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化け者交流会談記  作者: 石勿 想
第一章
24/45

第二十四話 霊能太郎と男のロマン

 


「絶対っですよ!?絶対覗くなっですよ!!?」

「はいはい分かったからはよ風呂入れっての」

『蘇我はん・・・本当に覗かないんどすぇ?』

『大丈夫だよ、覗きはしないって』

「ならいいんっですけど・・・じゃ、行きましょうかさっちんさん」

『おう!どすぇ~』

 ツキミとさっちんが女湯へと向かっていく。

 そう、ボウリングで軽く運動した彼らはやっと今回の旅のメインである温泉に入る時間になったのだ。

「それにしても・・・蘇我、本当に覗かないのか?本当にお前は蘇我なのか?」

『そうでござる、あんなに温泉を楽しみにしていたのは蘇我殿であるのに・・・どうしたんでござるか?』

『霊能、小次郎・・・僕がこれからするのは覗きなんて低俗な事じゃない。・・・芸術鑑賞だよ!!』

「あ、こいつ本物の蘇我だわ」



 第二十四話 霊能太郎と男のロマン



 カポーン・・・

 ザパァ・・・


「あ~・・・露天風呂最高だ・・・」

『そうでござるな・・・温泉もたまにはいいものでござる・・・』

『そうだね・・・でも時間はそんなに多くないよ、行動は早く起こさないと』

「いや俺らは覗きなんてしないんだが・・・」

 そんな霊能の言葉を聞き、これ見よがしにため息をつく蘇我。

『霊能、僕は自分の欲望のために芸術鑑賞をする訳じゃないんだよ。そう・・・これは男たちの歴史と期待を背負っているんだ』

「歴史と期待?」

『遥か昔から行われてきた芸術鑑賞という行為・・・成功例は数少なく、失敗すれば殺されても文句は言えないだろう・・・ではそんなリスクを背負ってまでを人はなぜ芸術を追い求めるのか、ただ単に女体を見たいだけならエロ本を買えばいい、写真じゃ物足りないならアダルトなDVDを見ればいい、どうしても実際に見たいならソープでもなんでもそういうお店に行けばいい!!でもね・・違うんだよ・・・、それらと女湯は同列に見てはいけない!許されない!!それは何故か!?禁止されてるから?迷惑をかけるから?お金を支払っていないから??・・・・否だ!!断じて否だ!!!!女湯にはそれら各種エロとは全く異なった次元での魅力が存在するからだ!!そもそも何故遥か昔から行われている行為なのにもっと全力で禁止しないのか?その答えは簡単・・・これは挑戦なんだよ!!女湯から・・・漢たちへの!!ただ単に女湯を覗かせないだけならば女湯のガードを壁一枚・・・しかもよじ登れば上から見えるなどと言う簡略化されたしきりのみにはしない!!女湯を完全に男湯から切り離すべきだろう!!!?これはただの覗きなんかじゃない!いわば男の意地とロマンをかけた聖戦なんだよ!!!!』

「・・・挑戦・・・男の意地・・・まぁ・・・確かに言われてみればその通りのような気が・・・」

『霊能殿!?』

『てめぇらずっと待ってたんだろ!?女湯の挑戦に挑む、漢としてこの試練を無事クリアする・・・そんな誰もが笑って、誰もが望む最高なハッピーエンドってやつを。今まで待ち焦がれてたんだろ?こんな展開を・・・何のためにここまで歯を食いしばってきたんだ!?てめぇのその目でたった一つの楽園を覗いて見せるって誓ったんじゃねえのかよ?お前らだってロマンを追い求める方がいいだろ!?男湯なんかで満足してんじゃねえ、命を懸けてたった一つの女の子の園を覗きてぇんじゃないのかよ!?だったら、それは全然終わってねぇ、始まってすらいねぇ・・・ちょっとくらい長いプロローグで絶望してんじゃねぇよ!手を伸ばせば届くんだ!いい加減に始めようぜ、二人とも!!』

「蘇我・・・俺、やるよ。男として・・・いや、漢としてその挑戦、受けて立つ!!」

『霊能殿ぉ!!?どうしたでござるか!!?霊能殿ぉぉぉぉ!!?』

『霊能・・・君なら分かってくれると思っていたよ、さぁ・・・行こうか、親友』

「ああ、男の意地とロマンのためにも!」

『霊能殿ぉ・・・帰ってくるでござるよ・・・』

 ザパァ・・・

 その時、温泉から何かが出てきた。それが熱い演説に引かれて来たのか、ロマンを求めてきたのかは分からない。ただ分かることは、彼もまた・・・紳士・・・いや、聖戦に挑む一人の戦士と言うことだけだろう。

『ふむ、話は終わったかね?』

「佐悟さん・・・」

『myブラザー・・・』

『さぁ行こうか、この世の真実を求めて!!』

「『おお!!』」

 こうして彼らは一致団結し、芸術鑑賞と言う名の男の意地とロマンをかけた戦いに身を投じることを決めたのである。

 温泉には人を惑わす効果があるというのは本当なのかもしれない・・・。

 彼らの戦いは、ここから始まるのである。

『ああぁ~・・・いい湯でござるなぁ・・・』

 一方こちらは現実と戦うのをやめた。



 ◇



 カポーン・・・

 ザパーン・・・


「いっい湯っでっす♪アハハン♪」

『これが露天風呂なんどすねぇ・・・井戸とは大違いどすぇ・・・』

「井戸って・・・ああ、そういえばさっちんさんはずっと井戸に住んでいたんっでしたね。ど~っですかぁ~温泉気持ちぃっですかぁ~」

『・・・最高どすぇ~・・・ほわゎゎゎ・・・・』

 女湯では壁の向こうで漢たちがロマンを求めて行動を起こそうとしていることは知らない。ただのほほんと露天風呂を満喫するのみである。

 ツキミとさっちんが温泉につかってゆっくりしていると、ガラガラガラと引き戸の開く音がする。ここは旅館の露天風呂、他の一般客も当然入ってくるだろう。ツキミとさっちんが軽く引き戸に目を向けると、そこには見覚えのある二人がいた。

『あら?さだこちゃんにツキミちゃんじゃない?偶然ねぇ』

『・・・ああ、根暗にデス娘ね。お久しぶり、まだ生きてたのね』

 くっちーと、くっちーのバイト先の店長である。

『奇遇どすぇ~』

「いやだからデス娘って・・・はぁ・・・もういいっです・・・」

『あれ?そういえばさだこちゃんとツキミちゃんがいるって事は霊能君たちも旅館に来てるの?』

『そうどすぇ~』

「商店街の福引であたしの兄が特賞を当てたんっですよ!で、温泉旅行っです!」

『・・・そういえばくっちーはんと店長はんはどうしてここに来てはるんどすぇ?』

『ああそれはね、私が司会を務めてたとある大会の商品がここの旅行券だったんだけど・・・選手が馬鹿だから全滅しちゃって、それで私の所に券が来たからしかたなく口裂けを誘っただけのことよ』

「あれ?旅行券は四人まで同時に使用できたはずっですよね?彼氏とか誘わなかったんっですか?」

 ピキッ!

 そんな音が聞こえた気がした。

『アァン?』

 ギロリ

 そんな音が確実に聞こえた。

『ツキミちゃんちょっとこっち来て!!話があるからっ!!』

「へ?どうしたんっですかくっちーさん?」

(いい?ツキミちゃん!店長に男とか彼氏の話はしちゃだめよ!?)ヒソヒソ

(え?何でっですか?美人さんだし彼氏の一人くらいいても・・・)ヒソヒソ

(初めて店長を見た人はすぐに近づいてくるんだけどね、ホラ・・・店長口が悪いから相手が逃げちゃうのよ・・・)ヒソヒソ

(ああ・・・確かに逃げたくなる気持ちも分かりますっですね・・・)ヒソヒソ

(だから店長に彼氏とかは禁句ね?オーバー?)ヒソヒソ

(イエス!オーバー!)ヒソヒソ

『口裂けぇ・・・悪いけど、聞こえてるわよ。ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね』

『ひえぇぇ!私は悪くないぃ~』

『ったく・・・あ、そういえば口裂け・・・わんぱく馬鹿とは最近どうなのよ?今日なんて同じ旅館にいるみたいだしチャンスじゃないの?』

『わんぱく馬鹿・・・あ、霊能はんのことどすぇ?』

『えぇ!?いやいやいやいや霊能君とは・・別に・・・あの・・・その・・・』

「青春っですねぇ~」

『はっきりしなさいよ、好きなんでしょ?』

『すすす好きとかそそそそんなのとかは・・えと・・・うん、まぁ・・・そ、そうだ!ツキミちゃんやさだこちゃんはどうなの!?好きな人いるでしょ!!?』

『逃げたわね、弱虫が』

「逃げたっですね、モロバレなのに」

『私どすかぁ~?・・特にはいないどすぇ~』

『あらそうなの?・・・てっきり私はアホメガネに脈アリかと思っていたのだけど』

『蘇我はんは別に!す・・・好きどすけど・・・それは家族的な意味どすぇ!!べべ別に深い意味とかは・・・その・・・』

「・・・アホメガネで通じるんっですね・・・」

『ツキミはんは!?ツキミはんの話が聞きたいどすぇ!!』

「あたしー?あたしは全然無いっですよー?しいて言えばたみ子を愛してるっです」

『デス娘は相変わらずつまらないわね。自害したほうがいいんじゃないかしら?溺死とかでも許可するわ』

「酷っ!!絶対しな・・・ん?今何か壁の上に見えたような・・・」

『壁の上?ツキミちゃん、特に何も無いみたいだけど・・・』

『はぁ、自害娘は目まで悪くなったのかしら、悪いのは頭だけにしておきなさい』

「・・・せめて自害娘はかんべんして欲しいっですよ・・・」



 ◇



『第一の作戦、信じれば夢は見える作戦は失敗に終わったね・・・』

「まぁなんとなく失敗は読めてたけどな・・・」

『いったいどこに失敗の要素があったって言うんだ・・・完璧な作戦だったはずなのに・・・』

「いやまぁ壁をいくら睨んでも透視能力は開花しないって分かっただけでも一歩前進だぜ」

 そう、彼らはつい先ほどまで一心不乱に壁を睨み続けていたのである。

 三人の男が壁を睨み続ける・・・

 はたから見れば頭のおかしな人たちにしか見えないが、彼らはそれでも本気だったのである。

 ちなみにその頃、小次郎は一人空を見ていた。

『ふむ、時間は限られている。失敗した作戦にいつまでもすがりついていても何も始まらんよ。・・・次の作戦だ』

「第二の作戦だな。詳細を」

『第二の作戦はね・・・チェ・ホンマンを追い越して作戦だよ!』

『ふむ、つまり二段肩車という訳だね?』

「二段肩車か・・・順番はどうする?」

『無難に下から霊能、myブラザー、僕でいいんじゃないかな?』

『ふむ、まぁ身体能力的にはそれが無難かもしれんね』

「よし分かった・・・さぁ佐悟さん!乗ってくれ!!」

『ふむ、・・・さぁmyブラザー、私の上へ』

『ありがとう二人とも・・・僕は・・・この戦いに確実に勝利してみせるよ・・・』

 作戦は要約するとこうだ。霊能が佐悟さんを肩車する。さらに佐悟さんが蘇我を肩車する。

 三段構えになったところで、下から順に立ち上がる・・・。するとギリギリで壁を越えた高さになり、聖戦の勝利をつかむことが出来るのである。

「ふぬぉぉおおお・・・」

 霊能が立ち上がる。

『ふん!!・・・・ッ!!』

 佐悟さんも立ち上がる。

 すると蘇我の目には楽園が―――

「うわっ!!」


 ズダァァァン!!


 ―――チラ見しかできなかった。

『痛たたた・・・ふむ、どうしたんだい霊能君、急に倒れたりなんかして・・・』

「いや・・・そういえば俺トライアスロンのときの腕輪つけっぱなしなの忘れてて・・・」

『ふむ、ゆえに力及ばず支えきれなかった、と』

「そういう事だぜ・・・第二の作戦も失敗だ・・・」

『ふむ、仕方が無い。第三の作戦に移るしかあるまい・・・ただ問題は・・・』

「・・・蘇我がしたたかに床に頭を打ち付けて風呂が真っ赤に染まったこと・・・か・・・」

 そう、三段肩車の一番上から落ちたのだ。相当のダメージである。

 だが心配はいらない。彼はすぐに起き上がるだろう。

 なぜなら彼は紳士だから・・・。

 一方その頃小次郎は温泉が赤く染まったことに相当のダメージを受けていたという。


 漢たちの挑戦は続く。



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