第二十八話 霊能太郎と卓球勝負
「さぁ・・・温泉のあとと言えば・・・」
『ふむ、アレしかないな』
『うん、アレしかない』
「お、流石二人とも分かってるじゃねぇか・・・そうたっきゅ」
『『女子の浴衣姿!!』』
「お前らの頭に今すぐ弾丸サーブぶち込んでやるよ」
第二十八話 霊能太郎と卓球勝負
温泉から出て浴衣に着替え、一息ついた。
体も温まり、心なしかいつもよりも体の調子もいい気がする。
「卓球だ卓球!温泉に友達ときたらこれしかねぇぜ!!当然、やるよな?」
『ふ、愚問だね霊能・・・この次世代の卓球マスターと呼ばれたいこの僕に卓球勝負を挑むとは!返り討ちにしてあげるよ!』
『おおー!蘇我はんはそんなにすごい人だったんどすかぁ!?』
『馬鹿な根暗ね、よく聞きなさい。ただのアホメガネの願望よ』
『卓球でござるか・・・拙者も参加したいでござる』
『ふむ・・・私も参加させてもらおう、何・・・紳士スキルの中には当然卓球も含まれているから心配はいらない』
『紳士って言葉の意味が分からなくなってきたわね・・・。あ、私はやめとくわ、あんまり卓球って得意じゃないし・・・』
「じゃあ・・・温泉卓球大会参加者は俺と蘇我と佐悟さんと小次郎でいいか?」
『あ、私もやりたいどすぇ~』
「さっちん卓球できるのか?・・・まぁいいやんじゃ参加なー。・・・五人かぁ・・・店長はやんない?」
『・・・私は部屋に戻ってるわ、行くわよ、口裂け』
『あ、はい。・・・じゃ、またね、みんな』
「おーう、またなー」
『五人かぁ・・・どうする霊能?一人はシードにしようか』
「ちょっと待ったぁ!!・・・あたしを忘れてもらっちゃ困るっですよ!!この伝説の卓球の申し子とよばれるかもしれないこのあたしをっ!!」
『おおー!ツキミはんもそんなに凄い人だったんどすかぁ!?』
『さっちん殿、学ぶでござるよ…』
「よし!ならこれで六人、・・・では今から!!温泉卓球大会を始めるぜぇぇぇ!!!」
こうして始まった温泉卓球大会。
出場者は六人。勝てば栄誉が、負ければ敗者の烙印が手に入る。
今ここに、彼らのプライドをかけた戦いが始まるのである。ちなみに対戦相手はくじで決めることとなった。
◇
どうも、お久しぶりです。
棒 燐子です。
今日はおじいちゃんと一緒に温泉に来ていて、いざ温泉に入ろうとしたら女湯と男湯の壁が壊れたとかで温泉に入れませんでした。
なんかでっかい岩が裏山のほうから降ってきたそうです。
ここの旅館の女将さんにとても謝られました。女将さんはその岩について何か知ってるみたいで、ひたすら慌ててたけど燐子には関係ないかな。
で、温泉に入れなかったのを落ち込んでいるとおじいちゃんが卓球に誘ってくれました。
それで今燐子は卓球場にいるんだけど・・・
「親父直伝!!零式バック!!」
『なっ!・・・ふむ、これは私も本気を出さざるを終えないね・・・』
なんか周りが超次元卓球を繰り広げています。
え?なにアレ?
ととととりあえず落ち着いて説明すると・・・
卓球場はそこそこ広い。
で、燐子とおじいちゃん以外にもここで卓球する人がいる。
それで今、燐子たちの周りでは三箇所で卓球が行われている。
みんなどこかがおかしい。
いやだって何よあれ!!まずあそこの茶髪の高校生!!零式バックって・・・!
卓球なのにバウンドしなかったわよ!?絶対打ち返せないじゃない!!卓球にボレーはないんだから!!
とまぁびっくりしてたら・・・
「くらえ!零式バック!!」
『紳士に二度同じ技は通用しないのだよ!!』
「な!!やるじゃねぇか佐悟さん!!」
・・・打ち返しちゃったよ!!バウンドと同時にすくい上げるような感じで打ち返した!!
紳士って凄い!!
・・・?紳士ってそういうものだったっけ?
「燐子や、あるがままに受け入れるのも大事じゃよ?」
「うん、でもおじいちゃんが何故か上半身裸なのは受け入れれそうにないや」
「燐子や!見るのじゃ!この肉体美!!」
「うん早く浴衣着てねー」
ったくおじいちゃんは・・・たいした筋肉も無いくせに・・・。
まぁそんな感じで茶髪の人と頭に皿を載せた人が対戦してる。
その隣の卓球台ではどうやらメガネの人と帯刀してる人が打ち合ってるみたい。
『なかなかやるね!小次郎!!』
『温いでござるよ!蘇我殿!!』
・・・よかった。
こっちはどうやら普通みたい。
『くらえ小次郎!![変幻自在のピンポン玉]!!』
『しまった!・・・ぬかったでござる・・・ッ!』
・・・普通じゃ無かったよちくしょう!!
ありえないよ!ボールがありえない方向に空中で曲がったよ!!なんなの?どんな回転をかけたらボールがいきなり進行方向と逆に動くの!?空気の層でバウンドしたとでも言うの!!?
「燐子や、あの球の秘密をしりたいかね」
「え!?おじいちゃん分かるの!!?」
「ワシも知りたい」
聞いた燐子が馬鹿だったよ・・・
はぁ・・おっ?帯刀してる人が構えた!
・・・なんかちょっとどんな球を打つのか楽しみになってきた自分がいるわ・・・
『いくでござるよ![幻影流 蜃気楼]』
あれ?普通の球じゃない?別に変な回転してる訳でもないし・・・
『勝負を捨てたか小次郎!これくらい簡単に・・ってぇええ!!?』
メガネの人のラケットを球がすり抜けた!!?
え!?嘘?何で!!?
「若さじゃ」
ごめんおじいちゃん黙ってて。
あと早く服を着て。サムズアップしないで。
なんかもうこれもはや卓球じゃないよう・・・
ん?反対側の台は女の子がやってるじゃん!よかった・・・やっと普通の卓球が見れる・・・
『流石に無機物に呪いは効かないどすぇ・・・っ!』
「もらったー・・・ってさっちんさん!?球に効かないからってあたしに直接やるのは反則っですぅぅぅううう!!」
『[呪殺式 盲目]どすぇ~』
「見えない!前が見えないっですよぉぉおおお!!」
・・・うん、見た目は普通だ!
呪いとかいう言葉が飛び交ってるけど見た目は普通だよ!
しいていうなら金髪の子がふらふらしてるくらいかな!
目が~目が~って言ってるけどきっとラピュタが好きなんだよ!真似しちゃうくらいに!
うん普通普通!
なんか燐子の中で普通の定義がちょっとずれてきた気がするけど気のせいだよ気のせい!
「燐子や燐子や・・・」
「ん?どうしたのおじいちゃん?」
「バルス!!」
・・・イラッ☆
「・・・アレ?ウケなかった?今ヤングの中で馬鹿ウケと弟子に聞いたんじゃが・・・燐子!?なんで右手をチョキにしとるんじゃ!?」
ブスゥッ!!
「目がぁぁぁぁ!!目がぁぁぁぁ!!!」
・・・ふう、おじいちゃんったら!本当に昔からラピュタごっこが好きなんだから!
ったく・・・山田さんもいったい何を教えてるんだか・・・そもそもあの二人は何の師弟なのよ、ガイザーって何よ・・・
はぁ、なんか最近ため息ばっかりついてる気がするわ・・・
◇
「一回戦、勝ったのは俺と小次郎とツキミか・・・三人だと・・・一人シードかな?」
卓球大会一回戦勝者は霊能と小次郎とツキミだった。
どうやら佐悟さんと蘇我とさっちんは負けてしまったようだ。
『そのようでござるな・・・ならばシードはくじで決めるでござるか?』
「ちょっと待ったっです!・・・あたしとってもいいものを見つけたんっですよ~!」
そう言ってツキミが卓球場の奥を指差す。
その指の先にはなにやら丸いテーブルが置いてあった。
『ふむ、どうやらあれは卓球台のようだね』
『丸い卓球台・・・あ!そうか、三人以上で卓球ができる訳だねmyブラザー』
丸い卓球台にはネットをかける場所がしっかりついており、最大八人まで同時対戦できるようになっているようだ。なかなか便利な卓球台である。
「よし、じゃあ決勝は三人同時対戦でいこうか・・・」
『望むところでござるよ』
「あたしも負けないっですよ?いざ尋常にっです!!」
こうして温泉卓球大会、決勝戦が始まった。
「超トップスピン!!」
『なんの!!反射神経ならそこそこ自信があるでござるよ!!』
「甘いっですよ!!この天才卓球少女を夢見るこのあたしはそう簡単に負けないっです!!」
三人同時対戦は思っていたよりも盛り上がった。
霊能が小次郎にスマッシュを打ったと思えば、小次郎はその球を受け流すかのようにツキミの方向へ打ち、ツキミは霊能に打ち返すと見せかけて小次郎・・・と思わせつつ霊能に打ったりしていた。
カン!コン!カン!コン!
規則正しいリズムで音が鳴る。なかなか白熱した試合のようだ。
ちなみに特別ルールで、五ポイント先に取られた人が抜け、残った二人で一騎打ちである。
今すでに小次郎がマッチポイントにされている状態である。
さりげなく霊能とツキミが小次郎をまず落としにかかったのだ。
『・・・ッ!なかなか酷いでござるよ!さっきから拙者のところばかりに球が・・・ッ!』
「気のせいじゃないか?・・・・くらえ小次郎!!ハイパースマシュ!!」
『なななななんの!!!』
「気のせいっですよ・・・ミスるっですよ小次郎さん!!ウルトラスマッシュ!!」
『ぬわぁぁぁぁ!!絶対狙い打ちにされてるでござるよ!!』
「「・・・しぶとい(な)(っですね)・・・」」
『ホラ!ホラ拙者絶対狙われてるでござるよ!!二人とも鬼でござる!!』
『小次郎!この二人を鬼って言っちゃだめだ!!・・・帝鬼さんに失礼だよ!!』
「おい蘇我それどういう意味だよ」
『っていいながらもスマッシュはエグイ所ばっかりでござるぅぅぅ!!!』
「もらったっです!!スーパースマッシュ!!」
『容赦無しでござるか!!・・・無念』
小次郎、決勝戦途中脱落。
こうして決勝は二人の卓球勝負に変わる・・・
霊能、ツキミ、両者ともに実力は均衡している。ゆえになかなか長いラリーが繰り広げられる。
カン!コン!カン!コン!
「やるじゃねぇかツキミ!!」
「舐めてもらっちゃ困るっですよ!!」
カン!コン!カン!コン!
『どうも、実況の蘇我です。いやぁこの白熱した戦い、今後どうなると思いますかmyブラザー』
『ふむ、両者とも卓球の強者。凄まじい戦いになりそうだね』
『そうですか、・・・myブラザーは一回戦霊能選手と戦いましたよね?どうでした?』
『ふむ、的確なボールコントロール、圧倒的なスピン・・・そして必殺技、どれも一流だったよ』
『ズバリ、敗因は?』
『ふむ・・・霊能君の父君が直々に教えたというあのテクニックの数々・・・かな』
『ありがとうございました。では次に一回戦ツキミ選手と戦ったさっちん選手に話を伺いましょう。どうでした?』
『ツキミはんは強いどすぇ。私がまさかあんなに圧倒的な差で負けるなんて思いもよらなかったどすぇ・・・』
『そうですか、どういったあたりが強かったのでしょうか?』
『私の得意な呪いを試合中にかけたんどすけど・・・すぐさま適応してきたんどすぇ・・』
『呪い、というと?』
『目が全く見えなくなる呪いをかけたのに・・・ツキミはんは言いはりましたんどすぇ・・・目が見えないなら見なきゃいいだけっです・・・と』
『ま・・まさか目をつぶったまま卓球を・・・?』
『そうどすぇ・・・それができるほどツキミはんは卓球が得意なんどすぇ・・・』
『そうですか・・・では、ズバリさっちん選手の敗因は?』
『・・・ただ純粋に・・・技術の差どすぇ』
『技術・・・?』
カン!コン!カン!コン!
「っく・・・なかなか・・・強いじゃねぇか・・・」
「・・・卓球王女と呼んでもいいっですよ・・・ッ!」
「は!言ってろ・・・ッ!」
カン!コン!カン!コン!
『・・・気づいてるどすか蘇我はん・・・ツキミはんはまだ、一度もお得意の[陰陽術]を使っていないどすぇ・・・』
『・・・なんだっ・・・て?』
カン!コン!カン!コン!
「っく・・・もうマッチポイントかよ・・・流石だな・・・」
「さて、ここできめさせてもらうっですよ!!」
霊能がサーブを打つ、とてつもない回転がかかったそのボールはツキミの前でバウンドとともに横へ跳ぶ。
だがツキミのラケットは既にピンポン玉の動きの先にあった・・・!
「チェックメイト、っです。[陰陽術 次元穴]」
そう言って打った球は小さな穴に吸い込まれ、一瞬にして霊能のコートの隅へと出現した。
つまり、ワープである。
「な!!・・そいやぁぁぁ!!!」
だが霊能の反射神経はその球を捕らえた。
そして霊能は跳び上がり球を追う。
「ギリギリ・・・セェフ!!」
球に追いついた霊能はラケットを振りぬく。
カコン!・・・と鳴る予定だった音は鳴らない。
霊能のラケットは空振り。球は霊能が跳んだ逆方向に転がっている。
「甘いっですよ、ワープが一回で終わる・・・そう考えたのが霊能さんの敗因っです」
ここに、温泉卓球大会優勝者が決まった。
『優勝おめでとうどすぇ~』
「あたしにかかればこの程度余裕っですよ!!」
「負けたーーー、流石に悔しいぜ・・・」
『霊能でも負けることがあるんだねぇ、スポーツだけど』
『ふむ、完璧な人間などいないということだよ』
『拙者も一斉攻撃を受けていなければ・・・ッ』
温泉卓球も終わり、和気藹々ムードの彼ら。やり残したことも特になく、あとは寝るだけである。まぁ寝るときもなんかこう・・・修学旅行の夜のようなテンションになるのだろうが。
とりあえずこれで、温泉旅行の夜はもう終わりそうである。
◇
ここは温泉旅館の前、そこに黒服の男たちが大量にいた。
その集団の先頭にいる男と、その両脇の男が旅館を指差し話している。
『ここか、龍脈がぎっしりがっしり詰まった絶好で最高の場所ってのは』
『そうでゴンス、ここの女将が強情でして・・・』
『なかなかこの場所を我々に譲らなかったのでガンス・・・』
『はっ!・・・それでこれで俺っちが呼び出された訳だ。・・・オイ、既に宣戦布告はきっちりがっちり叩きつけたんだろうな?』
『やってやったでゴンス、数時間前に旅館の命である温泉を壊してやったでゴンス』
『さぁて!ならさっさとこの地上げ屋アリス様がすっかりちゃっかり任務遂行してやろうかねぇ!』
・・・前言撤回、温泉旅行の夜は・・・まだまだ続きそうだ。