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化け者交流会談記  作者: 石勿 想
第一章
27/45

第二十七話 霊能太郎と佐悟という男 後編

 


『佐悟社長、会社を途中で抜けるようになってから・・・とてもいい顔をするようになりましたね』

『そうか?私は以前となんら変わらんよ』

『またまたぁwww嘘ばっかりwww』

『・・・嘘はいかんな、青葉に嫌われてしまう』

『『・・・ッ!!』』



 第二十七話 霊能太郎と佐悟という男 後編



『佐悟社長!青葉さんとはいったい・・・!!』

『聞いちゃったww聞いちゃったwwwぜってぇ女の名前だwww佐悟社長にも春がwww』

『・・・はぁ、青葉はそんなに君らが興味を持つようなことではないよ。ただ・・・私の結婚相手だと言うだけだ』

『『・・・・・・・』』


『『ハァァァァァァァァァァ!!!!!?』』


『ちょマジでマジでマジで!!?嘘まジで!!?えっちょはぁ!?』

『落ち着け私落ち着け私・・・そうだ、素数を数えて落ち着くんだ・・・素数は一と自分以外では割ることの出来ない孤独な数字・・・私に勇気を与えてくれる・・・2・4・6・8・10・12・・・』

『下地、慌てすぎじゃないか?上地、それは偶数だ。・・・ったく、私の結婚ごときでどうしたんだ?二人とも・・・』

『慌てるわぁww!!マジでざけんなよwww』

『佐悟社長、それは本当ですか?』

『本当だ、もうおなかに胎児もいる』

『『ハァァァァァァァァァァァ!!!!!?』』

 こうして佐悟と青葉は結婚し、子供も生まれた。

 子供の名前は二人で考え、悟丈(ごじょう)と名づけた。

 結婚式は青葉の要望でさほど目立たないものにし、少人数で祝った。もとより佐悟に親戚はおらず、青葉もすでに両親は他界していたので人数を呼びようも無かったが。


 それからと言うもの、彼らは幸せに時を過ごした。

 いままでの不幸を取り戻すかのように笑顔を振りまいていた。

 だが、そんな日常も長くは続かなかった。


「佐悟、久しぶりにわたくしたちだけであの場所へ行かない?」

『構わんよ、たまにはいいだろう。では悟丈は・・・そうだな、上地と下地に預けておこうか』

 二人の最愛の息子を友人に預け、二人が出会った池へと歩く。

「ふふ、なんだか楽しみね。昔に戻ったみたい」

『昔に戻りたいのかね?』

「それは無いわよ、だって今わたくしは幸せですもの。ね、佐悟」

『・・・そうだな、愛してるぞ、青葉』

 激甘である。

「ついたわね、・・・わたくし、池が好きよ。昔から好きだったけど・・・今はもっと好き。だってあなたと出会えた場所ですもの」

『私もだ。私は今、過去に比べればとてつもないほど幸せだろう。だが・・・』

「はぁ・・・またいつもの?生きる意味なんて簡単でいいのに」

『それでも、だよ若葉。私はいまだに自分が何をしたいのかが分からないんだ』

「もう・・・はぁ、佐悟はやっぱり女性の扱いがなってないわね。こんなときにそんな話は無しよ、もっと紳士的にわたくしをエスコートしなさいよ」

『どうもそういうことは苦手でね・・・まぁいいじゃないか』

「ま、いまさらって感じよね。さぁて、キレイな池を眺めながら昔話でもしま」


 ザザッ!!


 その時、池の隣の茂みから何かが出てきた。

 それはどことなく見覚えのあるような気がする人間の男だった。

「ふひゃひゃひゃひゃ!!やっとだ!やっと見つけたぞ川流佐悟ぉ!!」

 彼は手に大きなナイフを持ち、ゲラゲラ笑っている。

「え・・な、なに・・・?佐悟、知り合い?」

『・・・いや、知らん。私の友人にこんなやつはいないな』

「いや、あなたの友達って上地さんや下地さん以外にいるの?」

『・・・青葉、デリケートな部分をあまりつつくものではないよ』

「てめぇらぁぁぁあああ!!何俺をシカトしてやがるぅ!俺を誰だと思ってんだぁ!!?」

『「・・・変質者?」』

「ぶっ殺すぞぉおお!?・・・佐悟よぉ、まさか本気で俺を忘れたわけじゃねぇよなぁ?」

『・・・すまない。何に対して怒っているのか分からんが、私が悪いというのなら謝ろう』

「んだとぉ!?っざけんじゃねぇぞてめぇ!!俺の人生狂わしといて何悠々と生きてんだよぉ、俺はアレからてめぇを殺すためだけに生きてきたんだぜぇ?」

「佐悟、あなた何か人に恨まれるようなことしてきたの?」

『・・・心当たりは数多くあるよ。私は会社のために非道とも言われることをしてきたのでね。・・・その関連か?』

「そぉさ!てめぇに会社を潰された松霜電工の松霜だよ!!さて分かった所で死にやがれ!!」

 その言葉と同時にナイフを前に突き出すようにして松霜が飛び出してくる。それに対して佐悟は体を横へずらし、ギリギリで避けることに成功した。だが一度では松霜も止まらず、幾度もナイフを佐悟に向けて振り回す。

 そしてついにナイフが佐悟の肩へと突き刺さった。

『・・・ック!』

「オラオラァ!さぁ死ねぇぇぇぇ!!!」

 肩の痛みにより動きを止めてしまった佐悟に心臓めがけてナイフが向かう。

 だが、すんでの所で[何か]がナイフと佐悟の間に滑り込む。


 グシュッ・・・


 ナイフが突き刺さる、噴出す血、肉を断つ音。

『・・・なっ!?』

「・・・アアァ?」

 その音は全て、佐悟ではなく青葉の体から鳴っていた。

『あ、青葉ぁぁぁぁぁ!!!』

「へへっ、こいつを守ったつもりかよ・・・馬鹿な女だ。まぁいい、佐悟ぉ、すぐにてめぇも同じ場所に送ってやるよぉ・・・」

『青葉!!青葉ぁ!!しっかりしろ!青葉ぁぁぁ!!』

「ふひゃひゃひゃひゃ、死ねや佐悟ぉ!!」

『・・・少し、黙れ』

「はぁ?なんか言ったかぁ?」

『前にも一度言っただろう?・・・目障りなんだよ』

 佐悟が男の頭をつかむ。その頭からはメキメキと音が鳴る。

『覚えておくといい、人間の体のおよそ六割は水で出来ているのだよ。[水流操作 破裂]』

 パァン!!

 一瞬にして男の頭ははじけ飛んだ。周りにとびちる肉片、血、だがそんなものには目もくれず、佐悟は青葉を見つめた。

『青葉ぁ!!返事をしろ!青葉ぁ!!』

「・・・あら?・・・泣いているの?駄目よ?女性の前では常に落ち着いて、紳士的にならないと」

 血まみれで、腹部からは出血が続き、呼吸音もノイズが走る。

 そんな青葉に佐悟は語りかける。

『青葉!いいい今すぐ病院へ行こう!血は私が止めるから!!』

「・・・ありがとう、・・・でももう駄目よ、・・・わたくしのことだもの。なによりわたくしが一番分かっているわ・・・もう助からないって・・・ゴフッ」

『そんなことはない!!助かる!!病院へ行けばすぐに良くなる!!だから・・・』

「・・・もう、忘れたの?・・・わたくし、嘘吐きは嫌いなのよ?・・・女性の好き嫌いもすぐに忘れるようじゃ紳士失格ね・・・」

『分かった!!もう私は嘘をつかない!!紳士にもなる!!・・・だから・・だから死ぬんじゃない!!青葉ぁぁぁ!!!』

「・・・佐・・悟・・・愛し・・てる・・・」

『私もだ!!青葉ぁ!!だから!だから目を閉じるなぁぁ!!青葉ぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!』



 青葉の葬式は、小さく行われた。

 それは、とても月がきれいな夜だった。








『佐悟社長、本気ですか?』

『無論、本気だ。この会社は本日で永久に業務停止だ。いままでご苦労だった』

『ちょww・・・マジか・・・』

『・・・佐悟社長、ひとつ、聞いてもよろしいですか?』

『・・・構わん』

『会社をつぶすということは・・・生きる目的が見つかったということですか?』

『・・・そう・・だ。もっとも・・・既に見つかっていたのに・・・今ではなくなってしまったものだがね』

(そう・・・私は・・・私がしたかったことは・・・ただ一つ、今なら分かる。私はただ――――青葉と一緒にいたかった)

『そこで君ら兄弟に頼みがある。友人としての頼みだ。悟丈をしばらくの間預かっていてくれないか?』

『・・・ま、いいっすよww』

『・・・これからどうするのかは、佐悟社長が何をするのかは聞きません。・・・ですが、絶対にこの子を引き取りに来てくださいね』

『・・・では、出来ることならばまた会おう。さらばだ』

 こうして二人に息子を預けた佐悟はあの池に来ていた。

 そう、夢のような日々が始まり・・・悪夢が起きたあの池だ。

『さて・・・青葉、すぐに君に会いに行くよ』

 佐悟はナイフを胸に突き刺し、命を絶った。




『・・・ここは、・・川?』

 気がつけば佐悟は見覚えの無い川に来ていた。

 死後に来る川、・・・三途の川だ。

『まいったな・・・まさか死後の世界なんてものが本当にあったとは・・・。青葉は間違いなく天国で、私は地獄だろう。・・・これでは会えないではないか・・・』

 佐悟が途方に暮れていると、後ろから声がかけられた。

 それは体格のいい鬼だった。

『・・・どうかしたんか?ワシでよければ話を聞くぞ?』

『最愛の人が天国へ行き、私は地獄へ行くのだよ。・・・もう二度と会えないと考えると・・・な』

『・・・まだ三途の川にいるような奴が何をいっとるんじゃい、立ち止まっている暇があるなら自分が本当に地獄行きなのか確かめればよかろう』

『・・・そう、だな。・・・私の名前は川流佐悟と言う。名前を聞いても?』

『ワシは帝鬼と呼ばれとる。さて、ここで会ったのも何かの縁。閻魔様のところに連れて行ってやろう』

『感謝するよ、帝鬼』

 こうして通常なら時間がかかる閻魔までの道のりを、帝鬼の先導によって最短で着くことができた。死者の列も並ばずに直接閻魔のところへ連れて行ってもらえたのは幸運としか言いようが無いだろう。

『閻魔様・・・私は川流佐悟と申します。以前、清水青葉と言う者がここに来られたでしょう?彼女の行く末を教えていただきたい』

『ふん・・・我にはそれを教える義理は無いな』

『そうですか・・・ならば力ずくでも聞き出して見せましょう!!』

『おっ!おい佐悟!!落ち着くんじゃ!!閻魔様にはかなわん!!拳を開け!!』

『離れてください帝鬼!私は青葉のためなら全てを敵に回す覚悟がある!!』

『・・・ックク』

『・・・何?』

『ッククククククハァーハッハァ!!我相手にそこまで言うか!!気に入った!!特別に教えてやろう・・・清水青葉、だったな?』

『・・・お願いします』

『・・・む?この者は天国にも地獄にも既にいないぞ・・・』

『・・・そ、そんなはずは・・・!まさか青葉は生きて・・・いや、葬式をしたのは私たちだ、間違えるはずが無い・・・』

『ふん、そうだな。この者は一度死んだよ。・・だが生前よほど徳を積んだとみえる。すでに転生しておるぞ』

『・・・転生・・・?』

『そうだ。どうやら強く転生を要望していたようだな。・・・ふん、人間ごときがどれだけの徳を積んだのか・・・転生先は・・・女神、だそうだ』

『・・・女神・・・?』

『ふん、分かったなら貴様はさっさと地獄へ行くんだな・・・ぬ?貴様・・・なんでここにいる。おい帝鬼、何故この者を連れてきた』

『閻魔様?・・・三途の川にいたからですが・・・』

『馬鹿者が・・・こやつはまだ死んでおらん。死ぬほどの怪我を負っただけだ。・・・今すぐにこやつを現世に送り返せ!!』

『はい!分かりました!・・よかったな佐悟、ワシについてこい!!』

 その後、佐悟は死のふちから蘇り、出血は自分の水流操作で止め、体を休めた。

 これからの佐悟の生きる意味・・・佐悟のしたいことはただ一つ、彼女との最後の約束・・・嘘をつかないことと、紳士的に振舞うこと。

 これらを絶対のものとし、いつかもう一度彼女と出会いたい。

 転生した魂に記憶は残っていないが、本質は変わらない。

(私はもう自分が何をしたいのかを見つけた。青葉、私は紳士を極める。そして・・・君に会いに行く。それまで、待っていてくれ)


 こうして、佐悟の歯車は・・・再び回りだした・・・・。



 ◇



『とまぁ・・・こんな所だよ、私と青葉の話は』

「まさか佐悟さんにそんな過去があったなんてな・・・」

『うぅぅ・・・ヒッグ、幸せになって欲しいどずぇ~・・』

「べ・・別に泣いてないっです・・・でもくっちーさん、ハンカチを貸して欲しいっです・・・」

『myブラザー・・・心から尊敬するよ』

『ふむ・・・こんな私だが、どうだ?今の私は紳士になれているだろうか?今の私を見て思った・・・率直な意見を聞かせてくれないか?』

 そう言われた霊能たちの目の前には、正座をしている佐悟がいる。

 そう、覗きがばれて自分より圧倒的に年下の女子たちに叱られている佐悟が・・・。


「『『『「『台無し(だ!!)(だよ!!)(どすぇ!!)(よ!!)(っです!!)(でござる!!)』」』』』」


『・・・はぁ、締まらないわね。もう一度死ねば治るかしら?・・・エロガッパ』



佐悟が青葉と出会う少し前の物語を、番外編の方で掲載しています。

第五話で登場したメリーを介しての話となっていますが、よろしければご覧下さい。


化け者交流会談記ES11~佐悟とメリー、古き日の記憶~

http://ncode.syosetu.com/n6723bd/


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