第二十五話 霊能太郎とロマンの向こう側
『まだだ!まだ僕のターンは終わっちゃいないよ!!』
「やめろ!蘇我のライフはもうゼロだぞ!(頭部の出血的な意味で)」
『HA・NA・SE!ドロー!モンスターカード!!』
「モンスターカードってなんだよ!?おい!蘇我!!瞳孔開いてんぞ!!正気を保て!死ぬなぁぁぁ!!!」
『ふむ、幽霊に死ぬなとは面白い発言だね』
第二十五話 霊能太郎とロマンの向こう側
『よし、じゃあ次の作戦を始めようか』
数分後、やっと落ち着きを取り戻した蘇我。
頭の血は絶えず流れているがきっと大丈夫だろう。
「次はどうするんだ?」
『定番中の定番・・・覗き穴さ!』
『ふむ・・・しかしこのコンクリートの壁に穴なんて都合よく空いてないぞ?』
その言葉を聞き、蘇我はどこからかノミとカナヅチを取り出す。
裸のくせに本当にどこから出したんだ・・・。
「まさか蘇我・・・」
『ああ、次は・・・穴が無ければノミで空けたらいいじゃない作戦だよ!!』
『ふむ、斬新な発想だ。さっそく作業に取り掛かろう』
「あ、なんかオチが読めた気がする」
『うおおおお!!!』
カン!カン!カン!カン!
音が鳴る。
その音とともにどんどん壁の破片がそこらに落ちていく。
ちなみにノミとハンマーは一人分しか無かったので頑張っているのは蘇我のみである。
『そいやぁぁぁぁああああ!!!』
カン!カン!カン!カン!
音が響く。大きな音に比例するかのように壁はどんどん削られてく。
『ふむ、あと少しで私たちはロマンをこの手につかむことができるのだな』
「いや、この展開は・・・なんというか・・・」
『ん?どうしたのだ霊能君。何か思うところでも?』
「いや、なんでもないぜ・・・」
カン!カン!カン!カン!
『そいやっさぁぁぁああ!!!』
ボキィ!!
音が鳴った。
何かが折れるような音。
それは壁からではなく、蘇我の手元から鳴っていた。
『ノミとカナヅチが折れたぁぁああああ!!!』
『ふむ、これでは穴を空けることは無理だな・・・』
「あれ?絶対壁がぶっ壊れてロマンへの挑戦がばれる場面だと思ったのに・・・」
『・・・?霊能、そんな漫画みたいな展開は流石に無いよ・・・』
「風呂場でどこからかノミとカナヅチを取り出したやつには言われたくないな」
『それはそれ、これはこれ』
「うわー・・・納得いかねぇー・・・」
『ふむ、それにしてももう手が無くなったな・・・どうするmyブラザー』
『そうだね・・・一応まだ作戦は残ってるんだけど・・・』
「まだあるのか?どんなんなんだ?」
『潜入!蛇の任務にあこがれて作戦』
「ダンボールと温泉の相性は最悪だな」
『ふむ・・・もう私たちには何も残されてはいないのか・・・』
『いいやまだだよ!!霊能! myブラザー!!最後の作戦だ!!』
「まだあるのか!?・・・よし最後だ!やろう!」
『ふむ、それで作戦名は?』
『・・・お願い神様大作戦!!』
「・・・内容は?」
『祈る』
『・・・ふむ、全身全霊をかけて祈ろうではないか』
「で!そこで改造超人フランス仮面がたみ子の大事なギターを人質にとって脅すんっですよ!!」
『へぇ、それでどうなるの?』
「なんと!そのギターは別に大事なものじゃなかったのでギターごと[超絶たみ子スカイアッパー]でボッコスカにするんっですよ!!」
『・・・なんとうか・・・斬新な物語なのね、たみ子ちゃんって・・・』
『さっきからうるさいわよデス娘、さっさと口を閉じて窒息しなさい』
「普通に嫌っですよ!!鼻で呼吸するっですよ!!」
女湯はさわがしい。
普段よりも温泉はテンションを上げる作用があるのだ。
『ちなみにそのあとたみ子はギターをフランス仮面に弁償させるんどすぇ~』
『激しくいらない知識ねぇ・・・さだこちゃんもたみ子ちゃんが好きなんだ?』
『もちろんどすぇ~』
「タミフルたみ子は世界的に人気なんっですよ!あたしの住んでる寺の和尚もあたしと肩を並べられるほどのたみ子好きっですよ!!」
『薬狂いのどこに需要があるのかしら・・・口裂け、うちのコンビニも薬狂いのフィギュアとか入荷すべきかしら?』
『いやぁ・・・どうでしょう・・・』
「入荷すべきっです!!売れるっですよ絶対!!」
『デス娘がうるさいから入荷はやめるわ』
「酷いっです!!」
ガッデム!!と言わんばかりのオーバーリアクションで話すツキミ。店長もそれを見て特に悪くは思っていないようだ。
なんだかんだで店長も温泉のひと時を楽しんでいるのである。
『店長はんの意思一つでお店の入荷は決めれるもんなんどすか?』
『当然よ、だって私が店長だもの。商品の入荷もレイアウトも全て私の思いどおりよ』
「ほうほう・・・そういえばなんで店長さんはくっちーさんを雇ったんっですか?美人だからっですか?」
『ああ・・・それは簡単よ』
思わぬ話の展開から自分の話になり、気恥ずかしいが気になるのでよく聞こうとするくっちー。
ごくりとつばをのむ音が聞こえる。
『・・・必死だったからよ』
「へ?。・・・それはどういう・・?」
『面接のときにね、この子だけやたら必死だったのよ。履歴書もまともに書けてなかったけどね』
『履歴書ってどういうことどすぇ?』
『妖怪に学歴なんてあるわけがないでしょ?住所も空き家に住んでるだけだしね。そんなふざけた履歴書を持ってきたのよ。普通なら履歴書の時点で不合格よ』
「ならなんで合格にしたんっですか・・・?」
『言ったでしょう?・・・必死な子は好きなのよ。それこそ好きな人のために頑張るような子はね・・・』
『店長・・・恥ずかしいからもうその話は・・・!!』
『ほえぇ~・・・そんな裏話があったんどすなぁ~・・・』
「くっちーさん空き家に住んでるんっですか?」
『いやそれが前に家が取り壊されちゃって・・・今はちゃんとアパートを借りてるわよ』
『アパートが取り壊されてたときの口裂けの慌てようは面白かったわよぉ?まぬけ顔がスーパーまぬけ顔に進化してたわ』
『あのときは仕方ないじゃないですかぁ!あ、でも今のアパートの大家さんに紹介していただいてありがとうございます・・・』
風呂につかりながらお礼を言うくっちー。
ちなみに取り壊された空き家は今すでに駐車場になっている。彼女が住んでいた形跡は跡形も無く消されていた。
「くっちーさんもいろいろ大変なんっですねぇ・・・あ、二人が今ここにいるってことはコンビニは休みっですか?」
『デス娘・・・あんた馬鹿だ馬鹿だとは思っていたけどもう手遅れな馬鹿だったのね・・・この馬鹿』
「ば!馬鹿馬鹿言い過ぎっですよ!!馬鹿って言うほうが馬鹿なんっですよ!」
『じゃあアホ』
「くぅぅ・・・凄い敗北感っです・・・」
『で、今は休業中なんどすか?』
『他のバイトに任せてるわよ。正確にはバイト一人とその仲間二人ね。三人ともアホだけど』
『仲間二人・・・?どういうことどすぇ?』
『そのまんまの意味よ根暗、口裂け・・・説明しなさい』
『そこは丸投げなんですね・・・分かりました。ええぇとね・・・バイトの子が悟丈君って言って、バイトになる前からよくコンビニに来てたのよ。なぜかいつも私がレジを打ってる時にしか商品を持ってこない子だったんだけど・・・まぁそれは今は関係ないわね。で、その悟丈君の友達二人が御空君と八壊君って言うんだけど、その二人がとても悟丈君と仲が良くていつもコンビニに来るのよ。で、今回悟丈君にバイトに入ってもらったらその二人が手伝うって言ってくれたから任せてきたのよ』
『へぇ・・・そうなんどすかぁ・・・、悟丈はんってどんな人なんどすぇ?』
『そうね・・・いつも[マジで]と[パネェ]って言葉を使ってるわ。あとちょくちょく私に話しかけてくれるけど・・・』
「けど?」
『・・・私を褒めてくれてるみたいなんだけど、大半は正直何を言ってるか聞き取れないわ・・・』
「・・・なんというか・・・悲しい人っですね・・・」
『店長はんはなんでその人を採用したんどすぇ?』
『・・・その子も好きな人のために必死になれる子だからよ』
「ははぁん・・・そういう事っですか・・・」
キラーン、と目を光らせるツキミ。
人の色恋沙汰には目ざといのが女子高生という生き物なのである。
『そういう事ってどういう・・・』
カン!カン!カン!カン!
くっちーの疑問はなにやら大きな音で遮られた。音は壁のほうから聞こえてくるようだ。
『なんなんどすぇ?』
『さぁ?うるさいわね、死ねばいいのに』
カン!カン!カン!カン!
「ちょっと気になるっですねぇ・・・」
『なんなのかしら・・・?』
カン!カン!カン!カン!
ボキィ!!
「何かが折れた音っですか・・・?」
『口裂け、見てきなさい』
『ええぇ・・・いやですよぉ・・・』
折れた音がしてから数分後、事件は起こった。
女湯の全員が壁のほうを見ていると、突然
ズドォォォォン!!
岩が降って来たのである。
「・・・は?」
岩は見事に壁に当たり、女湯と男湯を直通にさせる。
壁があった場所には人が三名立っていて、こちらを見ている。
「『『『キャァァァァァ!!!』』』」
『いい度胸ねわんぱく馬鹿、アホメガネ・・・エロガッパ』
「は?え?・・・え?いや・・・」
『霊能、神様はもっとばれないように出来なかったのかな?こんな派手なのは望んでないよ・・・』
『ふむ、エロガッパとは失礼な・・・私は紳士で・・・』
『頭に皿乗っけたおっさんが何言ってんのよ、死ね!!』
「霊能さん!!なんなんっですか!!覗き!!?大胆すぎる覗きなんっですか!!?」
『見損なったわよ霊能君!!岩をぶつけてまで壁を壊すなんて!!』
『蘇我はん・・・制裁どすぇ・・・』
「いやいやいやいや!この壁は事故!!俺たちは悪くない!」
『そう!ただ僕らはもっとばれないように覗くつもりだったんだよ!!』
シーン・・・
この擬音がもっとも似合う瞬間であろう。
蘇我の発言で、時が止まった。
「霊能さん・・・信じてたのに・・・残念っですよ・・・[陰陽術 奥義 裁きの雷]!!!」
『霊能君・・・安心して、みね打ちだから・・・でも、覚悟はしてね・・・?』
『蘇我はん・・・土に還るどすぇ・・・[呪殺式 千切り]!!』
『「ギャァァァアアアアアアア!!!!」』
『あんたの相手は私よエロガッパ・・・』
『ふむ、落ち着くんだレディー・・・そんな起こった顔をしては美人が台無しだよ。君ほどの美人なら笑っていれば彼氏も引っ張りだこさ・・・』
ピキッ!!
これは店長から聞こえた音。
ピキピキッ!!
これは周りが凍っていく音。
佐悟さんの言葉を聞いた店長は、スタスタと佐悟さんのもとへ歩いていく。
いつのまにか右手には氷で出来た大きなハンマーが。
『死ね』
グシャァ!!
こうして霊能たちのロマンを求める聖戦は敗北で終わった・・・。
ちなみにそのころ小次郎はサウナで汗を流していたという・・・。
◇
『覗かないって言ったどすぇ・・・・』
『いや!違うんださっちん!!あれは覗きではなく芸術鑑賞で・・・』
『誤魔化せないどすぇ!!』
ここは霊能たちの部屋。
あの後いったん風呂を出て、浴衣に着替えて霊能たちの部屋に集まっていた。
お互い顔を知らない人もいたので、自己紹介もした。
ちなみに霊能たちは正座している。まだ説教は続いているのだ。
「はぁ・・・まさか霊能さんが覗きなんて信じられないっですよ・・・いったいどうしたんっですか霊能さんらしくない・・・」
「いやぁ・・・なんというか・・・旅行先で友達と意味も無くはしゃぐのに憧れてて・・・ゴンザレスはそんなにはしゃぐやつじゃなかったし・・・」
「確かにゴン兄はそういうのに向いてないっですけど・・・」
「それに男のロマンと歴史からの挑戦といわれたらもうやるしかないって・・・」
『はぁ・・・私はまぁ・・・もう許すわ。もうしちゃだめよ?』
「もう満足したからな!絶対しないぜ!!」
いい笑顔で言う霊能、こいつは起こられている自覚があるのだろうか。
『エロガッパ、慰謝料は二百万で許すわ』
『二百万!?・・・ふむ、もうちょっとまけてもらえないだろうか・・・十万くらいに・・・』
一方こちらでは大人の生生しい話が繰り広げられていた。
『佐悟はんもどうして覗きなんかしたんどすか・・・!』
『ふむ、そこに世界の真実があったからだよさっちんくん』
「見事なほど意味が分からないっです」
「・・・そういや佐悟さんは結婚してるよな?こんなことしてて奥さんは怒らないのか?」
その質問を受けて、佐悟は少し表情を変える。
『ふむ・・・家内は・・・もう死んだよ。昔にね』
「え・・・あ、ごめん佐悟さん・・・そんなつもりじゃ・・・」
『ふむ、別に構わんよ霊能君。その程度のことで怒っていたら紳士として失格だからね』
『そういえばmyブラザーが紳士の道を歩み始めたきっかけってなんだったんだい?』
『あ、私もちょっと気になるどすぇ』
『・・・そうだ・・な。今夜はいい月だ・・・いいだろう、紳士道を歩み始めるきっかけとなった・・・私と家内・・・青葉の話をしようか・・・』