞子。
「ホラ本人も最高って言ってるし」
『まぁ井戸の生活よりかはよっぽどいいだろうな』
そりゃそうだ、井戸よりは霊能の家のほうが居心地がいいに決まってる。
「あ、さっちーん」
『なんどすかぁ?』
「まだまだ同居人とか増えるかも知れないけどかまわない?』
『私がここに居させてもらえるならぜんぜんかまへんどすぅ』
「じゃ、また明日からも人外探しだな!」
呪い殺されることも無く、妹のような存在ができた今日みたいな日もあれば、人外が誰も見つからない日だってある。
だが友達がゴンザレス(筋肉質)しかいなかった時に比べて、人外を探し始めてからなんだかんだで充実した日々を送っている気がする霊能であった。